米名門VCの共同創業者・ベン・ホロウィッツがWeWorkやUber、企業文化について語る

シリコンバレーを代表するベンチャーキャピタル、Andreessen Horowitz(アンドリーセン・ホロウィッツ)の共同創業者である ベン・ホロウィッツ氏の新しい本が来週に出る。同氏は著書「What You Do is Who You Are」(やってきたことがその人自身)で企業文化とその作り方について語っている。

言い古された言葉だが、その意味を捉え常に実行するとなると非常に難しい。ホロウィッツ氏はこのことをCEOとして直接体験してきた。同氏は前著「HARD THINGS 答えがない難問と困難にきみはどう立ち向かうか」に欠けていたのが企業文化に関する分析だったことに気づき、フォローアップを書くことにしたという。自身の経験に加えて他の経営者や組織のリーダーの行動、体験を詳しく観察して取り入れている。ハイチ独立の父で史上初めて黒人による共和国を作ったトゥーサン・ルベルチュールからモンゴル帝国の基礎を築いたチンギス・ハーン、殺人罪で有罪となり20年近く服役した後、著作家、大学講師となり人間の更生の可能性を説くシャカ・センゴアまで幅広く取り上げている。

これらの人々のストーリーは大いに参考になるし、歴史ファンなら特にそうだろう。我々は先日のTechCrunch取材のDisrupt SFイベントにホロウィッツを招き、本書について話を聞くことができた。またこれに関連して最も注目され、社会的にも大きな影響を与えているスタートアップであるUberとWeWorkについても尋ねた。

以下の抜粋は簡明化のために若干編集してある。

TC:あなたの企業文化に関する本が出たとき、ちょうどWeWorkの企業文化について多くの疑問が質問が出された。いったいどういうことが起きたのだろう?

BH:(WeWorkの共同創業者である)アダム・ニューマン氏には、確かにある種の文化があった。同時に彼の人格には大きな穴が空いていた。能力も桁外れだったが欠陥も桁外れだった。こういうことは時折起きる。ある部分で非常に優れていると、自分は必要なものがすべて手に入る人間だと錯覚しやすい。ところが実際は別の部分で非常に無能なのだ。

アダムは驚くべき才能がある。あれだけの巨額を資金を集める力があったことを考えてみるといい。未来に対する素晴らしいビジョンを持っていた。人々がそれを信じたからこそ資金も優秀な人材も集まった。しかしそこまでオプティミスティックな場合、周囲に本当のことを言ってくれる人間、悪いニュースであっても告げてくれる人間を置く企業文化が必須となる。たとえば資金が流出して手がつけられないなどだ。

TC:Uberの創業者で元CEOのトラビス・カラニック氏についても企業文化が非難されていた。これに対してWeWorkのアダム・ニューマン氏は非常にオープンは会社運営をしていた。彼がどういう人間であるかは誰もが知っていたと思うが。

BH:実のところ、トラビスがどのように会社を運営していたかは誰もが知っていた。シリコンバレーでは誰もが知っていたし、もちろん取締役会のメンバーはなおさらだ。企業文化は公開されていた。この記事を読むといいが、当時のUberの企業文化が詳しく説明されている。

トラビスは非常に説得力ある企業文化を創造し、その価値を確信していたし、文章を公開していた。しかし見逃しているものがあり、その結果は誰もが知るとおり(の失脚)だった。つまりトラビスの欠点に対する世間の圧力が耐え難くなってきたと取締役会が判断したわけだ。

TC:こうした例から得られる教訓は?

BH:我々はLyftに(6000万ドルを)投資しているので当然ライバルのUberについてもよく知っている。あれは非常に微妙な問題だった。いってみればトラビスは非常にすぐれたアプリだったが隠れたバグがあった。

トラビスが(社員の)悪い行動を奨励したように報じられがちだ。そんなことは決してなかったと私は見ている。彼に問題があっとすれば、倫理性、合法性は競争に勝つことより決定的に重要だということを周知させることに失敗した点だ。その結果、とにかくUberのような会社では機能は広く分散するので、その一部では人々が暴走することになったのだと思う。

しかもトラビスのおかげで関係者はみな大金を稼いだ。Uberはとてつもない急成長を続けていたから、私のみるところ取締役会も「これだけ儲かっているなら多少のことをとやかく言うまい」という気持ちになっていたのだろう。

