環境移送スタートアップのイノカ、サンゴ礁の海を人工的に再現した水槽内でサンゴに真冬に産卵させることに世界初成功

環境移送スタートアップのイノカ、サンゴ礁の海を人工的に再現した水槽内のサンゴに真冬に産卵させることに世界で初めて成功

産卵中のエダコモンサンゴ

環境移送企業のイノカは2月18日、人工的にサンゴ礁の海を再現した閉鎖系水槽(東京虎ノ門)においてサンゴ(エダコモンサンゴ)の産卵に2月16日に成功したと発表した。季節をずらしたサンゴ礁生態系を再現することで、通常日本では年に1度6月にしか産卵しないサンゴを真冬に産卵させることに成功した。

同実験の成功により、サンゴの産卵時期を自在にコントロールできる可能性が見込まれるという。また研究を進めることで、年に1度しか研究が行えなかったサンゴの卵、幼生の研究がいつでも可能となる。今後は、サンゴが毎月産卵するような実験設備を構築し、サンゴ幼生の着床率を上げるための実験や高海水温に耐性のあるサンゴの育種研究につなげる。

イノカでは、水質(30以上の微量元素の溶存濃度)をはじめ、水温・水流・照明環境・微生物を含んだ様々な生物の関係性など、多岐にわたるパラメーターのバランスを取りながら、IoTデバイスを用いて特定地域の生態系を自然に限りなく近い状態で水槽内に再現するという同社独自の「環境移送技術」により、完全人工環境下におけるサンゴの長期飼育に成功している。完全人工環境とは、人工海水を使用し、水温や光、栄養塩などのパラメーターが独自IoTシステムによって管理された水槽(閉鎖環境)のことを指す。

今回の実験では、環境移送技術を活用し沖縄県瀬底島の水温データを基に、自然界と4カ月ずらして四季を再現することで、日本では6月に観測されるサンゴの産卵を2月にずらすことに成功した。また今回、同社の管理する水槽で3年以上飼育したサンゴを使用している。

環境移送スタートアップのイノカ、サンゴ礁の海を人工的に再現した水槽内のサンゴに真冬に産卵させることに世界で初めて成功

産卵実験に使用した水槽

研究手法

  • 環境移送技術を活用し、サンゴを長期的・健康的に飼育できる人工生態系を構築。海水温を24度にキープしていた水槽の水温制御を2021年8月23日より開始
  • 2021年8月23日より沖縄県瀬底島の12月の海水温と同期
  • 飼育を継続し、2022年2月17日未明、エダコモンサンゴの産卵を確認することに成功

イノカは、日本で有数のサンゴ飼育技術を持つアクアリストと、東京大学でAI研究を行っていたエンジニアが2019年に創業。アクアリストとは、自宅で魚や貝、そしてサンゴまでをも飼育する、いわゆるアクアリウムを趣味とする人々を指すという。自然を愛し、好奇心に基づいて飼育研究を行う人々の力とIoT・AI技術を組み合わせることで、任意の生態系を水槽内に再現する「環境移送技術」の研究開発を行っている。

東大発サンゴベンチャーの「イノカ」、国内で初めて完全人工環境下でのサンゴの抱卵実験に成功

東大発サンゴベンチャーの「イノカ」、国内で初めて完全人工環境下でのサンゴの抱卵実験に成功

東京工業大学 中村隆志研究室の顕微鏡にて撮影

環境コンサルティングなどを行う東大発の環境移送企業イノカは1月6日、人工的にサンゴ礁の海を再現した閉鎖系水槽において、サンゴの抱卵時期のコントロールに国内で初めて成功した。自然界では1年に1度と限定的なサンゴの抱卵を人為的に導くことが可能となり、20年後には70〜90%が消滅すると心配されているサンゴ礁保全に貢献することが期待される。

イノカでは、水質(30以上の微量元素の溶存濃度)をはじめ、水温・水流・照明環境・微生物を含んだ様々な生物の関係性など、多岐にわたるパラメーターのバランスを取りながら、IoTデバイスを用いて特定地域の生態系を自然に限りなく近い状態で水槽内に再現するという同社独自の「環境移送技術」により、完全人工環境下でサンゴの長期飼育を行っている。今回の実験では、沖縄県瀬底島の水温データをもとにして、自然界と時期をずらして水温を同期させることで、サンゴ(コユビミドリイシ)の抱卵時期をコントロールすることに成功した。

このサンゴは、イノカの水槽で2年以上飼育されているもので、2021年8月時点では抱卵は確認されていなかった。今回の抱卵は、黒潮流域の生態系に関する調査研究を行っている黒潮生物研究所の目崎拓真所長も画像データから確認を行った。東京工業大学 中村隆志研究室の顕微鏡にて撮影東京工業大学 中村隆志研究室の顕微鏡にて撮影

