スタジアムの経営陣とジャフコのメンバー。前列右からスタジアム取締役の間渕紀彦氏、代表取締役の太田靖宏氏、取締役の石川兼氏。後列右からジャフコ取締役パートナーの三好啓介氏、プリンシパルの吉田淳也氏
「いろいろな業界がテクノロジーの力で変わってきているが、“面接”は未だに進化していない。応募者と企業それぞれにストレスや課題があって、みんな『これでいいのか』と疑問を持っている。僕たちが目指すのは面接とテクノロジーを掛け合わせることで、最高の面接の場を提供すること」
そう話すのはSaaS型のウェブ面接ツール「インタビューメーカー」を展開するスタジアム取締役の間渕紀彦氏だ。
同社が取り組むのはまさにテクノロジーによる「面接のアップデート」。まずは場所や時間の制約を取っ払うウェブ面接ツールからスタートし、面接を進化させる取り組みを実施していく計画だ。
そのスタジアムは5月28日、ジャフコを引受先とした第三者割当増資により5億6000万円の資金調達を実施したことを明らかにした。
今後同社では面接映像データのAI解析や新機能の開発を進める方針。調達した資金を基にエンジニアやセールスメンバーを中心とした人材採用やマーケティング活動を強化するほか、シンガポール拠点を軸としたグローバル展開にも力を入れるという。
時間や場所の制約なし、スマホやPCから面接ができるツール
インタビューメーカーはスマホやPCを使って、場所や時間の制約を受けることなくオンライン上で面接ができるサービスだ。
コアとなる機能はオンライン上で面接ができる「ウェブ面接」、応募者が投稿した動画を基に選考する「録画面接」、選考状況や採用目標などを管理できる「採用管理」の3つ。付随する機能も合わせて、企業が応募者を獲得するところから人材の選定、面接、内定後のフォローに至るまでの各課題を解決する。
中でもウェブ面接の効果はわかりやすいだろう。オフラインの会場で面接を実施する場合と比べて応募者と面接官双方の移動コストを削減できるほか、ウェブ面接の選択肢を用意することでより多くの人材と接点を持てる可能性もある。
特に今は一部の人気企業はさておき、多くの企業が人材難で困っている状況だ。遠方に住む人材がエントリーしやすい環境を作るという観点でも、一次面接などにウェブ面接を取り入れている企業も少しずつ増えてきているようだ。
面接官面接可能な日程を登録しておけば、あとは応募者が日程を予約するだけで日程調整が完了する機能も搭載。Googleカレンダーなど外部のカレンダーツールとも連携が可能
僕自身も学生時代は関西に住んでいたため、面接や会社説明会のために頻繁に東京に訪れていた経験がある。当時は時間や体力的なもの以上に金銭的なコストが負担になっていたので、一次面接だけでもオンライン対応が可能になれば、特に地方に住む学生は助かるだろう。
そういう点では、そもそも面接に至る前の段階(人材を絞る段階)でお互いの認識をすり合わせる用途でもインタビューメーカーは活用できる。そこで活躍するのが録画面接だ。
「録画面接はどちらかと言うと多くの応募が集まる人気企業が面接に進む候補者を絞り込む際に使いたいという需要が多い。動画を通じて書類だけでは伝わらない雰囲気を確認でき、時間調整なども不要。優秀な人材や熱量の高い志望者に気づくこともできる」(スタジアム代表取締役の太田靖宏氏)
もちろん新卒採用に限らず、アルバイトの採用や中途採用でも使える。たとえば働きながら転職活動をしている求職者だと平日の日中は面接が難しい場合もあるだろう。そんな際にウェブ面接や録画面接を有効活用すれば、お互いの負担を最小限に留めてスピーディーに選考フローを進めることもできる。
面接用の動画を撮影して録画データでエントリーする「録画面接」は24時間エントリーが可能。事前に用意された質問に対して、回答となる動画を送る仕組みだ
面接の「録画データ」が重要な資産に
インタビューメーカーには面接を自動で録画する機能が搭載されているのだけど、実はこの録画データが「面接の質を高める」際に重要な役割を果たすそうだ。
「面接の様子は面接官と応募者以外にはわからず、いわばブラックボックスとなっていた領域。録画が残ることで面接官がきちんと応募者の話を引き出せているのか、内定辞退率が高い面接官はどのようなコミュニケーションをとっているのかなどが全て可視化される。企業全体として面接の質を高めるための教育ツールにもなりうる」(太田氏)
実際にスタジアム社内でも日常的にインタビューメーカーを活用しているが「面接の様子を見ると、一方的に面接官が話してしまっていたり、本質的な質問ができていないことが原因で面接官によって評価にズレが生じてしまっていることもわかるようになった」(間渕氏)という。
面接の模様を他の担当者と共有できる自動録画面接機能を搭載
たとえば一次面接で担当者が評価に迷った場合、役員などに動画を見せて判断を仰ぐこともできるので、ポテンシャルの高い人材を途中で不採用にしてしまうリスクも減らせる。面接の録画データを有効活用できる点は企業から好評なのだそうだ。
