グーグルがハイブリッドクラウドに全力、エッジ・オンプレミスのマネージドソリューション新ポートフォリオを発表

米国時間10月12日、Google(グーグル)は、同社の年次カスタマーカンファレンス「Google Cloud Next」において、ハイブリッドクラウドサービスの幅広いポートフォリオを発表した。これらのサービスでは、Googleのデータセンターネットワークのエッジ、パートナー施設、または顧客のプライベートデータセンターでコンピューティングを提供し、すべてを同社のクラウドネイティブ管理コンソールであるAnthosで管理する。

今回の発表の背景には、パブリッククラウドには必ずしも適さない特殊なワークロードを持つ顧客を取り込むという戦略があると、GoogleのIaaS担当GM兼VPのSachin Gupta(サチン・グプタ)氏は述べている。このようなニーズは、潜在的な顧客から絶えず聞かれていたという。

そのためには、合理的な代替案を提供することが必要だ。「パブリッククラウドへの移行を妨げるさまざまな要因があることがわかりました」とグプタ氏はいう。例えば、低遅延の要求があったり、処理しなければならないデータが大量にあったりして、そのデータをパブリッククラウドに移したり戻したりすることが効率的でない場合がある。また、セキュリティ、プライバシー、データの残留、その他のコンプライアンス要件がある場合もある。

このような背景から、Googleは純粋なパブリッククラウドではないさまざまな状況で機能する一連のソリューションを設計した。ソリューションは、Googleの世界各地のデータセンター、通信事業者やEquinixのようなコロケーション施設のパートナーデータセンター、あるいは企業のデータセンター内の管理対象サーバーの一部として、エッジに設置することができる。

後者については、Dell(デル)やHPEなどのパートナー企業が提供するサーバーであり、Amazon(アマゾン)が提供するOutpostsのようにGoogleが製造・管理するサーバーではないことに注意が必要だ。また、これらのマシンはGoogleのクラウドに直接接続されるわけではないが、Googleがすべてのソフトウェアを管理し、IT部門がクラウドとオンプレミスのリソースを一元的に管理する方法を提供するというところも興味深い点だ。これについては後述する。

ホスティングソリューションの目的は、コンテナとKubernetes、または仮想マシンを使用した、一貫性のある最新のコンピューティングアプローチだ。Googleは安全なダウンロードサイトを通じてアップデートを提供しており、顧客は自分でチェックすることも、サードパーティベンダーにすべてを任せることもできる。

このアプローチを支えているのは、数年前に発表した制御ソフトウェアであるAnthosだ。Anthosを使用することで、顧客は、オンプレミス、データセンター、パブリッククラウドなど、それがMicrosoft(マイクロソフト)やAmazonのような競合他社のクラウドでも、ソフトウェアがある場所でコントロールし、管理することができる。

Google Cloudハイブリッド・ポートフォリオ・アーキテクチャ図(画像クレジット:Google Cloud)

このようなアプローチは、Googleがハイブリッドの市場機会を利用して、クラウドの中で独自のシェアを開拓しようとしていることを示している。この分野はMicrosoftやIBMも開拓しようとしているが、Anthosを使ってすべてをつなぎ合わせながら、このような包括的なプラットフォームアプローチをとることで、とりわけ特定のワークロードをクラウドに移行できないような固有の要件を持つ企業において、Googleが支持される可能性がある。

Googleは、8月に発表された最新の四半期報告書において、クラウドインフラストラクチャ市場のシェアが初めて10%に達し、54%という活発な成長率を示した。市場シェアが33%のAmazonや20%のMicrosoftにはまだ遠く及ばないものの、少しずつ勢いを増してきていることがうかがえる。

関連記事:クラウドインフラ市場は2021年第2四半期も成長を続け、売上高は約4.6兆円に到達

画像クレジット:Sean Gallup / Getty Images

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(文:Ron Miller、翻訳:Aya Nakazato)

つぎはぎされた「フランケンクラウド」モデルは最大のセキュリティーリスクなのか

本稿の著者Howard Boville(ハワード・ボビル)氏は、IBM Hybrid Cloud(ハイブリッド・クラウド)の上級副社長。19カ国および6地域18対応ゾーンにまたがる60以上のデータセンターによるIBMのグローバルネットワークを統括している。

