Webシステムにリアルタイムで操作ガイドを表示する「テックタッチ」が5億円を調達

企業向けにWebシステム活用支援SaaS「テックタッチ」を提供するテックタッチは7月10日、DNX Ventures、Archetype Ventures、DBJキャピタルなどを引受先とした第三者割り上げ増資により、総額5億円の資金調達を実施したことを明らかにした。

今回は、2019年9月発表の1.2億円の資金調達に続く調達でシリーズAラウンドに当たり、DBJキャピタルは新規株主、DNX Ventures、Archetype Venturesはフォローオン投資となる。また、今後追加でベンチャーデットによる数億円の調達も予定しているという。

プログラミング不要でWebシステムに操作ガイドをアドオン

テックタッチは、Webシステムの画面上にリアルタイムで操作ガイドを表示できる、操作支援ツールだ。Webシステムであれば、SFAやCRM、経費精算、ワークフロー系といった社内システム、あるいは社外の顧客向けシステムなど、どんなものにも適用できる。

ガイドは実際の操作画面上に現れるので、操作内容は実データとしてシステムに即反映される。「マニュアルをと操作画面を開いて、両方の画面を首っ引きで追いかけながら入力する」あるいは「チュートリアルが流れた後、内容を思い出しながら操作する」といったこともない。

またガイドの作成にはプログラミングスキルは不要。システムの画面上で「どこで、どんなアクションをするか」吹き出しやポップアップなどを使いながら、説明文をテキストで入力すれば操作ガイドが作成できる。これまでなら画面キャプチャーをWordやExcelに貼って、吹き出しなどで注釈を入れてマニュアル作りをしていたところが、テックタッチを使えば画面に直接書き入れたものがリアルタイム表示されるガイドになる、といったイメージだ。

テックタッチ ガイド作成イメージ

スクラッチで開発されるシステムのチュートリアルなどは従来、開発会社のエンジニアが作成してユーザー企業にプロダクトとあわせて引き渡されることがほとんどだったが、テックタッチは既存の他社製システムにも適用することができる。このため、エンドユーザー企業が自分たちでナビゲーションを作ることが可能だ。

プロダクトリリースから1年強で、テックタッチの利用ユーザーは8万を突破。利用企業は大手が多く、数十社に導入されているという。

「日本独自のSaaSやスクラッチで開発されたシステムなど、カバレッジが広い点が競合との差別化になっている」テックタッチ代表取締役の井無田仲氏はプロダクトの強みについて、こう話す。「日本では新しいマーケットなので、競合はグローバル企業になるのだが、彼らはグローバルSaaSには対応していても、日本のSaaSには対応できていない」(井無田氏)

中にはInternet Explorer 5でオペレーションしているシステムでも動くように、開発に投資して対応したケースもあるそうで、そうした点が「日本企業に評価してもらえている」と井無田氏は言う。

「マーケットも広がって、この半年で一気に伸長し、認知も高まった。次世代基幹システムへの導入などの話も来るようになっている」(井無田氏)というテックタッチ。今後、販売代理店やSIer、ITコンサルティングなど、複数の提携先とのパートナーシップも検討しており、「大企業向けのB2Bエコシステムに参入すべく、秋から取り組みを開始する」と井無田氏は述べている。

「ユーザー企業でもナビが作れる点がテックタッチの特色だが、一方で、大企業が顧客に納入するシステムへナビを組み込む場合でも、そこに開発リソースが割けないケースがしばしばある。こうした場合、テックタッチを利用してもらえば、その分の工数を分離することができる。またエンジニアが工数を割かなくても、より顧客に近いカスタマーサクセスマネジャーやカスタマーサポート部門が作成できるのは大きなメリットとなる」(井無田氏)

利用可能なケースは社内システム、企業向けシステムに限らない。例えば金融機関の口座開設画面や、ECサイトの初回登録画面など、コンシューマー向けのWebシステムで表示するガイドとしても、テックタッチは機能すると井無田氏は話している。

現在は複数システムでの導入を前提に、プライシングやUI、導入プロセスを作り込んでいると井無田氏。「1つのシステムを使いこなすためのシステム教育だけでなく、複数システムを利活用することによる組織のデジタル化を支援する、というのが根本的な製品の思想になっている」(井無田氏)

