米国H-1Bビザ、ルール変更で申請手続きはシンプルに

米国政府は昨日、H-1Bビザプログラムに加える変更を発表した。このビザプログラムは専門知識を有する人が米国に来て働くのに最も活用する手段の一つだ。

今回のルールには2つの重要な変更がある。まず1つは、H-1Bビザ申請者は申し込み書類を提出する前に、H-1Bビザ抽選のために入国管理局に電子登録する必要がある。これは2020年に始まる。

このプログラムでビザが認可される労働者の数については議会が厳しい制限を課したため、数万の人が申し込んでも結局ビザを取得できない。現況では、申請者は移民当局USCISが行う抽選に申し込むために、企業によるサポート書類を含む全ての申請書類を提出しなければならない。

昨年は、全部で8万5000の枠に対して約19万人の申請があった。つまり、10万5000人は申請を完了させたが、抽選で漏れた。

2020年のH-1B手続きから適用される新ルールでは、申請者はまずUSCISに電子登録する。ここで抽選が行われる。もし選ばれたら、申請者はそれから申請書類やサポート書類を提出するよう案内される。ここでのポイントは、実際に抽選で選ばれた時のみ申請作業を行えばいい、ということだ。

この変更では、申請者の申請書類を準備する移民専門弁護士の収入減につながることが予想される。シリコンバレーの移民専門弁護士に企業がH-1Bビザ申請1件につき支払う一般的な予約金は安くて数千ドルだ。新ルールが始まっても弁護士は準備作業をすることを勧めるだろうが、新ルールは企業にとってコスト減となる。

2つめの変更点は、抽選の仕方についてだ。変更はいくぶん微細で、これについてはインターネット上でデタラメが多く見受けられるので、かなり注意しなければならない。

H-1Bプログラムでは、申請者を2グループに分けている。1つを通常グループ、もう1つを高学歴グループと呼ぶとしよう。通常グループにはビザ6万5000という制限があり、高学歴グループ(修士号以上を保持する者に限定されている)には2万という制限がある。

現在のプロセスでは、高学歴の申請者は最初に高学歴グループ内の抽選にかけられ、もしそこでの抽選に漏れたら通常グループにまじって2度目の抽選にかけられる。USCISがいうには、新ルールではプロセスが逆になる。全申請者を対象にまず通常グループで抽選があり、それから、1回目の抽選に漏れた高学歴申請者を対象に高学歴グループで2回目の抽選が行われる。

これが申請者にとって何を意味するのか。理解するには、テーブルのナプキンで確率論の計算を少しばかりしなければならないようだ(もしただ答えが知りたければ読み飛ばしてもらっても構わない)。

昨年は高学歴者用の2万の枠に対し9万5885人の申請があり、ビザを取得できるチャンスはおおよそ20.85%だった。これにより抽選に漏れた7万5885人の高学歴申請者は通常グループの9万4213人に加わった。そして、6万5000の枠に対して17万98人が申請し、ビザ取得確率は38.21%だった。2回にわたる抽選で、高学歴者は統計的に最初の抽選で2万のビザを取得し、通常グループの抽選で7万5885人の38.21%、つまり2万8998のビザを取得した。結局、高学歴者の51.1%がH-1Bを取得し、これに比べ通常グループ申請者のビザ取得率は38.21%だった。

これは古いルールでの話だ。では、新ルールで確率がどのように変わるかみてみよう。6万5000の枠に対し、高学歴者9万5885人が通常グループの9万4213人に加わって申請すると、取得の確率は34.19%となる。すると、高学歴者3万2786人が通常グループの抽選でビザを取得する。この抽選で漏れた6万3099人の高学歴者が、2万の枠が用意された高学歴グループの抽選に進むと、取得できる確率は31.7%となる。この数字を足すと、2万+3万2786=5万2786となり、高学歴者9万5885人のビザ取得率は55.05%とはじき出される。

