【コラム】暗号通貨は送金の代替手段か、それとも付加的なものなのか?

ビットコインが誕生して以来、世界中の政府が暗号資産の導入、規制、さらには禁止を検討してきた。それ以来、暗号資産のエコシステムは、(何度も)月へ行ったり戻ったりしているロケット船のようなものだった。現在では、これまで以上に多くの人々がこのロケットに乗り込んでいるようだ。

また、このパンデミックの結果、あらゆる産業でデジタルプラットフォームへの大規模なシフトが見られた。世界の政治指導者たちも、自国の経済を同じ方向に向かわせるために、これに追随する措置をとっている。

最も新しい例としては、エルサルバドルがある。この国は、法定通貨としてビットコインを採用した最初の国になったことで話題になった(この動きはその後、市民から抗議を受けることとなった)。最初の発表で、同国の大統領は暗号資産を送金手段の競合として直接結びつけ、これによりエルサルバドルの低所得世帯が送金で受け取る金額が「毎年数十億ドル(数千億円)相当」増加すると言及した。

国境を越えた決済の流れの効果的な存在になるために、デジタル資産は、国境を越えたユースケースにかかわらず、すでにその導入能力を弱めている生来の課題を克服しなければならない。

個人が故郷の家族やコミュニティを支援するためにお金を送る行為である「送金」は、多くの国にとってGDPの重要な構成要素となっている。実際、世界銀行によると、2020年の世界の送金総額はおよそ7000億ドル(約80兆円)で、そのうち5400億ドル(約62兆円)は低・中所得国に送られたと記録されている。エルサルバドルはそのうちの60億ドル(約6890万円)近くを受け取った。一方、暗号資産は現在、世界の国境を越えた送金量の1%未満と推定されている。

では、暗号資産は送金手段の代替として有効なのだろうか?答えは、ノーだ。少なくともまだ現在のところは。

各サービスに対する需要は市場特有の話であり、リアルタイムでのデジタルと現金の払い出しオプションがあるにもかかわらず、受取人が依然として現金の方を選択することは珍しくない。送金を受け取る個人の多くは、商品やサービスの代金をデジタルで支払う能力がほとんどないため、これは驚くべきことではないだろう。その代わりに、彼らはMoneyGram(マネーグラム)のネットワークにある小売店や銀行などの実店舗を利用して、必要な資金を調達しているのだ。

デジタル通貨は確かに付加的な要素であり、暗号資産は間違いなく今後数年間で影響を与えていくことだろう。しかし、それには時間がかかり、メインストリームとして採用され、現金に依存し続ける何百万もの家庭が現金を置き換えるには、いくつかの逆風が吹いている。

まず1つに、正直言って、暗号資産を現地通貨と交換する際の複雑さを考慮すると、暗号資産による送金は、現状では現金よりも安く、速く、簡単な代替手段とは言えない。

エルサルバドルの場合、送金は同国のGDPの約4分の1を占め、約36万世帯が恩恵を受けている。暗号資産の売買は、送金プラットフォームを介した送金・受入よりもはるかに複雑なプロセスであることがわかっている。これらの世帯のすべてが、このまったく新しい決済システムをすぐに学び、適応する可能性は極めて低いだろう。

さらに、暗号資産で商品やサービスを購入するには、ほぼすべての状況で、デジタル資産を現地通貨に戻す必要がある。これは、日々の生活に必要な資金を迅速に入手するために送金を頼りにしている何百万人もの人々にとっては大変なことだ。

最近の顧客調査によると、送金者は主に食料(73%)、医療(59%)、住居(54%)など、生存と幸福のための基本的な費用をまかなうために送金していることがわかった。暗号資産は、このような多くの人々が即時性を求めて依存する生命線となるには、まだ早いのだ。暗号資産はほとんどの地域通貨と比較して特に変動しやすいため、20ドルがそのまま20ドルとして届くことを頼りにしている人たちの安全な避難所として頼りきることはできないのだ。ビットコインの価格推移を見れば一目瞭然だ。

最後に、米国を含め、多くの国がまだ暗号資産の取引 / 支払いに法的な道筋を認めていない、あるいは提供していない。大げさにいえば、2022年の年末年始のプレゼントはビットコインで支払うことになるかのように盛り上がっているが、通路の反対側には反対のアプローチを取っている国が何十とある。

