クリエイターの報酬データが大量流出、Twitchのストリーマーの反応は

ストリーミングプラットフォームのTwitchは米国時間10月6日、クリエイターの報酬を含む膨大な内部データが流出し、オンラインで公開されてしまったことを認めた。同社はブログ記事で、流出の原因はTwitchのサーバー構成を変更した際のエラーであり、悪意のある第三者がそのデータにアクセスしたと述べた。今回の漏洩は、多くのストリーマーにとって、ストリーミングにおける給与の透明性とTwitchにおける安全性を巡るこれまでの緊張を悪化させるものだ。

今回の漏洩は、この数カ月間に起こった。TwitchはAmazon傘下のプラットフォームだ。2021年初めの時点で、ゲームのライブストリーミング視聴者数の72.3%を占め、Facebook GamingやYouTube Gamingなどのプラットフォームに比べ、圧倒的な強さを誇る。疎外されたクリエイターが憎しみに満ちたボット攻撃の標的にされたことから、一部のストリーマーは9月1日「#ADayOffTwitch」と称してプラットフォームをボイコットした。その結果、ピーク時の同時視聴者数は平均を100万人下回った。その後、Twitchは新たな安全機能を追加したが、コミュニティの緊張感は依然として高いままだ。

「このようなことが起こるのは時間の問題だったと思います」と、#ADayOffTwitchのボイコット主催者の1人であるトランスジェンダーのストリーマー、Lucia Everblack(ルシア・エバーブラック)氏は話す。「Twitchの活動において、そもそも安全性やセキュリティが最優先されていなかったことが明らかになりました」。

流出したのは、ソースコード、独自のソフトウェア開発キット(SDK)、Amazon Game Studiosが準備中のSteamと競合するサービスなどの未発表データだった。日中はソフトウェアエンジニアとして働くエバーブラック氏にとって、今回のクリエイターへの支払いデータの流出は、同氏が感じていることを裏付けたにすぎない。それはTwitchが、最も金を引き寄せられるストリーマーに報いることを優先しているということだ。Reddit(レディット)の投稿によると、今回流出した2019年から現在までのストリーマーのデータを分析したところ、Twitchの上位1万人のストリーマーのうち10%が、ストリーマー全体の収益の49%を占めているという。約2000人のストリーマーが、同期間にTwitchで10万ドル(約1100万円)以上稼いだ。

「Twitchのあらゆる機能がこの仕組みの上に成り立っていますが、これではプラットフォームの他の部分が成長できません」と同氏はTechCrunchに話した。「このことが他の人すべてにとって大きなブレーキになっています。特にBIPOC、LGBTQI+、障害者にとってです」。

Twitchパートナーであり、9年以上にわたってtehMoragの名で配信しているScott Hellyer(スコット・ヘリヤー)氏も、Twitchが稼げるユーザーを優先していると感じている。

「Twitch全体では、ディスカバリーが常に問題となってきました」とヘリヤー氏はTechCrunchに話した。「YouTubeにはとてもクールなアルゴリズムがあり、コンテンツを見たいと思う人と繋がる方法をコンテンツの作者が探すのを手伝ってくれます。Twitchも同じことを試みていますが、十分に努力しているとは思えません。今、人々は『ああ、ディスカバリー機能を高めようとしないのは当然だ、Twitchは人々を上位のストリームに押し込むだけだ。彼らはすでにTwitchにとって必要なお金を稼いでいるのだから』と言っています。その方が投資効果は高いし、それは理解できます」。

4chanのスクリーンショット

漏洩した情報によると、トップストリーマーの大半は白人男性で、ゲーム業界の多様性の欠如を大きく反映している。リストの中で最も高い報酬を得ている女性ストリーマーであるPokimane39位にすぎない。しかし、探索しやすい機能があれば、Twitchはより多様なクリエーターを増やすことができるだろう。エバーブラック氏をはじめとする社会から疎外されたストリーマーらはTwitchに対し、アイデンティティベースのタグをストリームに追加するよう働きかけた。そうすればユーザーは、支持したい多様なクリエイターを見つけることができる。Twitchは5月にこのタグを追加したが、エバーブラック氏はその前にPeer2Peer.liveを立ち上げた。これは、疎外されたストリーマーと視聴者がお互いを見つけるためのオプトインの探索ツールだ。ユーザーの中には、このタグが悪意ある人たちによるヘイト・レイド(差別的コメントによる荒らし)のためのターゲット探しを助長するのではないかと心配する人もいるが、エバーブラック氏は、このタグによって大きな成長が見られたと語る。一方、Twitchは、これらのユーザーを攻撃の標的となる危険性から守るため、電話による認証が必要なチャット機能を追加した。