最終数字としては、高学歴者のビザ取得率は旧ルールでは51.1%なのに対し、新ルールでは55.05%となる。一方、通常グループの申請者のビザ取得率は38.21%から31.70%に下がる。

より端的に言うと、USCISは(統計の観点から)高学歴者を“優先している”と言ってもいいだろう。もちろん、もしあなたがビザを申請しているのなら重要な修正だ。しかし、究極的には移民の優先順位が法に盛り込まれて以来大きな変化はなく、こうしたシステムを変更するだけの柔軟性を行政部門はさほど持ち合わせていない。

(追記:確率の計算はあくまでも“粗”だ。というのも、H-1Bプログラムにはいくつもの小さな優先事項があり、これにより確率は申請者によって異なってくる。チリとシンガポールの市民は特例を受けられる。またグアムやその他いくつかの米国領での労働を申請した場合も特別なプロセスを経ることになる)。

国境についての話:Huaweiとスマホプライバシー

米国、そして世界の多くの国々は国境ではプライバシー権をさほど提供していない。国は、どの旅行者の電子機器もスキャンし、引っかかるような内容のファイルやデータを保存できる。そうした策はACLU(米国自由人権協会)のようなプライバシー啓発機関のおかげでかなり明らかになってきている。

あらゆるものをスキャンすることは、国際的な捜査の面では有用だ。米司法省はHuaweiのCFO、Meng Wanzhouをさまざまな容疑で起訴した。容疑には米国の対イラン制裁措置にHuaweiが違反したことに関連する銀行詐欺や通信詐欺が含まれる。

起訴状によると、このケースの主要な証拠のいくつかは、MengがJFK空港を通過するときに行なった彼女のスマホのスキャンからのものだ。JFK空港の入国管理当局は、イランとSkycomのつながりに関するHuaweiの疑惑を裏付けるものをとらえた。起訴状には「Mengが米国に入国したとき、彼女は未割り当てスペースにファイルを含んだ電子機器を携帯していた。これは、ファイルが削除されたかもしれないことを意味している」。

エンド・トゥ・エンドの暗号についての議論があるが、国境で提供されるべきプライバシーのレベルについては複雑だ。一般的なプライバシー権については守られるべきだが、一方で法執行機関は正当な手続きにおいて犯罪を阻止するためのツールを持っているべきだろう。

国境についての話:ブレグジットと製造展開

私は昨日、Foxconnのウィスコンシンと広州での工場建設中止に関連する製造展開の記事を書いた。最近“ネジ探し”に失敗しているのは何もAppleだけではない。いまや英国に生産拠点を置く全ての企業は部品の確保を懸念している。

Bloombergは、「調査会社IHS Markitグループが金曜日に発表したレポートでは、英国企業の在庫は同グループが調査を行なってきた過去27年間の中で1月としては最も多くなった」と報道した。企業は、英国議会が欧州連合からの脱退の計画を繰り返し否決したために合意なしブレグジットのリスクが高まっているとして、ネジやパーツから医薬品に至るまで在庫を増やしている。

在庫は好きなだけ増やしていい。しかし、中国の改革・開放から30年がたち、中国の成功は国境や関税、港を世界で最も効率のいいものにしてきた。英国は競争したければ、同様の措置をとる必要がある。

TechCrunchは新たなコンテンツ方式を試している。このスタイルは“お試し”であり、あなたの考えを筆者(Danny:danny@techcrunch.comまで寄せてほしい。

スタートアップの弁護士に関する体験をシェアしてほしい

同僚Eric Eldonと私はスタートアップの創業者や役員に、スタートアアップの弁護士についての経験を聞いて回っている。我々の目標は、その業界を導くような方法を特定し、最善のプラクティスについての議論を起こすことだ。あなたのスタートアップのために素晴らしい仕事をした弁護士を知っているなら、短いGoogleフォームの調査を使って我々に知らせてほしい。そして世の中に広めてほしい。数週間内に結果などを公開する予定だ。

次は?