国境を越えた決済の流れを効果的にするために、デジタル資産は、実用性の欠如、取引所の費用、複雑さ、変動性、地域通貨へのオン / オフランプの制限など、国境を越えた使用事例にかかわらず、すでにその採用能力を弱めている生来の課題を克服しなければならない。

暗号や暗号資産やデジタル通貨は、最終的には国境を越えた決済を効率化するのに役立つと私は信じている。個人的にも、投資として暗号資産を「保有」し、この業界の一翼を担うことは、とても楽しいことだ。しかし、多くの新技術がそうであるように、デジタル資産が世界的な送金の標準になるには、まだそれなりの障害が残っているのも事実だ。

開示:MoneyGramはステラとのパートナーシップに着手し、ステラネットワークに接続されたデジタルウォレットがMoneyGramのグローバルリテールプラットフォームにアクセスできるようになりました。

編集部注:本稿の執筆者Alex Holmes(アレックス・ホームズ)氏は、デジタルP2P決済の進化におけるグローバルリーダーであるMoneyGram Internationalの会長兼CEO。

画像クレジット:Olena Poliakevych / Getty Images

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(文:Alex Holmes、翻訳:Akihito Mizukoshi)

アップルがタイ、エルサルバドル、ウガンダでNSO GroupのiPhoneハッキング被害者に注意喚起

Apple(アップル)は、イスラエルのスパイウェアメーカーであるNSO Group(エヌエスオー・グループ)を提訴した数時間後に、タイ、エルサルバドル、ウガンダの国家ぐるみのハッカーの被害者に脅威通知アラートを送信した。

関連記事:アップルがiPhoneの脆弱性を悪用するスパイウェア「Pegasus」のNSO Groupを提訴

ロイターによると、バンコクのタマサート大学の政治学者であるPrajak Kongkirati(プラジャク・コンキラティ)氏、研究者のSarinee Achananuntakul(サリニー・アチャナヌンタクル)氏、法的監視グループiLawのタイ人活動家Yingcheep Atchanont(インチェップ・アチャノン)氏など、政府に批判的なタイの活動家や研究者のうち、少なくとも6人が通知を受け取ったという。違法なハッキングやサーベイランスを追跡するCitizen Labは、2018年にタイ国内でPegasusスパイウェアのオペレーターが活動しているのを確認した。

Appleによれば、このアラートは、国家的な攻撃者に狙われている可能性のあるユーザーに情報を提供し支援するためのもので、エルサルバドルの複数のユーザーにも送信された。その中には、政府批判で有名なオンラインデジタル新聞「El Faro」の社員12名をはじめ、市民社会団体のリーダー2名、野党政治家2名が含まれている。

また、ウガンダの民主党のノアバート・マオ党首も、脅威の通知を受け取ったことをTwitter(ツイッター)で述べている。

Appleからのアラートは次のように警告している。「Appleは、お客様が国家から支援を受けた攻撃者らに標的とされており、彼らがあなたのApple IDに関連付けられたiPhoneを遠隔操作で侵害しようとしていると考えています。これらの攻撃者は、あなたが誰であるか、あるいは職業によって、個別にターゲットとしている可能性があります。国家が関与する攻撃者によってデバイスが侵害された場合、機密データ、通信、さらにはカメラやマイクにも遠隔操作でアクセスされる可能性があります。これが誤報である可能性もありますが、この警告を真摯に受け止めてください」。

Appleは11月23日、NSO Groupを提訴し、スパイウェアメーカーである後者がいかなるApple製品も使用できないようにするための恒久的差し止め命令を求めた。これにより、NSO GroupがiPhoneソフトウェアの脆弱性を見つけて悪用し、ターゲットをハッキングすることがより困難になる。

「本日の措置は、明確なメッセージを送るものです。自由な社会では、世界をより良い場所にしようとする人々に対して、国家が支援する強力なスパイウェアを武器にすることは容認できません」と、AppleのセキュリティチーフであるIvan Krstić(イヴァン・クルスティク)氏は述べている。「Appleは、世界で最も洗練されたセキュリティエンジニアリング業務を行っており、NSO Groupのような悪質な国家ぐるみの行為者からユーザーを守るために、今後もたゆまぬ努力を続けていきます」とも。

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画像クレジット:Bryce Durbin / TechCrunch

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(文:Carly Page、翻訳:Aya Nakazato)