仕事の場のシェアリング、コワーキング(co-working)サービスは日本でも認知度が高まり、実際のスペースも目にすることが増えてきた。では住まいをシェアする、コリビング(co-living)はどうだろうか。一軒家や寮をシェアするシェアハウスやルームシェアについては、ドラマや映画の舞台にもなり、なじみのある人も多いだろう。また、Airbnbなど民泊としての家・部屋の共有はしばしば目にする。だが、コリビングサービスが仕組みとして展開され、日本で広まるのはこれからだろう。
12月20日に発表された、定額で全国複数の拠点にどこでも住み放題になるサービス「ADDress(アドレス)」は、そんな日本のコリビングサービスの先駆けとなりそうな、不動産シェアの仕組みだ。
ADDressでは空き家や古民家、別荘など、使われていない物件を活用してコストを抑えつつ、水回りやキッチンは快適に利用できるようにリノベーション。シェアハウスと同様に個室が用意されており、リビングなどの共有スペースでは、ほかの会員や地域住人との交流も楽しめるようになっている。物件にはサービスアパートメントやホテルのように、アメニティや家具はそろっており、快適な空間としてケアされる。
2019年4月から、5カ所の物件でADDressのサービス第1弾を開始予定。月額4万円からの定額で、共益費もコミコミで、どの拠点にも住めるというコリビングサービスを提供していく。
「地方とシェアエコは実は相性がいい」
ADDressを展開するアドレスは今年11月に設立されたばかり。代表取締役社長の佐別当隆志氏はガイアックスの社員でもありながら、2016年にシェアリングエコノミー協会を立ち上げ、事務局長を務めている。また、自身が住む住居の1室を民泊として提供するほか、2017年からは内閣官房シェアリングエコノミー伝道師として任命を受け、シェアリングエコノミーの普及・啓発にも携わっているという、公私全面で「シェアリングエコノミー」にどっぷりと関わっている人物である。
佐別当氏は、少子高齢化が進む中、若い人は少ないが高齢者は住んでいるという地域では、人やビジネスを誘致するというより、住まいのシェアリングによる取り組みが、地方創生に効果があるのではないかと考えている。
「ただし、マーケットが小さい地方には事業者はこない。だからシェアリングを進めるとしても、立ち上げのところでは誰かの支援が必要だ」(佐別当氏)
サポートがなければ、全国へのシェアリングエコノミー普及はなかなか難しい、と佐別当氏は言いつつも、「クラウドソーシングなどの普及で、若い人が地方へ仕事を持ってくることは増えている。地方とシェアサービス、クラウドファンディングなどとは、実は相性がいい」と語っている。
一方で、そうした地方に移りたい若い人たちが住む家がないのが課題だ、と佐別当氏は続ける。
「家は余っていて、空き家も増えているけれども『持っているけど貸さない、売らない』というオーナーが多い。家族向けの物件はそれでもまだあるが、単身向けの部屋は特に少ない」(佐別当氏)
アドレス提供。数値出典:実績は総務省「住宅・土地総計調査」より。予測値は NRI。
2033年には空き家率が現在の倍、全住宅の3割に当たる2166万戸に増えるという予測もある中で、佐別当氏は「都市と地方とで人と人との交流を増やして、移住ではなく、旅行のような短期でもない、人口のシェアリング、『関係人口』を増やしたい、ということから、定額制の住み放題サービスの展開を考えた」と話している。
ADDressは、コワーキングスペースはあっても住むところがない、という人の住まいの課題を解決するサービスだ。2拠点、多拠点間を動きながら住み、働きたい、という人に生活の拠点を提供。佐別当氏は「家族の都合などで地方に縛られなければならない若い人も使えるようにしたい」と話す。また不動産オーナーで「地域活性化のためにも、そうした場の提供に興味はあるけれど、個人では所有・管理しきれない」という人も支援する。
「2拠点、多拠点で生活したいというのは、以前なら引退した年配の人の志向だったが、最近では若い人にも需要が増えている」と佐別当氏。「自然の中で子育てや仕事がしたい、地域との関わりを持ちたい、農業体験したい、という20代から40代の人も多くなってきた。だから若い女性でも楽しんで生活できるように、水回りのリノベーションやホテル暮らしのようなアメニティの提供などには、気を配ろうと思っている」という。
来年4月にスタートする第1弾物件は、東京都心から1〜2時間圏の物件からスタートする予定だ。都心からの週末の利用や日帰りでの利用を想定している。第1弾の5拠点については、土地・物件を購入または借りて、自社でサービスを運用する。
まずは2019年1月まで、第1期として30名限定で会員を募集する。また民泊や空き家のオーナーも同時に募集をスタート。「別荘の管理代行サービスのように使ってもらえれば」と佐別当氏は話している。
さらにチームマネジメントについても「拠点がいろいろなところに広がるので、分散型で進めるつもり」として、ADDressの拠点管理人も3名募集。「家守(やもり)」と呼ばれる拠点管理人には「企業版ベーシックインカムとして、1年間のADDress利用権と月額5万円を支給し、家の管理を実作業ではなく、窓口として担当してもらう」ということだ。
「管理窓口以外では、必須の仕事ではないけれども、コリビングスペースを核にした地域イベントや情報発信などもやってもらえればうれしい。今後何百人、何千人と家守が増えて、地域や空き家を守っていくという未来を想像している」(佐別当氏)
物件オープンまでの3カ月は、会員や管理人と物件の募集を進めながら、行政など関係各所との調整も進めていくという。「ずっと住む、という人が多くなるようであれば、プランも追加しなければならないし、短期利用が多いとなれば、民泊と同じように法律の縛りもかかってくる。この3カ月でいろいろ検討していきたい」(佐別当氏)
将来的には法人プランの導入も予定しているADDress。「オフサイトミーティングや出先拠点的にも使える場にする」という。また月額制ではない、1日利用プランなどの追加も考えているということだ。
「街の価値を上げる人が登録してくれるサービスにしたい」
佐別当氏はADDressを「WeWorkの住まい版」と表現する。実際、米国ではコワーキングサービスのWeWorkが子会社でコリビングサービスの「WeLive」を提供。ほかにも「OpenDoor」や「Common」、「Ollie」といったサービスがある。
日本でも、コリビングサービス提供の動きはある。長崎をベースに世界展開を目指すKabuK Styleが、11月に定額住み放題の多拠点コリビングサービス「HafH」を発表。「Makuake」で事業のためのクラウドファンディングを募っている。増える空き物件の有効活用を考えると、今後、日本でも住まいのシェアリング、コリビングサービスは増えていく可能性がある。
佐別当氏は「ADDressは、住所をADD(追加)できる、という意味で名付けた」と言い、「さまざまな場所に滞在しながら楽しんで働き、シェアハウスとしての中での交流も、そして地域とも交流してもらえれば」と話している。
「地域の人は、空いた家に(旅行者ではなく)定期的に来てくれる人がいると安心する。イベントなども行って交流が盛んになればいい。またオーナーも『地域のために物件を使いたい』『売ったり貸したりするのではなく、自分でも使いたい』という人をサポートしていく。利用者を会員制にすることで、街の価値を上げてくれる人が登録してくれるサービスにしたい」(佐別当氏)
街の価値が上がることで、物件の価値も上がり、街づくりにも貢献できる。そうした正の循環をサービスで生み出したい、と佐別当氏は考えているようだ。
「東京でカフェや店を開こうとしても競争が多く、お金もかかる。地方にはそれがないので、コリビングスペースが核になれば、周りにそうした店ができるようになり、若い人のチャレンジの場にもなる。また今後少子化がさらに進めば、都心も空洞化すると予測できる。そうなると都心から地方へのベクトルだけでなく、地方から都心へのベクトルもあるはず。都心部の拠点開拓にも力を入れていくつもりだ」(佐別当氏)
アドレスは設立後、佐別当氏が所属するガイアックスと「東京R不動産」を運営するR不動産、プロダクトブランド「ONFAdd」(オンファッド)などを提供するニューピースの各社、そして3拠点に滞在しながら活躍するITジャーナリストの佐々木俊尚氏や、ベンチャーアクセラレーターの須田仁之氏らエンジェル投資家からの出資を受けている。
また、アドバイザーとして家入一真氏や、Satoyama推進コンソーシアム代表の末松弥奈子氏らが参画。シェアリングエコノミーやIT、クリエイティブ、イノベーション、地方創生などでさまざまな知見を持つ創業メンバーと株主、アドバイザーが加わって、サービスを実践者としてサポートしていく体制を構えている。