シリコンバレーの外で成長中、大衆市場を狙うスタートアップたち

【編集部注】執筆者のHans TungはGGV Capitalのマネージングパートナー

シリコンバレーは長きにわたって、現状を打ち破ろうとするテック企業のホームグラウンドとして知られてきた。しかしエンジニアやプロダクトマネージャーといった人材の拡散、ミレニアル世代の影響力の増大、さらにはソーシャルメディアを介したeブランドの台頭といった要素が相互に作用し合い、シリコンバレーの外でも新たな動きが生まれ始めている。

昨年ニューヨークではB2Cビジネスが転換期を迎え、ロサンゼルスもSnapDollar Shave Clubをはじめとするスタートアップの活躍で注目を集めた。

母校に近い都市部での生活を選ぶ新卒生が増える中、シリコンバレーの独占状態は崩れ始め、結果的にサンフランシスコのベイエリアに拠点を置く大手テック企業も、本拠地以外のオフィスを拡大し始めた。特にニューヨークやロサンゼルスといった大都市では、長年コンシューマー向けブランドやエンターテイメント、メディア企業で活躍してきたスペシャリストと”国境なきエンジニア”の間にシナジーが生まれつつある。

例えばシリコンバレーで力をつけたエンジニアと、ニューヨークに蓄積したブランディング、メディア、ファイナンス、ヘルスケア、コマース、製造といった業界のノウハウーーそしてGGV Capitalにとっては友人のようなBoxGroup, First Round, General Catalyst, Greycroft, Lerer Ventures, Max Ventures and Union Squareなどのニューヨークに拠点を置くVCーーが全て合わさることで、さまざまなウェブ・モバイルファーストプラットフォームやeブランドが誕生している。

私たちはミレニアル世代(アメリカ:7500万人、中国:3億人)という名の新しい大衆市場には、途方も無いほどのチャンスが眠っていると考えている。だからこそGGV Capitalは、昨年だけでニューヨークの企業に合計9回もの投資を行ったのだ。

テクノロジー人材の流入

健全なエコシステムの醸成には、大企業と荒削りなスタートアップの共存が不可欠で、人材やアイディア、資金が双方向に流れることで両者にメリットが生まれる。ニューヨークでは既にそのような動きが一定の効果を発揮しつつある。Googleは2008年から2012年の間にニューヨークオフィスの社員数を倍増させ、FacebookやHPも同時期にニューヨークの人材を増強した。そして、このような企業で腕を磨いたエンジニアたちは自らビジネスを立ち上げ、以前からニューヨークで活躍するブランディングやメディアのスペシャリストとタッグを組んでいるのだ。

プラットフォームとブランド

このような文化をまたいだコラボレーションは、大きなビジネスに繋がる可能性を持っている。シリコンバレーは世界でも有数のプラットフォーム発祥地として知られているが、テクノロジー以外の分野では、コンシューマー向けブランドをつくろうという気運が高まっているとはいえない。

ベイエリアでは最先端のイノベーションや、特定の市場の課題を解決するためのプラットフォームの創出に重きが置かれている。その一方で、シャンプーや缶飲料、服といった一般的に消費額の多い日用品となると、シリコンバレーは富裕層に目を向けがちなところがある(400ドルもするWiFi機能搭載ジューサーなどを思い浮かべてみてほしい)。

確かにニューヨークのスタートアップの多くも、これまでは大衆市場ではなく富裕層を主なターゲットにしてきた。しかし、質はそのままに価格だけを下げた商品で大衆市場を狙うWishIbottaPoshmarkといった企業は、未だに需要が満たされきれていない大衆市場の伸びしろに気づいたのだ。

ここからがニューヨークらしいところで、現在街にあふれるデザイナーやマーケターは、大手小売企業を離れて自分たちでEC企業を立ち上げようとしている。

ロサンゼルスでも、約260億ドルの時価総額を誇るSnapや、Unileverに10億ドルで買収されたDollar Shave Club、さらにはMobalyticsMusical.lyMightyをはじめとする急成長中のスタートアップ各社のおかげもあり、スタートアップエコシステムが芽を出し始めた。

生まれ変わるメディア

メディアビジネスもニューヨークのスタートアップの得意分野だ。シリコンバレーで生まれたプラットフォームやツールは従来のメディアビジネスに大きな影響を与えたが、シリコンバレー発のメディア企業という話はほとんど聞かない。その一方で、アメリカメディアの中心地としてのニューヨークの力は衰えておらず、スタンフォード大学が優秀なエンジニアを輩出するように、コロンビア大学ジャーナリズムスクールなどの有名校から数々のコンテンツクリエイターが誕生している。