最後に誰も責任を取らなかったのは不公平というしかない。 トラビスに落ち度はあった。しかし彼を責めるなら、見て見ぬふりをした人間にも責任はある。ごく控え目に言ってもそうだと私は思う。

いかにして企業文化を確立すべきかという本を私が書いた理由は、スタートアップを立ち上げたCEOにしてみたら、企業文化なんて小さい問題だと思えるかもしれない。しかしやがて大問題に発展するのだ。倫理問題というのはセキュリティ問題に似たところがある。あまりにも本質的な問題なので実際に問題が起きるまでは問題だと気づかない。

TC:なぜこの問題に興味を持つようになったのか?

BH:いくつかあるが、第一にこれが CEOとして体験した中で最も困難で解決にいちばん時間がかかる問題だったからだ。 なるほど誰もがこれは重要だと助言してくれた。「ベン、企業文化に注意しろよ。これがカギになるぞ」というので「オーケー、じゃどうしたらいい?」と尋ねると「ああ、そうだな、会議で検討したらいいんじゃないか?」といった話になって要領を得ない。誰も問題の本質はどこにあり、具体的に何をすればいいか教えてくれない。それなら、ここに私の知識の穴があるのだろうと考えるようになった。

もう1つ、今何をしていようと文化を作ること以上に重要なことはない。 社員たちに常々言っているのだが、10年後、20年後、30年後に振り返ったときに個々の取引で勝ったとか負けたとか、どれだけ儲けたとか覚えている人はいない。覚えているのは、ここで働いていたときの気分、我々とビジネスをしたときの気持ちや印象、我々が周囲に与えた影響だ。つまりそれが企業文化であり、誰もここから逃げることはできない。これはどんな企業にも当てはまることだと思う。

加えて、シリコンバレーの企業は非常に急速に成長し強力になってきたのでこの文化について厳しい批判が出ている。一部はもっともだ。しかし解決策の提案となると、はっきり言って奇妙なものが多い。そこで単に批判や非難をするのではなく、具体的どうすればいいのかまとめてみる必要があると感じるようになった。

TC:先ほどUberの話が出たが、こうした急成長企業の多くは高度に分散的な環境であることが多い。本書ではこうしたリモートワークの場合ついてあまり触れられていないように感じる。広く分散した職場で働く社員についてはどのように考えているだろうか?

BH:確かにこの本ではリモートワークについては触れていないが、もちろん非常に重要な分野だ。ただその環境を支えるテクノロジーが急激に発達しており、リモートワークは進化中だ。以前はコミュニケーションその他のシステムが不十分だったためにエンジニアリングを中心とする組織がリモートワークで機能を発揮するのはほぼ不可能だった。だからMicrosoft(マイクロソフト)は(本社が所在する)レドモンドに移転できるスタートアップだけを買収していた。

しかし最近はSlackやTandemなどがのサービスが普及し、環境は大きく改善されている。企業文化を作ることもこうしたツールの発達によってリモート化可能だろう。ただ、ミーティングで顔を合わせたり廊下でつかまえたりした社員に直接に企業文化を普及させるのに比べて、電子メディアを通じて文化の伝達を図るのはかなり難しいだろう。

実際、最近もメールでいろいろやったし、電子的ツールにはもちろん文化的価値がある。私は起業家をあれこれ批判したくはない。そのアイディアがばかばかしく見えようと問題ではない。起業家はゼロから何かを作ろうとしている。夢に賭けているわけだ。だから我々は彼らをサポートする。以上だ。

(Benchmarkの著名ベンチャーキャピタリストである)ビル・ガーリー氏ばりにTwitterに「あんなクソ会社、1ドルだって儲けていないじゃないか」などと書き込むと誰もが読むことになり会社をクビになるだろう。我々のポッドキャストにはニュース部門があるが「WeWorkの失敗の教訓」といった安易な話はしたくない。そんなことは他の連中がやればいい。企業文化的の問題で教訓などを書きたい人間はいくらでもいる。

