気候変動対策として、砂漠に木を植えるべきか

森林再生は、気候危機と戦う最良の手段の1つだ。熱帯地方では、森林が毎年1000万トンの二酸化炭素を吸収しているという報告がある。成長した木は、1年で約48ポンド(約454グラム)の二酸化炭素を吸収する。非営利団体American Forests(アメリカンフォレスト)によると、米国では、森林が毎年排出される二酸化炭素の14%を吸収している。森木と樹木なくして、気候中立(クライメイトニュートラル)への道はない。

Salesforce(セールスフォース)やMicrosoft(マイクロソフト)など多くの企業が、山火事の焼け跡や農地における植林に資金を提供している。しかし、ステルスフェーズのスタートアップUndesert(アンデザート)は、森林再生のためのまったく新しいフロンティアに取り組んでいる。

その名前から推測できるように、同社は砂漠、特にニューメキシコ州アラモゴード地域の砂漠低木地帯に植樹することに重点を置いている。CEOのNicholas Seet(ニコラス・シート)氏は、自社を「気候のトリアージ」と呼んでいる。世界の他の地域が追いついてくる間に、今、排出量を減らすために何かをすることを指している。

しかし、砂漠に木を植える必要があるのだろうか。

「現在、地球規模の気候緩和を目的とした森林再生に乾燥地が適しているかどうかという議論があります」とニューメキシコ州立大学植物環境科学部の乾燥地生態学教授であるNiall Hanan(ニール・ハナン)氏は話す。

シート氏は低木地帯を「利用されていない、何もない空間」と呼んだが、ハナン氏は独自の生物多様性を持つ有効な古代の生態系であり、単なる劣化した森林ではないことを強調した。そして、砂漠に木がないのには理由がある。

「もし砂漠が樹木に適した場所であれば、おそらく樹木があるはずです」とハナン氏は言う。木が生きていくためには、太陽と二酸化炭素と水が必要だ。砂漠はそのうちの1つが極端に不足しているため、ほとんどの木が自然に育つことができない。しかし、Undesertはこの問題でイノベーションを発揮している。

同社は海水淡水化技術に手を加え、24時間あたり20リットルの水を生成できるようにし、以前は塩分が高すぎて逆浸透膜では使えなかった塩水でも使えるようにしたのだ。

「逆浸透膜技術の問題点は、ろ過しきれない塩水が大量に出ることです」とシート氏は話す。「逆浸透膜の塩水を私たちのシステムに通すと、純水と塩を得ることができます」

Undesertは、従来の太陽熱温室淡水化技術からボトルネックを取り除いた。従来の技術では、塩水プールを太陽で温めて蒸発させ、温室の屋根で凝縮させた純水を作る。Undesertは、水を取り込むためのモジュールデザインを開発し、プール蒸発方式の5倍もの効率を達成した。屋根の上で凝縮させるのではなく、冷水を循環させたチューブで冷却した別の部屋で凝縮する。このシステムでは、塩水中の93%以上の水がきれいな水として回収される。プロセス全体は二酸化炭素の排出が少ない太陽光のマイクログリッドを利用する。

Undesertは、ナバホ族と協力して、同社の淡水化技術向けに、塩分が濃縮されて飲めなくなった汽水域の地下水を調達する。そして、その淡水化した水を、同社が森林再生に使うと決めたアフガンパインに点滴灌漑で供給する。これまでに16本を植樹した。アフガンパインを選んだ理由は、砂漠に強く、水をあまり必要とせず、成長が早く、背が高く、まっすぐ伸びるからだ。また、ポンデローサパインは根の張り方が乾燥に適しているため、50本を散水システムで育てている。しかし、たとえ十分な水量が確保されたとしても、気温など苗木の生存を妨げる環境要因は他にもある。

森林や樹木なくして、クライメイトニュートラルへの道はない

Undesertによると、太陽光淡水化によって生み出される樹木の小規模な実証実験は2021年9月から稼働しており、健全な発育を見せている。この地域には強烈な太陽エネルギーがあり、地下の塩水も利用できる。そして、実証実験が行われているアラモゴード地域は、ダグラスファーやポンデローサパインの森林があるサクラメントレンジャー地区に隣接しており、列車の線路やその整備のために撤去される前はもっと多くの森林があった。以上のことから、同社は自分たちの木が成功すると確信している。

しかし、次にスケーラビリティの問題がある。大規模な森林のために灌漑システム全体を整備することは、現実的ではない。また、ニューメキシコ州では汽水域の地下水を使うことができるかもしれないが、ハナン氏は、ほとんどの砂漠は海が近くになく、地下水に簡単にアクセスできないと指摘する。コスト、労力、メンテナンスもすぐにかさむ。たとえ苗木が1本10ドル(約1150円)でも、樹木だけで1平方マイル(約2.6平方キロメートル)あたり100万ドル(約1億1500万円)の費用がかかるという。世界中の砂漠に住む人々のほとんどは、それほどの資金にアクセスすることはできない。

また、苗木を調達するだけでも、森林再生活動にとってはすでに大きな問題だ。

「最初の1ヘクタール分の400本を確保することさえ難しいでしょう」とハナン氏はメールで述べた。「南西部(あるいは米国西部)の苗木業界が、1平方マイルあたりに必要な10万本の苗木を供給できるとは思えませんし、それ以上の広さとなればなおさらです」

しかし、戦術的なことの他にも、まだ疑問がある。

「米国南西部のような水不足が深刻な場所で、かなり安価に、低炭素で水を浄化する技術があるならば、砂漠で木を育てることがその水の最善の利用法なのでしょうか」とニューメキシコ大学の森林・火災生態学教授であるMatthew Hurteau(マシュー・ハートー)氏は言う。

植林によって二酸化炭素を削減し、地域社会にも利点があれば、水の貴重な利用法だと言える。しかし、ハナン氏やハートー氏のような専門家は、次のような質問に答える詳細な費用対効果の分析を求めるだろう。

  • その土地は植林に適しているのか。
  • 植林に適した植物なのか。
  • その植物は在来種なのか、外来種なのか。
  • 既存の生態系にどのような影響を与えるのか。
  • 木を植えることで失われるものは何か。

そして、吸収する炭素は、炭素の問題を解決するのに十分な量になるのだろうか。ハナン氏は懐疑的だ。砂漠で育つ木は、熱帯雨林のような巨木にはならないだろうし、バイオマス量もほんのわずかだからだ。砂漠の木が地球の肺になることはないだろうが、その過程で小さな吸気口になりえるだろうか、あるいはなるべきだろうか。

画像クレジット:James O’Neil / Getty Images

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(文:Jesse Klein、翻訳:Nariko Mizoguchi

新興EVメーカーFiskerは2027年までに気候変動に影響を与えないEVの製造を目指す

電気自動車メーカーのFisker Inc(フィスカー)は、2027年までに同社初のクライメイトニュートラルな(気候変動に影響を与えない)自動車を作り上げるというムーンショット目標を掲げている。

フィスカーはまだ実際にクルマを販売していない(クライメイトニュートラルであろうとなかろうと)ので、この目標は野心的と言える。「Fisker Ocean(フィスカー・オーシャン)」と名づけられた完全電気自動車のSUVは、2022年11月の生産開始を目指していまだ開発が続けられている途中にあるが、クライメイトニュートラルになるのはこのクルマではなく、Henrik Fisker(ヘンリック・フィスカー)CEOによれば、まだ発表されていない別のクルマになるという。同氏は米国時間6月8日、投資家向け報告の中でこの目標を明らかにした。

ヘンリック・フィスカー氏は、Aston Martin V8 Vantage(アストン マーティンV8ヴァンテージ)や、Aston Martin DB9(アストン マーティンDB9)、BMW Z8など、印象的なクルマのデザイナーとして有名になったシリアルアントレプレナーだ。同氏は投資家向けオンライン会見で、他にもいくつかの最新情報を提供した。フィスカー・オーシャンの航続距離は、これまで推定されていた300マイル(約483キロメートル)を超え、最大350マイル(約563キロメートル)になるという。株主に配布された年次報告書によると、オーシャンには3月の時点で1万4000件以上の予約が入っているとのことだ。

2020年10月に特別買収目的会社のApollo Global Management (アポロ・グローバル・マネジメント)との合併により29億ドル(約3170億円)の評価額で上場したフィスカーは、2025年までに4台の新型車を市場に投入することを目指している。そのうちの1台は、同社のFM29プラットフォーム・アーキテクチャーを採用した「UFO」と呼ばれる高級車になる可能性があると、フィスカーは火曜日に示唆した。

フィスカーのカーボンニュートラル計画

これまでさまざまな業界で多くの企業が、カーボンニュートラルの実現という公約を掲げてきた。ヘンリック・フィスカー氏は、そのクライメイトニュートラルという目標を達成するために、カーボンオフセットを購入するつもりはないことを、投資家に強調した。カーボンオフセットとは、企業がプロジェクトや製品でCO2削減を「主張」するために購入できるクレジットのことだ。代わりにフィスカーでは、サプライヤーと協力して、気候変動に影響を与えない材料や製造プロセスを開発すると述べている。

同社のウェブサイトでは、提案している戦略の一部が紹介されている。そこでは自動車のライフサイクルを「調達」「製造・組立」「物流」「使用段階」「廃車」という5つの段階に分け、それぞれの段階でいくつかのポイントを上げている。例えば「製造の現地化」とか「100%再生可能エネルギーの使用」などだ。しかし、このような計画を立てても、自動車生産においてクライメイトニュートラルを実現することは非常に難しい。例えば、自動車には脱炭素化が困難なことで知られる鉄鋼などの素材や部品が使われているからだ。

フィスカーによると、同社の製造パートナーはそれぞれにクライメイトニュートラルを目標として掲げており、それは自動車の受託生産会社であるMagna Steyr(マグナ・シュタイヤー)にも当てはまる。欧州でフィスカー・オーシャンを独占的に製造する契約を結んでいる同社は、欧州では2025年までに、グローバルでも2030年までにクライメイトニュートラルを実現する目標を立てている。また「Project PEAR(プロジェクト・ペアー)」と呼ばれるフィスカーが2番目に発売予定のより低価格なクルマで主要なパートナーとなるFoxconn(フォックスコン)も、今世紀半ばまでにゼロエミッションの実現を目指している。

このようなムーンショット目標は、製造プロセスの革新を促進し、他の自動車メーカーやサプライヤーが同じ目標を目指すことを助長する可能性がある。他の自動車メーカーのPolestar(ポールスター)やPorsche (ポルシェ)は、いずれも2030年を期限とするカーボンニュートラルを約束しており、Mercedes(メルセデス)はその目標を2039年に設定している。

フィスカーは、EV用バッテリーが使用できなくなった際のリサイクルや再利用の方法も考えているようだ。同社は推定15年とされる車両の寿命の全期間に渡るリースプログラムの拡張を計画しており、これが実際に導入されれば、理論上では、寿命を迎えた多くの車両をフィスカーが所有することになる。

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カテゴリー:モビリティ
タグ:Fisker Inc気候変動クライメイトニュートラル電気自動車カーボンニュートラル二酸化炭素

画像クレジット:Fisker

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(文:Aria Alamalhodaei、翻訳:Hirokazu Kusakabe)