エッジAI開発のエイシングが第一生命、未来創生ファンドから4億円を資金調達

エッジデバイスに組み込んで利用するAI技術を提供するエイシングは3月23日、第一生命保険および未来創生2号ファンドを引受先とした4億円の資金調達実施を発表した。今回の第三者割当増資は、2019年11月に発表したシリーズBラウンド調達の追加に当たり、ラウンド全体では7億円の調達となる。また同社創業からの累計では約9億円の調達金額となった。

エイシングが開発・提供するのは、エッジデバイス組み込み型のAIアルゴリズム「Deep Binary Tree(DBT)」をはじめとする、エッジAIのプロダクト群「AI in Real-time(AiiR)」。産業用ロボットやスマートフォン、コンピュータを搭載したクルマなどのエッジデバイスに組み込んで利用する「エッジAI」技術だ。

AiiRは軽量・インターネット接続不要で、低スペックなコンピューティング環境でも学習と予測が完結できる点が特徴。エッジでの学習、調整のいらない逐次学習を可能としており、クラウドを介する必要がないため高速で、リアルタイムな学習やデータ処理を実現している。

エイシングでは現在、オムロンやデンソー、JR東日本といった大手企業との間で、PoCおよび共同開発を実施している。エイシング代表取締役CEOの出澤純一氏によれば「PoC実施は30件前後、共同開発も5〜6件と順調に進んでいる」とのことだ。

また技術ライセンス提供も実現し、1社とは既に契約締結が完了したという。ライセンスについては、ほか数社とも契約締結を目指しており、「サブスクリプションモデルや受託モデルではなく、当初から考えていた技術ライセンス提供というモデルでの市場展開が進められそう」と出澤氏は話している。

調達資金にの使途については「技術力の高い人材や、自律的にビジネスデベロップメントができる人材の採用を進める。顧客対応や新技術の研究開発も加速・強化する」(出澤氏)とのこと。さらに「海外展開も視野に入れており、ヨーロッパ市場への進出も目指す」と出澤氏は語っていた。

デバイス側で学習・予測が完結できるエッジAI開発のエイシングが3億円を調達

エイシング代表取締役CEO 出澤純一氏

エッジデバイス組み込み型のAIアルゴリズム「ディープ・バイナリー・ツリー(以下DBT)」を提供するエイシングは11月20日、約3億円の資金調達を実施したことを明らかにした。第三者割当増資の引受先は三井住友海上キャピタル株式会社が運営するMSIVC2018V投資事業有限責任組合。2016年12月設立のエイシングは、2017年にも約2億円を調達しており、今回の調達により、累計調達金額は約5億円となる。

エイシングが開発・提供するDBTは、産業用ロボットやスマートフォン、コンピュータを搭載したクルマなどのエッジデバイスに組み込んで利用する「エッジAI」だ。画像認識などで知られる従来のディープラーニングをはじめとしたAIは、容量が大きく、クラウド側で情報処理が行われることが多い。これに対し、エッジAIは導入機器側にエンベッドして情報処理を実行し、学習と予測を完結して行う。このため、クラウドサーバーとエッジの通信による遅延が回避でき、高速なデータ処理が可能だ。

特に産業ロボット、自動運転車など、エッジデバイス上でのリアルタイムかつ高精度な制御が求められる領域では、エッジAI実装へのニーズが高まっているという。こうした背景を踏まえ、エイシングではエッジ側でリアルタイムに自律学習・予測が可能な独自のAIアルゴリズムDBTを開発・提供している。

DBTの特徴は高精度、軽量でオンライン学習ができる点だ。現在、エイシングではマイクロ秒単位での高速動作が特徴の「DBT-HT(High Speed)」と、精度を向上させた高精度型の「DBT-HQ(High Quality)」の2種をリリース。速度重視、精度重視とユーザーニーズに応じて、ソリューションを提供している。