・社会のレジリエンスについてさらに取り組む

・私はいま、中国を舞台に多国で活躍する人物が登場するCho Chongnaeが書いたThe Human Jungleという韓国の小説を読んでいる。4分の1ほどを読んだが、これまでのところいい小説だ。

このニュースレターはニューヨークのArman Tabatabaiの助力を得て執筆された。

アップデート:H1-BからH-1Bへとハイフンの位置を直した。また、電子登録は立法案公告に基づく一般からのコメントを経て、今から2サイクル後に正式に変更される。最初の表記では今年導入される、としていた。

イメージクレジット: Scott Olson (opens in a new window)/ Getty Images

原文へ 翻訳:Mizoguchi)

EU圏内のローミング手数料が原則無料化――デジタル単一市場の構築に向けた大きな一歩

EU全域でローミング手数料が撤廃されたことを受け、加盟国(28か国)の人々は国をまたいで移動するときも制限なくモバイル端末を使えるようになった。

6月14日に公開された欧州委員会、欧州議会、欧州理事会の共同声明の中で、これは「EU市民にとっては具体的かつポジティブな」変化だと記されている。

しかし、いわゆるパーマネントローミング(通信料の安い国で契約を結び、自国に戻ってからもローミング状態でサービスを利用し続けること)を防ぐために一定の制限が設けられており、極めて価格の低いプランに関しては(上限付きの)ローミング手数料が発生する可能性がある。データ通信量が無制限のプランについても、他のEU加盟国でデバイスを使用するときには何かしらの制限や追加料金が発生するかもしれない。

とはいえ平均的なユーザーであれば、EU圏内の他の国にいるときも自国にいるときと同じ価格でモバイル通信を利用できるはずだ(詳細は欧州委員会のウェブサイトに掲載されているFAQを参照してほしい)。

さらに各国のキャリアは、ローミング手数料がなくなるからといって国内の通信料を上げることはないとされている(実際どうなるかは今後の動きを見ていくしかないが)。

昔は涙が出るほど高かったローミング手数料のせいで、消費者は仕事や休暇でEU圏内を移動する際もネットサービスの利用を控える傾向にあった。そのため、EU全域でのデジタルビジネスの障壁を下げ、競争力を高めようとするデジタル単一市場の構築を目指す欧州委員会にとって、ローミング手数料の撤廃は10年単位の一大プロジェクトだった。

ローミング手数料撤廃に向けた最後のハードルは、今年4月に欧州連合の3機構(欧州委員会、欧州議会、欧州理事会)が各国キャリアのローミング手数料に上限を設けると合意したことでクリアされた。

「私たちは欧州連合が高額なローミング手数料の撤廃に踏み切ったことを誇りに思っていますし、このゴールを実現する上での課題を乗り越えるために努力してくれた人たちに感謝しています」と3機構の上級代表は共同声明の中で語った。

「さらにEUはローミング手数料を廃止しつつも、各加盟国内の通信料を競争力のある水準に保つことができました。各キャリアは2年間の準備期間を経て今回の変更を反映しており、顧客の利益のためにも彼らは新しいルールがもたらすチャンスを利用することになるでしょう」

対象となるEU加盟28か国は次の通りだ。オーストリア、ベルギー、ブルガリア、クロアチア、キプロス、チェコ、デンマーク、エストニア、フィンランド、フランス、ドイツ、ギリシャ、ハンガリー、アイルランド、イタリア、ラトビア、リトアニア、ルクセンブルグ、マルタ、オランダ、ポーランド、ポルトガル、ルーマニア、スロバキア、スロベニア、スペイン、スウェーデン、イギリス。

なお、ブレグジット(イギリスのEU離脱)の影響で再びイギリスでローミング手数料が導入されるかどうかについてはまだわかっていない(今年の3月から2年間の離脱プロセスは始まっている)。

これもまたブレグジットの不確定要素のひとつということになるが、少なくとも実際にイギリスがEUを離脱するまでは、同国の市民もローミング手数料なしで携帯電話を使えるようになった。

