新型コロナに翻弄されながらもNASAは商用宇宙飛行と火星探査車の計画を敢行

米国中のNASAの施設は、ほとんどが閉鎖された。一部のチームは自宅勤務(そして火星探査車を操作)しているが、その他の人たちは、重要なミッションを敢行しようと懸命に頑張っている。さもなければ、5億ドル(約540億円)もの延滞金を支払わされることになると、NASAのJim Bridenstine(ジム・ブライデンスタイン)長官は言う。

米国時間4月15日に発行されたPlanetary Society誌のインタビューに応えて、ブライデンスタイン長官は、いろいろな興味深い話を聞かせてくれている。だが、新型コロナウイルスのパンデミックほど、NASAの業務に影響を与える緊急で突出した問題はない。

10年にも及ぶ暫定スケジュールで進められているプロジェクトの場合は大幅に余裕がある。しかし、そんな贅沢なミッションばかりではないと長官は話す。中でも特に重要とされるもの、そのために従業員に出勤を許可しているミッションが2つある。Commercial Crew(コマーシャルクルー、商用有人飛行)プログラムと、Mars Perseverance Rover(パーセベランス火星探査車)だ。なおパーセベランス火星探査車は、以前はMars 2020と呼ばれていたが、子たちの名称コンテストでパーセベランスと改名された。パーセベランスとは忍耐という意味だ。

コマーシャルクルーは、SpaceX(スペースX)とBoeing(ボーイング)が米国製有人宇宙船の開発を競っているプロジェクトだ。2011年にスペースシャトルが引退して以来、米国は国際宇宙ステーション(ISS)との宇宙飛行士の往来をソユーズのみに依存している。

「ひとつの理由によって、これは絶対に不可欠な機能なのです。我々には、国際宇宙ステーションに行ける独自の手段を確保する必要があり、これには米国人納税者からの資金1兆ドル(約107兆円)が投資されています。なのでミッションは敢行しなければならないのです」とブライデンスタイン長官は話す。

実際、世界中の工業界が厳しい状況に置かれているにも関わらず、早くも来月の日程ががっちり固められている。プログラムでは、空論的に設けられた締め切りがいくつも近づいては通り過ぎてゆく。

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インタービューの後半で、長官は、Crew Dragon(クルードラゴン)とStarliner(スターライナー)の両カプセルは、ソユーズとロシアのロケットと完全かつ永久に入れ替わるものではないが、確かな代替手段を確保し、依存関係だけがロシアとの唯一のつながりという状況をなくすものだと明言した。昨年はソユーズが打ち上げに失敗し、ISSは運用開始以来初めて無人の状態となった。だが迅速な調査が行われ、すぐに元通りになった。ISSに行くための手段が複数あれば、こうした危機的状況を招く危険性を低減できる。

もうひとつの非常に重要とされるミッションは、次期火星探査車のパーセベランスだ。

「このミッションは、ひとつの理由から重要視されています。つまり、火星への打ち上げウィンドウが非常に限られていることです」とブライデンスタイン長官。

軌道を回る人工衛星や、月ミッションであっても、長期の定期的な打ち上げウィンドウが用意される。だが火星へ向かう宇宙船を、短い飛行時間で狙った軌道に正確に投入するためには、地球と火星の位置が最適な時期にまとめて打ち上げなければならない。惑星間飛行は、非常に高い精度を要する科学技術だ。パーセベランスを予定通りに完成させなければ(この場合は7月17日)、悲惨なことになる。

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「その打ち上げ時期を逃すと、2年間で5兆ドル(約540億円)を超えるコストが掛かることになります。ミッションが全滅するわけではありませんが、そんな事態には遭遇したくありません」とブライデンスタイン長官は言う。

だが長官は、NASAの従業員の健康を犠牲にしてまで達成しようというのではないと、安全には気を遣っている。

従業員には、できる限り多くの予防策を講じた中で働いてもらうことになります。私たちは、従業員を分離しています。同時に働くことがないよう、シフトをずらしました。また必要なとき、必要な場所でPPE(個人用保護具)を使用しています。