複数システムでの利用を見込み、価格体系は前回調達時から少し変更したとのこと。以前は1ユーザーごとの月額定額制だったのだが、現在は、ユーザー数の段階(1000ユーザー未満/以上などの区分)に応じた1システム当たり課金とするエントリープランと、複数システムに対応し、5システムまでは月額いくら、といったシステム数の段階に応じた課金のプランとを用意している。

「時間削減などの投資対効果が確実に出るのがテックタッチの特徴。まずは1つのシステムでの導入で効果を体験していただくと実感しやすいので、そこからほかの複数システムでの導入を提案している」(井無田氏)

業務プロセス自動化やシステム利用状況分析機能の開発に投資


写真後列左端:テックタッチ代表取締役 井無田仲氏

「現在テックタッチは、システムの使い方習熟の支援までは対応できたところ。調達資金の投資により、今後は、より日常的に使う機能を増やしていきたい」と井無田氏は話す。

強化したい機能のひとつは「自動入力、自動クリック」の機能。「世の中のRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)は、全プロセスを完全に自動化することを前提にしているが、それが適用できる業務範囲は全体のほんの少し。人の判断や入力が必要な業務が大半で、僕らはそこを『早く・正確に・効率的に』カバーすることを前提としている」(井無田氏)

「人の判断や入力が必要なプロセスといっても、20ステップに分解したら、本当に人の判断が必要な部分はそのうちの2〜3ステップ。それ以外は全部自動化できるはずなので、そこを自動化する機能を提供していきたい」と井無田氏は言う。

もうひとつは「システムの利用状況の分析」機能。システムが使われているのか使われていないのかの分析や、使われていない機能はなぜ使われていないのか、課題を洗い出して、テックタッチのナビゲーションでフォローするといった対応を検討しているということだった。

また先に挙げた自動化と利用状況分析の組み合わせも考えていると井無田氏は話している。「RPA導入時に一番つまずく点は『どういう業務プロセスを自動化すればいいのかが分からない』というところ。そこでプロセスを可視化するような、プロセスマイニング機能も入れていきたい。これは統計的にシステムがどう使われているのかを解析することで、業務プロセス自動化のレコメンドができるというようなもの。業務の内容によって『ここはRPA』『ここは人の手が必要なのでテックタッチのガイド』といった形で切り分けることで、業務効率化に貢献できればいいなと思っている」(井無田氏)

難解なITシステムの使い方を“画面上でガイド”する「テックタッチ」が1.2億円調達

企業内でのWebシステム活用をサポートするSaaS「テックタッチ」開発元のテックタッチは9月18日、Archetype Ventures、DNX Ventures他個人投資家などから総額1.2億円を調達したことを明らかにした。

スクリーン上のガイドでWebシステムの使い方をナビゲート

テックタッチは対象となるWebシステムの使い方や注意事項に関する「ガイド」をスクリーン上にリアルタイムで表示することで、ユーザーをサポートするプロダクトだ。

たとえば経費精算システムに経費を入力する場合に「どのような順番でどのボタンをクリックし、どこに必要事項を入力すればいいのか」をチュートリアルのような形で順々に示すことができる。

手順をナビゲートするだけでなく、入力の誤りが合った際にアラートを出してチェックすることも可能(半角英数字のみが対象となる入力欄にそれ以外の記号があった場合など)。条件によって次に表示されるガイドの内容を変える「条件分岐」を始め、細かいニーズに対応した機能を搭載する。

ガイドの作り方もシンプルだ。操作フローにそって「画面上のどこで」「どんなアクションをするか」を設定していくだけ。プログラミングスキルも不要で、吹き出しやポップアップなどを使いながら説明文をテキストで入力しておけばOKだ。

メインのターゲットはエンタープライズ企業。テックタッチ代表取締役の井無田仲氏はもともと金融業界の出身で、自身も過去に社内の業務システムなどに複雑さや使いづらい部分を感じた経験があるそう。社員数が多いためWebシステムに接する人も必然的に多く、なおかつ自社開発のものを含めて社内で複数のシステムが動いている。テックタッチが狙っているのはまさにそのような企業の課題解決だ。

