MITがカメラを使わずに個人のバイタルサインを遠隔監視する技術を開発、介護施設での活用に期待

MIT(マサチューセッツ工科大学)の研究チームは、対象者のバイタルサイン(生命兆候)を、接触型センサーやウェアラブル機器を使うことなく、周囲にすでに存在する無線信号を使用して観察するシステムを開発している。MITのコンピュータ科学・人工知能研究所(CSAIL)を拠点とするそのチームは、システムをさらに改善し以前観察した個人を特定し、時間の経過とともに記録するしくみを開発した(CSAILリリース)。個人情報とは一切関連付けないためプライバシーは守られている。

「RF-ReID」と呼ばれる新技術の特徴は、老人ホームや長期介護施設などで共同生活している高齢者を、個人単位で経時観察できる点だ。個人の状態を経時的に観察できることは、基準となる健康状態からの変化を観察、検知する上で極めて重要だ。

医療施設では患者の生命兆候を経時的に観察するためにさまざまな方法を用いているが、深刻な限界に遭遇することがある。カメラはプライバシーへの配慮が十分とはいえず、個人を時間とともに識別する上でも、衣服の違いといった外見のわずかな変化に依存するため限界がある。従来の遠隔監視装置が利用する個人の記憶と一貫性に頼っているのに対して、MIT CSAILのシステムは使用する個人によらず動作する。

開発者によると、RF-ReIDシステムは新た加わった個人の身体的動作を10秒弱見るだけで識別する。体の大きさ、歩く速さと足取りなどを、周囲に存在する無線信号を使って推測する。

システムは個人を特定する情報や履歴を必要としないため、プライバシーが保護された監視システムの基礎となりうるものであり、介護施設で新型コロナウイルス(COVID-19)感染者が出た場合に、介護福祉士が隔離や検査を行うのにも役立つことが期待できると研究チームは言っている。

画像クレジット:MIT CSAIL

[原文へ]

(翻訳:Nob Takahashi / facebook

MITの小さな人工脳チップがモバイルデバイスにスパコン並みの能力をもたらす可能性

MIT(マサチューセッツ工科大学)の研究者が新しいタイプの人工の脳内シナプスに関する論文を発表した(MIT論文)。既存バージョンに比べてパフォーマンスが向上するという。物理的には紙吹雪の一片よりも小さいチップ上で数万単位の組み合わせが可能だ。小型で省電力仕様でありながら、複雑なAIコンピューティングをデータセンターに接続せずローカルで処理できるデバイスの作成に役立つという。

研究チームは「メモリスタ(次世代不揮発性メモリ)」を作った。シリコンによる脳内シナプスのシミュレーションだが、構造には銀と銅の合金も使用した。完成したのは画像を何回もしっかりと非常に詳細に「記憶」し、思い出せるチップだ。以前に登場した他のタイプの脳回路のシミュレーションよりも鮮明で詳細な「記憶」画像が得られた。

チームが最終的に目指すのは大規模で複雑なニューラルネットワークを人工で再現することだ。現在は、かなりのGPUコンピューティング能力を要するソフトウェアをベースとしているが、これを専用のハードウェアとして携帯電話やカメラなどの小型デバイスで使えるようにする。

従来のトランジスターは0と1の2つの状態のみ切り替えられる。これが現代のコンピューターの基礎を形成している。メモリスタはその中間の値も利用する点で、元祖アナログコンピューターである脳によく似ている。また状態を「記憶」できるため、同じ受信電流に対し同じ信号を何度も簡単に再現できる。

ここで研究者らが行ったのは、金属工学の概念からの借用だ。金属工学者がある金属の特性を変更したいとき、望ましい特性を持つ別の金属と組み合わせて合金を開発する。同様に彼らは、非常に薄い伝導チャネルでもイオンを一貫して確実に転送できるよう、メモリスタの正極に使う銀との組み合わせが可能な元素を発見した。

これが数万のメモリスタから成る超小型チップの作成を可能にした。「メモリ」から画像を確実に再現できるだけでなく、細かいところを改善したり、元の画像をぼかしたりするなどの推論タスクも実行できる。これまでの科学者が開発したメモリスタより性能が高い。

まだ先の話だが、プロジェクトチームが究極的に示唆するのは、ネットワーク接続がなく電力も最小限といった環境で、今日のスーパーコンピューター並みの能力で非常に複雑なタスクを実行できるポータブルな人工脳コンピューターに発展する可能性があるということだ。

画像クレジット:Getty Images

[原文へ]

