インターネットの再構築を目指す「WWWの父」ティム・バーナーズ=リー氏のInruptが約34億円調達

関係者によると、Tim Berners-Lee(ティム・バーナーズ=リー)氏のスタートアップInruptが、シリーズAラウンドで約3000万ドル(約34億円)を調達したという。

Forte VenturesがInruptの新しいラウンドをリードしたというが、両者ともその額を公表していない。Akamai TechnologiesやGlasswing Venturesといった既存投資家はすべて参加し、新たな投資家としてAllstateとMinderoo FoundationのFrontier Technology Initiativeが参加した。

TechCrunchは2021年10月に、創業3年のInruptが3000万〜5000万ドル(約34億〜56億7000万円)の資金調達を交渉中だと報じている。

関連記事:WWWの父ティム・バーナーズ=リー氏のスタートアップ「Inrupt」が約34.2億円以上の資金調達に向け交渉中

InruptはWorld Wide Webの規格を作ったバーナーズ=リー氏と、科学者で技術者のJohn Bruce(ジョン・ブルース)氏が創業し、ユーザーデータのコントロールをユーザー自身に与えるプラットフォームで「インターネットの再構築」ことを目指している。Inruptのチームには、暗号のエキスパートであるBruce Schneier(ブルース・シュナイアー)氏がいる。

「ビジネスの変革は、人生のさまざまな部分が異なるサイロで管理され、それぞれが人生の縦割りの部分を管理することによって妨げられています。その一方で、データはそのサイロによって利用され、個人データがどのように悪用されているかについて、非常に合理的な懐疑心を持つ人々が増えています」とバーナーズ=リー氏はいう。

Inruptのプラットフォームでは、ユーザーが自分の個人データをPOD(Personal Online Datastores、 個人のオンラインデータストア)に保存できる。PODsは分散アプリケーションとの相互運用性があり、ユーザーが望めばいつでも切り離すことができる。TechCrunchが入手した投資家に対するプレゼンテーションで、InruptはそれはVisaのような企業のクレジットカード処理や、DNSの規格を商用化したVerisignのような企業の中核的インフラストラクチャのエミュレーションを目指すものだと述べている。

Forte Venturesを率いるHunter Hartwell(ハンター・ハートウェル)氏が、ブログで次のように述べている。「このアプローチでは消費者が自分のデータのコントロールを手中にし、政府や企業および彼らのアプリケーションの開発者は、新しいインターネットの時代とその規制の体制(GDPRなど)に、よりシームレスに移行できます」。

ハートウェル氏はさらに「私たちのInruptへの投資の趣旨はシンプルなものです。消費者も政府もそして多くの企業も、Web3という名で知られる真にオープンで協力的なウェブの移行を切望しています。Inruptのエンタープライズ向け堅牢サーバー、Enterprise Solid Server(ESS)は、そんな未来を実現するための技術的に最も高度で商業的実用性もある方法です。私たちの投資趣旨の中には、同社のトップレベルのチームが、政府と企業パートナーと広範な一般大衆の要求と期待を満たす、今のところ唯一の実行主体だという信念がある」と述べている。

現在のInruptの顧客は、一部の政府と企業だ。これまで同社が政府と契約を交わした国は、TechCrunchが先に報じたスウェーデンとアルゼンチンとバスクとなる。そのときの記事には、2020年の売上は22万5000ドル(約2500万円)、2021年は9月までで20万ドル(約2300万円)とある。

新たに得た資金は「ESSの政府および商用方面のグローバルな展開に向けられる」とハートウェル氏はいう。

画像クレジット:Pedro Fiúza/NurPhoto/Getty Images

原文へ

(文:Manish Singh、翻訳:Hiroshi Iwatani)

WWWの父ティム・バーナーズ=リー氏のスタートアップ「Inrupt」が約34.2億円以上の資金調達に向け交渉中

Tim Berners-Lee(ティム・バーナーズ=リー)氏は「world wide web」すなわち今日のウェブのスタンダードを30年前に作り、その後、数え切れないほど多数の企業が人間の想像力を超えたスケールで栄えるための道を敷いた。彼の新しいベンチャーはInruptといい、それらの企業の多くが作り出した混乱を収拾することを目指している。そしてその資金は、個人やエンジェルではなくマーケットから得ている。

2人の詳しい筋と私が手に入れた投資家向けプレゼンコンテンツによると、Inruptはひと握りの投資家たちとの協議により、投資前評価額1億4000万ドル(約159億5000万円)で3000万ドル(約34億2000万円)から5000万ドル(約57億円)の資金を調達した。そのシリーズAのラウンドはまだ完了していないため条件が変わることもありえる、と周辺の人たちは未了の投資ラウンドについて、匿名を条件に語ってくれた。

Inruptの広報担当者は無言だ。

Akamai TechnologiesやGlasswing Venturesなどを投資家とする同社は、ユーザーに自分のデータのコントロールを与えるプラットフォームを作ることによって「インターネットを一から作り直す」ことを試みる。Inruptが作ったプラットフォームでは、ユーザーが自分の個人データをPOD(Personal Online Datastores)と呼ばれるものに保存する。同社の顧客には、政府機関や大企業がいる。

「政府とエンタープライズはユーザーデータの管理を支えたいと願っているが、そのためのプラットフォームがない。企業は消費者データに、必ずしもそれをどこかに保存せずにアクセスしたいと思っているが、これに関しても、そのためのグローバルでオープンなプロトコルがない」と投資家向けプレゼン資料にはある。

