2020年はちょっと違う、トランプが大統領選挙日にYouTubeの広告スペースの買収を計画中

ブルームバーグの記事によると、トランプ陣営は、2020年大統領選挙までの数日間、インターネット上でもっとも高価な場所を使用する権利を求めているという。

11月の初めから投票当日まで、トランプ陣営はYouTubeのマストヘッド、つまり同動画共有サイトの最上段のスペースを要求するだろうと伝えられてきた。現在YouTubeは、2018年にウェブのトラフィック量でFacebookに抜かれたものの、世界で2番目に人気の動画プラットフォームだ。ブルームバーグはその購入に関する詳細は伝えていないが、YouTubeのマストヘッドの使用料は1日約1億円とも言われている

トランプ陣営は、この広告スペースの購入によりトランプに批判的な評論家たちの心象をさらに悪くしそうだが、これに始まったことではない。2012年、Mitt Romney(ミット・ロムニー)氏が共和党候補者の指名を獲得する前に、オバマ陣営も同じスペースを購入している。トランプ陣営も初めてではなく、2019年6月にはYouTubeのバナー広告のスペースを購入し、最初の共和党討論会の間、持論を主張していた。

2019年6月、トランプ陣営がYouTubeに出した選挙広告のスクリーンショット(NPR/YouTube)

こうした前例はあるものの、2020年は、ハイテク企業への政治資金の流れ方がずいぶん違う。そこには、新たに導入された強力な監視の目がある。巨大ハイテク企業のプラットフォームは、現在でも11月の投票日に近づくにつれて、政治広告に対する各自のルールに磨きをかけているが、矛盾が解決されるにはほど遠く、政治とハイテク企業とのぎこちないダンスが続いている。

そんな流動的な状況は、ハイテク企業のプラットフォームに大量の資金を注ぎ込みたい選挙陣営に優位に働いている。Facebookは、2020年に選挙陣営から現金を浴びるように受け取っていながらも、誤解を招く主張を含む政治広告で稼ぐ意志があるかどうかについて、いまだに調査対象にある。なかでも注目すべきは、論争の的となっている大富豪Mike Bloomberg(マイク・ブルームバーグ)氏の立候補だろう。彼はこの30日間で、Facebookだけでも3300万ドル(約37億円)という大金を使っている。その政治広告に対するポリシーには異論が多いが、批判の的であるFacebookは、2016年アメリカ大統領選挙に関連する論争から生まれたツールである豊富な政治広告ライブラリを使って、そのプラットフォームがどのように運営されているかを、かなりの程度まで透明化した。

その反対側では、Twitterは政治広告を全面的に禁止した。現在は「合成的または操作されたメディア」というユーザーを欺くレッテルへの対処に追われている。それにより、つい最近のブルームバーグ陣営が改ざんした討論会の動画のような、候補者による無料投稿にフラグを立てることが可能になるかもしれない。Twitterは、自社のポリシーが抱える問題への対処を比較的オープンに行っている。ルールを石に刻むよりも、試行錯誤の道を彼らは選択したのだ。

Twitterとは違い、YouTubeは政治広告の掲載を継続するが、2019年、それがどのようにポリシーに抵触したかの説明もなく、トランプ陣営の300本もの広告がなぜか削除された。Googleも、一部のハイレベルな人たち(年齢、性別、郵便番号)にターゲティングした選挙広告の制限を発表した。この決定をトランプ陣営は「政治的発言に口輪をはめる」と批判した。こうしたマイクロターゲティングに対する強い姿勢にも関わらず、Googleの政治的ウソを容認するポリシーは、Facebookの何でもありのアプローチに近い。だがGoogleにはいくつかの例外がある。「国勢調査の方法に対する誤解を招く主張」と「選挙や民主主義的活動への参加意欲や信頼を大きく損なわせるウソの主張」の禁止だ。後者には、円形競技場ほどの巨大な解釈の幅がある。

近年、政治広告にまつわる批判が、ごく限定されたユーザーに向けるマイクロターゲティングに集中してきている。これは、現代のソーシャル・プラットフォームによって収集された膨大な個人情報が可能にした効果が高い技法であり、2020年の選挙活動を大いに支えている。2016年、トランプ陣営はそうした特別な技術を利用して大成功したわけだが、YouTubeの大きな広告スペースの購入は、あらゆる人に、インターネットで最上の場所にいるすべての人たちに向けた広告に、どれだけ効果があるかを見極める実験のひとつに過ぎない。

報道されているように、トランプ陣営が本当に広告スペースを買おうといているのかを質問したTechCrunchに対して、YouTubeは明言を控えたが、YouTubeのマストヘッドの購入は、選挙期間中は「普通にあること」だと答えていた。

「過去において選挙陣営、選挙活動委員会、その他の政治団体が、投票日近くになると、さまざまなタイプの広告を出します」と広報担当者は言う。「すべての広告主には同じ手続きをしていただき、その内容が我々のポリシーに違反しない限り、喜んでマストヘッドのスペースを提供しています」

画像クレジット:Photo by Michael Ciaglo/Getty Images / Getty Images

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(翻訳:金井哲夫)

ヘイトスピーチ、無言の脅迫、違反常習者に厳格に対応するYouTubeの反ハラスメントポリシー

YouTubeのCEOであるSusan Wojcicki(スーザン・ウォシッキー)氏は、先月発表した四半期書簡の中で、新たな反ハラスメントポリシーを検討中だと述べていた。米国時間12月11日、その努力の結果として、脅しや個人攻撃に対する毅然とした立場、有害コメント対策、違反常習者への厳しい対応を含む新しいポリシーが示された。

「ハラスメントは、意見を言いたい気持ち、他者とつながりたい気持ちを萎縮させ、私たちのコミュニティーに損害を与えます。私たちは、今回もまた、この改訂版ポリシーの策定の間に会ってくれたみなさんを含め、クリエイターたちから意見を聞いています」と、YouTubeの信頼グローバルヘッド副社長Matt Halprin(マット・ハルプリン)氏は発表の際に述べている。

YouTubeは、以前、ウォシッキー氏が表明していたように、今後もオープンプラットフォームであり続けると主張している。とは言え、ハラスメントは容認できない。そこで、YouTubeのクリエイターやコミュニティーをハラスメントから守るために、最善と思われるいくつかの対策を打ち出した。

今回のポリシー策定にあたり、YouTubeは、ネット上のいじめを研究する団体、ジャーナリストを代表する擁護団体、表現の自由を支持する団体、あらゆる政治的立場の組織など、幅広く専門家から意見を聞いた。

ポリシー改訂の第一段階は、無言の脅しに関するものだ。

今までYouTubeは、あからさまに人を脅す動画、知られたくない個人情報を晒す(ドキシング)動画、誰かをいじめるよう奨励する動画を禁じてきた。今回から、このポリシーに「無言の、または暗示的な脅し」も含まれるようになった。これには、個人に暴力を加えるふりをすること、物理的な暴力が発生すると示唆する言葉を使うことなどが含まれる。

YouTube Creators YouTubeのハラスメントを予防するようもっと努力せよと、大勢のみなさんから意見をいただいてきました。そこで、クリエイター、専門家、団体などから幅広く話を聞き、ハラスメントに関するポリシーの変更を検討し、本日、改訂となりました。詳しくは下のリンクを
YouTube Creators 人種、身体的特徴、性的指向、宗教、性別など、人の固有の特性を長期にわたり中傷する言葉の暴力には厳格に対応。ただしこれは、幅広い芸術表現や重要な課題に関する議論などに対する我々のオープンな姿勢には影響しません

新しいポリシーでは、保護された特性、つまり、人種、性別表現、性的指向、宗教、身体的特徴に関して人に「悪意をもって侮辱する」言葉も禁じている。

そこは、YouTubeが特に強く批判されてきた領域だ。最近では、Steven Crowder(スティーブン・クロウダー)論争がある。保守系コメンテーターであるクロウダー氏は、ジャーナリストのCarlos Maza(カルロス・マザ)氏のことを話すたびに、繰り返し、人種差別的、同姓愛者嫌悪的な言葉を使っていた。

YouTubeはそのチャンネルの広告による収益化を停止(デマネタイズ)したが、動画はポリシーに違反していないと主張していた。しかし後に、この件に関するポリシーの見直しを行うと宣言した。

YouTubeのオープンな性格は、今月も、ウォシッキー氏が米国の伝統的なニュース番組60 Minutes(シックスティー・ミニッツ)でこのYouTuberのためのプラットフォームのポリシーを擁護したことから問題視された。