(翻訳:Mizoguchi

人間の動きと連動してバランスを保つパシフィック・リム的ロボ

人間の手を介さずに作動する自律型ロボットは注目を集めているものの、実用化にはまだ距離がある。 例えば、二足歩行ロボットが倒れるのを防ぐには人間並みの俊敏な反射が必要になる。では人間は正確にいってどんな反射運動をしているのだろう?これが現在研究者の実験の重要なテーマとなっている。

人間が二足歩行である以上、その環境内で動き回るにはロボットも二足歩行が適している。しかし四足歩行や車輪移動のロボットよりも転倒や落下をしやすい。直立状態を維持するためには高度なアルゴリズムが必要だが、状況によってはアルゴリズムだけでは不十分だ。

MIT(マサチューセッツ工科大学)とイリノイ大学シャンペーン校では、人間とロボットのハイブリッド・システムを研究している。読者は「パシフィック・リム」、あるいは「ヱヴァンゲリヲン」、「ロボ・ジョックス」を思い出すかもしれない。

「なるほどパシフィック・リムはSFだが、ハイブリッドシステムの必要性は高い」と共同研究者のMITのSangbae Kim(キム・サンベ)氏、イリノイ大学のJoão Ramos(ジョアン・ラモス)氏は説明する。イリノイ大学のプレスリリースでラモス氏はこう述べている。

「このロボットを開発した動機は、2011年の日本の東北大地震による災害の状況を見たことだ。例えば、災害発生直後にロボットが原子力発電所に入ることができたら事態は異なっていただろうと我々は感じた」。

製作されたロボットはLittle Hermesという小型の二足歩行ロボットだ。感圧板の上に立って感圧フィードバックベストを身に着けた人間のオペレーターの動きと連動し、インプットを受け取る。ベストは双方向に力のかかり方を伝えることができる。

hermesロボットの動作は操縦者の動きに従うが、必ずしも人間の動作に1対1に対応しない。ロボットは人間よりも小く、重心の動き方も異なるからだ。しかし力学的に動作を解釈するとほぼリアルタイムで求められた動作をする。下のビデオとMITの記事でもう少し詳しくわかるはずだ。

ロボットが予期しない傾斜や障害物に遭遇した場合、そうした力はベストを介して人間のオペレータに伝えられる。 オペレーターは左向きの傾きを感じたら人間の二足歩行能力を生かし、反射的に体勢を安定させる方向に踏み出す。ロボットも同じ動作を行い自らを安定化させる。

このフィードバックループにより、災害現場でのレスキューロボットやその他困難な環境でのロボットの動作の信頼性が高まるはずだ。研究チームは、Little Hermesの脚と同様のフィードバックシステムを腕や手にも適用することでロボットの能力向上を図ろうととしている。

論文はScience Roboticsに掲載されている。

原文へ

(翻訳:滑川海彦@Facebook

MITメディアラボがスキャンダルで消滅したら我々は本当に困るのだろうか?

マサチューセッツ工科大学(MIT)出身の友人が「メディアラボは再建できるのかどうかわからない」と書いてきた。これは例のNew Yorkerに掲載された暴露記事を指している。この記事で自殺した富豪のジェフリー・エプスタイン氏とラボのディレクターである伊藤穰一氏が、それまで認めていた内容よりさらに密接な関係があったことが発覚した。伊藤氏はただちに辞任し、メディアラボを巡っては大揺れが続いている。

メディアラボはテクノロジー世界で長い間、奇妙な位置を占めてきた。 自身のパンフレットによれば「それぞれ無関係な分野と考えられてきた研究を非伝統的なやり方で大胆にミックスことにより学際的文化を積極的に追求し、さまざまな境界を超越していく」と述べている。最初期にはメディアラボは社会的不適合者の集まりと見られることもあった。メディアラボのモットーは「デモか死か」であり、なにか動くものを作ることに最大の重点が置かれていた。

もちろん「社会的不適合者の集まり」だという考え方はすぐに改められた。スーパーエリートの集まるプレステージの高い組織とみなされるようになった。カウンターカルチャーと貴族主義の最高の人材が奇妙な具合に入り交じっていた。予算も2009年の2500万ドルから2019年の7500万ドルへと3倍に増えた。インフレ調整済みドル平価で計算すると1986年の創立以来10億ドルが投じられたとみてよい。

メディアラボはアカデミズムの組織でありながら同時にビジネス志向でもあると主張していた。しかし次のような点を考えてみよう。

  1. 創立は1986年であり、ムーアの法則がフルに威力を発揮し始めた時期だ。テクノロジービジネスは指数関数的な急激な成長を始めた。
  2. テクノロジーで世界最高のアカデミズムと自他ともに認める大学に設置された。
  3. ベスト・アンド・ブライテストな人材をよりどり集めることができた。
  4. この30年で10億ドルの予算を使った。

こうした要素を考えればメディアラボは…正直に言おう。「はるかに大きな成果を挙げてもよかった」のではないか?