つまりリモートで企業文化を構築しようとすることは可能だが、慎重にやる必要がある。また誰がそれを読むのか考えなければならない。

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(翻訳:滑川海彦@Facebook

格闘技ジムでインクルーシブな文化の構築方法を伝授された話

いきなり、体全体が不安感の波に飲まれた。全身タトゥーの巨漢たちが重いサンドバッグにパンチをめり込ませるたびに、激しい息づかいと唸り声が周囲に響く。これが、数年前、ニューヨークの格闘技ジムFive Points Academyに初めて足を踏み入れたときの状況だ。温室育ちの私は(最後に喧嘩したのは幼稚園のときだった)、ここに溶け込めるのかと心配になった。

すぐにインストラクターのEmily(エミリー)が現れて、ムエタイの基本的な動きを見せてくれた。そのクラスはパッドワークが中心だったので、受講者はペアを組み、それぞれタイ式のパッドを装着して動きの練習をした。受講中、エミリーは、私を次々と違う相手と組ませ、パッドを叩くときの感触を味合わせてくれた。そして私は夢中になった。

1年前、私の友人Diane Wu(ダーニー・ウー)が書いた素晴らしい記事の中に、こう論じられている。「インクルージョン(包括性)は原因であり、ダイバーシティ(多様性)はその効果だ。インクルーシブな意識が備われば、ダイバーシティは自然に付いてくる」。Five Pointsでの経験には、この考え方が滲み出ている。伝統的に男社会であった格闘技の世界だが、インストラクターの40%、ファイターの半数、会員の半数は女性だった。そこはニューヨークでも、もっともインクルーシブで、いちばん男臭くない格闘技ジムとして広く知られているため、単なる偶然ではない。

技術業界が男の支配する世界であったのは、ここ数十年のことに過ぎない(1940年代の最初のプログラマーは女性だった)。それに対して、格闘技の世界は数千年間にわたり男が独占してきた。格闘技ジムが、そんな根深い障壁を乗り越えられたのだから、技術業界はもっとうまくやれるはずだ。私は、ジムのオーナー、コーチ、ファイター、会員たちから話を聞き、いかにして彼らがインクルーシブなコミュニティを構築できたかを学んだ。それを紹介しよう。

文化はトップから始まる

文化はリーダーシップから根を下ろしてゆくという調査結果があるが、それはFive Pointsの3人のオーナー、Steve(スティーブ)、Simon(サイモン)、Kevin(ケヴィン)が実際に体現している。Steveののんびりした態度、サイモンの英国風ユーモア、ケヴィンの常にフレンドリーな姿勢が、Five Pointsの家族的な雰囲気を大いに支えていると、多くの会員が口を揃える。スティーブは「脅されるのではなく、反対に励まされることで、人はより多くを学びます」と説明していた。この、トップを中心とした、誰でも快く受け入れる文化は、たしかに、幅広い人たち、とくに軽い気持ちで楽しんでいるファイターたちの参加と成長を促している。

トップから文化が築かれていくという点においては、企業も同じだ。もし、インクルージョンを一番に考えるなら、経営幹部たちが態度で示すべきだ。

私は、ある企業のCEOが企業の中心的な価値観の構築を支援する委員会を立ち上げたものの、対話は行われずCEOが個人的に思いついた文化的価値観の評価を従業員に求めるアンケートを行っただけというケースを見たことがある。すると次第に、考え方の異なる従業員は会社を去り、職歴、性別、民族の面で同じ背景を持つ圧倒的多数の人たちだけが残った。結論として、インクルーシブな文化を確立するためには、経営幹部が責任を持って引き受け、本当の意味で最後までやりとげることが必要だ。さもなければ、継続は難しい。

「インクルージョン」はすべての人を受け入れる

Five Pointsは、特定の性別の人たちを呼び込んだり、特定グループの市場を狙ってスタートしたわけではない。むしろ、あらゆる人たちを暖かく迎え入れるコミュニティを作ることに専念していた。サイモンが、そこをうまくまとめて話してくれた。「インクルーシブな文化は、あらゆる人を受け入れます。正しい文化を持っていなければ、人にそっぽを向かれます。女性だけではありません。男性もです。そこに、ジムを直接改善する力があります」。彼は、さらにこう説明した。「女性が嫌がるだけでなく、男性をも敬遠させてしまう愚にも付かない文化はいりません」