NASAの従業員の中で、仕事のやり方に納得ができない者が一人でもいれば、その旨を知らせてもらいたい。そして、気兼ねな違う仕事に就いて欲しいと考えています。他の業務に就けるよう、我々が実際に手配します。働きづらい場所や危険な場所で働かせたくはないのです。従業員は、NASAにとって最重要の存在です。この非常に特異な状況で、すべての人が安心できるようにしたい。そのため私たちは、従業員が安心して働けるように自由意志を尊重し、それによって評価が変わるようなことが絶対にないように努めます。

それでも遅延が心配されるプロジェクトに関して、ブライデンスタイン長官は、次世代ロケットのSpace Launch System(スペース・ローンチ・システム、SLS)が「厳しい状況」にあると認めた。その初号機Altems I(アルテミス1)のテストは2021年末に予定されているが、2022年にずれ込む公算が高いという。だが、SLS2号機となるアルテミス2は独立して準備が進められており、初号機のスケジュールにはほとんど左右されないとのことだ。

2024年に月面に人類を立たせるという野心的な計画は、以前から大ばくちだと見なされていた。パンデミックは、それをさらに先延ばしにするだろう。しかし少なくとも短期的には、NASAの本当に重要な業務は継続され、事態が好転したなら(そう祈るが)、この春と夏には、歴史的なミッションが成功を飾る予定だ。

ブライデンスタイン長官のインタビュー全編は、Planetary Societyのポッドキャストで聞くことができる。

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(翻訳:金井哲夫)

NASAの月ロケット打ち上げは計画から2年遅れで予算オーバーとの内部報告

2024年に人類を月に立たせるというNASAの意欲的な計画は間近に迫ってきた。と同時に、同局の監察総監室が報告した現在の予算超過と遅延から察するに実現性が遠のいている。

「SLS(Space Launch System、大型打ち上げロケットシステム)計画のコストとスケジュールの管理に苦戦を続けるNASAの状況は、同局の(有人月飛行計画である)アルテミス計画の意欲的な目標に影響する恐れがある」と米国時間3月10日に公開された報告書には書かれている。「アルテミス1号のSLS(ロケット本体、ICPS、ブースター、RS-25アダプテーション、RS-25リスタート)の開発建造における主要な契約のそれぞれが、数々の技術的困難、性能の問題、仕様変更に直面し、20億ドル(約2070億円)の予算超過と少なくとも2年のスケジュールの先送りという結果を招いた」とのことだ。

とはいえ、もちろん、2024年の予定が2026年にずれ込むわけではない。遅れているのは、NASAがアルテミスの有人ミッションに使おうと計画している次世代型の重量級ロケットSLSの最初の試験機だ。最初の打ち上げは、今のところ2021年の春の予定になっている。当初の予定からは2年以上が経過している。

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こうした遅延を考慮して、SLS計画は2010年にスタートし、2014年には設計段階を終え、その後にテストと建造のための契約が交わされた。SLSの完成時期は早ければ2016年というスケジュールが浮上したが、実際にNASAが公式に発表したのは2018年後半という日程だった。だがそれも何度か後ろにずれ込み、直近では、今年の11月の打ち上げはもはや約束できないと1月にNASAが発表している。

しかもこうした、NASA、契約業者、孫請け業者のそれぞれに存在する遅延と難しい問題は財政を複雑化し、当初の予算はとっくに突破してしまった。報告の手法にもよるだろうが、これまで達成されたものの経費は当初の予測を超えていたとも言える。

報告書には「全体で、2020会計年度末までに、NASAはSLS計画に170億ドル(約1兆8000億円)以上を費やすことになる。その中には、60億ドル(6300億円)近い使途不明金やABCの一部だと説明されるものがあった」と記載されている。ABCとはAgency Baseline Commitment(局の最低基準契約)のことで、基本的に予算を確保するために用いるとNASAが米国議会に伝えていたものだ。

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月着陸計画を進めるといった大きな冒険は、最初に考えていたよりも難しく費用もかかるなどということは、意外でもなんでもない。アルテミス計画の最終目標は、米国が再び安全に適切な時期に月に立って、James Bridenstine(ジム・ブライデンスタイン)局長が好んで言うように「そこに居住する」ことにある。2024年の目標はあくまで希望であって、エンジニアも宇宙飛行士も、政治的な日程を満足させるために急ぐべきではない。なにより命が大切だ。