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しかし、ストリーマーがいったん視聴者を獲得したとしても、Twitchでそれなりの収入を得ることは難しい。収入上位者が稼ぎ得る金額にもかかわらずだ。ストリーマーが十分な人気を得ると、Twitchパートナープログラムへの参加を申請することができる。プログラムからクリエイターに多くのツールや収益化の選択肢が提供される。だが、TechCrunchが話を聞いた複数のストリーマーは、すべてのTwitchパートナーが同じ給与体系ではないことは公然の秘密だとした。2017年にInsiderは「パートナーは人気に応じて、サブスクリプション収入の2〜6割を受け取る」と報じた。サブスクリプション収入は、TwitchパートナーとTwitchが折半するのが標準だが、一部のストリーマーが主張するところでは、クリエイターらが最近、より有利な6〜7割の受け取りの交渉に成功し、勢いを増すYouTube Gamingの標準的な支払いと肩を並べた。CouRage、DrLupo、Valkyraeなどの人気ストリーマーの中には、YouTubeとの独占契約のためにTwitchを離れた人もいる。

JessGOATの名でストリーミング配信を行っているJess Bolden(ジェス・ボールデン)氏はInputに対し「Twitchと50対50の割合で契約しているLGBTQIAや女性のストリーマーの数と、広告契約でおそらく75対25の割合で契約している男性(私は違うが)の数を比較したら、とてつもなく大きな問題に発展しそうです」と語った。

Twitchは、一部のパートナーの契約条件が他のパートナーよりも良いという主張について、コメントを控えた。

ヘリヤー氏は、情報漏洩後にTwitterで、Twitchでの報酬についてもっと話したいとずっと思っていたが、パートナー契約によってそれができなかったと投稿した。

「情報漏洩があるまで、Twitchは契約の種類ごとの分け前について決して明らかにしませんでした。ですが、生の数字が出てきたことで、本当に頭のいい人たちは、そうしたストリーマーのCPM(cost-per-mile、広告視聴1000回あたりの支払金額)がいくらなのか、Bitsをどれだけ稼いでいるのか、サブスクリプション収入はどうなのか、といったことを把握できます。こうした情報を追跡するサイトはありますが、いったいストリーマーはどれだけ稼いでいるのかという部分は除外されています」とヘリヤー氏はTechCrunchに話した。「実際に稼いでいるお金について話すことはできませんが、購読者数のような代替値を示すことはできます。しかし、そこには透明性がありません。私の購読者は、私が50対50で分け前をもらっているかどうか知りません」。

テクノロジー業界では、給与の透明性を高めるための大きな動きがある。これは、例えば、同じ仕事を担当する2人のエンジニアの給与が大きく異なっていないことに関する説明責任を企業に負わせるものだ。

「Twitchは社会を反映しています」とRekItRavenはTechCruchに語った。Ravenは、#ADayOffTwitchのボイコットを主導し、#TwitchDoBetterのハッシュタグを始めた。「給料やお金の話をしてはいけないことになっていますが、それを正当化できる理由はまったくありません」。

ただし、Twitchからの支払い額は、テック企業がエンジニア1人1人に支払う金額より複雑だ。Twitchはパートナーの契約条件を設定しているが、すべてのチャンネルが同じように作られているわけではない。

Critical Roleは2019年8月以降、962万6712ドル(約10億6000万円)を稼いだとされ、高額所得ストリーマーの中でトップに立った。2位はxQcOWで、845万4427ドル(約9億3000万円)を稼いだ。しかし、ダンジョンズ&ドラゴンズのショーを31人のチームメンバーで制作するCritical Roleの費用は、eSportsのストリーマーであるxQcOWよりも多いだろう。さらに、すべてのストリーマーがTwitchの総収入から同じ割合を得ているわけではない。多くのクリエイターは、スポンサー契約やPatreonページ、直接の寄付、その他のプロジェクトなどのために、それぞれ収入源が異なる。

「Twitchは私の実際の収入の40%にすぎません」とヘリヤー氏はいう。「今回のようなことが起こっても大丈夫なように、収入源を多様化しなければなりませんでした」。

エバーブラック氏は、数百万ドル(数億円)を稼ぐクリエイターよりも、小規模なクリエイターの方が、流出した報酬額について非難されやすいのではないかと心配する。同氏は、小規模なストリーマーが安心してチャンネルを成長させられるようなコミュニティ主導の機能をTwitchが実装すれば、情報が流出したかどうかにかかわらず、疎外されたクリエイターにとってTwitchがより良いものになると考えている。同氏が提案する追加機能は、コミュニティの優れたメンバーとなっている視聴者にストリーマーが報いる手段や、大規模なストリーマーが1人の無防備なストリーマーに何千人もの人々を送り込むのではなく、複数のストリームに小規模なレイドを送り込むツールだ。

「Twitchコミュニティにおいて、マージナライズド・ボイス(阻害された人々の声)は非常に重要です。もしTwitchが彼らを正直に招き入れ、彼らの声に耳を傾けるならば、彼らが遭遇し続けている多くの状況を回避することができると思いますし、実際に人々のためになる機能を積極的に追加することもできるでしょう」とエバーブラックは語る。「Twitchは、一部の大規模なクリエイターに光を当てすぎて、プラットフォームに参加していない巨大なネットワークを間違いなく見逃していると思います。プラットフォームが本当に気にかけているのはゲームをする白人の男性だからです」。

