汗や心拍を遠隔モニターできる柔らかな貼り付け型センサー

多くの人が、人間の動作をより細かく定量化しようと努力しているおかげで、そうした動作をモニターするセンサーたちは、ますます軽く邪魔にならないものになっている。対岸に位置するライバル同士であるスタンフォード大学とバークレー大学が生み出した2つのプロトタイプは、肌にぴったりと貼り付き豊富な生理学的データを提供してくれるものだ。

スタンフォード大学の伸縮性のあるワイヤレスセンサー「BodyNet」は、体の伸縮する表面に貼り付けられても大丈夫なように柔軟性があるというだけではない。データどこから取り出すかについても柔軟性があるのだ。

このセンサーは、絆創膏のような柔軟な素材の上に置かれた金属インクで作られている。しかし、身体状況を追跡するために小さな加速度計や光学的な仕掛けを利用している携帯電話やスマートウォッチとは異なり、このシステムは、それ自体がどのように引き伸ばされたり、圧縮されたりするかを利用している。そうした動きは、電気がインクを通過する方法に小さな変化を引き起こし、その変化は近くのプロセッサーに伝達される。

当然、もしそれが関節に貼られていた場合には、この電子的なステッカーは関節の曲げの有無やその程度を報告することができる。しかし、このシステムは十分に敏感であるために、心拍による皮膚のわずかな変化や、呼吸に伴うより大きな変化も検知できるのだ。

問題は、その信号を皮膚から離れたところから取得しなければならないときに現れる。有線ケーブルを使用するのは面倒で、間違いなく90年代的なやり方だ。しかし、アンテナは変な方向に曲げられているとうまく機能しないし、効率はガタ落ちになる。そして非常に少ない電力しか使うことができないことも問題だ、このスキンセンサーは非常に微弱な電圧を与えるRFID信号を集めることで電力を得ている。

bodynet sticker and receiver

そしてその仕事の2つ目の部分が(明らかにさらなる改善と小型化が必要とされている部分だが)、センサーの信号を収集し携帯やその他のデバイスへ再送信するレシーバーである。彼らは、なんとか衣服に留められる程度には軽量なユニットを作成したものの、それでもまだ、ジムで装着したいようなものではない。

幸いなことに、それは理論的な限界ではなく、現時点でのエンジニアリングとデザインの限界だということだ。したがって、数年のうちには継続した努力と電子機器分野での進歩によって、はるかに魅力的なシステムを手に入れることができるようになるだろう。

「いつかは、全身スキンセンサーを作って人間の通常動作を邪魔せずに生理学的データを収集できるようになると思います」とニュースリリースに書くのはスタンフォード大学の鮑哲南(ジェーナン・バオ、Zhenan Bao)教授だ。

対岸のカリフォルニア大学バークレー校にも似たようなドメインのプロジェクトがあり、プロトタイプから製品化への取り組みが行われている。ここの研究者やちは、数年前から多くの生理学的要素を検出できる汗モニターに取り組んできた。

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通常なら、15分ごとに汗を収集し、それぞれのまとまりを個別に分析することになる。しかし、それでは実際のところ優れた時間分解能を得ることはできない。もし汗が1分ごとあるいはそれ以下の単位でどのように変化していることを知りたいとしたらどうだろう?汗の収集と分析を行うシステムを肌の上で上手に組み合わせると、それを行うことが可能になる。

センサー自身はしばらく前から使われるようになっていたが、汗の計測が正確に何を提供できるかをチームが大規模にテストし始めたのはつい最近のことである。

RollToRoll BN 768x960 「このプロジェクトの目標は、センサーを作るだけでなく、汗が私たちに伝えることができることを知るために、多くの研究テーマを生み出すことです。私は常々それを汗組成の「デコード」(解読)と言っています、それを行うためには、信頼性が高く再現性のあるセンサーが必要ですし、複数のセンサーを多くの被験者の体の上のさまざまな場所に配置できるように、大規模に生産できるようになる必要があるのです」と説明するのは、バークレー校でプロジェクト責任者を務めるAli Javey(アリ・ジェイビー)氏だ。

ハードウェアの仕事に関わる人なら誰でも言うように、手作りのプロトタイプから大量生産モデルに移行することは大きな挑戦である。そこで、バークレーのチームはVTTフィンランド技術研究センターにいるフィンランド人の友人たちに接触した。同研究所はロールツーロール方式の印刷技術を有している。

平坦で比較的単純な電子機器の場合、ロールツーロール方式は優れた技術である。基本的にセンサーを柔軟なプラスチック基板上に印刷して、その後簡単に必要なサイズへと切断することができる。このようにすることで、数百または数千のセンサーを迅速かつ安価に作成することができ、任意の規模での展開がはるかに簡単になるのだ。

これらは、単に柔軟なだけの、既存の皮膚装着電子機器プロジェクトとは一線を画すものだが、こうした機器が実験室を出て、病院やジム、そして家庭の中に向かう日が近付いているのは明らかである。

スタンフォードのフレキシブルセンサーを説明した論文は先週Nature Electronics誌に掲載され、もう一方のバークレーの汗トラッカーはScience Advancesに掲載された。

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(翻訳:sako)

超音波で眠っているスマートデバイスを覚醒させる

私たちは未来の家が、小さなセンサーたちで溢れていることを確信している。セキュリティカメラ、一酸化炭素検出器、スピーカー、その他もろもろだ。とはいえ常に実行されている必要があるものは多くない。だが、もしそれらがオフだったとして、必要な時にどうやってそれらの目を覚ましてやれば良いのだろうか?超音波を使うのだ。

ともあれ、それがスタンフォード大学のAngad RekhiとAmin Arbabianによって追求されているアイデアだ。ずっとオンにしておくことはできず、かといって完全にオフにすることもできないデバイスの問題に対する彼らのアプローチは、「覚醒」信号の送信と受信に必要なエネルギーの量を最小化することだ。そうすれば、IoT機器は実際に利用されている間だけ電力を消費することになる。

もちろん、これらの小型センサーが情報を送受信するために使用する電波は、実際には電力とスペースの面でかなり高価なものだ。もしアンテナと信号プロセッサを準備して待機させておくと、それらを1回の充電で何年も待機させようとしている場合には、デバイスが使って良い以上の量のエネルギーを使ってしまう。

一方、超音波センサーは、電力効率が非常に高く、必要最小限のスペースしか必要としない。超音波 ―― 人間の聴覚可能範囲上限の22KHz以上の音波 ―― は、はるかに物理的な現象であり、それを検出することは無線電波を検出することよりも、多くの点でより簡単だ。目に見えないX線を検知するセンサーと、通常の可視光を検知するセンサーとの違いにやや似ているかもしれない。

実験室のRekhi (左)とArbabian

Arbabianの下で働く電気工学の大学院生であるRekhiは、サンフランシスコで開催された国際固体回路会議(International Solid-State Circuits Conference)で発表されたばかりの論文で、彼らのアプローチを説明している。これはある意味簡単なアイデアである ―― より大きなスイッチを入れるために小さなスイッチを使う ―― しかしその結果は印象的だ。

このシステムの超音波受信機は、効率的な種類のセンサの中でも特に効率的なものだ。小型で超高感度のマイクも、Khuri-Yakub Groupによって、スタンフォードで開発された。この受信機は常にオンだが、消費電力は驚くほど小さな4ナノワットであり、それでも1ナノワットの強度の1信号を検知するのに十分なほどの感度を持っている。それは、消費電力と感度の点で、ほとんどの無線受信機よりもはるかに優れている。

昨年行われた他の研究の中には、消費電力と感度の両者で今回のものを凌ぐものもあるが…それは50倍以上大きなものだ。超音波センサの大きさは僅か14.5立法ミリメートルで、これに対して無線チップの大きさは900立法ミリメートルに及ぶ。組込機器の世界では、体積の小ささは貴重である。

もちろん、町の反対側からそれを使うことはできない ―― 超音波信号は壁を通り抜けて伝わることはない。しかし、それはそこら中で反射する。そして覚醒システムの感度から考えると、たとえ最低限の小さな超音波信号の断片だけでも、センサを活性化させるのには十分だということを意味する。

現在は単なるプロトタイプに過ぎないが、この種の真に効率的な技術が、電力から最後の一滴まで搾り取ろうと努力しているどこかの企業に、奪取されたり、模倣されたりしても驚くようなことではない。

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(翻訳:sako)

FEATURED IMAGE: MRTOM-UK/GETTY IMAGES

Appleが、デークデータ(非構造データ)解析にAIを活用するLattice Dataを2億ドルで買収

大規模ハイテク企業たちが機械学習や人工知能に力を入れようとしている中で、Appleはその分野での能力を補うための会社を買収した。

Appleが買収したのは、具体的にはLattice Dataである。Lattice DataはAI推論エンジンを適用することで、構造を持たない「ダーク」データを、構造化された(より利用性の高い)情報へと変換する技術を持つ会社である。私たちはとある1つの情報源から、Appleが約2億ドルを支払ったという情報を得た。

その情報源によれば、契約は数週間前に行われ、約20人のエンジニアが大きな会社(Apple)に加わったということだ。

私たちはこの情報を、まず情報源から、次いでAppleから、標準的な告知として受け取った。「Appleはその時々で小さなテクノロジー企業を買収していますが、一般に私たちはその目的や計画について公表することは控えています」とAppleの広報担当者はTechCrunchに語った。

Latticeは昨年ステルスから脱する前に、GV、Madrona、そしてInQTelから、少なくとも2000万ドルの資金調達を密かに行っていた。Latticeは2015年に創業し、これまでその実体はほとんど世間のレーダーにかかって来なかったものの、注目すべき歴史を持っている。

同社はChristopher Ré、Michael Cafarella、Raphael Hoffmann、そしてFeng Niuによって共同創業された。創業の目的はDeep Diveの商用化である。Deep Diveはスタンフォード大で開発された「ダークデータから価値を抽出する」システムだ。

スタンフォード大学教授であるRéは、DeepDiveの業績によってMacArthur Genius Grantを受賞し、現在はLatticeのチーフサイエンティストでもある。また、最初はLatticeのCEOで、現在は同社のCTOになったCafarellaは、Hadoopの共同クリエイターの1人としても知られる、ミシガン大学の教授である。NiuはLatticeのチーフエンジニアリングオフィサーだ。CarafellaとHoffmann(彼はLinkedInによると、その後Googleに移籍している)は、DeepDiveの開発にも関わっていた。

LatticeのCEOを務めるのは、昨年入社した経験豊富なエンタープライズエグゼクティブのAndy Jacquesである。

ところでダークデータとは何だろう?私たちの接続されたデジタル世界は、日々加速するペースでデータを生み出している。2013年には4.4ゼタバイトのデータが世界にはあったが、2020年までにはそれが44ゼタバイトまで拡大すると予測されている(1ゼタバイトは2の70乗バイト)。IBMの見積もりによれば、現在存在するデータの90%が最近の2年のうちに生み出されたものだ。

しかし、そうしたデータの70%〜80%は構造化されていない、すなわち「ダーク」なものであり、そのため処理と分析に関してはほとんど使用することができない。基本的にLatticeは、機械学習を用いて、そうしたデータを整理し、より使えるものにしようとしている。

ラベルもなく、カテゴリーもなく、文脈の手掛かりもないデータの山があると考えてみて欲しい。それでも適切な整理を施すことによって潜在的な価値を引き出すことができる可能性がある。

このようなシステムの応用は多岐に渡る。例えば人間の移動を追跡することで、国際的な警察機構や犯罪解決のために用いることができる。あるいは医学研究での利用や、古生物学研究における成果の整理と解析を助けることなどが可能だ。また、より有用なデータフィードを作成することでAIシステムのトレーニングを支援することもできる。

Latticeが誰と協力しているのか、またAppleがそのテクノロジーをどのように利用しようとしているのかははっきりしない。私たちの推測はAIが何らかの中心的関心なのではというものだ。私たちの情報源によれば、Latticeは、AmazonのAlexaやSamsungのBixbyを含む「AIアシスタントを改良することに関して、他のハイテク企業と協議している」ということであり、つい最近も韓国で時間を過ごしていたそうだ。

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(翻訳:Sako)