メディアラボが達成した成果は驚くほど乏しい。こちらはスピンオフ企業のリストだ。トリビアクイズをしてみよう。この33年間のメディアラボの歴史で買収、合併なしに自力で株式を上場したスピンオフ企業は何社あるだろうか? 私が調べたかぎりでは、たった1社だ。しかも成功したのかというと、その判断にはかなりの疑問符がつく。Art Technology Groupが実際にソフトウェアを発表し始めたのはスピンオフ後6年もたってからだった(当初はコンサルタント企業だった)。株式公開は最初のドットコム・バブル時代で、後にOracleに買収されている。

もちろん自力上場に至らなくてもよく知られた企業はBuzzFeedなど何社かある。ビデオゲームのHarmonix、後にUpworkになってから消滅したElanceはギグエコノミーのパイオニアと考えられないこともない。 Jana、Formlabsk、Otherlab、Echo Nestというのもあった。それぞれに優れた着目の会社だと思うが、個人的な知り合いが関係していたという場合を除けばメディアで評判を聞いた記憶がない。
OLPC(すべての子供にラップトップパソコンを)は10年前に評判になったが今は誰も覚えていない。メディアラボの決定的な成功はE Inkだったが、1996年のことだ。

もちろんそれぞれ「なかなか優れた業績」には違いない。しかしメディアラボに対する我々の期待と比較すると乏しい成果だ。ベル研でもXerox PARCでもないのは言うまでもないが、Y Combinatorでさえない。しかも私はシリコンバレーの大半の人間とくらべてYCには冷淡なほうだ。

オーケー、なるほどスピンオフ企業が成功したかどうかは適切な判断基準ではないかもしれない。問題はメディアラボそのものの業績だという議論はあり得る。ではメディアラボ自身によるトップ30の業績 (PDF)を検討してみよう。E Inkが23年前の話だというのはすでに書いたが、これを別にすれば、テクノロジー世界に決定的な影響を与えた事例は見当たらない。すべてニッチな発明だ。世界に与えた影響はどこにあったのか?

我々の期待が高すぎたのか?

メディアラボは地道な業績よりカッコよさと派手なシズル感ばかり狙っているという批判は以前から出ていたし、最近も出ている。この記事は「パーソナル・フード・コンピュータは農業に革命をもたらすという触れ込みだが、実態は煙と鏡(手品)だ」と評している。この記事は初代ディレクター、ニコラス・ネグロポンテ氏を皮肉ったパロディーで、1990年代に書かれたものだ。しかし実際に読んでみれば、メディアラボの問題が非常に根深いことに気づくだろう。

お仲間支配の金権政治が実態だったという元メディアラボの研究者の証言が当たっているのかもしれない。建前にとどまらず、本当に能力が高くイノベーティブな人々を出身やコネを無視して集めていたら事態は違っていたかもしれない。そうであるフリをしていた目標にもっと近い成果を挙げられたのではないだろうか。

原文へ

(翻訳:滑川海彦@Facebook

MITがインリュリン内服カプセルの実験に成功、糖尿病患者の福音を目指す

2型糖尿病でインリュリン投与を必要とする患者は現在のところ注射に頼るほかない。内服可能なインリュリンカプセルは糖尿病医療における聖杯だった。この点でMIT(マサチューセッツ工科大学)の研究グループが重要な一歩を進めたようだ。これは乾燥インリュリンを詰めたブルーベリーの実サイズのカプセルだ。

患者がカプセルを飲み込むと、水分で砂糖の円盤が溶け、フリーズドライされた針状のインリュリンがスプリグで射出される。針は胃壁に刺さるが、胃の粘膜には痛点がないため、患者が痛みを感じることはない。その後、インリュリンの針は溶けて吸収される。

重要なのはカプセルが飲み込まれた後、胃の中で正しい姿勢を保つ点だ。実はこのカプセルの形状はカメの甲羅にヒントを得たのだという。MITのブログによれば、こうだ。

自動的に胃壁に正対するカプセル形状はヒョウモンガメの甲の形状からからヒントを得た。このカメはアフリカに生息し、甲は急傾斜のドーム型をしているため、ひっくり返されても起き上がることができる。胃の中のような複雑な状況でもカプセルが正しい姿勢を取れるよう研究グループはコンピューター・モデリングによってこの形状を研究した。

現在研究グループは豚でテストを繰り返し、 3ミリグラムのインシュリンの投与に成功している。処方箋を得て薬局で購入可能になるまでどのくらいかかるかについてはまだ情報がない。

原文へ

滑川海彦@Facebook Google+