(日本版注)プリペイドSIMについてもローミング手数料が原則撤廃されるため、EU圏外からの旅行者も加盟国内でSIMカードを購入すればこの制度変更の恩恵にあずかれる。

原文へ

(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

Apple、ブレグジットの影響でイギリスでのアプリ価格を25%値上げ

apple-app-store-ios

ブレグジットによるビジネスへの影響を軽減するため、Appleはイギリスでのアプリの価格を25%値上げする準備を整えている。

iPhoneで知られるAppleは2016年10月、イギリスでハードウェアの価格を値上げした。米ドルに対するポンド安の為替差を吸収するためだ。アプリストアでも同じ対策をするようだ。Appleは、契約するiOS 開発者に今週、イギリスでアプリ価格とアプリ内購入の価格を25%値上げすることを伝えている。 MacRumorsが最初に記事で伝えた

この値上げは次の7日間以内に実施される予定だ。最も安い値段のアプリ(アメリカで0.99ドル)は、イギリスで0.79ポンドから0.99ポンドになる。1.49ポンドのアプリは1.99ドルになる。ただし、今の時点で加入しているサブスクリプションの料金に関しては、この変更の影響は受けない。

イギリスが歴史的な国民投票でEUからの離脱を決める直前の6月、1ポンドは1.49ドル付近にあった。現在、1ポンド1.22ドルくらいで推移していて、20%近く変動したことになる。

Appleはイギリス以外でもアプリの値上げを行っている。Appleは、インド、ルーマニア、ロシアでも税率の変更などに伴いアプリ価格を値上げした。

Apple以外の企業もブレグジットのビジネスへの悪影響を懸念し、対策を講じている。HTCはブレグジット後にVRヘッドセットViveの価格を見直した。また、 スタートアップのファウンダー、投資家をはじめ、テクノロジー業界全体でもイギリスのEU離脱の影響について意見が割れていたり、先行きが分からないと感じている 。現時点ではまだイギリスはEUの一部だ。この為替価格の下落はイギリスが実際にArticle 50を行使し、EUを離脱する時に起きることを示しているのだろうか。イギリスの首相Teresa Mayによると、それは4月までに起きる予定だとしている。

[原文へ]

(翻訳:Nozomi Okuma /Website

ブレグジットで陰るイギリスのフィンテック業界にGoCardlessが見た一縷の望み

15036466730_ab86e2d77f_b

イギリス政府は依然としてブレグジットの計画に関する詳細を明らかにしておらず、そもそも計画の存在自体を疑う人もいる中、イギリスに拠点を置く企業は、ブレグジットが持つ意味について分からないままでいる。

首相の「ブレグジットはブレグジットでしかない」という主張は上手い表現だが、ビジネスプランをつくろうとしている人にとっては何の意味もなさない。

イギリスのEU離脱による予算への影響を予測しようとしている予算責任局(OBR)にとってもそれは同じだ。

OBRよ、まさにその通りだ。「私たちが政府にブレグジットの意味を尋ねたところ、ブレグジットはブレグジットでしかないと、何の役にも立たたない回答が返ってきた」

しかし、ロンドンに拠点を置くGoCardlessは、少なくとも国内のフィンテク業界には一縷の望みがあると考えている。11月23日に財務大臣が発表した秋季財務報告書の中には、(ブロードバンドのインフラ、自動運転車、電気自動車、VCなどを強化する施策と並んで)フィンテックをサポートするいくつかの施策が明記されていたのだ。

その施策には、スタートアップ向けの特別予算年間50万ポンドや、各地域におけるフィンテック特使の任命、“State of UK fintech(イギリスフィンテック業界の現状)”年間レポートの発行、電子ID認証の近代化に関するガイダンスなどが含まれていた。