画像クレジット:Bryce Durbin/TechCrunch

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(文:Amanda Silberling、翻訳:Nariko Mizoguchi

Twitchが電話認証付きチャット機能の追加とメール認証設定を拡大、ハラスメント抑制のため

Twitch(トゥイッチ)は米国時間9月29日、プラットフォーム上でのハラスメント行為を抑制するため、チャンネルレベルのセキュリティ機能を新たに追加することを発表した。これにより、クリエイターやモデレーターは、メッセージを送信する前に、チャッターに電話や電子メールの認証を求める「認証済みチャット」機能を有効にすることができる。これらの設定は、すべてのアカウント、初めてのチャッター、一定のアカウント年歴以下のチャッター、もしくは特定の期間ストリーマーをフォローしていないチャッターに対して認証済みチャットを適応するように切り替えることができる。これらの設定は、チャンネル自らが選択するまで、デフォルトではオフになっている。また、VIP、登録者、モデレーターが検証を回避できるような設定もある。二段階認証とは異なり、ユーザーは一度だけ電話や電子メールを認証するだけで、すべてのチャンネルで認証されたとみなされる。

Twitchのユーザーは、同じ電話番号に最大5つのアカウントを結びつけることができるが、1つでもチャンネルからBANされると、その電話番号または電子メールアドレスで認証されたすべてのアカウントもBANされることとなる。これは、1つの電話番号や電子メールで複数のヘイト用アカウントを作成することを防ぎ、ストリーマーが5回ではなく1回だけ誰かをブロックすればよいようにするためのものだ。サイト全体では、電話認証されたアカウントが停止されると、リンクされたアカウントも停止される。Google Voiceアカウントのように別の電話番号を使うこともできるが、悪質なユーザーにとっては追加の手間となるだろう。

Twitchコミュニティでは、特に黒人やLGTBQ+などの代表的なクリエイターが、Twitchのレイドシステムを通じた標的型の嫌がらせに直面しており、緊張感が高まっている。あるストリーマーがオフラインになると、他のストリーマーを驚かせるために、彼らのファンを「レイド」と称して別のチャンネルへ誘導することがある。この機能は、既存のストリーマーが新進気鋭のストリーマーをサポートするためのものだ。しかし、過去数カ月の間に、悪質なユーザーがレイド機能を利用してボットを送り込み、ストリーミング中のクリエイターを標的とした嫌がらせを吹き込むという事件が発生した。しかし、TwitchはTechCrunchに対し、このような大規模な標的型攻撃のほとんどは、実際にはレイドツールによって促進されたものではなく、プラットフォームはこの表現を口語的な誤称とみなしていると述べた。

Twitchは5月、性別、性的指向、人種、能力に関する350のチャンネルタグを新たに導入した。これは、より自分たちを代表するクリエイターを発掘したいというユーザーの要望によるものだ。しかし、タグを武器にして社会的に疎外されているストリーマーをターゲットにする人もおり、Twitchはこのハラスメントを抑制するための包括的なツールを十分に備えていなかった。一部のクリエイターは、一連のチャットコマンドを起動する「パニックボタン」など、独自の安全ツールを開発していたほどだ。これらのストリーマーは「#TwitchDoBetter」というハッシュタグでTwitchに対策を求めた。そして今月初め、LuciaEverblackShineyPenRekItRaven(このタグを始めた人)などのストリーマーが、1日かけてTwitchをボイコットする「#ADayOffTwitch」を開始した。

この#ADayOffTwitchアクションにはいくつかの要求が含まれていた。

参加したストリーマーたちは、入ってくるレイドをコントロールする機能を求め、Twitchに対して、年齢制限、Eメールの登録制限、包括的なハラスメント防止ツールの導入時期の共有などを求めた。その直後、Twitchは、ヘイトレイドに使用された何千ものボットアカウントに関連する2人のユーザーに対して法的措置を取った

今日の発表は、これらの要求の1つに応えるものだが、TechCrunchへのメールでTwitchは、ヘイトレイドがこれほど頻繁に起こるようになるずっと前から、電話を用いて検証されたチャットを開発、テスト、改良してきたと述べている。しかし、UserVoiceやAmbassadors Discordからのコミュニティのフィードバックも、今回の追加のきっかけとなった。Twitchはブログ記事の中で、他のチャンネルレベルのBAN回避ツールを近日中に展開すると語っている。また、ストリーマーには、友人やチームメイト、フォローしているチャンネルからのレイドのみを受け入れるオプションがすでに備わっているとも触れている。安全機能の導入時期は公表されていない。これは、Twitchが何を計画しているのか、どうすればそれを回避できるのかという情報を、悪質なユーザーに与えてしまう可能性があるためだ。

クリエイターは、「ダッシュボード」→「設定」→「モデレーション」と進み、これらの新しい設定にアクセスできる。モデレーターは、チャットの「モデレーション設定の管理」からアクセスできる。

画像クレジット:Kiyoshi Ota/ Getty Images

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(文:Amanda Silberling、翻訳:Akihito Mizukoshi)