Samsung がVivを買収することに合意した。VivはAIのアシスタントシステムで、Dag Kittlaus、Adam Cheyer、Chris Brighamが共同創業した会社だ。彼らはSiriを制作し、2010年にAppleに売却している。この3人は、AppleがSiriを買収した翌年にAppleを去り、2012年にVivを創業した。買収額は分かっていないが、情報が入り次第お伝えしたい。
VivはSiriより拡張的で、強力なバージョンとして開発された。
Vivは買収後も独立した会社として運営を続け、Samsungと彼らのプラットフォームにサービスを提供するという。
Vivの特徴は2つある。1つは相互に連携する性質だ。Siriといった他のエージェントは最近になってようやく、それぞれ分断された情報をアプリやサービス同士でやりとりし、ユーザーの一連の指令と結びつけることができるようになってきている。これにより、人が実際に話すのに似た会話形式の複雑なクエリにも対応することができるようになる。
2つめは、Vivのバックエンドシステムのプログラムの性質にある。プログラム合成からの「ブレークスルー」ができるようになり、VivのAIは新しいタスクをこなすのに、独自のコードを自ら書くという。「自らを構築するソフトウェア」は、複数の点において新しい概念と言えるものではないが、早くにAI分野でこの技術を発表し、大きな反響を呼んだ会社の1つがVivだった。Vivはこれを「ダイナミック・プログラム生成」と呼び、Vivがユーザーの意図を理解し、過去に行っていないタスクでも、進行しながらタスクを実行するためのプログラムを作成することを可能にする。
Vivは今年開催されたDisrupt NYカンファレンスで、初めてこのシステムをライブデモで披露した。
「全ての指令をコードで書く代わりに、何をしてほしいか説明するだけでいいのです」とデモの後、Kittlausは私のインタビューで話していた。「Vivのアイデアは、開発者はすぐに欲しいと思う体験を構築できるようにすることです」。
KittlausがAppleを去った時、彼は「Siri Is Only The Beginning(Siriは始まりにすぎない)」という記事を書いた。その中で、彼は「AIでカンブリア爆発が起きます。数多の既存システムと新規のシステムでAIが活用されるようになります」と記した。
「ユビキタスであること」。Kittlausは、VivがSamsungの傘下になった理由としてそう話す。なぜSamsungなのかと彼に聞いたら、彼はこう説明した。
「彼らは1年で5億台の端末を出荷しています。前回登壇した時、あなたは私たちの目標について聞いたと思います。私はユビキタスであることと答えました。
近年、市場で何が起きているかを見た時、そしてVivを広く届けるための準備ができたことを鑑みると、これが理にかなうことだったのです。私たちのビジョンはSamsungの事業と一致し、私たちのコアテクノロジーという資産を広く届けることを考えた時、今が最適な時期で、Samsungが最適なパートナーでした」。
Samsungはもちろん、スマートフォンの売上高をめぐってAppleとトップシェアの座を競っている。単体のメーカーとして、Appleに挑戦している競合は彼らだけだ(利益に関してはAppleに遠く及ばない)。Samsungのスマホは売上不振により、利益もしばらくの間低調だったが、最近発表した2つの盤石なモデルで持ち直しつつあった。だが、その売上はバッテリーの爆発でリコールしているGalaxy Note 7のために台無しになった。
それ以外でも、Samsungは自社スマホのソフトウェアの運命をどのように進めるかという難題を抱えている。Googleはますます直接的な競合になりつつある(少なくともGoogleはそうなる施策を打っている)。Samsungにとっては、Tizenや他のAndroidベースのソフトウェアパッケージを使用するより、自社のハードウェアとそのためのソフトを所有する方が未来は明るくなるだろう。Googleのアップデートや機能を借り受けなくてもよくなる。
「この買収はモバイルチームが行ったものですが、他の全てのデバイスにこれを適応することの意義も明らかです」と SamsungのSVPを務めるJacopo Lenziはインタビューに答えた。「私たちから見ても、クライアントから見ても、Samsungの全体で持つスケール感を活かすことで、この取り組みの意義と本当の力を引き出すことができます。また、私たちとコンシューマーとの豊富なタッチポイントも活かすことができます」。
Vivを買収することで、SamsungはSiriとGoogle Assistantと競合するのに十分な力を得ることができる。1つ難点は、Vivはまだローンチしていないということだ。現実世界でVivが通用するかどうか、現時点で言及することはできない。ただ、この12ヶ月の間で、AI駆動のアシスタントがいかなるモバイルプラットフォームでも役立つかが分かってきた。AppleのAirpodsは長時間着用可能で、複数のビームフォーミングを行うマイクでは正確な音声入力を実現し、Siriと驚くほど相性がいいということが分かった。もしSamsungがこの領域で競合を買いたいのなら(当たり前のようにそう思っているだろう)、Vivと彼らのチームを買収するのはこれ以上ない選択肢だ。