ブレグジットの広範囲に及ぶ影響を考慮すると(OBRはブレグジットにより、イギリスの公共財政に590億ポンドの悪影響があるとの概算を示している)、フィンテック業界に投じられる年間50万ポンドという額は大したことがないように映る。とはいえ、ブレグジットの悲劇の中でも、イギリスのスタートアップにとって何か良いことがあるべきだ。

「政府は、フィンテックが高成長を見込める業界で、多くの可能性を秘めていると示唆しようとしているのだと、私たちは考えています。数十億ポンドの予算を見込んでいれば、イギリス中の注意をフィンテックに向けようとしているサインになりますが、少なくとも政府自体がこの業界に注目しており、成長を促そうとしているのがわかります」とGoCardlessで法務部門のトップを務めるAhmed Badrは語る。

現行政府は、これまでにイギリスのフィンテックスタートアップの経済的な可能性に注目したことがあるのだろうか?という問いに対して、彼は「政府の公式な文書にそれが現れたのは、恐らく今回が初めてのことでしょう。しかし、財務報告書のように公式かつ重要な文書としてではないものの、これまでにも政府は、Innovate Financeのような団体を通じて、フィンテック業界の発展を促進しようとしていました。その活動は今でも続いており、これ自体はとてもポジティブなことです。今回そのような動きが、きちんと財務報告書の中に反映されたというのは、もちろんさらに喜ばしいことです」と答えた。

さらにBadrは、金融サービスへのアクセスに利用される(紙ベースのIDチェックとは対照的な)テクノロジーをサポートする目的で、政府が金融サービスの業界団体であるJoint Money Laundering Steering Groupと共に、電子ID認証システムの近代化を図っていることを、”極めて明るい話題”だと歓迎する。

そして「電子認証システムが導入されれば、サービス利用開始時やデュー・デリジェンスの業務がかなり効率化する可能性があります。利用者の中には本人確認のプロセスを面倒だと感じている人もいるため、カスタマーエクスペリエンスの向上に努めている私たちのようなフィンテック企業にとって、この施策は極めて重要です」と続ける。

「電子ID認証は、詐欺や身元詐称を阻止する上でも大変有効なツールです。古臭い紙の文書から、便利かつ正直なところ信用性も高い電子IDへのシフトが早く実現することを私たちは願っています」

もちろん、ブレグジットに関してフィンテック業界が1番心配しているのは、EU離脱に関する条件交渉をイギリス政府が進める中で、同国が金融パスポートを失うことになるのかどうかということだ(数年におよぶ条件交渉は、来年3月末までにスタートする予定)。金融パスポートとは、欧州経済領域(EEA)加盟国のいずれかで金融サービスを提供することを許された企業が、長期に渡る複雑な認証プロセスを繰り返すことなく、他加盟国でも同じサービスを提供することができる権利を指す。

Badrは、秋季財務報告書の内容から今後イギリスのフィンテックスタートアップにとってポジティブな流れが生じると考えているが、フィンテック業界を支える金融パスポートを、イギリス政府がなんとしても保持しようとしているかについてまでは確証を持っておらず、長引いているブレグジットの条件交渉に触れながら「現段階では、金融パスポートについて何も言うことはできません。何が起きるか全く分からないことについて無責任な予測もしたくないですしね」と語っていた。

「もちろん私たちは、政府に対して金融パスポートがフィンテックにとってどれだけ重要かという説明を行ってきました。恐らく私たちが言うまでもなく、継続的にヨーロッパ市場へアクセスできることが金融サービスにとって大切だということは政府も認識していると思います。金融パスポートであれ、他の形であれ、もしも政府高官の間でどのようにヨーロッパ市場へのアクセスを保つことができるかという議論が行われていないとすれば、むしろ驚きです」と彼は付け加える。

しかしGoCardlessは、ブレグジットの影響で金融パスポートが失効してしまったときのためのバックアッププランも用意している。最悪の場合同社は、他のEU加盟国のどこかに子会社を設立し、金融パスポートを保持しようとしているようで「必要であればそれも辞さない」とBadrもそれを認めている。