「特に自社でフルスクラッチで開発した業務システムなどは様々な機能が盛り込まれている反面、複雑で使い方がわかりづらいことも多い。これまで社員にとって『難解でわからない、面倒なもの』と捉えられることもあったWebシステムを『便利で業務の生産性を上げてくれるもの』へと変えるのがテックタッチの役割だ」(井無田氏)

現場ではこれまで操作画面のキャプチャとテキストを組み合わせてマニュアルを作成したり、従業員向けの研修を開催してシステムの使い方をレクチャーするのが一般的だった。ただ結局のところシステム担当者には問い合わせが殺到し、ユーザーである社員も時間をかけた割に使い方がわからず、双方が負担を感じていたという。

テックタッチは画面上にガイドを表示できるので、マニュアルと画面を見比べながら操作をする必要がない。研修やeラーニングなどに比べると担当者側の負担も少なく、なおかつユーザーにとってもフレンドリーな形でシステムの使い方を浸透できるのが最大のメリットだ。

「自分たちが作っているのは『企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)を支援するプラットフォーム。マニュアルだけでなくOJTなどの研修やeラーニングなどをリプレイスするものであると同時に、システム導入担当者への問い合わせや不要な作業を減らす効果もある」(井無田氏)

従業員数1万人超えの企業を始めすでに10数社で活用

同サービスは2019年2月にクローズド版、同年5月にオープンベータ版をリリース。従業員数1万人を超える大企業を始め、現時点で10数社で活用されている。

井無田氏によると金融業界のほか、まだ本導入に至った企業はないもののコールセンターなどは特に相性が良いと感じているそう。コールセンターのように社員の退職や入れ替わりが定期的に発生する業界では、新メンバーの教育にその都度時間とコストがかかっていたが、その負担をテックタッチを通じて解消できるという。

プライシングは1ユーザーごとの月額定額制。たとえば従業員1万人の会社で全社員が使うシステムに活用された場合は、1万ユーザーになる。なお複数のシステムに導入しても料金は同じだ。

直近はエンタープライズ企業を中心に比較的規模の大きい企業への導入を進めていく方針だが、もう1つのアプローチとしてシステムを開発するベンダー向けの展開も見据えているそう。

例としては勤怠管理や労務管理などのHRTech、会計システムなどのFinTech周りのSaaSを手がけるスタートアップにテックタッチを提供するような形で、カスタマーサクセスの一環としてテックタッチが活用されていく可能性もありそうだ(その場合はベンダーが料金を払い、ユーザー企業に対して提供)。

約50社へのヒアリングで手応え、企業のDX支える基盤目指す

中央がテックタッチ代表取締役の井無田仲氏

テックタッチは2018年3月の創業。代表の井無田氏はドイツ証券や新生銀行を経てユナイテッドに入社し、同社では着せ替えアプリ「CocoPPa」を運営する米国子会社の代表などを勤めていた人物だ。

CocoPPa時代を振り返った時に「ユーザーの声をもっとプロダクトに活かせれば良かった」との思いがあったことから、企業のユーザーの関係性作りを支援するようなプロダクトでの起業を考えた。

いくつかアイデアを検討する中で行き着いたのが、現在のテックタッチ。グローバルではユニコーン企業の「WalkMe」を始め複数社がWebシステムの使い勝手を改善するプロダクトに取り組んでいることを知り、この領域に強い関心を持ったという。

「(構想段階で)大企業を中心に50社くらいの担当者にヒアリングしたところ、最初の10社の時点で大きなペインやプロダクトに対する熱狂を感じた。単純に『担当者のマニュアル作成や問い合わせのコストが減る』『企業のDXを支援できる』だけでなく、これまでITを上手く活かせなかった企業やそこから取り残されてしまっていた人をサポートできる事業になりえるとも思った」(井無田氏)

現在のプロダクトはまだその第1段階にすぎない。今回の資金調達で開発チームを中心に人材採用を進め、プロダクトのさらなるアップデートに取り組む計画だ。

次のステップでは来年春頃を目安に、企業内における「システム利用状況の解析機能」をリリースする予定。社内で各システムがどのように使われているかを可視化することで、システム利用についての課題をあぶり出したり、システム投資のROIを分析できる環境を提供する。

ゆくゆくは一部の業務を自動化するような機能なども取り入れながら、システムをよりわかりやすいものに変え、誰もが便利に使いこなせるようなサポートをしていきたいという。

テックタッチの今後の展望