その違いは重要だ。例えば、友愛会的なジムの文化を押しつけようとすれば、女性を遠ざけることになる。しかし、そうした文化を嫌う男性も多い。人を十把一絡げにするのではなく、それぞれの個人をよく知り、こう自分に問うべきだ。「この人を受け入れるには、どんな環境を整えればいいか?」と。例を挙げるなら、ケヴィンは、会員になりそうな人のことを、時間をかけて知ろうと常に努力している。施設内を案内して、ジムとして、彼らの望みをどのように叶えられるかを話し合っている。

この考え方を発展させてみよう。表面的な特徴は、より深いところにある特性の仮の姿であることが多い。ならば、直接、本質と向き合うべきだ。他のジムのムエタイ教室に参加すると、インストラクターがよくこう言う。「男の人は、女の子と組んだときは手加減をするように」と。このように、性別で人の特性を一括りにしてしまうと、本来の特性、つまり体格を無視することになる。Five Pointsのインストラクターなら、こう言う。「男の人(そして女の人)たちは、自分よりずっと体の小さい人と組んだときは、相手の安全を考えて力を加減してください」と。自分よりも大きな人間と対戦するときは、自分が認識している自身の性別とは関係なく、誰だって身の安全が気になる。

技術業界では、あまり注目されない少数派のデモグラフィック属性の人々のための、よりインクルーシブな環境を確立しようという議論が数多く持たれてきた。そうした取り組みを強化することで、さらに効果を高めることができると私は信じている。「女性が会議にもっと貢献しやすくするにはどうしたらいいか?」と考えるのと同時に「すべての従業員が会議にもっと貢献しやすくするにはどうすればよいか?」と考える。これは、男性の考えに比べて女性の考えが軽視される傾向があることをその研究が示している。

その結果、多くの女性は会議のメンバーには選ばれず、自分の考えを男性社員に託して発表してもらっている。「どうしたら少数派を支援する仕組みを提供できるか」を話し合うのと同時に「どうしたら、米国の企業文化に不慣れな従業員を支援する仕組みを提供できるか」を話し合う。このようなハイブリッドなアプローチによって、より幅広い人々をカバーでき、それをもっとも必要としている人たちに、確実に支援の手が届くようになる。

例えばAscend Researchによれば、アジア系の幹部パリティ指数は最低で、黒人やヒスパニック系よりも低い。しかし、彼らは「過小評価された少数」とは見なされておらず、昇進に関して若いアジア系専門職にはほとんど指導が行われない。

みんなを平等に扱う

私が話を聞いた女性コーチと女性会員の共通した意見は、受講中は性別を意識することがなかったというものだ。インストラクターは全員を平等に扱っていると、何人もの会員は話していた。たとえば、遅刻したときは、デモグラフィック属性や技能レベルに関係なく、誰もが腕立て伏せ30回を言い渡される。なお、身体的な制約のある人は、膝を突いて腕立て伏せをしたり、他の運動で代替するなどの処置がとられる。

全員の基準を同じにすることで、「エイミーは女だから軽い罰で済んだ」などという非難や陰口を予防できる。

ムエタイの初心者向けクラスでは、パワーレベルを下げて、技術に焦点を当てている。エミリーのムエタイ初心者クラスにスティーブが参加して、パートナーを少し強く殴ってしまったことがある。エミリーはすぐさまスティーブにこう言った。「今のは強すぎよ」と。スティーブがオーナーでも、エミリーが雇われる側でも関係ない。クラスのインストラクターとして、すべての受講者に同じルールを当てはめるよう彼女は努めているのだ。

同様に、すべての人を最初から平等に扱うことが大切だ。例えば、就職審査のときからだ。私はよく「レベルを下げずにダイバーシティを高めるにはどうしたらいいか?」と聞かれる。そこで私が提案しているのは、すべての就職希望者が示すべき能力の種類を定めるという方法だ。例えば、生産性ソフトウェアのエンジニアは、アルゴリズム、システムデザイン、コミュニケーション、チームワーク、問題の解析力に長けていなければならない。審査では、この5つの能力を公平に評価する。

残念なことに、最初の2つしか評価していない企業が多い。それは、多様性に欠けるばかりか、仕事に必要な技能が完全に揃っていない従業員のグループを生み出してしまう。基準を透明にして伝えることで、すべての従業員が帰属意識を持ち、コミュニティの平等な一員であることを自覚できるようにしなければならない。

