軌道上で設定変更可能で機械学習に最適化されたXilinxの宇宙規格チップ

宇宙に特化した半導体メーカーのXilinx(ザイリンクス)が開発した、宇宙空間や人工衛星で利用可能な新型プロセッサーは、いくつもの点で世界一を誇っている。宇宙向けとしては初めての20nmプロセスを実現し、演算能力と省電力性を高めている。そして、ニューラルネットワークをベースにした推論アクセラレーションによる高度な機械学習に対応する性能を備えたのも初めてだ。

このプロセッサーはFPGA、つまり基本的にユーザーが設定を変更できるハードウェアなので、必要に応じて調整が行える。機械学習の面では、演算命令実行回数が「深層学習に最適化したINT8のピーク性能」で最大5.7TOPS。これは、ひとつ前の世代と比較して25倍もの性能アップだ。

Xilinxの新しいチップは、いくつかの理由で人工衛星市場で多大なポテンシャルを発揮できる。ひとつには、プロセッサーのサイズが格段に小さくなったことだ。同社がこれまで作ってきた耐放射線チップは65nmプロセスのみの提供だった。つまりこれはサイズ、重量、電力消費量における大幅な改善を意味する。このどれもが、宇宙での使用を語る際に非常に大切な要素となる。何故なら人工衛星は、打ち上げコストと宇宙空間で使用する推進剤の必要量を減らすために、できるだけ小さく軽く作る必要があるからだ。

もうひとつは、書き換え可能であるため軌道を周回するアセットは、必要に応じてプログラム変更をして別の仕事にあたらせられることだ。その仕事に今回、機械学習アルゴリズムのローカルでの処理が加わった。つまり理論的には、例えば雲の密度と気候パターンを追跡するよう設定された地球観測衛星を、森林破壊や鉱物の露天採掘を推論させる衛星に変更することが可能だ。また、市場の需要が大きい地域に衛星を集合させたい衛星コンステレーションの運用にも、大きな柔軟性をもたらす。

Xilinxのチップはどれも、地上で使うものといろいろな点で異なっている。前述の耐放射線性能もそのひとつだ。また、パッケージは分厚いセラミックでできており、激しい振動といった外部からのストレスが加わる打ち上げ時にも、空気がないために放射線や温度の点で過酷な環境にさらされる軌道上でも、確かな耐久性を確保できるように作られている。

[原文へ]
(翻訳:金井哲夫)

米空軍が人工衛星に侵入するハッカー募集、嘘のような本当の話

人工衛星の写真

米空軍は、昨年のDEF CONセキュリティコンファレンスで、ハッカーたちを募ってF15戦闘機のシステムに侵入させた。その結果、驚きの発見だけでなく泣きたくなるようなひどい現状を目の当たりにした。

ハッカーたちがバグを見つけるために戦闘機のシステムに侵入することを許されたのは、このコンファレンスが最初だった。7人のハッカーで構成されたチームはわずか2日間で、膨大な数の脆弱性を見つけた。この脆弱性が実際に悪用されていたら重要な戦闘機データシステムが破損し、計り知れない壊滅的な被害を受けていた可能性がある。この結果は米空軍が切実に助けを必要としていることを物語ってもいた。

「昨年のDEF CONに参加してみて、この国には、これだけ優れたサイバー専門知識を持つ膨大な人材に恵まれており、米空軍にはそうしたスキルが決定的に欠けていることを認識した」と米空軍の調達・技術・後方支援担当次官補のWill Roper(ウィル・ローパー)氏は語る。調達部門のトップである同氏は、米空軍が製造するすべての人工衛星の管理権限を持つ。米空軍はこれまで、敵国のスパイ活動や破壊工作を恐れて、軍のシステムとテクノロジーのセキュリティを完全極秘扱いにしてきた。まるで「冷戦時代の慣行から抜け出せていないかのようだった」と。

「しかし、今の世界では、そのようなやり方は情報セキュリティーに取り組む最善の姿勢とは言い難い。脆弱性があることを明かしていないからといって、戦争になっても安全だということにはならない」と同氏は続ける。

昨年のDEF CONでの成功を受けて、同氏は今年ラスベガスで開催されるDEF CONでもセキュリティ研究者たちの参加を募る予定だ。今回は、軌道を周回している本物の人工衛星をハッキングしてもらうという。

以前は、潤沢な資金と勇敢な決断力を持つ国だけが宇宙に進出できた。ここ数十年の間、人工衛星を宇宙に打ち上げられるだけのリソースを持つ国はほんのひと握りしかなかった。しかし、現在では、多くの民間企業が自社の人工衛星を打ち上げるようになり、宇宙はかつてないほど混み合っている。宇宙は今や、民間企業も平等に参入できる分野であるだけでなく、敵国が未来の戦場として使う可能性がある場所でもある。

上空数十kmのところにある人工衛星は安全と思えるかもしれないが、実際には非常な危険にさらされているとローパー氏は指摘する。「直接上昇方式の衛星攻撃兵器を打ち上げて衛星を破壊し動作不能にすることや、指向性エネルギー兵器を使って衛星を機能不全にしたり地上からの重要な情報を収集する部品を破壊したりすること、また、衛星の通信信号を妨害して意思決定者間で必要な情報の伝達が行えないようにすることも可能だ」とのこと。

しかも攻撃対象は周回軌道上の人工衛星だけではない。同氏によれば、地上局および地表と衛星間の通信リンクも、衛星本体と同様に攻撃を受ける可能性があるのだという。「我々は、サプライチェーンや組み立て部品供給企業から調達した部品を介して軍のシステム内にバグが忍び込んでいることを知らない。戦闘機や人工衛星でも状況は同じだ。存在自体を認識していないのだから、確認する方法も分からない」と説明する。目的は既存のバグを修正することだけではない。サプライチェーンを強化して、新しいバグの侵入を防ぐ必要もある。

そして同氏は「状況は切実だ。どうしても助けが必要だ」と訴えた。米空軍は、局長であるBrett Goldstein(ブレット・ゴールドスタイン)氏が「国防総省のコンピュータおたく特殊部隊」と呼ぶDefense Digital Serviceの協力を得て、Hack-a-Satというプログラムを考え出した。これはハッカーとセキュリティ研究者を募って、敵国が悪用したがるようなバグや欠陥を見つけてもらう宇宙セキュリティプログラムだ。

米空軍では特定用途化されたクローズド型システムを使うことが慣例になっていることを考えると、これは大きな方向転換である。半オープン型システムに切り替えることにより、衛星テクノロジーをより広範なコミュニティに公開でき、同時に、最高機密に属するテクノロジーへのアクセスは軍内部にいる少数精鋭の専門家とエンジニアだけに制限できる。

「実際に軌道上を周回している軍の衛星をハッキングの対象として許可するよう上層部を説得するのが予想以上に簡単だったことに驚いた」と国防長官の直属の部下であるゴールドスタイン氏は言う。「プログラムの実施にも空軍の協力についても多方面から支援が得られた」と付け加えた同氏に、ローパー氏も「愚かにも現実逃避して、脆弱性を抱えたまま戦争状態に入り、操作員がそんなシステムを使う羽目になるよりも、事前に脆弱性について知っておいたほうがよい」と言って同意した。

両氏とも、人工衛星のハッキングは選び抜かれた精鋭に行ってほしいと話す。最高のハッカーを見つけるため空軍は現在、来月行われる予選について発表した。予選では、研究者に「flat-sat」(フラット衛星)をハッキングしてもらう。flat-satとはテスト用衛星キットのことで、DEF CONで軌道周回衛星をハッキングするために必要な技術的センスとスキルを備えた人材を探し出すことを目的とする。

次ラウンドおよび最終ラウンドまで勝ち抜いた参加者が、地球の周回軌道上を動く本物の人工衛星のハッキングを行う。

「カメラを内蔵した衛星をハッキングして、そのカメラを月の方向に向かせることができるかどうかを見る。文字どおりのムーンショット(moonshotという言葉には、困難だが成功すれば大きな効果をもたらす試みという意味もある)になる予定だ」とローパー氏は語る。

結果がどうなるかは誰にもわからない。「ハッカーたちが最終的に見つけたものを公開できるようにしたい」と両氏は言う。ただ、このハッキングにより、軌道上にある衛星の実際のセキュリティバグが発見される可能性があるため、軌道上での壊滅的被害を回避するには、米空軍が重要情報を保持する必要があるかもしれない。

本記事の執筆時点では、Black HatとDEF CON(ラスベガスで毎年8月に相次いで開催される2大セキュリティコンファレンス)は予定どおり開催されるとのことだ。しかし、新型コロナウイルスのパンデミックをめぐる状況がいつ収束するのか見通しが立たないため、米空軍のチームはさまざまな想定で準備を進めている。両氏によれば、コンファレンスのバーチャル化も視野に入れて計画を進めていくつもりだという。

さらに両氏は「コンファレンスが会場で開催されても、自宅からのリモート参加というかたちになっても、開催の方向で進める」と語る。インターネット接続環境があればどこからでも参加できるのがハッキングの利点だ。

ハッカーたちが人工衛星のハッキングに成功することも期待しているが、大事なのは既存の脆弱性を見つけることだけではない。米空軍のシステムにハッキングというショック療法を施して、セキュリティに対する米空軍の考え方を改めてもらうという重要な意図もあるとローパー氏は言う。

「ハッカーコミュニティと協力することについて、従来とは異なる見方をする空軍兵や宇宙専門家の世代が生まれ、人工衛星の設計においてハッカーを頼りにする時代がやってくるのではないかと思う。そんな時代がやってくれば、サイバーセキュリティに対する姿勢も大幅に改善され、有事に備える米空軍の態勢も向上するだろう」とローパー氏は語る。

関連記事:NASAは国家の敵からの攻撃をどのように防御しているのか

[原文へ]

(翻訳:Dragonfly)

Category: セキュリティ

Tags: DEF CON ハッカー 人工衛星 ハッキング

Rocket Labが人工衛星の製造サービスを提供へ

ニュースペース(NewSpace)業界でも注目度の高い、ロケットの打ち上げや人工衛星関連サービスを提供するRocket Lab(ロケット・ラボ)。同社は新たに、人工衛星の製造をそのビジネスに加えることになる。

すでに商業ロケットの打ち上げを開始しているRocket Rabは、今後組み立て済みの人工衛星を顧客に提供するのだ。「Photon」と名付けられた人工衛星プラットフォームを利用すれば、顧客は自ら人工衛星を製造する必要がなくなる。

Rocket Labの創立者のPeter Beck氏は声明にて「小型人工衛星の運用会社は宇宙からのデータやサービスの提供に集中したいが、人工衛星の製造が大いにそれを阻んでいる」と語っている。

「現在、小型人工衛星の運営会社はハードウェアから設計する必要があり、資産と人材を本来の目標以外に浪費している。そこで宇宙ビジネスを推し進めるためにRocket Labが提供するのが、すぐに使える小型人工衛星のソリューションだ。我々は顧客がそのペイロードとミッションに集中することを可能にする」

Rocket Labの人工衛星は地球低軌道にて、技術実証やリスク低減のための調査、コンステレーション、ペイロードの運搬に利用される。また軌道上にて5年間飛行し、Sバンドでの通信機能やハイレベルな高度コントロール機能、推進/飛行アビオニクス・ツールを提供する。

人工衛星はRocket Labの米カリフォルニアにあるハンティントン・ビーチ拠点にて製造され、「Electron」ロケットによって打ち上げられる。Photonの最初の打ち上げは年内に、そして初の商業打ち上げは2020年を予定している。

[原文へ]

(翻訳:塚本直樹 Twitter