監察総監室は、NASAと契約業者が時間と経費に責任が持てるよう、出費をより正確に記録する方法について新しい提案をしている。だが遅延が再三にわたり警告されるということは、言葉には出さないまでも、2024年に月に着陸するという目標がほんの数カ月遅れるだけであって、計画が破綻したわけでもなんでもないことを示しているように思える。

像クレジット:NASA

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(翻訳:金井哲夫)

アルテミス有人月飛行計画にはもっと多くのスタートアップを呼び込みたいとNASA長官が呼びかけ

世界の宇宙産業、宇宙機関、研究者が一堂に集まり宇宙技術と宇宙ビジネスについて話し合う国際宇宙会議が今週開かれたが、私はNASAのJim Bridenstine(ジム・ブライデンスティン)長官に、NASAが意欲的に推進するアルテミス計画におけるスタートアップの役割をどう考えるかを尋ねた。アルテミス(ギリシャ神話に登場するアポロの双子の姉妹から命名した)計画とは、月に再び人類を送り(今回は滞在も予定している)、そこを拠点に火星などのさらに遠くの宇宙探査につなげようというものだ。

ブライデンスティン長官は、報道向けの質疑応答で、この質問に見事に答えてくれた。それによると、この計画では、大小さまざまなスタートアップによる貢献が非常に期待されており、若い宇宙企業が大きなインパクトを与える形で貢献できる分野が数多くあるという。

「企業には、大企業もあれば中小企業もありますが、知っておいて欲しいのは、この(ルナ)ゲートウェイで私たちが構築しているものはオープンアーキテクチャーであり、民間のパートナーと進めてゆきたいと考えていることです」とブライデンスティン長官。「そのため実際に、この国際宇宙会議には数多くの企業が参加しています。月に行くと公言している大企業です。彼らは持続性を求めており、アルテミス計画に加わりたいと考えています。ゲートウェイは、そんな企業に開放されています」。

NASAルナ・ゲートウェイの想像図。オライオン・カプセルがドックに接近しているところ

ルナ・ゲートウェイは、NASAが月の周回軌道に載せて、宇宙船の拠点にしようと計画している宇宙ステーションだ。物資をいったん月の軌道に集めておくことで、月面に下ろす作業を確実に、簡単にする重要なステップとなる。だがブライデンスティン長官は、NASAがアルテミス計画のために最初に提示した公募告示(BAA)では、ゲートウェイを利用せず、直接、月面に降りる民間企業の提案も歓迎していると指摘していた。

これまで月探査は、SpaceX(スペースエックス)のような潤沢な資金力と強固な基盤を持つニュースペース企業と呼ばれる一部の革新的企業が受け継いでいた。しかし、アルテミス計画が求める企業の役割は、地球から月の軌道まで移動できる宇宙船の建造のような膨大な資金を要する仕事に限らないとブライデンスティン長官は言う。

「月面に物資を届けておく必要があります」と彼は話す。アルテミス計画では2024年に人を月面着陸させる予定だが、そこで使用されるスペース・ローンチ・システム(SLS)とオライオン有人カプセルがミッションを確実に達成できるように、前もって物資を送り込んでおく必要があるという。「ゲートウェイで着陸船を準備する際にも、おそらくバイパー中性子分光計や赤外線分光計など、地表や氷や、月面上に何がどこに、どれくらいの量で存在するかを調査するためのハードウェアを月面に設置する際にも【中略】そうした科学機材を月に送り届けなければいけません」。

ブルー・オリジンのブルー・ムーン着陸船

実際、NASAが予定している2024年の月面有人着陸に先駆け、または同時期に月着陸船で物資を運び込む準備を進めている企業がある。Peregrine(ペレグリン)月着陸船を2021年に打ち上げる予定のAstrobotic(アストロボティック)と、Blue Moon(ブルー・ムーン)着陸船のBlue Origin(ブルー・オリジン)だ。どちらの着陸船も、そしてその着陸船が運ぶ物資も、月での人類の持続可能な活動を円滑化するために、スタートアップが開発した機材やシステムを利用する可能性がある。事実、ブライデンスティン長官は、計画中の機材の中には、高度なデータ収集ハードウェアよりもずっとワイルドなものがあると話していた。

「たぶん、これも予算によりますが、また今から2024年の間に実現できるとは確約できませんが、月面に空気で膨らむ住居を建て、そこを月面に降り立った宇宙飛行士たちの拠点とし、長期間の滞在を可能にするといったことも考えられます」と彼は言う。「実現可能な範囲なのかって?もちろんです」。