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先日、米国上院議会で行われたSolarWinds(ソーラーウィンズ)への大規模な攻撃に関する証言に、目が覚める思いをした人が大勢いた。この証言から、公共のクラウドはハイブリッドクラウドのアプローチよりも安全なのかという議論が浮上してきたように私は感じた。

だがそこでは、どちらのクラウドアプローチがより安全かではなく、セキュリティをデザインすべきはどちらかを中心に話し合うのが肝心だ。企業向け技術のプロバイダーである私たちは、現代のシステムの使われ方に合わせてセキュリティをデザインする必要がある。コンピューティングモデルごとに決められた安全対策に顧客のほうを押し込めるようであってはならない。

SolarWindsへの攻撃を許したのは、多くの技術ベンダーが依存する広範で複雑に入り乱れたサプライチェーンが原因だった。それは、コードのサプライチェーンをいかにして守るかという基本的な教訓をもたらしたが、とりわけ重要なのは複雑性こそセキュリティの敵という教訓だ。

フランケンクラウド・モデル

私たちの情報技術環境は、私が「フランケンシュタイン」アプローチと呼ぶかたちに進化してきている。企業は、SoRを維持しながらクラウドの利便性にありつこうと飛びついた。フランケンシュタインが作り出されたときと似て、極めて複雑で、スタンドアローンの部分もつぎはぎされている。

各社のセキュリティ部門は、この複雑性を最大の課題の1つと考えている。何十もの技術ベンダーやスタンドアローンのセキュリティソフトに依頼するよう強いられている平均的なセキュリティ部門は、平均して最大10社のベンダーから供給される25〜49のツールを使わされている。このスタンドアローンの部分は、もはやどうしても避けられない死角になっている。セキュリティシステムは断片の寄せ集めであってはならない。企業向けのセキュリティは、脅威への総合的視野を持ち複雑性を軽減するたった1つの管理点に立って、デザインする必要がある。

ハイブリッドクラウドによる改革

政府機関の他、公共団体および民間企業において、ハイブリッドクラウド環境が有力な技術設計点として浮上し始めている。事実、Forrester Research(フォレスター・リサーチ)の最近の調査では、技術的な意思決定を行う人の85パーセントが、それぞれのハイブリッドクラウド戦略にはオンプレミス(内部設置)インフラが欠かせないと答えていることがわかった。

ハイブリッドクラウドモデルとは、企業に今ある内部システムの一部を、公共のクラウド資源とサービスとしての資源とを混合したものに結合させ、1つのシステムとして扱うというものだ。

これが、セキュリティにどれほど貢献するか?スタンドアローン環境では、クラウド環境への浸入口としてサイバー犯罪者が最もよく使うのが、クラウドベースのアプリケーションだ。我々のIBM X-Force(エックスフォース)チームの分析によれば、クラウド関連事件の45パーセントがそれだった。

例えば会社のクラウドベースのシステムが、権限のある人間によるシステムへのアクセスの認証を管理していたとしよう。深夜、ある従業員のデバイスからのログインが検知される。同時に、同じデバイスから、おそらく異なる時間帯に、社内の業務データセンターにある機密情報へのアクセスが試みられたことが判明する。統合されたセキュリティシステムなら、この行動パターンに危険を感じて監視すべきだと判断し、自動的にこの2つの行為に歯止めをかける。もしこの事件が2つの別々のシステムで検知されていたなら、予防措置がとられることはなく、データは盗まれてしまう。

こうした事件の多くは、クラウドでのデータ保管の不備によって引き起こされている。このギャップから生まれる問題に対処する革新的な考え方として急速に注目を集めているのが、Confidential Computing(機密コンピューティング)だ。現在、ほとんどのクラウドプロバイダーは、利用者のデータにはアクセスしないことを約束している(もちろん、裁判所命令に逆らえない場合など、アクセスしようとすればできてしまう)。反対にこれは、悪辣な人間も同じ方法で、自らの不届きな目的のために不正アクセスができてしまうことを意味する。しかし機密コンピューティングの場合、クラウド技術のプロバイダーでも、技術的にデータアクセスができない仕組みになっている。サイバー犯罪者も同様に、アクセスは困難だ。

さらに安全な未来を創る

クラウドコンピューティングは、労働力の分散から業務の迅速化に至るまで、世界に決定的なイノベーションをもたらした。そして同時に、ITを誠実なかたちで届けるために絶対に欠かせない要素に光を当てることにもなった。

