リクルートホールディングが主催する日本最大級のWebアプリ開発コンテスト「Mashup Awards」が今年も開催された。2006年からはじまったこのコンテストは今年で10回目。8月29日から10月26日までの約2カ月の応募期間中に359作品もの応募があり、その最優秀賞を決定するイベント「MashupBattle Final Stage」が11月19日に「TechCrunch Tokyo 2014」で開催された。ここでは決勝で発表された気になる6作品を紹介する。
MashupBattle FinalStage(決勝)で発表された作品
・作品名:「無人IoTラジオ Requestone (リクエストーン)」 ※最優秀賞
カフェやイベント会場でラジオのようにリクエストを受け付けながらBGMを流せるサービス
メールやTwitterなどからBGMのリクエストを受け付け、タイトルを読み上げ、YoutubeAPIから取得してきた音楽を流す無人ラジオサービス。曲のリクエストだけでなく、例えばイベントの感想などをRequestone宛に送ると、メール文面の雰囲気を言語解析し、VoiceTextAPIを活用して雰囲気に合わせた口調で読み上げ(音声垂れ流し)、雰囲気に合わせた曲をGracenoteAPIのムード情報より選曲し曲をかけることもできる。別の利用方法としては、Edisonの入っているガジェッドのセンサーが外部の環境を検知すると、それをトリガーにして緊急放送などを流すこともできる。(例:地震です。)
・作品名:「うまいドライブ」
安全運転のためのクルマアクセサリーガジェット「ちゃぶ台デバイス」と「豆腐ちゃんモバイル」
車内に設置された「ちゃぶ台型デバイス」に豆腐をのせ運転。荒っぽい運転をするとちゃぶ台が揺れ、荒すぎると豆腐がひっくり返る。ひっくり返った場所は危険個所としてマッピングされ、メールには豆腐レシピ届く。 ただ、やはり豆腐をのせて運転するは危険なので、豆腐ちゃんモバイル(ガジェッド)を作成。 豆腐ちゃんモバイルは危険な運転をすると顔が光ったり(感情表現LED)、アロマが出たり(超音波噴霧器)する。
・作品名:「T☆L Perc!!」
人を触って音を出すデバイス(人間楽器)
スマホとウェアラブルデバイスを使い人間パーカッションを実現した作品。Arduinoで作られている。デバイスのホスト部分を持った人が、デバイスの輪を持った人にさわると、人間に電流がとおり音が出る。輪は複数あり、それぞれで鳴る音域が変わる。鳴らす音の種類も、太鼓、ピアノなどスマホ側で変更できる。デモVTRでは女子大生がホストとなり、周りの人を触りながらドレミの歌を演奏していた。
・作品名:「Intempo」
流れる音楽のリズムに乗って歩けば、乗りたい電車の時刻にちょうどよく到着できるアプリ
出発駅と目的駅を入力し、自動的に表示される候補から乗りたい電車を選択すると、アプリが一定距離内での歩幅や歩数を自動計算して曲を選出する。流れる音楽のテンポ通りに歩けば、出発時刻ちょうどにホームに到着する。GracenoteAPIを活用してBPMデータを取得。歩幅あたりの移動距離などのデータとBPMを照合し、曲を選出している。この作品は、「ホームでの待ち時間をなくす」「駅までの単調な道を楽しくする」という課題解決もしているのだという。
・作品名:「ごはんですよ!」
ボタンを押すと、登録したスマホを一時的に強制ロックするガジェット
ガジェットのスイッチを押すとBLEが発信され、「ごはんですよ」という画面をスマホ側に強制的に表示し、スマホを使えなくする。電話もできないし、電源も切れないので、あきらめて食事に集中するしかないのだとか。ごはんが終わって、もう一度スイッチを押せば「ごはんですよ」状態が解除される。ガジェットにはBLEが2つ入っており、ONにするものとOFFにする使い分けをしている。NFCを使えばガジェットからスマホに簡単に設定でき、スマホがロックされている間はボタンが赤く光る。