さらにブライデンスティン長官は、NASAがすでに数多くの小規模ながら革新的な企業と協力していること、そしてさらに多くのパートナーを探し続けたい旨を話していた。NASAから発注される月への物資輸送の需要は確実なものであり、発展性があり量も増えていくと長官は指摘していた。

「SLSとオライオンに加えて、さらなる可能性を私たちは必要としています。そこでは、あらゆる種類の民間事業者にチャンスがあります」と彼は言う。「また私たちは、NASAが関わるスモールビジネスへの投資や調査も行っており、常にスモールビジネスを支援しています。事実、私たちは商業月運搬サービス(CLPS)プログラムを進めています。契約した企業は現在9社。【中略】そのうち2社は、2021年に月に物資を輸送するという依頼に取り組んでいます。【中略】この9社に留まらず、さらなる企業を引き込みたいと考えています。もっと大規模な月着陸の可能性を提供してくれる大きな企業の参加も期待しています。なぜなら前にも述べましたが、月面への物資輸送の需要は今後さらに高まるからです」

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(翻訳:金井哲夫)

NASAアルテミス計画用の宇宙服は体格に関係なく月面歩行が楽になる

NASAは、Artemis(アルテミス)世代のミッションのための新しい宇宙服を公開した。アルテミス計画は、2024年までに最初の米国人女性と次の米国人男性を月面に送ることを目指している。この新しいデザインの最大の特徴は、基本的にあらゆる点における動きやすさと柔軟性にある。NASAは、月面での船外活動用のフルスーツと、月の軌道上を移動する際のフライトスーツの両方を披露した。

NASAのジム・ブライデンスタイン長官に導かれ、NASAは初めて宇宙飛行士が月面で使用する(この改良型が火星でも使用される)宇宙服のデモンストレーションを行った。xEMU変形型と呼ばれるこの宇宙服は、宇宙服と聞いてみんなが頭に思い浮かべるであろう形とそっくりそのままだ。しかし、アポロ計画で宇宙飛行士たちが月面を訪れたときに着ていたものとは、いろいろな面で大きく違っている。

これは本当のムーンウォークを可能にするものだ。月面活動のために作られた最初の宇宙服は体の動きの制約が大きく「ニール・アームストロングとバズ・オルドリンが月面で基本的にカンガルージャンプで移動するしかなかった」というのはブライデンスタイン長官の言葉だ。この新しい宇宙服なら、より活動的に体を動かせる。普通に歩いたり、腕もさまざまに動かせる。新しいグローブでは指も自由に動かせるようになり、地面の石も比較的楽にを拾える。

「新しい宇宙服は、1パーセンタイル順位の女性から、99パーセンタイルの男性まで実質的に宇宙飛行士になりたいすべての人の体に合わせられるようにデザインされている」とNASA先進宇宙服エンジニアKristine Davis(クリスティン・デイビス)氏は話していた。彼女は米国時間10月15日に開催されたイベントのステージ上で、xEMU異形型を来てデモンストレーションを披露した。

「宇宙に行きたいという夢を持つすべての人が、こう言えるようにしたいのです。そう、みんなにチャンスがあるよってね」とブライデンスタイン長官は、この宇宙服のインクルーシブデザインに触れて、そう言い加えた。

NASAでは、再び月を訪れたときに、持続可能性を確認したいと考えている(実際に作業場を建設して滞在する計画を立てている)ため、宇宙服は北極と南極、さらには赤道付近の温度変化に対応できるように耐熱性能に大きな幅を持たせてある。このxEMUの場合、マイナス156.6度からプラス121.1度まで耐えられる。

NASAはまた、国際宇宙ステーション(ISS)で現在使われている宇宙服からも、大きく進歩していると話していた。ひとつには、この宇宙服には実際に使える脚が付いている。ISS用の宇宙服は、無重力や微小重力の環境で使用するために脚には保護の役割しかない。新しい宇宙風の腕の接続部分にはベアリング使われているため、前述のとおり手を伸ばしたり物を掴んだりと可動域がずっと大きくなっている。