サンゴ礁は、海の表面積のわずか0.2%ながら、そこに海洋生物の25%が暮らしているという。また、護岸効果や漁場の提供、医薬品の発見など人間の社会生活に重要な役割を担っている。その経済価値は、WWFの報告によると、50年間で約8000億ドル(約92兆円)とも推定されている。この実験が進み、サンゴが、ハツカネズミやショウジョウバエのように何世代にもわたる研究調査が可能なモデル生物に加われば、サンゴの基礎研究が大きく進み、サンゴの保全に寄与することが考えられるとイノカでは話している。

今後は、完全人工環境下での今年中のサンゴの産卵に向けて、実験が継続される。

テックを駆使して世界規模でのサンゴ礁回復を目指すCoral Vitaが2億円調達

世界中のサンゴ礁の生存が危ぶまれている。そしてサンゴ礁に頼っている何百万という人々、そして何十億ドル(何千億円)という事業も、そうした重要なエコシステムを失うという根本的な悲劇を抱え、危機にさらされている。Coral Vita(コーラルビタ)はサンゴ礁回復のテクニックと、サンゴ礁回復にかかる経済の両方を現代化することを目指していて、同社は本格的に事業を展開すべくシードラウンドで200万ドル(約2億1000万円)を調達した。

筆者は2019年後半にCoral Vitaの創業者Gator Halpern(ゲイター・ハルパーン)氏にSustainable Ocean Alliance’s Accelerator at Sea(未訳記事)で出会い、記事を書いた。当時、オペレーションはずっと小さく、バハマにあるチームのサンゴ養殖場を壊滅させたハリケーン・ドリアンの影響を受けていた。そしてその後起きたパンデミックは当然のことながら、多くの人の計画同様にチームの2020年の計画を台無しにした。

しかし昨年の全体的な混乱にかかわらず、Coral Vitaは大きくなって、そしてさらにより良いスタートアップになって戻ってきた。この分野における新しいグローバルモデルを示そうという意気込みでなんとか事業を開始し、最終的に200万ドルのラウンドをクローズした。

「我々の試験養殖場をただ試験レベルに再建するのではなく、次のレベルへと進めることにしました。サンゴ礁復興経済をジャンプスタートさせる機会だと信じています」と共同創業者でサンゴ礁責任者のSam Teicher(サム・タイシャー)氏は述べた。

現代のサンゴ礁復興がどのようなものなのか把握するために、海岸近くにある水中庭園を想像してほしい。ロープや構造物が浮いていて、そこではサンゴの断片が育っている。そうした断片は採取され、若いサンゴを必要としているエリアに移植される。

画像クレジット:Coral Vita

「しかし問題の規模を考えたとき、水中施設だけに頼ることはできません。世界のサンゴ礁の半分は死んでいて、残り半分の90%も30年以内に死滅すると予想されています」と同氏は話した。

Coral Vitaの計画は、海での養殖から陸上施設へ移行させるというものだ。陸上施設では、よりサンゴの増殖を拡大させ生き残らせることができる。サンゴの成長をスピードアップして生存率を高めるために高度なテクニックを使っている。そうしたテクニックの1つがサンゴ復元に取り組んでいるコミュニティが開発したサンゴのマイクロフラジメンティングだ。この手法ではサンゴをバラバラにする。小さなピースは全体として50倍速く成長できる。陸上で行うことで、サンゴの性質をより生かすことができる。

「我々はきれいな海水をポンプで注ぐタンクを陸上に設置しました。最大の特徴はコンディションを管理できることです」とタイシャー氏は説明した。「40〜50年後のグランド・バハマ島の海岸がどうなっているか考えるとき、そうしたコンディションに対してサンゴが丈夫になっているとシミュレーションできます。正直なところ、海洋ベースの施設の方がコストはずいぶん安いのですが、何百万、何十億という世界中のサンゴを育てる必要があることを考えると、陸上施設はより現実的なものに感じられます。展開規模が大きくなるとコストは下がります。海洋ベースの施設のコストはサンゴ1つあたり30〜40ドル(約3100〜4100円)です。100あるいは1000のタンクを展開するとコストは10ドル(約1030円)に下げられます」

左の写真はバハマの観光当局者(左側)がサム・タイシャー氏の説明を聞いているところ。右の写真はパンデミック前に創業者ゲイター・ハルパーン氏(中央)が話しているところ(画像クレジット:Coral Vita)