続けて「私たちが現在作っている新しいプラットフォームは、世界の全人口に自分のデータに対するコントロールを与え、政府にはデータを安全に保存するためのプログラム与え、そして企業には危険や悪用のおそれなく容易にデータにアクセスできる能力を与える」とある。そしてそのプロダクトは、Solidと呼ばれる。

同じく投資家への売り込みでInruptは、その対象市場は「データマーケットの全体」である、という。そのために同社は、クレジットカードの処理ならVisa、DNSのスタンダードを商用化したVerisignなどの、企業の中核的インフラストラクチャをエミュレートすることを試みている。

同社はすでに、スウェーデンやアルゼンチン、バスクなどの政府と契約を交わしている。これらのパートナーシップは、まだ報道されていない。同社の2020年の売上は22万5000ドル(約2560万円)、2021年9月の売上は20万ドル(約2280万円)となっている。これまた出典は投資家向け売り込み資料だ。

また「Inruptの経営チームと取締役会は、企業が究極の完全無欠性と、透明性と、最高度の倫理とプライバシースタンダードを確保できるためのガバナンスシステムにコミットしている」という。

原文へ

画像クレジット:Pedro Fiúza/NurPhoto/Getty Images

(文:Manish Singh、翻訳:Hiroshi Iwatani)

WWWの父ティム・バーナーズ=リー氏のInruptがプライバシープラットフォームSolidのエンタープライズ版をリリース

World Wide Web(ワールド・ワイド・ウェブ、WWW)のオリジナル開発者Tim Berners-Lee(ティム・バーナーズ=リー)氏のスタートアップであるInrupt(インラプト)が、米国時間11月9日、プライバシープラットフォームSolid(ソリッド)のエンタープライズ版を発表した。これにより、大規模な組織や政府が、ユーザー自身がデータを制御することのできるアプリケーションを開発することができる。

バーナーズ=リー氏は、常にウェブは自由で開放的であるべきだと信じてきたが、大規模な組織は過去20年間にわたって成長を続け、私たちのデータを使ってお金を稼いでいる。彼は人びとが自分のデータを制御できるようにしたいと考えた。MITで開発されたオープンソースプロジェクトSolid(MITサイト)は、そのプロセスの第一歩だった。

彼は3年前に、そのオープンソースプロジェクトを基盤としたスタートアップInruptを起業し、会社の経営のためにJohn Bruce(ジョン・ブルース)氏を採用した。2人が、ウェブサイトの開発方法を変えることなく、データの所有権を移転するという同じビジョンを共有していたからだ。Solidを使用しても、開発者はサイトの構築に普段と同じ標準と手法を使うことが可能で、開発されたアプリケーションはどのブラウザでも動作する。Solidが目指しているのは、データパワーのバランスを変えて、それをユーザーの手へと導くことだ。

「お待たせしました、私たちは苦労の結晶としての、最初の重要テクノロジーをリリースします。大規模な組織の中で大規模に展開できるSolidのエンタープライズ版です」とブルース氏は説明する。

このアプローチの背後にある核となるアイデアは、ユーザー自身がパーソナルオンラインデータストア (Personal Online Data Store、Pods)と呼ばれる、オンラインストレージエンティティ内のデータを制御するということだ。エンタープライズ版は、Podsを管理するSolid Server(ソリッドサーバー)で構成され、開発者はSDKを使用してアプリケーションを開発することでPodsを利用して、税金の支払いや、医療サービス機関とのやりとりなどの特定の仕事を実行するために必要なデータに、アクセスすることができる。ブルース氏は、エンタープライズ版はオープンソース版Solidプロジェクト仕様と、完全に互換性があると指摘している。

同社は、米国時間11月9日のリリースに先立ち、英国のBBCや国民保健局、ベルギーのフランドル地方政府などのいくつかの大規模な組織と協力してきた。

これがどのように機能するかを理解するための例に、英国国民保健局が開発している患者と相互作用するためのアプリケーションでは、Solidを使う患者たちが、自分自身の健康データを制御することが可能になっていることが挙げられる。「患者は医師、家族、または在宅介護者に対して、Solid Podsから特定のデータを読み取ることを許可したり、医師が患者のケアを改善するために読むことができる、介護メモや観察記録を追加する許可を与えることができます」と同社は説明する。

このやり方と従来のウェブまたは携帯電話アプリとの違いは、誰がこうした情報にアクセスできるかを決めるのはユーザー自身であるということだ。アプリケーションの所有者はユーザーに対して許可を求め、かつユーザーはどのような条件下で許可を与えるのかを明確にしなければならない。

同スタートアップは2017年にローンチし、これまでに約2000万ドル(約20億7000万円)を調達している。ブルース氏とバーナーズ=リー氏は、これを根付かせるためには、使いやすく、標準に準拠していて、かつ大規模な処理を行える能力をもつ必要があることを理解していた。誰でもオープンソース版のSolidをダウンロードして利用することができるが、エンタープライズ版は彼らがこれまで協力してきたような大企業が必要とするようなサポート、セキュリティ、スケールを、大組織が手に入れることができる。

関連記事・WWWの父バーナーズ=リーが30周年を記念して虚偽情報撲滅へ団結を訴える

カテゴリー:ソフトウェア
タグ:ティム・バーナーズ=リーInrupt

画像クレジット:Photographer is my life. / Getty Images

原文へ

(翻訳:sako)