もうひとつの宇宙服はOrion Crew Survival Suit(オライオン乗員救命スーツ)と呼ばれ、打ち上げと着陸のときに着用する軽量な宇宙服だ。通常の使用中は減圧されているが、事故による減圧が起きた際には体を守るように作られている。これをデモンストレーションしたのは、オライオン・スーツのプロジェクト・マネージャーであるDustin Gohmert(ダスティン・ゴーマート)氏だ。彼によると、xEMUほどで強力ではないが、熱と宇宙放射線を防御できるという。

大きなxEMUスーツは、アップグレードが可能なようにも作られている。ちょうどPCのマザーボードのように、新しい改良されたテクノロジーが使えるようになったとき、わざわざ地球に戻って作り直さなくても宇宙空間でアップグレードして使うことができる。

ブライデンスタイン長官は、今月の初めにNASAが発表したとおり、アルテミス計画用宇宙服の製造で民間のパートナーと提携していることを繰り返し伝えていた。また、それらの企業からは、この宇宙服に使われているテクノロジーの今後の発展やアップグレードをどうすべきかに関する助言やアイデアの提供も求めてゆくことを検討していると話していた。

全体としてブライデンスタイン長官は、商業化について、またNASAがアルテミス計画や宇宙全般で民間のパートナーの協力を求めていることについて、熱っぽく語っていた。

「これまでにNASAは、国際宇宙ステーションの補給の権限を民間企業に与えました。【中略】今は民間のクルーを受け入れています。来年の初めには、2011年にスペースシャトルが退役して以来初めて、米国人宇宙飛行士を、米国の土地から、米国製のロケットで打ち上げる予定です」と彼は言った。「これは我が国にとって、非常に建設的な進歩になりますが、それは民間企業によって行われます。【中略】そしてもちろん、地球の低軌道にたくさんの確固とした商業拠点が生まれることを期待しています。最終的に、私たちの活動を可能にしているものは、次に納税者から預かった資産を活用して、月を、火星を目指すことになりますが、そこでも常に商業化を見据えてゆきます。私たちの目標は、これまで以上に、人類の活動を宇宙に広げることにあります」。

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(翻訳:金井哲夫)

NASAは月面用の宇宙服を将来的には民間企業にアウトソーシングへ

NASAは、特に宇宙服に関して、業界からの情報を求めるという正式なリクエストを発行した。宇宙服の生産と付随するサービスを、外部の業者に委託するための将来の道筋を探ろうと考えている。

これは、宇宙服の設計と生産を、ただちにアウトソーシングするという意味ではない。NASAは、最初のArtemis(アルテミス)ミッションで使う宇宙服を自ら開発し、検証するつもりでいる。実際にArtemis IIIでは、引き続きアメリカ人男性と、最初のアメリカ人女性を月面に送り込む予定となっている。その後のArtemis計画としては、さらにAltemis 4から8まで、5つのミッションが提案されている。そのうちの4つでは、乗組員を月まで運ぶことになっている。

もちろん、すでにNASAは、民間企業だけでなく、学術機関や研究者とも協力して、自らの宇宙服に組み込むべき技術について検討してきた。現在の探査用宇宙服が、将来の設計の基礎となること前提とした上での話だ。しかしその一方で、宇宙服の製造と検査を、その業界のパートナー企業に完全に移管することも視野に入れている。さらに、そうしたパートナーが「宇宙服の進化を促進させる」ことにも期待している。また、現状の宇宙服の設計の改良も持ちかけたいと考えている。

NASAは、宇宙服だけではなく、船外活動の際に宇宙服と組み合わせて使うツールやサポート用のハードウェアに関する情報も求めている。飛行士を運ぶ輸送船の内部や、地球と月面の中継基地となるゲートウェイでも、そうした宇宙服がうまく機能する必要があるからだ。

それからNASAは、宇宙服や宇宙遊泳を、うまく事業化するにはどうすればよいか、といったことについても、多くの企業から話を聞きたがっている。NASAの外部の顧客にも、そうした技術を提供するためだ。

最近のNASAは、Artemisだけでなく、将来の火星探査、現在のISSに関して、さらにISSを事業として企業に引き継いでもらう可能性などについて、より深く業界と提携することに強い関心を示していることが見て取れる。それを考えると、宇宙服についての動きも、まったく驚きではない。NASAが発行した完全なRFI(情報依頼書)は、ここから入手できる。宇宙服のスタートアップを始めたいと考えている人は、見てみるといいだろう

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(翻訳:Fumihiko Shibata)