現在は、実際に展開している規模だけでなく、収入源も限られている。無尽蔵のプライベートキャッシュの代わりに政府の資金に頼っている。Coral Vitaはサプライと収入を増やして多様化することでそうした状態を変えることを望んでいる。

世界が元に戻り始めたら、再び人々がサンゴ養殖場に来て、孵化や自然の生態を観察するエコツーリズムに頼れるようになることをCoral Vitaは願っている。エコツーリズムは、地元の人を含めた広範におよぶ収入とプロジェクトのバランスをとるのに役立つ(そして同社が拠点を置く小さなコミュニティと同社をつなげる)。

まだ自由ままならない状況ではあるが、同社は機会を利用して「サンゴ受け入れ」キャンペーンを拡大することで遠距離からローカルオペレーションをサポートしている。絶滅寸前の動物や荒廃した森のために活動したことのある人ならそれがどういう仕組みになっているか知っているだろうが、2021年初めまでCoral Vitaは積極的にそのコンセプトを追求してこなかった。

「我々は補助金や支援金なしにこの分野を変革しようとしています。サンゴ礁のエコシステムに頼っている顧客に販売しています」とタイシャー氏は話した。「もしあなたがスキューバダイビングやシュノーケルを楽しむ観光客に頼るホテルの経営者、あるいは海岸近くにある不動産のオーナー、保険会社や政府、開発銀行、クルーズ会社の人間だったら、あなたが頼っているサンゴ礁を回復させるためにCoral Vitaを雇うことができます」。

もちろん、もし政府や産業界がこうした取り組むべきサンゴ礁の問題を体制的に無視してこなければ、商業的に重要なサンゴ礁が優先されるという表面的に報酬目当てのビジネスモデルは必要なものではない。民間資金によるプロジェクトは基本的にはさほど腐敗していないが、この手の回復取り組みは非営利機関と政府機関の領域とみなされる傾向にある。Coral Vitaのアプローチを直接的で政府の仲介を切り離すものと考える人もいるだろう。

これは、適切な保全基金が関係者によって集められれば5年、10年以内ではなく今すぐ始める必要がある世界的に重要な取り組みだ。サンゴ礁の状態が悪化しているいま、一刻を争う事態であり、なすべきことをすばやく大規模展開するのに民間資金が唯一の現実的なオプションだ。加えて、コストが下がれば、プロジェクトの資金集めもしやすくなる。

画像クレジット:Coral Vita

「その上、イノベーションを起こす能力があります」とタイシャー氏は付け加えた。「今回の資金調達で何をしようとしているかというと、取り組みで活用している3Dプリントやロボティクスを含む科学やエンジニアリングの向上です。サンゴ礁回復のためだけでなく保護のためのR&Dプロジェクトも立ち上げます」。

同氏は業界を農業と比較しながら、ロボティクスが現在変革的な効果をもたらしている自動車業界で自動化を押し進めた人物でありGoogle Xの共同創業者でCoral Vitaの初期アドバイザーかつ投資家のTom Chi(トム・チー)氏に言及した。

必要とされるところにサンゴを運ぶのにかかるコストとリードタイムを削減し、大規模展開できる陸上養殖の効果を証明することで世界的に存在感を示すことにつながる。

「適応について、そしてどのように資金をまかなうかを再考する時期にきています」とタイシャー氏は話した。「2カ年計画では他の国々でより多くの養殖場を立ち上げます。究極的には我々はすべての国にサンゴ礁があるようにしたいと考えていて、これまでで最大のサンゴ会社になるでしょう」。

もちろん多くの人と同じように、同氏は回復作業がまずもって不要であることが好ましいと考えている。サンゴ礁を殺すような行動を止めれば、そちらの方が断然役立つ。だが、グローバル規模の多くの問題と同様、そうした行動を止めることは問題解消を意味しない。サンゴ養殖はサンゴ礁回復のために不可欠であり、自然がバランスを取り戻すのをサポートするために、少なくともバランス状態に近づくために、保全行為と資金が必要とされる。

今回の200万ドルのラウンドは環境を専門とするBuilders Collectiveがリードし、Apollo ProjectsのMax Altman(マックス・アルトマン)氏、野球のMax and Erica Scherzer(マックス・シャーザーとエリカ・シャーザー)夫妻が参加した。初期投資家にはSustainable Ocean Alliance、前述のトム・チー氏、Adam Draper(アダム・ドレイパー)氏、イェール大学、Sven and Kristin Lindblad(スヴェン・リンドブラドとクリスティン・リンドブラド)夫妻が名を連ねる。

カテゴリー:EnviroTech
タグ:Coral Vitaサンゴ礁資金調達

画像クレジット:Coral Vita

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(翻訳:Mizoguchi