NVIDIAとハーバード大がゲノム解析を短時間低コストでこなすAIツールキット「AtacWorks」開発

NVIDIAとハーバード大がゲノム解析を短時間低コストでこなすAIツールキット「AtacWorks」開発人の体内のほとんどの細胞は数十億の塩基対を核に押し込んだDNAの完全なコピーを持っています。そして身体の個々の細胞は、タンパク質の中に埋まっているDNAから必要な部分だけを外部からアクセスしやすくして、たとえば臓器、たとえば血液、たとえば皮膚など、異なる機能を持つ細胞になるための遺伝子を活性化します。

NVIDIAとハーバード大学の研究者らは、仮にサンプルデータにノイズが多く含まれていても(がんなどの遺伝性疾患の早期発見によくあるケース)、DNAのアクセス可能な部分を研究しやすくするためのAIツールキット「AtacWorks」を開発しました。

このツールは、健康な細胞と病気の細胞についてゲノム内の開かれたエリアを見つけるためのATAC-seq(Assay for Transposase-Accessible Chromatin with high-throughput sequencing)法と呼ばれるスクリーニング的アプローチをNVIDIAのTensor Core GPUで実行し、32コアCPUのシステムなら15時間ほどかかるゲノム全体の推論をたったの30分で完了するとのこと。

またATAC-seqは通常なら数万個の細胞を分析する必要がありますが、AtacWorksをATAC-seqに適用すれば、ディープラーニングで鍛えたAIによって数十の細胞だけで同じ品質の分析結果を得ることができます。たとえば研究チームは、赤血球と白血球を作る幹細胞を、わずか50個のサンプルセットを分析するだけで、DNAのなかのそれぞれの産生に関連する個別の部分を識別できました。

ゲノムの解析にかかる時間とコストを削減できるようになる効果から、AtacWorksは特定の疾患につながる細胞の病変やバイオマーカーの特定に貢献することが考えられます。また細胞の数が少なくてもゲノム解析ができるとなれば、非常に稀な種類の細胞におけるDNAの違いを識別するといった研究も可能になり、データ集積のコストを削減し、診断分野だけでなく新薬の開発においても、開発機関の短縮など新たな可能性をもたらすことが期待されます。

(Source:Nature Communications、via:NVIDIAEngadget日本版より転載)

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カテゴリー:バイオテック
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かつては27億ドルだった費用が今や100ドル ― ゲノム解析のIlluminaが新製品を発表

Installing a flow cell on an Illumina cluster station.

2013年に初めてヒトゲノムのDNAシークエンシングが行なわれたとき、その費用は27億ドルだった。しかし、DNAシークエンシングの巨大企業Illuminaは現地時間10日、1回につき100ドルの費用でゲノム解析ができ、「1日程度あれば」自分のゲノム解析結果を知ることができる新製品を発表した。

今日、Illumina CEOのFrank deSouzaはサンフランシスコで開催中のJP Morgan Healthcare Conferenceで新製品の遺伝子解析機械「NovaSeq」をお披露目した。彼によれば、NovaSeqは1時間もかからずにヒトゲノム全体を解析するという。

その凄さを明確にしておこう。この15年間のあいだに、かつて何十億ドルもの費用と10年もの時間を要したゲノム解析が、僅かなコストと1時間という短い時間をかければ可能となったのだ。

しかし、シークエンシングにかかるコストは当初から急激に低下していた。2006年にはIlluminaが30万ドルの費用でヒトゲノムのシークエンシングができる機械を発表している。同社がその費用を1000ドルまでに抑えたプロダクトを発表したのはつい昨年のことだ。

コストの急激な低下により、臨床研究の現場は多大なる恩恵を受けてきた。しかし、これまで以上に速くかつ低コストのゲノム解析が可能になることで、消費者向けビジネスにフォーカスするヘルスケア・スタートアップはNovaSeqに興味をそそられることだろう。がん研究などに従事するリサーチャーは、これまでにも豊富な遺伝子データにアクセスすることができた。一方で、23andMeやAncestryDNAなどのスタートアップによる遺伝子テストのおかげで、遺伝子研究に対する消費者の関心も高まってきた。また、アンジェリーナ・ジョリーなどの著名人は、Color Genomicsをはじめとする企業が提供するBRCA-1やBRCA-2などのゲノムスクリーニングによる乳がん予防への関心を高めることに寄与している。

サンディエゴを拠点とするIlluminaは、そういった消費者向けのテストを提供するスタートアップを背後から支えている。もし読者が23andMeのDNAシークエンシングを体験したことがあれば、それにIllumina製のプロダクトが使われていた可能性が非常に高い。

先ほど挙げたような遺伝子テストサービスの費用は、すでに数百ドル程まで下がっている。NovaSeqによって時間的なコストと費用が下がることで、より大きなマージンがとれるだけでなく、テストにかかる時間が短くなればより多くの顧客を獲得できる可能性がある。

NovaSeqには2つのモデルが用意されている ― 85万ドルのNovaSeq 5000と、98万5000ドルのNovaSeq 6000だ。

これまでに6つの企業や機関がNovaSeqを購入している。Chan Zuckerberg Biohub(Mark Zuckerbergと彼の妻であるPriscilla Chanが設立)、Broad Institute of MIT、Harvard、そしてバイオテック企業のRegeneronとHuman Longevity Incなどがその例だ。

しかし、現段階ではIlluminaはテスト1回につき100ドルという価格を実現できていない。さらに、データの解読にもまだ時間がかかる。もちろん、AI技術の急速な発達でデータの解読にかかる時間はさらに短くなるだろう。遺伝子テストのコストが大幅に下がったことも非常にうれしいニュースだ。

この発表のあと、Illuminaの株価は16%上昇した。

[原文]

(翻訳: 木村 拓哉 /Website /Facebook /Twitter