小型・安価な独自衛星打ち上げロケットを開発するドイツのIsar Aerospaceが95億円調達

航空宇宙産業はスタートアップの世界からの爆発的な活動の広がりを見てきたが、そこでは聡明なエンジニアたちが、大企業の下で働くよりも、ますます野心的になるベンチャー投資家から資金を調達して自分でスタートアップを起業し、壮大な計画を現実的なビジネスに変換する道を選んでいる。そんな中、最も新しい展開として、ミュンヘンのスタートアップが、ヨーロッパの宇宙技術業界で最高額の投資ラウンドによる資金調達を成功させた。

極めて小型で、現在市場で活躍している大型ロケットよりも安く超小型衛星の打ち上げができるロケットを開発するIsar Aerospace(イザー・エアロスペース)は、7500万ユーロ(約94億7000万円)を調達した。同社は、この資金を使って研究開発と建造を継続し、その過程で、2022年初頭に最初の商業打ち上げを実施する計画だ。

際立って画期的な設計のロケットを提供するだけではないが、打ち上げに成功すれば、Isarはヨーロッパの宇宙関連企業として初めて、世界の衛星市場で戦える確実な衛星打ち上げロケットのメーカーとなる。

今回のラウンドは、Lakestarrが主導するシーリズBで、以前からの支援者であるEarlybirdとVsquared Venturesも大きく貢献していると同社は話している。Earlybirdと戦略的支援者であるAirbus Venturesは、前回、2019年12月にクローズした1700万ドル(約17億7000万円)のラウンド(Isar Aerospaceリリース)を主導している。

このスタートアップは、名門ミュンヘン工科大学(TUM)からスピンアウトして生まれた。共同創設者のDaniel Metzler(ダニエル・メッツラー)氏、Josef Fleischmann(ヨーゼフ・フライシュマン)氏、Markus Brandl(マーカス・ブランドル)氏は、みなTUMで工学を学んだ。中でもフライシュマン氏には、Isar創設前にちょっと自慢できる出来事があった。彼は、米国で行われたHyperloop(ハイパーループ)のコンペにTUMチーム(Isar Aerospaceリリース)の一員として参加した。その功績により、米国の有名ベンチャー企業から非常に興味深い仕事に誘われたのだが、彼はドイツに帰り、自身の会社を立ち上げることを選んだ。それがIsar Aerospaceだ。

メッツラー氏はインタビューの中で、データソースの増強や刷新のために衛星技術を利用したい、または利用する必要に迫られた企業の累積需要が非常に大きいと説明していた。政府や通信事業者にそうした需要があることは簡単に想像がつくが、ナビゲーション、GPS、地図製作の専門家、農業関連産業、メディアおよびインターネット企業、その他、宇宙でしか実現し得ない高速かつ遠距離のデータアクセスを必要とする団体などもそこに含まれる。

問題は、衛星を軌道に乗せる現行技術は、費用も時間もかかりすぎることだ。

ロケットは大型で、打ち上げ頻度も低い。その積載スペースを確保するためには、長い準備期間と大量の投資が必要になる。運良くそれが叶っても、技術的問題や天候によって突然中止になることもある。

こうした問題は、SpaceX(スペースX)のような民間企業の成長でなんとか対処しようとしてきた。ロケットを量産し、広い場所にたくさんの発射台を備えて打ち上げ回数を増すことで、需要に応えるという方法だ。

だが、Isarのアプローチはまったく違う。新しい方式の打ち上げ台に加え、小型で安価な新型ロケットの建造だ。こうすることで、多くの団体がより安く、より簡単に柔軟に衛星の打ち上げを予約できるようになるという考えだ。目標は1000kg以上のペイロードを打ち上げることだ。

Isarのシステムに使用されている革新的な技術の中には、現在のロケットで通常使われているものとは異なる、軽い燃料を使う推進システムがあるとメッツラー氏は話す。また、ロケットの建造費用を低く抑える、新しいシンプルな設計アプローチの採用もその1つだ。

メッツラー氏によると、現在の衛星打ち上げ料金の相場は1kgあたり3万ドルから4万ドル(約310万円から420万円)だという。「私たちはさら斬り込んで、1kgあたり1万ドル(約104万円)を目指します」

この提案は「顧客からの問い合わせ」がすでに5億ドル(約520億円)に達しているほど魅力的なものだとIsarはいう。つまりそれは、同社の打ち上げ事業が開始された場合の売上げとなるであろう、緩い予約のようなものだ。

同社は、衛星打ち上げが需要対応の明らかなボトルネックだと考えている。

「週に1度宇宙に行くことは、3年前から準備してきた打ち上げ計画とはまったくの別物です」と彼は、現状と比較したIsarが想定すべき未来について語った。また彼は、Isarでは持続可能性を念頭にロケットを作っているとも話していた。地上で回収して再利用できない部分が1つでもあるなら、大気圏で完全に燃え尽きて、一切の残骸が出ないようにロケットを設計するべきだと考えている。

長期的には、Isarは宇宙探査や別の分野の開発にも乗り出す可能性がある。そうした意欲的なロードマップ(この場合はスカイマップか?)には、投資家も喜んで支援するだろう。

「私たちは、ヨーロッパの民間宇宙開発を目指すIsar Aerospaceを、最大手機関投資会社として支援できることを誇りに思います。地球低軌道の超小型衛星は、今後数十年間、計り知れないイノベーションとビジネスの可能性をもたらす主要な基盤技術となります。そのため、次なる技術革新を傍観者として眺めていたくなければ、ヨーロッパに競争力のある宇宙産業を持たなければならないのです」と、Earlybirdの共同創設者Hendrik Brandis(ヘンドリック・ブランディス)氏はいう。「特にこれだけの規模のラウンドを完全にドイツの資金だけで支援できたことを、私は誇りに思います。これは、近年この国でスタートアップとベンチャー投資産業が確実に育っている明白な証です」。

カテゴリー:宇宙
タグ:Isar Aerospaceロケット人工衛星ドイツ資金調達

画像クレジット:Isar Aerospace

原文へ

(翻訳:金井哲夫)

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。