発行も管理も全てオンライン完結、法人カードで企業の決済課題を解決するHandiiが3億円を調達

近年世界のFinTech領域の中でも急速な成長を遂げ、注目を集めているスタートアップ・Brex。

独自のモデルで法人用クレジットカードの概念をアップデートし、スタートアップへ新しい決済の仕組みを提供する同社は、サービスローンチから約1年半でユニコーン企業リストに名を連ねるまでになっている。

今回は国内でも大きな可能性を秘める「法人カード領域」に、Brexとは少し違った角度からアプローチしようとしている日本のスタートアップHandiiを紹介したい。

同社は6月25日、ニッセイ・キャピタルとCoral Capitalより総額3億円の資金調達を実施したことを明らかにした。調達した資金を活用して今秋リリース予定の法人向けウォレットサービス「paild(ペイルド)」の開発を強化する計画。本日より同サービスの事前登録受付も開始している。

Handiiは2017年の設立。これまでニッセイ・キャピタルなどから約1億円を調達しており、今回のプレシリーズAラウンドを含めると累計の調達額は約4億円になる。

発行も管理も全てオンラインで完結する法人向けウォレット

Handiiが現在開発を進めているpaildは、法人カードをオンライン上ですぐに発行できるプリペイド式のウォレットサービスだ。

同サービスは従来の法人カードとは異なり、カードの発行や細かい権限設定が全てオンラインの管理画面から行えるのが特徴。追加発行や発行したカードの停止、個別の利用上限額の設定などをスピーディーかつ余計な手間をかけることなく実行できる。

カードは約5300万以上のVisa加盟店で使うことができ、バーチャルカードだけでなくプラスチックカードの発行も可能。使い方自体はクレジットカードの場合と変わらない。

プリペイドタイプのため与信審査やそれに伴う利用限度額の制約もなし。何枚でも発行できるので各社員に配布して立替経費精算にかかる時間やコストを削減するのにも使えるし、用途に応じて別々のカードを使い分けるというやり方もありだ。

ヒアリングで気づいた法人決済に関するペイン

Handii代表取締役社長兼CEOの柳志明氏は東京大学大学院を経てJPモルガンに入社。国内外のテック企業を中心にM&Aや資金調達のアドバイス業務に従事した後、2017年8月に創業している。

高校の同級生で三菱東京UFJ銀行のクオンツとして働いていた森雄祐氏(CTO/共同創業者)に声をかけ2人で事業案を検討し、当初は「無人ジム」事業を展開しようと動き出していたそう。最終的には事業ドメインを変更し、2人のバックグラウンドとも関連性の高いFinTech領域で再スタートを切った。

FinTechの中でも法人カード分野から事業をスタートしたのはなぜか。まさにBrexを始めとしたカード型のスタートアップが海外で急成長を遂げ「解決している課題が面白いと関心を持った」ことに加え、柳氏自身が起業後に直面した課題が大きな影響を与えているという。

「会社を設立した時に作った企業用のクレジットカードは上限金額が30万円。そのうち20万円くらいは固定で使っていたため『新しく広告を打ちたい』と思った時に上限枠を引き上げる必要があったが、結局60万円までしか上がらなかった。手元にお金自体はあったのにクレジットの上限の関係で十分に広告を打てない状況に陥って困った経験がある」(柳氏)

周囲に話を聞いてみたところ、どうやら同じような課題を抱える人が多いことがわかった。特にスタートアップの場合は資金調達をして手元にそれなりのお金があるものの、売上はまだ立っていないためクレジットの上限が限られてしまうケースがある。

その結果、30〜40社にヒアリングをしてみると「カードが止まってしまった経験のある企業」が一定数いたそうだ。

またヒアリングをする中で、スタートアップに限らず中堅規模の企業なども含めて「立替経費の精算」に関して課題を感じている企業が多いこともわかってきたという。

「経費精算に関するデータをエクセルなどに打ち込んで申請するのも、担当者がそれを個別で確認するのも大変。たとえば出張が多いような人だと金額も多くなり自腹で立て替えるのが苦しいので、(従業員側から)経費精算のスパンを短くして欲しいなど色々な要望もある」(柳氏)

柳氏によると、とある業界や企業では「仮払金」という形で会社から従業員に一定の金額をあらかじめ支給しておき、後からレシートなどを見て差し引きするような仕組みがあるそう。その場合もやはり担当者の負担が大きくなるほか、社員から盗まれるリスクも考慮しなければならない。

法人にとって最適な決済手段の開発へ

各社ごとにそれぞれ状況は異なれど「法人カードや法人決済」の領域に大きなペインと可能性があることはヒアリングを通じて明確になった。それらの課題を「プリペイド式の法人カードサービス」という形で解決しようというのがHandiiのチャレンジだ。

概要は上述した通りだが、プリペイド式にすることで入金した金額の分だけ使うことができるため与信枠で悩むことはない。またカードに関連するアクションを全てオンラインからスピーディーに実行できる仕組みを整えることで、各社のニーズに合わせた使い分けができるようになる。

「人の入れ替わりや紛失時のカード発行・利用停止はもちろん、各カードの上限金額の変更なども臨機応変にできる。経費精算もカードに置き換えればデータをすぐに飛ばせるので、面倒な業務の負担を軽減することにも繋がる」(柳氏)

経費精算については自社でプロダクトを開発するわけではなく、API連携などを通じて他社ツールと繋いでいく方針とのこと。この領域ではクラウド経費精算サービス「Staple」を運営するクラウドキャストが法人向けのプリペイドカードを準備していたりもするので、やはり大きなペインがある分野と言えそうだ。

今回Handiiでは資金調達と合わせて、paildのリリースに向けてオリエントコーポレーション(オリコ)と提携したことも発表している。今後は調達した資金を活用して組織体制の強化を進めるほか、オリコと共同でpaild の国際ブランド対応業務や、Handiiが今後提供する新しい金融サービスについても検討していくという。

「そもそも現在の法人用カードや決済サービスが最適なのか、本当にプロダクトマーケットフィットしているのかと常に考えている。たとえば日本は個人向けのカードの方が普及していることもあり、法人用のカードにも個人と同じポイントプログラムがついていたりする。でも本来企業が求めているのは複数のカードを管理したり権限を設定したりなど、個人用とは全く別の機能だ」

「そういった意味では法人の決済領域はまだまだ未開拓で、色々なチャレンジができる余地がある。従来の法人カードにはない機能や使いやすさを通じて、法人向けの新しい金融インフラを整備していきたい」(柳氏)

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。