・作品名:「Tetris 3D Modeller」
三次元テトリスをプレイするだけで3Dモデリングができるブラウザアプリ
ゲーミフィケーションではなく、ゲームをツールにした作品。 なので、3Dテトリスを楽しむだけで、5分でペン立て、2分でコースター、2秒でフォトスタンド、1秒で箸置きが作れる。テトリスなので1列揃うと消える(なのでコップは作れない)。時間制約があり、かつ取り消しはできない。微妙な隙間が作品に独特な「ワビサビ」をもたらす。GitHubでソースコードも公開中とのこと。3Dモデルをもっと身近にしたいという想いが込められた作品。
決勝では合計15作品が発表されたが、そのうちの6作品を紹介した。他の作品も気になる方はMashup Awards公式ブログを参照いただければと思う。
→【決勝レポート】Mashup Battle Final Stage~全作品紹介~
オープンイノベーションの場としてのMashup Awards
最優秀賞を獲得した「Requestone」は、Mashup Awardsらしい特徴を2つ持っているのでその特徴をご紹介したい。
1つ目の特徴はハッカソンで作られた作品ということ。
Mashup Awards10では9つの都市で計11回のハッカソンを行ってきた。「Requestone」はインテルと共催した「インテル Edisonボード ハッカソン」で作られた作品。ハッカソンは、Mashup Awardsの原点である、「Mashupして作ってみた」を楽しんでもらう場であり、参加者が新しい仲間・API・企業と出会う場だ。しかし何よりも重要なことは、偶発的イノベーションが起こる場ということ。日頃から漠然と考えていたアイデアの種が、APIの説明や、参加者との会話などと混ざり合い、偶発的にサービスアイデアという形でアウトプットされる。人に説明するうちになんだか作りたいという欲求が湧き出て、業界調査や、競合調査もせず、ビジネスモデルや、ターゲットすら決めず、自分が面白いと思ったから作る。そんな原始的な欲求から物事をアウトプットする機会であり、作ってみたらまた違う何かを感じることのできるイノベーションの場といえる。
2つ目の特徴は、様々なAPIをMashupして作られていることだ。利用APIは、VoiceTextAPI(HOYA)、言語解析WebAPI(エクシング)、音楽メタデータAPI(グレースノート)、YouTubeAPIなど9種類に上り、それらのAPIとインテル Edisonの連携によって作られている。多くのAPIを利用する作品は少なくはないが、Requestoneは各APIを有機的に機能して組み合わされて作られていることが高く評価され、最優秀賞となった。
最近のビジネス界の旬なキーワードの1つに「オープンイノベーション」というものがある。企業内部と外部のアイデアを組み合わせることで革新的で新しい価値を創り出す、という企業活動を指す言葉だ。Mashup Awardsはオープンイノベーションと言える。自社のビジネスや技術を第三者に利用可能な状態(オープンな状態)にする、「API」を公開している企業が複数参加することで成り立っているからだ。企業は自社APIを、いろいろなエンジニアに「第三者の視点」で利用してもらう場としてMashup Awardsを活用している。
Mashup Awardsでは、企業とエンジニアが対等な立場で接する雰囲気なのも特徴だ。例えば、夜を徹して行われるハッカソン。深夜から早朝まで、参加者に寄り添い、無理難題のような質問にもできるだけ答えようとする企業担当者の姿がある。そして、参加者が受賞をすると企業の担当者も一緒に喜ぶ。参加者が作りたいものを二人三脚で取り組む。そんな共創がオープンイノベーションには必要なのではないか。Mashup Awardsでどのようなオープンイノベーションが行われているのかを知ってもらうために、今年の作品の中でMashup Awardsらしいと思う作品をいくか紹介したが、来年は、ぜひ自ら参加してみてください。