The Huffington PostとBuzzfeedがSEO・ソーシャルメディア革命の波に乗って大きく成長し、現在ニューヨークでは新しい分野で新たなオーディエンスを狙うメディアビジネスの第2波が到来しつつある。

BuzzfeedBustle(女性向けのオンラインメディアで2013年の誕生以降急成長中)、Refinery29といった企業は、潤沢な資金を持つ在ニューヨークの広告会社との物理的な近さを利用し、売上を伸ばしている。

そして彼らはシリコンバレーのスタートアップとは違う強みを持っている。GoogleやFacebookは、広告主ができるだけ多くの人にリーチできるようなツール・プラットフォームを提供する一方、ニューヨークのメディアスタートアップはそれぞれの強みを活かし、広告主と一緒にミレニアル世代に訴えかけるようなユニークなコンテンツを作っているのだ。さらに生放送のニュースを配信するCheddarやニュースレターのThe Skimm、VR動画のLittlstarといった企業がメディアの境界線をさらに押し広げようとしている。

国中に広がるスタートアップの波

以上の通り、ブランディング・メディアビジネスのメッカとしてのニューヨークの強みが、テクノロジーを活用したeブランド構築の原動力となっている。その一方でニューヨーク以外の都市も、自らの強みとシリコンバレー外に移住するエンジニアのスキルを融合させ、新しいビジネスを生み出そうとしている。

ロサンゼルスで言えばエンターテイメント、シアトルで言えばSaaS(Amazon、Microsoft、Expedia、Zillowなどがそれを後押ししている)、さらに中西部の街では食べ物とテクノロジーを組み合わせたビジネスが誕生しようとしている。シリコンバレーがテック界の潮流をつくるという構図に変化はなくとも、シリコンバレーやベイエリアの外にチャンスを求めている投資家や起業家にも十分望みは残されているのだ。

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(翻訳:Atsushi Yukutake

AirPods初の広告はiPodの”あの”CMを彷彿とさせる

iPhoneやiPad、Apple Watchが注目されるようになってから、Appleの広告もほとんどがこの3製品にフォーカスした内容になってしまった。だからこそ、AppleがAirPodsのような周辺機器で新しいことを試しているのを見ると嬉しく感じる。

Appleは本日、iPodの黄金期を彷彿とさせるような新しい広告を発表した。なんとも表現しがたい内容だが、ひとつだけ言えるのはこのCMがあのiPodを象徴するCMのことを想起させるということだ。おそらくその理由は、目につく白いイヤホンを身に付けた人が、タガが外れたように踊っている様子を描いたCMの構成にある。

iPodは間違いなく、Steve Jobsのカムバック以降初めてAppleが発表した大衆向けデバイスだ。新しくてとんでもなくかっこいいそのデバイスは、当時のコンシューマー向け電子機器としては珍しい存在だった。

ここ最近ではiPodのアップデートに関する話を聞かないが、私はいつも2004年から放映されだしたiPodのオリジナルCMのことを思い出す。シルエットがメインのこの広告は数年間利用され、Appleがこれまでにつくった広告の中でも伝説的なもののひとつだ。発表から10年後でもその内容を覚えているということは、何か特別なものがあるということだと思う。

その後時は流れ、Appleは今回発表されたAirPodsのCMの背景を、当時のカラフルなものから、白黒の都会(メキシコシティ)の風景へと変更した。フリースタイラーのLil’ BuckだけがBGMに合わせて踊っている様子からは、これまでのiPodのCMよりも洗練された印象を受ける。

例えば、文字では何も表現されていないにも関わらず、このCMからはAirPodsの機能が余すところなく伝わってくる。AirPodsはケースを開けるだけでペアリングが完了するのだとわかるし、踊っても耳からイヤホンが落ちないということもよくわかる(個人的な経験からいって、イヤホンの装着感は人によるが)。さらにAirPodを耳から外すと音楽が自動的にストップするということも伝わってくる。

もっと重要なのが、ユーザーはついにイヤホンのことを心配せずに動き回れるということだ。AirPodにはケーブルがないので、狂ったように腕を動かしたければ、問題なくそうすることができる。

これこそ私がAirPodsの特徴で最も気に入っている点だが、実際に体験してみたいとこの感動はなかなかわからないだろう。しかしこのCMからは、ダンサーが建物の壁を登りながら踊っているように、AirPodsがユーザーを自由にするということが視覚的に伝わってくる。

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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter