フェイクニュースのような話題、もしくはより広いインターネット上の信頼と検証の問題は、複雑なものだ――対立意見の源である。場合によっては、いかなる結論を出す前にも、聞き取り調査を行って、人びとが何を考えているのかを感じとる必要がある。これが今回Pew Internetが行ったことだ、テクノロジー、インターネット、社会政策の何千人もの専門家に質問を送り、今後10年間に物事がどのように進むと考えているかを尋ねた。彼らは決して楽観的ではなかった!
正確には49%の人が今後10年で情報環境は改善するという側に印をつけて、51%がその反対の立場だった。というわけで、結果としてはほぼ半々だ。しかし、彼らが送り返してきた何百ものコメントは、悲観的な方に強く傾いているように見える。ここで語られている楽観主義は、むしろ淡い希望と表現される方がふさわしい。
参考までに、調査実行者によって引き出された結論の1つは「人間は本質的に、利己的であり、同族の絆に拘り、慣れ親しんだものに信頼を置く、騙されやすい利便性の追求者である」ということだ。素晴らしい!
この92ページのレポート(PDF)には多数の興味深い意見が見られるが、そのなかを見渡して一番良いものたちを選び出してみた。正直なところ、私は意図的に「楽観的」なものを除外したわけではないが、楽観的なものの多くはあまりきちんとした意見ではなかった。さて御託はもう十分だろう。さっそくこの陰気な成果物のエッセンスを味わうことにしよう。(とはいえこの報告書は本当に読む価値がある)。
悲観主義者たち
(著者たちの肩書は報告書に記載されているとおり)
研究所所長ならびに大学教授 :
インターネットは21世紀版「核の冬」に匹敵する脅威だ。にもかかわらず核拡散防止や核軍縮に相当する国際的枠組みは存在しない。人びとに対して、何が真で何が偽りかを判別できるように整理してくれる、信頼できるメカニズムがないために、大衆はその核兵器(インターネット)の破壊力を、最終的には文明社会を腐食させるものとしては把握していない。
Clay Shirky、ニューヨーク大学教育技術担当副所長:
「ニュース」は安定したカテゴリーではなく、社会的な取引だ。オバマがイスラム教徒であると主張するのを妨げるシステムをデザインできるような、技術的解決策は存在しないが、人びとがイエス様はあなたを愛しています、と主張することはできる。
ハーバード大学のバークマンセンター for Internet&Society所属の回答者:
ネットワーク空間が生み出した出版と消費の民主化は、情報のコントロールもしくはラベリングという意味での意味の有る改善を行なうには、あまりにも広がり過ぎてしまった。人びとは各自の偏見を、そのまま甘やかし続けることだろう。
Mike DeVito、ノースウェスタン大学の大学院研究員:
これらは技術的な問題ではない。これらは人間の問題であり技術は単にそれをスケールアップすることに役立ったに過ぎない。にもかかわらず私たちは単なる技術的ソリューションを試み続けている。貧弱な市民の知識と貧弱な情報リテラシーの嵐であるこの災厄を逃れるために、機械学習を使うことはできない。
Tom Rosenstiel、米国出版協会のディレクター兼ブルッキングス研究所のシニアフェロー:
プラットフォーム企業がどのような変更を行ったとしても、そしてファクトチェッカーやその他のジャーナリストがどのようなイノベーションを起こしたとしても、騙したい輩はそれらを出し抜いて行くだろう。誤った情報は、自分で修理できる配管問題のようなものではない。それは犯罪のような社会的案件であり、常に監視し調整する必要がある。
Philip J. Nickel、オランダのアイントホーフェン工科大学講師:
伝統的なニュースメディアの没落と、閉鎖的なソーシャルネットワークの存続は、今後10年間の間には変わらないだろう。これらが、対話と政治的議論の基礎となる、公開された事実共有の場が劣化した主要因である。
Zbigniew Łukasiak、ヨーロッパに拠点を置くビジネスリーダー:
力のある政治家たちが、このゲームをやり方を学んだばかりだ。私は彼らがそれを取り除くために、多大な努力をするとは思えない。
インターネットのパイオニアであり、ICANNの長年のリーダーの1人:
インターネット上の情報の「真実性」を向上させるような、強制的な要因が出てくる可能性はほとんどない。
Willie Currie、グローバルコミュニケーション普及の長年の専門家:
Facebookのようなプラットフォーム上でのフェイクニュースの明らかな流行は、外部の規制によって処理されるべきだ。技術者たちは技術的な修正に興味があるだけで、問題を真剣に見ようという熱意に欠けている。なので自主規制は成功しないだろう。
Dean Willis、Softarmor Systemsコンサルタント:
政府や政治的グループたちは、対象の個人に対する理解を左右する、意図的な誤情報の力を発見したところだ。メッセージは今や壊滅的な精度で調整できるようになった。私たちは、調整された情報の泡の中に沈むことになる。
退職した大学教授:
増加した検閲と大規模な監視は、世界各地で公式な「真理」を作り出す傾向がある。米国では、企業による情報フィルタリングが、経済エリートの見方を強要することになるだろう。
Bill Woodcock、Packet Clearing Houseのエグゼクティブディレクター:
匿名性と、パブリックスピーチのコントロールの間には、基本的な矛盾がある。そして匿名の発言に重きを置かない国々は、まだそれを国際的な武器とできる自由がある。その一方で匿名の発言に価値を認める国々はそれを全員が知ることができるようにしなければならない、さもなくば自身の原則を維持することができない。