細部に気を配る

細かいところに、文化の創造に対する思慮深さが表れる。カリ(武器を使う武術)のインストラクターで元ファイターのティンは、こう説明する。「格闘技ジムは、汚くて汗臭いのが常ですが、Five Pointsは、細かいところに気をつけています。女性のロッカールームにはヘアタイや、何台ものヘヤードライヤーを置いています。マットは、クラスの合間に毎時間モップ掛けをしています。こうしたことが、格闘技を始めたいと思っている女性の、余計なストレスを取り除きます」

言うまでもなく、クラスそのものにも細かく気を配っている。新しい会員が私に話してくれた。「エミリーのムエタイのクラスが終わって、スティーブと個人レッスンをしようと準備を整えたとき、エミリーがスティーブのところにやってきて『もう少し左ラウンドハウスキックの練習をしたい』と告げました。もちろん、スティーブは私に、30分ぶっ続けの左ラウンドハウスキックの練習をさせてくれました」

内心不満を持っていたとき、エミリーの気遣いが有り難かったと言う会員もいた。長い間カリを習っていたソーニャも、特定の練習に不満を抱くと、サイモンがよくそれに気づいてくれたと話していた。古典的な英国風ユーモアで、彼はよく「バケツの中に水を入れすぎたかな?」と言い、習ったことがしっかり頭に入るように配慮し、練習が台無しになるのを防いでくれたという。

大切にされていると従業員に感じてもらうために、経費をひとつもかけずに企業が行えることがある。たとえば、以前私が務めていたPalantirの設立当初のころは、従業員にストックオプションの期限前行使を行うよう積極的に促していた。また、税理士を招いて、代替ミニマム税(AMT)の使い方の説明会を開いていた。しかし、60歳以上の従業員がいる会社でも、期限前行使できないところが多い。それを許したところで、企業の経済的負担は実質的にはゼロであるにも関わらずだ。

変化を受け入れ積極的に改善する

Five Pointsが誕生した当初は、一生懸命スパーリングするという西洋式ボクシングの考え方に従っていた。その精神論では、ファイターはタフな存在で、ボコボコにやられて帰ってきたときに、もっと強くなりたいと必死になるものと定義される。しかし時が経ち、スティーブとサイモンが体に旅行したとき、違う種類のスパーリングを目にした。ファイターたちのスパーリングは軽いもので、技術やタイミングに重点が置かれていた。

彼らは、スパーリングのクラスを基本的に「タイ式のテクニカルなスパーリング」に組み立て直し、それとは別に「ハードなスパーリング」のクラスをいくつか設けた。一部のファイターは混乱したが、スティーブとサイモンは、これが正しいアプローチなのだと彼らを説得した。スティーブは、「古いスタイルはタフな人たちを集めるのに役立ちますが、それが最高の人たちとは限りません」と話す。さらに、最高のファイターと言っても、体格も性別も背景もそれぞれだ。初日に戦いたいと訪れる「タフな人」ばかりとは限らない。

このような考え方が、それ以外の方法では埋もれていたであろう優秀なファイターを数多く掘り出すことになり、コミュニティのダイバーシティを高める。Five Pointsにやって来たファイターの中には元モデルで女優という人もいるが、戦うようになるとは夢にも思っていなかったという。居心地のいい環境と、技術を重視したスパーリングによって、彼女は技術が向上するごとに安全を実感できるようになった。そして彼女は格闘技の虜になり、全米キックボクシング協会国際選手権で何度も優勝するまでになった。

このような、人を受け入れる意識は、他の分野にも応用が利く。Googleの就職面接を受けたとき、面接官のひとりが、長い間Googleは超難問やアルゴリズムのパズルに重点を置いてきたと聞かせてくれた。その結果、チームの仲間とランチをすると、そこにいるのはプログラマーの職歴を持つ白人とアジア系の男性エンジニアばかりで、超難問やアルゴリズムのパズルの話に終始するとのことだった。

やがて、Googleの経営陣は、超難問やアルゴリズムのパズルと、人の能力とには相関関係がほとんどないことに気が付いた。そして彼らは、面接のやり方を改め、チームのダイバーシティが改善された。たしかに、まだ改良の余地はあるが、問題に気付き、新しい発見を受け入れることができる力は、インクルーシブな文化を育むうえで重要だ。

必要なときにルールを公正に適用する

多様でインクルーシブな格闘技コミュニティを構築する道のりは、決して平坦ではなかった。コミュニティが成長するに従い、どうしても悪役が現れる。そのときのリーダーの対応が、文化の発展の色合いを決める。