エイシング代表取締役CEOの出澤純一氏によれば「既存アルゴリズムのDBTに加えて、新しいアルゴリズムの発明も行っており、エッジ側で逐次的にリアルタイムで学習して予測制御を行うエッジAI技術『AI in Real-time(AiiR)』として、プロダクト群を展開していく」とのこと。

エイシングでは、一時は金融工学への応用なども検討していたが、現在は、強みである機械工学の領域での開発に集中している、と出澤氏。オムロンやデンソー、JR東日本といった大手企業ともPoC実施、共同開発を進めているそうだ。技術レベルの向上により、セキュアで、データ的に軽量な実装も実現してきているという。

実証実験済みのユースケースでは、トンネルなどの掘削に使われるシールドマシンの制御において、熟練工の指示に代えて、リアルタイムでのフィードバックと予測制御をエッジAIが行うことで、掘削効率と精度の向上を図っている例や、プログラムに記述しきるのは難しいクレーンの制御を、ディープラーニングによる画像解析との組み合わせにより、エッジ側でリアルタイムに学習しながら動作に反映することで実現する、といった例などがある。

また現状ではシミュレーター上での再現だが、クルマのスリップを事前予測して、制御側にアラートするという例もあるそうだ。従来のセンシングではスリップをしてからいかに早く戻れるか、という制御を行っているのだが、エイシングのエッジAIはスリップをする状況を事前に学習させておくことで、「このままの速度、ハンドル操作では何ミリ秒後に滑る」という情報を制御側に教えて、スリップを回避することができるという。

クルマの制御ではタイヤの摩耗や気温、路面温度などの環境が大きく影響するが、全てをセンシングするわけにはいかず、条件ごとの制御をやり切るのが難しいという事情もある。そこをエイシングのエッジAIでは、センシングが簡単な加速度センサーと車速計、ステアリングの角度だけを参照して学習することができ、さらに積載量、人数による変化も追加で学習して補正し続けることも可能だという。

出澤氏はさらに「工場の機械などで、経年劣化による変化を反映して制御することや、モーターなど製品の微妙な個体差を補正すること、スマートウォッチなどのウェアラブル端末で生体情報の個人差を補正するといった、リアルタイムで学習しながら補正して出力をする、個体差補正についてはエイシングのエッジAIしかできない部分だ」と述べている。

今回の調達資金により、エイシングではDBTをはじめとするエッジAI技術、AiiRの研究開発の強化と、顧客のシステムへの実装までを技術的にカバーする体制づくりを図る。

出澤氏は「顧客からのヒアリングを重視することで、課題・ゴールを明確にしてPoCを実施してきた。現在はパートナーとしての共同開発まで進んでいるところ。今後、この技術のライセンス提供を目指している」と話しており、既に数社へのライセンス提供は見込めそうだという。また、中長期的には、DBT以外のプロダクトも含めたデバイス側AIの市場獲得を図っているとのことで、「3〜5年のタームでグローバルにも展開していき、工業製品AIのデファクトスタンダードを目指したい」と語っている。

深層学習とは異なる機械学習モデル「Deep Binary Tree」を開発するエイシングが約2億円を資金調達

人工知能の活用と聞くと、先日トップ棋士に連勝して引退を表明したAlphaGoのDeepMindや、IBM Watsonなどがまず思い浮かぶだろうか。日本でもPreferred NetworksNextremerといったAIベンチャーのほか、さまざまな企業が機械学習モデルの開発やサービス提供に乗り出している。これらの企業で採用されている機械学習モデルの共通点は、ディープラーニング(深層学習)を利用しているところだ。

ところが、エイシングが提供する「Deep Binary Tree」は、ディープラーニングとは別のアルゴリズムを採用した、独自の機械学習モデルだという。そのエイシングが6月21日、テックアクセルベンチャーズが運営するファンドを引受先とする第三者割当増資により、1億9800万円の資金調達を実施したと明かした。