NASAは月に機材を運ぶ初めての民間企業を選出

NASA(米国航空宇宙局)は、月に科学技術機材を運搬する初の民間企業として、AstroboticIntuitive MachinesOrbit Beyondの3社を選択した。これは、アルテミス計画の一部をなすCLPS(Commercial Lunar Payload Services、商用月運送サービス)プログラムに基づくもの。

米国時間5月31日にNASAが発表したところによると、各社の月着陸船がNASAの機材を運搬し、月面での科学的な調査と、2024年にNASAの宇宙飛行士が月を再訪するための技術の実証を可能にする。NASAは、各社の任務に対する対価として、合計で最大2億5300万ドル(約278億3000万円)を支払う契約を交わした。

「我々が選んだこれらの米国の民間の着陸任務の事業者は、米国が何十年ぶりかで再び月面を目指すことを代表しています。そして、これは我々のアルテミス月面探査計画にとって大きな前進となるのです」と、NASAの長官であるJim Bridenstine氏は述べている。「来年には、最初の科学技術研究活動が月面で行われる予定です。それによって、5年以内に女性としては最初の、男性としては何番目かの飛行士を月面に送り込むことが可能となるでしょう。こうした商用着陸サービスへの投資は、低高度の地球周回軌道以外での商業宇宙経済を構築するための重要なステップにもなるはずです」。

各社の提案には、各種の特殊な測定器の運搬も含まれていた。例えば、着陸船の位置を予測する装置、月面の放射線の強度を測定する装置、着陸船が月に与える影響を評価する装置、それにナビゲーションの補助装置といったものだ。

これはNASAと、NASAによって選ばれた企業にとってだけの勝利となるものではない。それはXPRIZEにとっても誇るべきものとなるはずだ。というのも、Astroboticはもともと、カーネギーメロン大学からスピンアウトして、2007年にGoogle Lunar XPRIZE(GLXP)競技に参加した会社だからだ。

ピッツバーグに拠点を置くAstroboticは、Space Angels Networkの支援を受けている。2021年7月までに、月の表側にある大きなクレーター「死の湖(Lacus Mortis)」に、最多で14回、機材を運搬するという約束で、7950万ドル(約87億4500万円)を獲得した。

ヒューストンを拠点とするIntuitive Machinesは、月のダークスポットにある「嵐の大洋(Oceanus Procellaru)」にやはり2021年7月までに5回の運搬を実現するということで、7700万ドル(約84億7000万円)を受け取った。一方、ニュージャージー州のエジソンに本拠を置くOrbit Beyondは、2020年9月までに、月のクレーターの1つ「雨の海(Mare Imbrium)」の中の平原に4回の運搬を実現させることになる。

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「これらの着陸船の運行は、民間企業との希望に満ちた協力関係のほんの始まりに過ぎません。それによって、私たちの月の、私たちの太陽系の、そしてさらに大きな世界の科学的な謎を解き明かすことに近づくのです」と、NASAの科学ミッション部門の副長官、Thomas Zurbuchen氏は、声明の中で述べている。「そこで私たちが学ぶことによって、宇宙に対する見方が変わるだけでなく、私たちが月に赴くミッションを、そしてやがては火星に赴くミッションを準備することができるでしょう」。

NASAのパートナーとなった企業は、最初から最後までの商業運搬サービスを実現することに同意している。つまり、機材の準備と運用、打ち上げ、着陸までの全行程を含むものとなる。

NASAが、こうした方向に一歩を踏み出したことは、月に対する取り組みだけでなく、今後、火星に宇宙船や飛行士を送り込むことにつながる道を切り開くことになる。

「今回の発表は、NASAと民間のパートナーとのコラボレーションにおける重要な一歩となりました」と、NASAのジョンソン宇宙センターのCLPSプログラムのマネージャ、Chris Culbert氏も、ヒューストン発の声明の中で述べている。「NASAは、産業界と協力して、今後の月探査を可能にすることにコミットしています。われわれが選んだ企業は、アメリカの変化に富んだ、小さくても活気に満ちた会社を代表する存在です。それぞれが、月に到達するための独創的かつ革新的な方法を持っています。彼らと協力して、われわれの機材を確実に送り届け、再び人類を月に立たせることができるようになることを楽しみにしています」。

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(翻訳:Fumihiko Shibata)