記者のLesley Stahl(レスリー・ストール)氏が的確に指摘してように、YouTubeは民間事業であるため、表現の自由を保障した米国憲法修正第1条の法的な影響を受けない。すなわちYouTubeは、そのプラットフォームでは何が許され何が許されないかを独自のルールで規定できるということだ。しかし、YouTubeは長年にわたり、白人至上主義者が人々の教化に利用したり、陰謀論者が怪しい陰謀説を言い触らした結果、ピザゲートのように実際の暴力事件に発展することがあっても、憎悪に満ちたコンテンツや偽情報の拡散を許すプラットフォームのデザインを堅持してきた。

特にYouTubeは、このポリシーは、一般個人、YouTubeクリエイター、さらには“公務員”など、すべての人に適用されると話している。この件に関しては、Twitterのポリシーとは対照的だ。Twitterでは、ルールに反する公務員のツイートは削除されないが、わざわざクリックしなければ読めない場所に隠される。

もうひとつの大きな変化は、必ずしも一線を越えていなくても、規約に違反していなくても、反ハラスメントポリシーに何度も「かすってくる」ような動画には強い態度で臨むという点だ。

つまり、動画でもコメントでも、日常的に他人を侮辱するようなクリエイターは、YouTube パートナープログラム(YPP)の資格が停止される。これにより、態度が不適切であったり、広告主に対してブランドセーフティーではない動画のクリエイターにYouTubeが対処できるようになる。さらに、YouTubeはこの規則の解釈に応じて、個別に、折に触れて、聴取できるようになる可能性もある。

クリエイターのYPP資格の停止はひとつの段階だ。それでも他人へのハラスメントが止まらないときは、そのクリエイターには警告が発せられるようになり、やがてはチャンネルを削除することになるとYouTubeは話している。

もちろん、YouTubeはこれまでもチャンネルのデマネタイズという罰則を加えていたが、今回、正式なポリシーとしてこの対応がしっかりと明文化されたわけだ。

はっきりしないのは、どのようにしてYouTubeはボーダーライン上にあるチャンネルに対するルールを規定し実施するかだ。ゴシップのチャンネルは規制されるのか?反目し合うクリエイターたちには影響するのか?こうしたルールは自由に解釈できるため、今はまだ不明だ。

YouTubeでは、コメント欄で展開されるハラスメントへの対応も変更すると話している。

クリエイターも、動画を見る人も、コメント欄でハラスメントに遭遇すると、標的にされた人が嫌な思いをするだけでなく、会話が冷めてしまうとYouTubeは言う。

YouTube Creators ハラスメントが招く結果:ハラスメントはひとつの動画に留まりません。同じ人に対して複数の動画やコメントで悪意ある攻撃を続ければ、罰則、YYP資格停止、警告、削除につながります
YouTube Creators コメントのモデレーション:年末までに、ほとんどのチャンネルで、不適切と思われるコメントを自動的に審査に送るツールが適用されます。このオプションはいつでも無効にできますが、事前に利用した人たちは、チャンネル上のコメントのフラグが75%減少したと話していることに注目してください

先週、YouTubeの最大級のチャンネルで、有害と思しきコメントをデフォルトで自動的に審査に送る機能が新たに適用された。年末までに、この機能をすべてのチャンネルにデフォルトで適用する予定だ。クリエイターはこのオプションをいつでも解除できるが、有効にすれば、有害かどうかを自分で判断できない人でも、保留されたコメントをまとめて除外できる。

YouTubeによれば、この機能の開始早々の結果は良好だという。各チャンネルでは、ユーザーがフラグを付けたコメントが75パーセント減少した。

YouTubeは、この機能の判断が論争を招くことにもなりかねないと認識し、クリエイターたちに、誤った判断が下されたと感じた場合に再検討を申請できる制度の周知に努めている。

「これらの改訂を行っても、YouTubeが人々がさまざまな考えを表現し合う場所であり続けることは極めて重要です。公益に関する議論や芸術表現を今後も守っていきます」とハルプリン氏。「そしてそうした議論が、誰もが参加しやすく、誰であっても身の危険を感じることがない形で展開されることを信じています」。

このポリシーは紙の上では立派に見えるが、実施に関してはこれからのYouTubeの最大の課題となる。YouTubeには、問題のコンテンツを審査する人間が1万人いる。しかし、これまでは何が“有害”かの基準が非常に狭かった。今回のポリシーの強化により、YouTubeの口約束ではなく、現実の行動がどう変わるかはまだ不透明だ。

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(翻訳:金井哲夫)