同時に、設立から5年が経ったGoCardlessは、イギリスから国外へ完全に脱出する必要もないと今の段階では考えている。ロンドンという街には、住みやすさや、例えば教育水準が高い大学のおかげで、優秀な人材へアクセスしやすいことなど、不変の良さがあるとBadrは話す。「このようなロンドンの長所は、ブレグジット後も無くなってしまうことはありません。本当に金融パスポートを保持することだけが、GoCardlessが後回しにしていたかもしれないことを、恐らく前進させるきっかけになると思っているんです」と彼は主張する。

ヨーロッパのフィンテック中心地としてのロンドンの地位が、ブレグジットによって危ぶまれることになると彼は考えているのだろうか?その答えとしてBadrは、ヨーロッパ中でフィンテック業界の競争が激化することで、ビジネスを国外へ移動させる動機が増えるだけでなく、イギリス国内の金融サービスのイノベーションが活発化すると期待している。

「誰も金融サービス企業にとっての金融パスポートの重要性を疑っていはないでしょう。ただ、それはイギリス企業だけの話ではなく、イギリス以外のヨーロッパ諸国に拠点を置く数々の企業が、イギリス市場で金融ビジネスを行う上でも同じです」と彼は語る。

「他国の金融サービス企業も、イギリス企業と同じを動きをとることになると思いますか?もしもイギリスの金融パスポートがなくなり、何の代替手段もないとすれば、きっと双方向に同じ動きが起きると私は思います。つまり、これまでヨーロッパ諸国で営業するために金融パスポートを利用していたイギリスの金融サービス企業は、他国に子会社を設立するでしょうし、イギリス国外の企業で、これまで金融パスポートを使って、イギリス市場にアクセスできていた企業についても、イギリスに子会社を設立して、営業を行うことになると思うんです」

「現在のところ、GoCardlessの売上の大半はイギリス国内で発生しているため、外国に子会社を設立してもしばらくの間は、小規模なオペレーションにとどまると思います。しかし同時に、イギリスでそうだったように、他国の子会社も急成長することを願っています。もしかしたら、将来的にはイギリス以外にも、フィンテックの”中心地”となるような国や都市が突如誕生したり、現在ある程度力を持っている地域が、徐々にヨーロッパ内での地位を高めていったりするかもしれません。また、イギリス企業が国外に出ていくにあたり、全ての企業があるひとつの街や地域に集中して移動するというのは考えづらいです。むしろ、移転候補先になりえる都市が、これからいくつか誕生してくるでしょう」

ブレグジットに関して明らかになっていない点は多々あるものの、Badrは現時点でGoCardlessが、この困難を乗り切る”ひそかな自信がある”と語っている。「困難という意味では、スタートアップはこういった問題に直面する運命にあります。私たちは、新しい環境や社内の変化に適応するのに慣れているので、今後も引き続き、私たちの順応性を証明していければと思います」と彼は話す。

原文へ

(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

ブレグジット後のヨーロッパで人材サービス市場に挑むスタートアップYborder

yborder

ブレグジットが、善かれ悪かれイギリスメディアの”お気に入り”のトピックとなった今、イギリス国内に拠点を置く企業が、国外へ脱出するか否かについて、大いに興味が寄せられていると考えている人もいるだろう。それはもちろんのことなのだが、それ以上に見定めるのが難しいのは、人材がどこへ移動する、または移動しようとしているかということだ。特に”ミレニアル”世代の人材は、流動性が高くノマド気質なため、その判断はより一層難しくなる。人材動向は、次のアツい市場はどこであるかや、向こう数年間でどの国や都市の力が弱まるのかという重要な情報を掴むための早期警告システムとしての機能を担うことができる可能性があるという意味で、企業の動向よりもずっと興味深い。

しかし、テック系の人材が国をまたいで移動する際に浮上してくる問題がある。それは、言語だ。ドイツの求人の63%は英語に翻訳されておらず、フランスの求人の81%はもちろん(Mai, oui!)フランス語で書かれている。そのため、この市場で求められているのはテック系の人材が移住するための手段なのだ。