エミリーは、体が大きく経験も豊富なファイターが、自分よりも小さく経験の浅い受講生を叩きのめすような人物を、何度となく追い出している。その乱暴者が、いかに高い技術を持ち、ジムのために貢献してくれたとしても、関係ない。彼女はすべての人に公平にルールを適用する。また同じように、体重90kgを超える経験豊富な男性が、ムエタイのスパーリング中に他の会員を繰り返し殴り続け、ブラジリアン柔術のクラスでは絞め技を外そうとしなかったため、スティーブが彼にジムを脱会するよう要請した。

反対に、仕事環境では、会議中、経営幹部もいる中で、同僚をずっと怒鳴り続ける男がいたのを見たことがある。それはとても不快な出来事で、各部署から参加していた4人の社員からプロジェクトから外して欲しいと依頼があった。あの人間とは仕事をしたくないというのだ。経営幹部にとって従業員は大切な存在だとは言うものの、彼らは人を怒鳴り続ける彼を黙認して、会議の間、何の対処もしなかった。

文化は、会議室の壁に貼られた単なるスローガンではない。カリフォルニア大学ロサンゼルス校の精神医学教授であるCameron Sepa(キャメロン・セパ)氏は、こう言っている。「企業の文化とは、誰を雇い、誰をクビにし、誰を昇進させるかだ」と。先日、Googleを辞職した人の退社理由のひとつに、性的違法行為を申し立てられた元幹部に、その後も数千万ドルの報酬を支払っていたという問題があった。不適切な行為は迅速に公正に対処しなければならない。インクルーシブな文化を育てるうえで、それは絶対に欠かせない。

成功が成功を生む

新たな取り組みが早々に牽引力を発揮すれば、その勢いはずっと楽に保てるようになる。文化も同じだ。Five Pointsが2002年にオープンしてから、すでに3人のハイレベルな女性ファイターを生み出している。そのひとりがエミリーだ。ムエタイの世界選手権にも出場している。早期にダイバーシティを獲得したことで、ほとんど見向きもされない経歴の持ち主だが格闘技に興味があるという会員に、良い目標を示すことができた。

ひとたびインクルーシブな文化が確立されるや、コミュニティのメンバーは、その後もインクルージョンを重んじ、他の人たちも参加したいと思うようになる。コーチでファイターのジャンナはこう話していた。「新人のころも、私に嫌な思いをさせる人は、誰ひとりいませんでした。だから、他の新人たちにも嫌な思いをさせないように気をつけています」

カリのもうひとりの受講生ソーニャは、自分のことを「女々しい女」と呼んでいる。ほぼすべての会員はスポーツの経験があるのだが、彼女にはない。そのため、人一倍スキルを磨かなければならなかった。しかし、サイモンは根気よく彼女を指導した。彼女が理解するまで、何度も丁寧に技術を解説していた。当時を振り返り、会員が心地よくいられるよう細心の注意を払ってくれたサイモンに、彼女は最大の感謝の念を抱いている。今、彼女は、女友だち全員をカリに誘っている。なぜか?「女々しい女でも、ここなら歓迎してくれことを知って欲しいから」。

同じことが技術業界にも当てはまる。従業員の男女比がアンバランスだったので(女性が15%)、もっと多くの女性を雇いたいと奮闘していたシリーズAの50人規模の企業があった。しかし、会社が成長すると(10パーセント)、男女比はさらに悪くなった。一方、これも私がかつて務めていた企業のFlatiron Healthは、設立当初からダイバーシティとインクルージョンを重視して、早い時期に、あらゆる職種から年配の女性リーダーを雇い入れた。私が在籍していたころ、女性従業員の比率はおよそ50%、女性管理職もおよそ50%だった。

インクルージョンからダイバーシティへ

Five Points Academyは、最初から女性会員50%を目指し、あらゆる民族、社会経済的背景の人たちを集めようとしていたわけではない。実際のところ、オーナーたちは、誰でも入れて、誰でもコミュニティの一員として楽しめるジムを作りたいと考えていただけだ。インクルージョンでスタートしたら、ダイバーシティがついて来たわけだ。