だがスピードを要求されるあまり、クラウドは、伝統的にテック企業が顧客に約束してきたコンプライアンスと管理責任を脇に押しやってしまった。今や、そうした重要事項が顧客の手に押しつけられることが多い。

私は、クラウド戦略では安全を最優先、最重要に考えるべきであり、会社の安全な発展のために信頼できるパートナーを1社だけ選ぶべきだと訴えてきた。

あまりにも多くの政府機関や企業が運用している「フランケンクラウド」環境に、セキュリティとプライバシーを後付けするのは、もう止めなければならない。SolarWindsは、雑多なテクノロジーへの依存は弱点になると教えてくれている。

幸い、これは私たちの最大の強みにもなり得る。ただしそれは、セキュリティとプライバシーが、多様な技術の繊維の中にしっかりとデザインされる未来を受け入れた場合に限るが。

カテゴリー:セキュリティ
タグ:SolarWindsコラムハイブリッドクラウド

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(文:Howard Boville、翻訳:金井哲夫)

企業のクラウドに対する支出が2020年に初めてオンプレミスを上回る、しかも大きく

クラウドインフラストラクチャー市場が急成長している一方で、ワークロードの大部分はオンプレミスに留まっているという見解が一般的だ。しかし、Synergy Research Group(シナジー・リサーチ・グループ)の新たな調査によると、クラウドインフラへの支出は、2020年に初めてオンプレミスへの支出を上回ったという。しかも大差でだ。

「シナジー・リサーチ・グループの新しいデータによると、企業のクラウドインフラストラクチャサービスに対する支出は、2020年に積極的に増え続け、35%増の約1300億ドル(約14兆2000億円)に達しました。一方、データセンターのハードウェアおよびソフトウェアに対する企業の支出は、6%減の900億ドル(約9兆8000億円)以下となりました」と、同社は声明で述べている。

シナジー社のデータによると、10年ほど前からクラウドに対する支出は増加傾向にあったものの、2020年まではオンプレミスのソフトウェアを優先する支出が多く、2つの数字は前年の時点でほぼ互角になったという。シナジー社のチーフアナリスト兼リサーチディレクターであるJohn Dinsdale(ジョン・ディンズデール)氏は、今回の新しいデータが、2020年に多くの企業の最高情報責任者(CIO)が支出をクラウドにシフトさせたことを示していると語る。

「重要なのは、企業が何にお金を使っているかということです。我々はそれを調査しています。各企業のCIOが、クラウドサービスに多くの資金を投じることを選択し、オンプレミス(またはコロケーション)のデータセンター資産に対する支出を大幅に削減していることは極めて明らかです」と、ディンズデール氏は筆者に語った。

画像クレジット:Synergy Research Group

オンプレミスの支出総額には、サーバー、ストレージ、ネットワーク、セキュリティおよびハードウェアを動作させるために必要な関連ソフトウェアが含まれている。「このデータにおけるソフトウェアというのは、主にサーバOSと仮想化ソフトウェアです。SaaSとオンプレミスのビジネスアプリケーションソフトウェアを比較することは、まったく別の話になります」と、ディンズデール氏は言っている。

オンプレミスとクラウドの数字がこのように分かれているのを見ると、世界のIT支出に占めるクラウドの割合はまだ比較的小さいというGartner(ガートナー)の調査結果などと、これらの数字をどうやって比較するかは考える価値があるだろう。今日のハイブリッドな世界では、ワークロードは行き来するため、その瞬間にどこに存在するかを数値で示すことは難しいと、ディンズデール氏はいう。

「パブリッククラウドで稼働しているワークロードはごく一部である、というコメントをよく目にします。しかし、私が問題にしているのは、『ワークロード』という概念が、特にそれを数値で示そうとする場合、非常に曖昧なものであるということです」と、同氏は語った。

新型コロナウイルスの影響で、企業がクラウドに移行するスピードが、平常時よりも格段に早まったことには留意する必要があるものの、しかし、ディンズデール氏によれば、この傾向は何年も前から見られていたものであり、ウイルスの感染流行が加速させなかったとしても、動向は変わらなかっただろうと同氏はいう。

どの数字を見ても、クラウドインフラ市場がオンプレミス市場よりもはるかに速く成長していることは明らかであり、今回のシナジー社の新しいデータは、企業のCIOがクラウドに賭け始めていることを示している。

関連記事:クラウドインフラ市場は2020年に13.6兆円に成長、リッチな企業はますますリッチに

カテゴリー:ネットサービス
タグ:調査ハイブリッドクラウド

画像クレジット:gremlin / Getty Images

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(文:Ron Miller、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

IBMがマルチクラウドのコンサルティング充実のためNordcloudを買収

IBMは10月に、同社のレガシーであるインフラ管理ビジネスをスピンアウトする計画を発表し、ハイブリッドクラウドに総賭けすることになってから、すごく忙しくなった。今日(米国時間12/21)はその忙しさに輪をかけて、ヘルシンキのマルチクラウドコンサルティング企業Nordcloudを買収した。買収の価額は公表されていない。

IBMはすでに500社の公認コンサルタントをAWSとAzureとGoogle Cloud Platformに揃えており、Nordcloudもその一環だ。これによって同社は顧客をこれまでのIBM中心のソリューションから、各社に合ったクラウド戦略へ移行させていく。Nordcloudもそのための、教育訓練の行き届いたエキスパートスタッフの一員になる。

このようなハイブリッド方式は、2019年に同社が340億ドルを投じたRed Hatの買収にさかのぼる。それがまさに、このアプローチへの進路を決定した。先月のインタビューでCEOのArvind Krishna氏は、CNBCのJon Fortt氏にそう語っている。Krishna氏は今、彼の会社の全面的な変身努力の渦中にいて、今回のような買収がそのプロセスをスピードアップする、と考えている:

Red Hatの買収は私たちに、その上にオープンソースをベースとするハイブリッドクラウド技術を構築するための技術基盤を与えた。しかもそれは、顧客がこの船出に乗り出すときにさまざまな選択ができることが、ベースになる。その買収の成功が今の私たちに火をつけ、次の大きなステップに進むことができるようになり、マネージドインフラストラクチャサービスを外すことができる。そして会社に今後残るものは、ハイブリッドクラウドと人工知能への完全なフォーカスだけだ。

関連記事: IBM is acquiring APM startup Instana as it continues to expand hybrid cloud vision(未訳)

IBM Global Business ServicesのCOOでクラウドアプリケーションイノベーション担当上級副社長、John Granger氏によると、IBMの顧客は最近ますます、複数のベンダーとオンプレミスの全域にまたがるリソースの管理でヘルプを求めている。

Granger氏は、声明でこう述べている: 「Nordcloudの買収で、私たちのクライアントのデジタルトランスフォーメーションを駆動し、IBMのハイブリッドクラウドプラットホームのさらに幅広い採用をサポートする、深い専門家技能を得られる。Nordcloudのクラウドネイティブツールと方法論の体系と人材が強い信号を送出し、IBMはそれを、クライアントのクラウドへの旅路の成功のためにお届けする」。

買収は当局の承認を得て、来年の四半期に完了する予定だが、NordcloudはIBM傘下の企業になり、IBMのハイブリッドクラウド戦略の継続を支援する。

なお、この買収の前には、いくつかの小さな契約が実現している。たとえば先週はExpertusを買収、そして先月はTruquaInstanaを買収している。これら三社は、デジタル決済とSAPコンサルティング、およびハイブリッドクラウドのアプリケーションのパフォーマンスモニタリングを、それぞれ提供する。

Nordcloudはヘルシンキに本社があり、アムステルダムにもオフィスがある。 PitchBookのデータによると、同社は2011年創業で、これまで2600万ドルあまりを調達している。

関連記事: IBM CEO Arvind Krishna wants to completely transform his organization(未訳)

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa

IBMがレガシーインフラ事業をスピンアウト、クラウド事業に全面的に舵を切る

米国時間10月8日朝、IBMがレガシーインフラサービス事業をスピンアウトすると発表したとき、4月に同社の新CEOに就任したArvind Krishna(アルヴィンド・クリシュナ)氏は、自社をクラウドに全面的にコミットする準備ができていることを明確に示した。

この動きは、同社が2018年にRedHat(レッドハット)を340億ドルという超高額で買収した際に着手した戦略に続くものだ。この買収は、インフラの一部をオンプレミスで、一部をクラウドで運用するハイブリッド・クラウドへの移行を示している。

IBMがハイブリッドクラウド戦略に舵を切っていく中でも、クリシュナ氏は他の誰もがそうであるように財務結果を見ており、そのアプローチにもっと鋭く焦点を当てる必要があることを認識していた。直近の決算報告(IBMプレスリリース)でのIBM全体の収益は181億ドル(約1兆9120億円)で、前年同期比5.4%減となった。しかし、IBMのクラウドとRed Hatの収益だけを見ると、より有望な結果が見えてくる。クラウドの収益は30%増の63億ドル(約6655億円)、Red Hat由来の収益は17%増だった。さらに、過去12カ月間のクラウド収益は20%増の235億ドル(約2兆4800億円)だ。

同社がどのような方向に向かっている知るには、財務の天才である必要はありません。クリシュナ氏は、たとえ短期的な苦痛が伴うとしても、IBMのビジネスのレガシーサイドからの移行を開始する時期に来ていることを明確に認識している。そのため、経営者はその行き先にリソースを投入したわけだ。本日のニュースは、その努力の結果といえるだろう。

IBMによると、同社のマネージドインフラサービスセグメントは、年間190億ドル(約2兆円)の収益を上げている実質的なビジネスだが、クリシュナ氏は、会社を整理してこのような難しい決断をするために、Ginni Rometti(ジニ・ロメッティ)氏の後を継いでCEOに昇格した。

同社のクラウド事業は成長しているが、Synergy Researchのデータによると、IBMのパブリッククラウドの市場シェアはおそらく4〜5%と1桁台で停滞している。実際、Alibaba(アリババ)はその市場シェアを追い抜いているが、どちらも市場リーダーのAmazon(アマゾン)、Microsoft(マイクロソフト)、Google(グーグル)に比べれば小さい。

クラウドインフラビジネスへのシフトを進めているもう1つのレガシー企業であるOracle(オラクル)と同様に、IBMもクラウドの進化にはまだ道のりがある。

調査会社のSynergyでデータによると、市場リーダーのパブリック・クラウド収益シェアは、AWSが33%、マイクロソフトが18%、グーグルが9%で、IBMはオラクル同様に3社を追いかけてきたが、いまのところ市場シェアに大きな変化は見られない。さらに、IBMはマイクロソフトやグーグルと直接競合しており、これらの企業もハイブリッドクラウドビジネスをより成功させようと努力している。

IBMのクラウドの収益は伸びているが、市場シェアの針は止まっており、クリシュナ氏は集中する必要があることを理解している。そこで、IBMのレガシー事業にリソースを注ぎ続けるのではなく、その部分を分離してハイブリッドクラウド事業にもっと注目できるようにすることにしたのだ。

これは机上では健全な戦略だが、長期的にはIBMの成長プロファイルに重大な影響を与えるかどうかはまだわからない。クリシュナ氏はそうなるだろうと賭けているが、それでは同氏にはどんな選択肢があるのだろうか?

カテゴリー:ネットサービス
タグ:IBM、ハイブリッドクラウド

画像クレジット:Richard Levine / Getty Images

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(翻訳:TechCrunch Japan)

IBMがインフラサービス事業を2兆円規模の独立事業として分社化する計画を発表

IBMはその昔ありとあらゆる企業向けビジネスハードウェアのトップメーカーだった(実際その社名は「インターナショナル・ビジネス・マシン」の頭文字からきている)。しかし同社は、クラウド事業に主力を移すためにハードのメーカーというレガシィからさらに一歩距離を置く計画を発表した(PR Newswireリリース)。

米国時間10月8日、IBMは通年売上190億ドル(約2兆円)規模のマネージドインフラ事業部を分社化し、公開企業とする計画を発表した。これによりIBMはハイブリッドクラウドとAIアプリケーションという新分野にさらに注力することになる。

新会社は企業が運用するレガシーインフラをハイブリッドクラウド化するため、ハードウェアのテストと組み立て、プロダクト開発、高度なラボサービスなどの各種のマネージドサービスを行う(IBMリリース)。TechCrunchの取材に対して広報担当者は「新会社はインフラサービス事業を行い、サーバー事業は含まれない」と確認した。

IBMでは新会社のスピンオフの手続きを、2021年末までに完了させようと計画している(既存株主にとっては無税のプロセスとなる)。新会社は暫定的にNewCoと呼ばれるだけでまだ社名は決定していないが、発表によれば社員9万名、世界115カ国にクライアント企業4600社を抱え、受注残600億ドル(約6兆3380億円)の巨大ビジネスになるという。新会社は「インフラサービスの分野で直近ライバルの2倍以上の規模で首位となる」ということだ。

ライバルはBMC Software、Microsoft(マイクロソフト)などとなる。クラウドサービス分社後のIBMのビジネスは年間収入約590億ドル(約6兆2320億円)と新会社の3倍以上の規模だ。

同時にIBMは 第3四半期の財務ガイドラインのアップデートを発表した。このガイドラインが正式に発表されるのは2020年10月末とみられる。収入は176億ドル(約1兆8590億円)、GAAP基準による希薄後の1株当たり配当は1.89ドル、非GAAP基準による1株当たり収益は2.58ドルと予想している。なお前年同期(IBMリリース)の四半期収入は180億ドル(約1兆9000億円)1.9兆円だった。2020年第2四半期の収入は181億ドル(約1兆9120億円)と微増にとどまっている。これはインフラサービスを含む部門の売り上げが減少したことによる 。

新会社分離の計画は概ね市場に好感されているようだ。IBMの株価は発表直後の市場外取引で10%アップした。

しかし最も重要な点は、IBMがエンタープライズ ITの分野における根本的な革新に乗り出したことだろう。この分野は現在大きな変化を続けており、今後もこれは続くはずだ。

IBMは売上確保するために、企業が運用するレガシーインフラを重視しており、今後もサポートを続けていく。一方 この分野は、これまでのような急成長を見込めない。企業はIT部門の現代化(コンサルタントのいうデジタルトランスフォーメーション)を図っており、企業内および対顧客向けコンピューティングのインフラをクラウドなど外部へアウトソーシングする努力をしている。一方、IBMはマイクロソフト、Google(グーグル)のクラウドサービスに対抗しなければならない。そこで企業向けハイブリッドクラウドサービスに注力することは、ビジネスの拡大を目指す戦略の重要な柱となる。

IBMはしばしば「ビッグブルー」と呼ばれる巨大企業だが、今回のスピンオフ計画は利益を確保するためのダウンサイズの重要なステップとなるのだろう(今後はミッドブルーと呼ぶべきかもしれない)。

「IBMはハイブリッドクラウド事業で1兆ドル(約105兆6000億円)の収入を達成することに強くフォーカスしていきます。コンピューティングのインフラとアプリケーションを求めるクライアントのニーズは多様化を続けており、私たちのハイブリッドプラットフォームもこれに対応して拡大しています。(IBMと新会社の)2社がそれぞれ得意分野を活かすことによりにより市場のリーダーとなることができるでしょう。IBM本体は顧客向けハイブリッドプラットフォームの構築と運用、AI能力の拡充を重点とする一方、新会社は開発、運営、インフラの現代化などすべてにおいて活動の軽快さを強化し、世界的重要企業となることを目指します。両社とも成長カーブは押し上げられ、他社との連携能力も強化されます。これにより新たなビジネスチャンスをつかみ、顧客並びに株主に対してより大きな価値を提供できると信じています 」とIBMのCEOであるArvind Krishna(アービンド・クリシュナ)氏は声明で述べている。

同社による2019年に行われた340億ドル(約3兆5920億円)のRed Hat買収は、おそらくIBM自身の変革への最近の投資の中で最も注目すべきものだ。

IBM の組織再編では2019年にRed Hatを買収したことが目立っている。IBMのエグゼクティブチェアマンであるGinni Rometty(ジニ・ロメッティ)氏は声明で次のように述べている。「私たちは、IBMをハイブリッドクラウドという新しい時代の主役にしました。IBMの長年にわたる改革はオープンクラウドプラットフォームの基礎を作り上げました。これは Red Hat の買収によって大きく加速されました。同時に、マネージドインフラの各種サービスもこの分野のリーダーとなりました。ミッションクリティカルで複雑なタスクの実現にあたっては比較するもののないレベルの能力を実現しています。IBM と新会社の2社はそれぞれの強みを活かして収益化に貢献するでしょう。IBMは顧客企業の新しいデジタル化への改革を促進します。一方新会社は既存インフラの現代化を手助けします。こうした戦略はさらに高い企業価値とイノベーションの加速 さらに顧客ニーズへの対応の迅速化として実を結ぶでしょう」

現在、さらに取材中だ。

関連記事:巨額買収を完了したIBMはRed Hatの翼で飛翔する

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タグ:IBMクラウドコンピューティングハイブリッドクラウド

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(翻訳:滑川海彦@Facebook