パリに拠点を置くスタートアップのYborderが、この問題を解決しようとしている。他にも多数存在するリクルートメントプラットフォームのように、Yborderはヨーロッパ中のヘッドハンターのネットワークを通じて、プラットフォーム上で人材を認証し、彼らの希望勤務地を可視化することで、人材を探し求めている企業のサポートを行っている。

というのも、エンジニアのスキルを学ぶ学生の数を国策で増やしたところで、全てが解決するわけではないのだ。

Yborderが本日発表したデータを見ると、転職希望者の勤務地の検討状況に、ブレグジットがどのような影響を与えているかについての示唆を得ることができる。

今年の7月の時点では、Yborderプラットフォームの利用者の20%がイギリスを希望勤務地として選択していた。しかし9月には、この数字が8%にまで減少した

その後10月には14%に落ち着いたが、11月(本日発表されたデータ)には12%まで微減した。

Yborder共同ファウンダーのMaya Noëlは「ブレグジット以降、グローバルで見たときのイギリスの魅力は低下しました。ブレグジット以前、イギリスを希望勤務地として選択する人の割合は20~25%で安定していましたが、今後は12~14%付近にとどまると予想しています」と語る。

つまり、テック系の人材にとってのイギリスの魅力は、ブレグジット以降ほぼ半減したのだ。

とは言っても、イギリス人気は他の欧州諸国に比べれば依然高く、アメリカの方が若干勝っているものの、ほぼアメリカと同じレベルだ。平均すると、テック系の転職候補者の6%がドイツへ、3%がフランスへ積極的に移住したいと考えている(なお、アメリカへ積極的に移住したいと考える人の割合は14.5%だった)。

興味深いことに、候補者の約25%がカナダへ移住したいと考えている一方、アメリカに移住したいと考えている人の割合は20%だった。「今後恐らくアメリカに住みたいと考える人の数が減り、カナダに住みたいと考える人の数が増えてくるでしょう。しかし、まだそれを判断するには早く、もう少し様子を見なければいけません」とNoëlは話す。

巷では明らかに人材獲得競争が巻き起こっている。一般的に、優秀なエンジニアは普通のエンジニアの3~10倍生産性が高く、2桁パーセント(場合によっては20~30%)の投資節約効果をテック企業にもたらすと言われている。

ヘッドハンターがYborderプラットフォーム上で候補者を認証すると、彼らは求人情報を閲覧したり、企業からオファーを受け取ったりできるようになる。

さらにYborderは、プラットフォームとSmartRecruitersなどのATS(採用管理システム)をAPI経由で連携させている。そのため、既に何らかのATSを利用している企業は、Yborderにログインしなくても、ATSのポータルを介して自動でアラートメールを作成することができるのだ。

Yborderのサービスの背景には、ヘッドハンターや企業が、より多くの人材にひとつの窓口からアクセスできるようにするという考えがある。

6人のメンバーから構成されるYborderのサービスは、現在ヨーロッパ中から360人の月間アクティブユーザーと220人のヘッドハンターに利用されており、これまで6000件のアラートが送付されているほか、ユーザーがサービスの利用を開始してから雇用されるまでの平均期間は3週間を記録している。

もちろん同じ業界で活躍する競合企業は存在し、サイズで言えば、VetteryTalent.iohired.comの方がYborderよりもずっと大きい。しかしYborderは、各国のリクルートメント専門家のネットワークや、広範囲に渡る採用実績、そして候補者に対する厳しい選定基準で差別化を図っている。

ビジネスモデルとしては、一般的な手数料モデルをとっており、候補者がYborderを通じて採用されると給与の12%が同社に入ってくるようになっている。Yborderはヨーロッパ中に約1500万人のディベロッパーがいると推定しており、この分野の求人数は10~15%の割合で増加しているという。

原文へ

(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter