ライフイズテックがディズニーと手を組んだ新教材を発表、販売価格は約12万円

中高生向けプログラミング教育事業を展開するライフイズテックは3月6日、ウォルト・ディズニー・ジャパンとライセンス契約を結び、ディズニーの世界を楽しみながらプログラミングを学べる「テクノロジア魔法学校」を開発したと発表した。同サービスのリリースは2018年4月21日を予定している。

2010年7月創業のライフイズテックはこれまで、春休みや夏休みを利用した3〜8日間のプログラミング教育キャンプ「Life is Tech!」や、オンラインでプログラミングを学べるSNS「MOZER(マザー)」の開発などを手がけてきた。2014年8月にはリクルートなどから総額3億1000万円を調達したほか、プロサッカー選手の本田圭佑氏は自身の投資先1号として同社を選んでいる。そのライフイズテックが次にリリースするのが、ディズニーとのコラボ教材だ。

テクノロジア魔法学校と名付けられた本教材では、魔法学校を舞台にしたオリジナルメインストーリーと、「アナと雪の女王」や「アラジン」など13のディズニー作品をテーマにしたレッスンでプログラミングを学習できる。

言語はJavaScript、HTML、CSS、Processing、Shaderなどに対応していて、メディアアート、ゲーム制作、Webデザインなどのカテゴリーを総合的に学ぶことが可能だ。合計100時間分の学習コンテンツが用意されていて、週1回2時間の学習で約1年間学ぶことができる設計となっている。

ライフイズテックは本教材を公式サイトで販売するほか、150店舗以上の家電量販店に展開する予定。販売価格は12万8000円だ。

テクノロジア魔法学校の販売価格を月あたりで計算すると、約1万円になる。ライフイズテックがもともと2018年春頃までに正式版リリースを目指していたMOZERは、「1コース月額1500円から」という価格での提供が想定されていたので、かなり“攻めた“価格設定と言えるのかもしれない(もちろんライセンス料を考慮する必要はあるが)。

2020年に必修化されることが決まり、ここ数年で世間からの注目が急速に高まりつつあるプログラミング教育。この分野に対し、教育熱心な親世代は果たしてどれだけの支出を許容するのだろうか。

専門のメンターがつくプログラミング学習サービスのなかには、10万円単位の授業料が発生するサービスもある。例えば、プログラミングブートキャンプ「TechAcademy」の料金は4週間で約13万円だ(社会人の場合)。

その一方で、人間のメンターなどはつけず、完全なオンライン教材という形に特化したサービスのなかには月額数千円ほどの価格帯で提供するものもある。テクノロジア魔法学校はこのタイプのオンライン学習サービスとして分類できるだろう。今回の場合は「ディズニーとのコラボ」というバリューを上乗せした、高価格帯のオンライン教育サービスがどれだけ受け入れられるのだろうか。テクノロジア魔法学校の売れ行きの動向は、ライフイズテックと同じくオンライン教材を提供する競合他社からの注目も集まりそうだ。

サッカー本田の投資1号は教育―、中高生向けプログラミング教育のライフイズテックが7億円を調達

中高生向けのプログラミング教育事業に取り組むライフイズテックが創業した2011年といえば「プログラミング」に対する世間の見方は今とは全然ちがうものだった。今でこそ小学校でのプログラミング必修化の流れがでてきているが、5年前は違った。「創業当時はIT業界にはプログラミング教育への理解はありましたが、教育業界ではプログラミングと言っても『オタクになっちゃうでしょ、やめなさい』という声が聞こえたりするくらいでした」。共同ファウンダーでCEOの水野雄介氏は、そう振り返る。

5年前といえばiPhoneが日本で売りだされて2年目。その後、スマホが広く普及して一般の人がアプリやネットサービスに触れる機会が増え、諸外国での教育改革が進んだことなどもあって、近年プログラミング教育への関心は高まっている。

そんな時代背景のなかライフイズテックは今日、伊藤忠テクノロジーベンチャーズジャフコ電通デジタル・ホールディングスベクトルMisletoeKSK Angel Fundなどから総額約7億円の資金調達をしたこと明らかにした。2012年にサイバーエージェントからシード投資として1000万円、その後2014年8月にシリーズAとして3.1億円を調達していて、累計調達額は約10億円となる。今回のラウンドに参加しているKSK Angel Fundはプロサッカー選手本田圭佑氏のファンドで、これが第1号の投資案件となる。

lifeistechtopスクール、キャンプ、オンラインの3つの形態

ライフイズテックには3つの形態がある。年間通して教室に通う「スクール」、春休みや夏休みに3~8日間の合宿スタイルでプログラミングを学ぶ「キャンプ」、それからブラウザでゲームを通してサイト作りやコーディングの基礎を学ぶ「オンライン」だ。

オンライン教育といえば大学がカリキュラムを広く公開する、いわゆる「MOOCs」(ムークス)がかつて話題になったが、当初期待されたほど世の中にインパクトを出せていない。ライフイズテック共同創業者の小森勇太COOは、次のように言う。「MOOCsはうまく続きません。もともとモチベーションの高い大人はできますが、中高生は無理。だからこそゲームなんです」。

ライフイズテックが6月に開始した「Mozer」(マザー)は、キャラクターがブラウザ上を動きまわってWebサイトの仕組みを教えつつ、実際にユーザーにHTMLを書き換えさせるゲーム仕立てのオンライン教材だ。ライフイズテックでMozerを作ったのは、元スクエア・エニックスCTOだった橋本善久CTO。秋には「進撃の巨人」とのコラボで、さらにゲーム色を高める。

スクールからオンラインへ重点をシフト

スクール、キャンプ、オンラインと3形態あるうち、今回の資金調達で加速させるのはオンライン教育だ。これには次のような背景がある。

ライフイズテックのスクールの月謝は1万8000円で、現在受講生は約500人。東京、横浜、名古屋、大阪、福岡で開講している。秋には秋葉原にもスクールを開講するなど拡大はしているものの、スケールさせるのは難しい。2014年夏に校舎の7割を閉鎖した代々木ゼミナールの生き残りの戦略転換が象徴的だが、塾ビジネスで不動産価格に見合う収益性で継続運営するのは簡単ではない。ライフイズテックの東京白金校は、本社オフィスの半分と兼用とすることで純粋な塾ビジネスとは違う不動産活用をしている。

現在の売上比率でいうと、スクールとキャンプがそれぞれ4割と6割。ひと夏だけで3500人程度が参加して、5日間のキャンプで1人当たり6万7000円のキャンプのほうが収益を上げやすいのだという。キャンプには延べ2万人が参加していて、リピーターも多い。ちなみにキャンプは全国15大学のキャンパスで開催していて、近隣の宿に泊まるケースと、近所から通うケースがある。成果発表には保護者も参加する。

水野CEOは「スクールはアップルストアのような位置付けにしていく」という。アップル全体の売上から言えば、アップルストアの売上が占める比率は微々たるものだ。しかし、ショーケースやユーザー接点として極めて重要な役割を果たしている。ライフイズテック東京白金校は交通量も人通りも比較的多い明治通りの古川橋交差点にあって、カラフルな彩りの窓を通して外から中の様子が見える。

スクールやキャンプよりもオンラインに力を入れていく背景には、地域格差・教育格差を埋めていきたいという水野CEOの考えもある。「キャンプでは地域格差を埋めづらい」ことからキャンプの楽しさをオンラインへ適用していくのだという。

女子比率4割、「楽しい」雰囲気作りのノウハウをネットに

ライフイズテックのキャンプは参加者の4割が女子だ。「女子中高生が来やすい雰囲気作り、コンテンツ、ブランディングには気を付けています」。最初にカラフルなTシャツを参加者に着せるようにして帰属意識を感じさせ、周囲の参加者の興味や人柄が分かってチームで制作物に取り込むときの心理的障壁を取り除かせるなど、「5年かけて作ってきたワークショップのノウハウには自信がある」(水野CEO)という。

ライフイズテックにやってくる子どもたちは、放っておいても一人でプログラミングを学ぶような子どもと限らない。むしろ、親に言われて最初は何となくやってくる子どもが多いそうだ。「ふらっと来ている子たちの熱量を上げていくノウハウというのがあります。パソコンを教えているというより、場所を用意して、創作したくなるような環境を提供しているんですね。地べたに座ったり、教室の後ろのほうで作業している子どもたちがいて、参加者全員が好きな時間を過ごしている。そんな理想の教室というのがあります。雰囲気が良いと作品のクオリティーが上がるんです。学びはモチベーション。それがすべてです。また参加したくなる楽しい体験であるかどうかが大切です」(小森COO)。

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オンライン教材のMozerは今のところ無償で学べるHTML講座という感じだが、作って学び合うSNSのようなものへ進化させていくという。プロジェクト管理ができて、進捗が互いに見えたりするようなものだそうだ。学び合うプログラミングのSNSといえば、MITメディアラボ発のビジュアルプログラミング言語Scratchが想起される。Scratchのサイトは「子どもたちのGitHub」といえるほどの発展と活況を見せている。そのまま適用できるとは考えづらいが、今後ライフイズテックがキャンプ運営の経験とノウハウを活かして、Mozerをどう発展させていくのか注目だ。

「デジタルなものづくりでもイチローみたいな世界で活躍するヒーローを産みたいんです。物が作れるってかっこいいよね、という文化。デジタルものづくりのヒーローが生まれてくると文化が変わってくると考えています」(水野CEO)

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ライフイズテック共同創業者でCEOの水野雄介氏(右)と、同COOの小森勇太氏(左)