エイシング代表取締役CEOの出澤純一氏は、2007年、早稲田大学大学院修士課程在学中に、エイシングの前身となるベンチャー企業・ひらめきを創業。卸売・小売・医療機器販売事業のかたわら、水面下で人工知能の研究開発を進めていたそうだ。2016年12月、ひらめきからAI開発事業をスピンアウトする形でエイシングを設立。岩手大学准教授の金天海氏とともに開発した独自のAIアルゴリズム、Deep Binary Treeの提供を行っている。同社は2017年2月には、日本総合研究所が主催するアクセラレーションプログラム「未来2017」のピッチコンテストで日本総研賞を受賞している。

エイシング代表取締役CEOの出澤純一氏

Deep Binary Treeは、機械学習モデルではあるもののディープラーニングとは異なるアルゴリズムで動く、機械制御や統計解析を得意とするAIプログラムだ。ニューラルネットワークを使ったディープラーニングでは多数の情報を処理することが可能なため、画像認識や音声認識に強く、囲碁の対局など複雑なタスクにも対応できる。ただし学習精度を高めるためには、エンジニアが適切な学習データを与えたり、パラメーターの調整を行ったりする必要がある。また計算量も多く、時間もかかる上に、一度できあがったモデルで最適化されると動的な応用は難しくなる。例えば物をつかむ学習を行ったロボットアームが、缶をつかむ学習を強化して最適化されると、ビンをつかむことが難しくなってしまう、といったことが起こる。

Deep Binary Treeでは、ディープラーニングのような大量の入力には対応していないため、画像の解析などには使えない。しかし、機械制御や統計解析の分野では高精度な学習・解析が可能で、動的な追加学習もできるという。パラメーター調整が不要で学習速度も速く、学習アルゴリズムファイルが約40KB、獲得学習ネットワークが3MB〜50MBと軽量なため、IoTデバイスでのリアルタイム学習も可能。速く、小さく学習して、新たな情報をどんどん覚え直して修正していく、というイメージだ。エイシングでは「ディープラーニングは認識をつかさどる頭頂葉的な働きに近く、Deep Binary Treeは反射的な反応ができる小脳的な働き」と説明している。

ディープラーニングでは発生しやすい過学習問題(ある特定の学習データにモデルが特化してしまうことで、それ以外の新たなデータに対して正しい解を出せなくなってしまう問題)や局所解問題(ある範囲内で収束した解を最適解としてしまうことで、本来の最適解に到達することができなくなってしまう問題)の影響も、Deep Binary Treeでは受けることがない。エイシングによれば、ある機械メーカーで、ディープラーニングによる解析で問題があり、行き詰まっていたところをDeep Binary Treeで解決した例もあるそうだ。

Deep Binary Treeがどういった用途で採用されているのか、出澤氏に聞いてみたところ、機械制御分野では「自動車メーカーのエンジン制御ユニット(ECU)の制御チップの最適化や流体力学シミュレーターに利用されている例がある。また、センサーのオートキャリブレーション、ファクトリーオートメーションでの異常検知や、職人の勘をエキスパートシステム化するための動作データ学習などでも使われている」とのこと。統計解析分野では「金融業界で株価予測や与信調査に採用されたり、コールセンターのオペレーターの需給予測や、本の増刷冊数の予測などにも使われている例がある」ということだ。

こうした大手企業向けのカスタマイズ提供のほかに、エイシングでは、2017年3月からSaaS版Deep Binary Treeも提供を開始している。また出澤氏によれば「AIチップ(SoC:System on Chip)の開発も各社と共同で進める準備をしている」ということだ。海外からの引き合いもあるそうで「グローバルな半導体メーカーや、ヨーロッパの自動車メーカーからも声がかかっている」と出澤氏は言う。

今回の調達資金について、出澤氏は「研究職・技術職の人材確保と営業力の強化、研究開発のさらなる強化に投資していく」と話している。