この買収はモバイルグループが行ったものの、それ以上に連携できる可能性も大いにある。Amazon Echo、Google Home、Appleのスマートホームハブがそれぞれのサービスを仕込んでいる様子を見れば、大手企業がいかに熾烈にユーザーの自宅のテーブル上のスペースを巡って競っているかがわかる。Samsungの発表は、モバイルやウェアラブルの他にも、自宅にある家電にも注目を集めさせる内容だ。
Samsungは2014年、およそ2億ドルでSmartThingsを買収している。Vivというクロスプラットフォームの不可知な知性を、SmartThingsの主力となる製品群にも実装するというのは理にかなう話だ。さらに、Samsungは洗濯機や冷蔵庫といった家電も多く扱っている。「IoT」はどんどん従来の意味での「IoT」ではなくなるだろう。「IoT」なんてアホらしい名称もそろそろなくなるだろう。実際には、ほとんど全てのものが通信機器やマイクロプロセッサーを搭載し、端末がユーザーと周りの状況を把握することでユーザーの生活に溶け込むことを保証するようになる。
「具体例はありませんが、私たちはAIがカスタマー体験を進化させるだろうと考えています。特にAIを端末やそのシステム、あるいはIoTに組み込むほど、それが顕著になるでしょう。ここで重要なのは、ユーザーがこのようなテクノロジーと本当に関わりたいと思う方法を実現することです。それはシンプルな会話形式のインターフェイスです」とLenziは言う。
ここでいう知性とは、単に端末の知性ではなく、それらをコントロールする頭脳のことであり、Vivはその知性を与えることができるだろう。
Googleがさらに機能を追加しているAndroid、あるいはiOSとの差別化を図るために、SamsungはVivを自社のエコシステム内に閉じ込めるかと、私はKittlausに聞いた。
「それは絶対にありません。このシステムと理念は、できる限りオープンであり、できる限り多くの部分に価値を付加していくことにあります。もちろん、Samsungが持つサービスとデバイスの両方における存在感をフルに活用し、それらと連携することで、体験を本当に良くできると思います」と彼は答えた。
「これに取り組み始めた最初の日から、私たちが目指しているのは、前回登壇した時に話したように、世界がこのシステムを使って新たなマーケットプレイスを形作ることです。それが次のパラダイム、ウェブサイト、モバイルアプリ、そして今回はこの取り組みにつながりました」。
「今、人々が市場で見ている基本の状態から、世界中の異なるマーケットの異なる端末を用いて人々が自分からこのシステムにプラグインするために、オープンなシステムが必要です。そのようなスケールが実現した時、このアシスタントがユーザーのために何ができるようになるか想像してみてください」。
「アシスタントがこなせるタスクの数は、数十から千になり、万になり、将来的にはもっと増えるでしょう。そのようなスケールに達するために必要なのは、そのために必要な多様なテクノロジーやプラットフォームを考えぬくことです。私たちは過去4年間、それに費やしてきました」。
Samsungが単に自社のプラットフォームにAIアシスタントを加えること以上の施策を検討していると考えるなら、その証はすでにいくつかあるようにも思える。プレスリリースには、「VivでSamsungはカスタマーに対し、新たなサービス体験を提供することが可能になります。例えば、ユーザーインターフェイスをシンプルにし、ユーザーの状況を理解して、ユーザーにとって最も適切で、有意義な提案やレコメンドができるようになります」とある。
宣伝文句でもあるが、この先を予見させる言葉でもある。
Samsungの様々な端末のソフトウェアにVivを搭載した場合、どのように他社との差別化につながるか、とKittlausに聞いた。彼は「外には広大なエコシステムが広がっています。この取り組みでは、私たちはポスト・アプリ時代に向かってゆっくりと進み出すということが1つです」と言った。
「Samsungはこの全く新しい分野を牽引できる位置につけています。どこからでも利用できるアシスタント、シームレスなインタラクション、会話型のコマース、私たちがこれまで話してきたことが実現するためには、新たなバックボーンが必要です。これらを組み合わせることで、クリティカルマスを獲得する機会が得られます」。
SamsungによるVivの買収は、AppleやGoogleが提供するような音声駆動のアシスタントを開発するためというよりも、音声駆動のインターフェイスを作るためということなのだろう。それは、スマホ、ホームハブ、ドアノブ、冷蔵庫に至る全ての端末に一貫して存在することになるのかもしれない。AIでカスタマーを獲得し保持することを目指す、少数の会社と同様にSamsungをそれを目指しているのだろう。
もし、Apple、Amazon、GoogleがAIをOSやデバイスの中核に据え、デバイスは単にそのコアに紐づく電化製品というコンセプトを煮詰めることができるなら、私たちにもできないことではないというのがSamsungの考えのようだ。
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(翻訳:Nozomi Okuma /Website)