興味深いのが、まだ一部の企業には限られるものの「対面の面接時にもインタビューメーカーを開いてその様子を録画する事例もある」(太田氏)こと。太田氏や間渕氏は面接のブラックボックス化が課題と話すが、同じような課題感を持っている企業は少なくないという。
自分たちが感じた「面接の大変さ」を解決するツールとして開発
スタジアムはもともとライフノートという社名で2012年にスタートした会社だ。
創業者の太田氏はリクルートで「HOT PEPPER」の創成、成熟に主要メンバーとして携わっていた人物。同社を退職後ライフノートを立ち上げ、営業アウトソーシングを軸に事業を展開してきた。
ある時クライアントから約2ヶ月で70名規模の営業部隊を立ち上げて欲しいというオーダーが入り、期間内で800名ほどの面接を実施。そのプロジェクトを通じて「採用や面接の大変さを痛感した。それを解決できるようなシステムがないのであれば、自分たちで作ろうと思った」(太田氏)ことをきっかけに生まれたのが、インタビューメーカーの前身とも言える「即ジョブ」だった。
機能改善を進める中で「面接」に機能を絞り込み、2016年5月に無料のβ版を公開。翌年5月に正式版をリリースし、現在はADKホールディングス、コーセー、積水ハウス、キユーピー、ダイドードリンコを始めとする1100社以上に導入されている。
料金体系は月額3万9800円(ベーシックプラン)からの定額課金モデル。業界や規模はさまざまだが、初期からエンタープライズの顧客が多いことも特徴だ。
IT業界やスタートアップ界隈にいるとウェブ面接やオンライン会議も決して珍しくないような気もするが、太田氏や間渕氏によると「特に大企業を中心とする非IT系の企業や求職者にとってはまだなじみが薄く、過渡期」だという。
「それでも採用マーケットが厳しくなってきた中で、何かを変えなきゃいけない、特に『地方の学生や遠方の人材にもアプローチできる仕組みが必要』という声はよく耳にする。昨年ごろから『ウェブ面接を考えているので資料を欲しい』という問い合わせも一気に増え、他社ツールも含めて具体的に検討しているお客さんが多くなってきた」(太田氏)
グローバルで見ると日本企業も複数社が導入する「HireVue」が特に有名。そのほか国産のサービスでもウェブ面接を軸にしたものがいくつか立ち上がっている状況だ。
もちろん機能面やプロダクトの使い勝手も差別化要因にはなるが、ツールに慣れるまでにある程度の期間や教育コストがかかること、蓄積される録画データを活用したい企業が多いこともあり、一度入ってしまった後はスイッチングコストが高い。
それだけに「いかに早く多くの企業に使ってもらえるか、スピードも非常に重要」(太田氏)で、今回の資金調達はそのための体制強化が1つの目的だ。
合わせて、これまでインタビューメーカーは子会社のブルーエージェンシーを通じて提供していたが、事業を加速させるこのタイミングでライフノートと統合。5月からスタジアムとして再スタートを切った。
面接テックの追求へ、7万件の面接データの活用も
今後スタジアムではインタビューメーカーの新機能開発に取り組むほか、7万件を超える面接データの解析を進める。
「たとえば表情や声のトーンを解析することで応募者が言っていることの真偽を判定したり、感情を分析した結果あまり楽しそうでなければ『こういう質問をしたらどうですか』と面接官をアシストしたり。面接が終わった時に『楽しかったね』と思える状況を作りたい」(間淵氏)
面接の場を盛り上げるための仕掛けだけでなく、録画されたデータと社内で実績のあるメンバーのデータを照らし合わせることで、自社で活躍しそうな人材を抽出することもできるかもしれない。実際HireVueには人工知能が選考を支援する機能があるが、そのような展開も可能性としてはありえるという。
スタジアムはもともと営業アウトソーシング事業から始まっているため当初はセールスに強みを持つメンバーが中心となっていたが、近年はテクノロジーサイドの人材採
用も進めてきた。
取締役の間淵氏と石川兼氏はそれぞれクックパッド在籍時に執行役員広告事業部長、人事部長を務めた人物。その他クックパッドやお金のデザインを経て加わったCTOを始め、IT業界で経験を積んだ人材も増えてきているそうだ。
今回ジャフコの三好啓介氏、吉田淳也氏にも少し話を聞けたのだけど「人材と雇用は企業の最重要課題になっているものの、『採用』という部分については変革が進んでいないこと」「面接を科学していくことが、最適な人材や雇用の在り方にも繋がっていくと考えていること」に加えて、「営業だけでなくエンジニアを中心とした開発チームも良い人材が集まってきていること」が出資の決め手になったという。
スタジアムでは調達した資金を活用して、営業やエンジニアを中心とした人材採用にはさらに力を入れる計画だ。
「『面接の場』にだけ絞って、追求している会社はほとんどないと思っている。そこを誰よりも深く考え、面接×テクノロジーで大きな変革を起こすチャレンジをしていきたい」(間淵氏)