世界有数のエンターテインメントおよびメディア企業の公共政策担当バイスプレジデント:
少数の支配的なオンラインプラットフォームは、技術的にも手続き的にも、責任あるシステムを構築するためのスキルまたは倫理センターを持っていない。彼らは、発明が社会に及ぼす影響についての説明責任を避け、複雑な問題に対処できる原則や技術を開発してきてはいない。彼らは、倫理規定や倫理訓練、あるいは哲学を欠いた生物医学または核技術企業のようなものだ。さらに悪いことに、彼らの積極的な哲学は、その発明がもたらし得る潜在的な悪影響を評価し反応することは、彼らのやるべきことではなく、下手をすれば、やってはいけないことですらあるということだ。
北米に本拠を置くエグゼクティブコンサルタント:
結局動機付けの問題だ:真実を求める市場は存在しない。大衆には、検証され、審査された情報を求める動機はない。彼らはみな、自分の意見を追認する意見を聞いて嬉しいのだ。そして人びとは、フェイク情報を生み出すほうが、そうしないように努力するよりも、より多く「稼ぐ」(金銭的にも悪名的にも)ことができるのだ。
ステークホルダーエンゲージメント担当バイスプレジデント:
信頼のネットワークは、物理的かつ非構造的な対話、議論、および観察を通したときに、最もよく生み出されるものだ。テクノロジーは、そのような直接的な相互作用の機会を減らし、人間の対話を崩壊させているが、その一方で私たちにこれまで以上にコミュニケーションしているという「気分」を与えている。
Karen Mossberger、アリゾナ州立大学公文学部教授:
フェイクニュースの広がりは単なるボットの問題ではなく、人びとが批判的思考や情報リテラシースキルを発揮するかどうかという、大きな問題の一部だ。おそらく、最近のフェイクニュースの急増は、メディアに対するオンラインスキルへの対処と、私たちの教育システムの中の基本的な教育力に対する対処への、目覚めを促すものとなるだろう。一般にオンライン情報は、様々な信頼性の、ほぼ無限に多様な情報源を持っている。テクノロジーがこの問題に対処しようとしているが、この修正はテクノロジーだけの問題ではない。
Sally Wentworth、Internet Societyのグローバル政策開発担当VP:
いくつかの大型プラットフォームが、オンラインの過激派、暴力、そしてフェイクニュースに関する問題のいくつかに対する、インターネットソリューションを提供し始めていることは心強いことだ。しかし、結局私たちはこうした機能を、利益を求め、社会的な便益のためには必ずしも行動しない民間企業たちに委託している。私たちの社会的対話を支配する、どれほどの力を彼らに委託してしまっているのだろうか?そしてそれが最終的には、どこにつながっているのかを私たちは意識しているのだろうか?一方では、大きなプレイヤーたちが、ここに来てついに腰を上げて責任を取ろうとしていることは良いことだ。しかし、政府やユーザーや、そして社会が、すべての責任をインターネットプラットフォームに還元するのは性急だ。彼らが私たちのために下した決定に、誰が責任を持つのだろうか?私たちはそうした決定が何かを知っているのだろうか?
MITのコンピュータサイエンスならびに人工知能研究所の研究員:
各種の問題は解決策たちが対処できる速度よりも速く悪化する、しかしそれが意味することは、より多くの解決策がこれまで以上に必要とされるということだ。
楽観主義者たち
Adam Lella、comScore Inc.のマーケティング上級アナリスト:
過去には、解決不可能に思えた多くの問題もあった(例えば可視性、無効なトラフィック検出、クロスプラットフォーム測定など)が、ここ数年で大きく進歩した。問題を解決せよという大きな圧力が業界からかかっている場合には、方法論が開発され、長期的には問題を緩和するための進歩が達成される。言い換えれば、意志のあるところに、道は開けるということだ。
Irene Wu、ジョージタウン大学のコミュニケーション、文化、テクノロジーの非常勤講師:
情報は改善されて行く。なぜなら人びとが大量のデジタルデータを扱う方法に習熟して行くからだ。現在は、多くの人びとがソーシャルメディアで読んだことを素朴に信じている。テレビが普及し始めたときも、人びとはテレビに映るもののすべてが真実だと信じていた。これが人びとが重要な情報やニュースに反応しアクセスする方法だ。それを配布するメカニズムには依存しない。
Googleに長年勤めるディレクター:
GoogleやFacebookなどの企業は、利用可能なソリューションの開発に多額の投資を行っている。電子メールスパムと同様に、この問題は完全に排除することは出来ないが、管理することはできる。
MITでテクノロジーと市民参加に関する研究を行っている社会学者:
改善に向かう前には悪化しやすいものだが、2016から2017年にかけての情報生態系の問題は多きな変革点となった。そして誤った情報問題に共に取り組まなければならない市民、政策立案者、ジャーナリスト、デザイナー、そして慈善団体たちの行動の契機になった。
Frank Kaufmann、平和活動とメディアと情報に関するいくつかの国際プロジェクトの創設者兼ディレクター
物事はいつでも改善するのだから、ニュースの質も改善する。
真の楽観主義者として数えることができるのは、最後の1つだけかもしれない。
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(翻訳:Sako)