私は何も、ダイバーシティへの取り組みを否定しているわけでは決してない。ダイバーシティに注目するのは大切なことであり、多くの企業がそれに取り組んでいる。しかし、Fibe Points Academyのように、インクルーシブな文化に投資して、企業で従業員たちが能力を伸ばし成長するのを手助けすることも大切だ。そうすることにより、さらに多様な従業員が集まってくる。

【編集部注】著者のKen Kao(ケン・カオ)氏は、Airbnbのエンジニアリングマネージャーとして、プラットフォーム上で起業家たちがホスピタリティを提供できるようにする製品の開発を行っている。私生活では、ムエタイ、ペキティ・ ティルシャ・カリ(フィリピンの棒とナイフを使う武術)、料理、執筆を楽しんでいる。

[原文へ]

(翻訳:金井哲夫)

Uberの元エンジニアが上司の度重なるセクハラ行為を暴露

FILE - In this Dec. 16, 2015 file photo a man leaves the headquarters of Uber in San Francisco. Uber and advocates for the blind have reached a lawsuit settlement in which the ride-hailing company agrees to require that existing and new drivers confirm they understand their legal obligations to transport riders with guide dogs or other service animals. The National Federation of the Blind said Saturday, April 30, 2016, that Uber will also remove a driver from the platform after a single complaint if it determines the driver knowingly denied a person with a disability a ride because the person was traveling with a service animal. (AP Photo/Eric Risberg, File)

以前Uberでサイト・リライアビリティ・エンジニアを務めていたSusan Fowlerは、本日(米国時間2月20日)公開したブログポストの中で、セクハラの蔓延や人材管理上の怠慢について同社を非難した。

今回の事件を含め、Uberの企業文化に深刻な問題があることを示唆する出来事は、これまでに複数件発生している。

Fowlerは、トレーニング修了後の初出勤日に、上司から社内チャットを通じて性的な関係を迫られた。彼女は即座にメッセージ画面のスクリーンショットを撮り、Uberの人事部にその画像を送った。通常であればこのような問題はすぐに解決できるはずだが、Fowlerはその後もセクハラ行為が続き、彼女の昇進も妨げられてしまったと記している。

「上層部は、セクハラ行為に及んだ上司は『パフォーマンスが良い』ため、恐らく悪気はなかったであろうミスを理由に彼を罰したくないと私に言いました」とFowlerはブログポストの中で説明する。

この段階で、彼女は同じチームに残って「低い人事評価」を受け入れるか、他のチームに異動するかという選択肢を与えられたとFowlerは言う。

「そして私は(1)2度と上司と顔を合わせなくて良いように他のチームに移るか(2)同じチームに残るかという2択を迫られました。さらに上層部は、ふたつめの選択肢を選んだ場合、上司は私に低い人事評価をつける可能性が高いが、自分たちはそれに関して何もできることがないと言い放ったんです」とFowlerは付け加える。

彼女は自分にもっとも適性があると感じていたポジションを離れたくなかったが、結局他のチームへ異動することにした。そして新しい仕事にも慣れてきた頃、彼女がよく話していた女性の同僚から、人事部の怠慢に関してFowlerのケースと似たような話を聞き、さらにその同僚も同じ上司からセクハラ被害にあっていたという信じられない話を耳にしたのだ。そこで彼女は何人もの同僚を引き連れ、人事部に対してセクハラ行為が蔓延していることを再度伝えることにした。しかしFowlerによれば、Uberは同上司のセクハラ行為については、1度しか報告を受けていないと言い張ったという。

社内政治の混乱が続く中、Fowlerは転部希望を提出したが、それが受け入れられることはなかった。良好なパフォーマンスを残していた彼女は、転部希望が却下された理由を理解できないでいた。

「担当者からは『仕事はパフォーマンスが全てではなく、ときに仕事以外のことやプライベートなことも仕事に関係してくる』と言われました」とFowlerのブログポストには書かれている。

最終的に、彼女は次の人事評価まで同じ仕事を続けることにした。しかし2回目の異動希望も通らず、彼女の「人事評価は修正され」た上、Fowlerには「上向きのキャリアパスを描こうとしている兆候が」見られないという評価までなされ、彼女のフラストレーションが解消されることはなかった。結果的に彼女は、Uberが成績優秀な社員に授与している、スタンフォード大学コンピューターサイエンス学部修士課程の奨学金の選考にも落ちてしまった。

それ以外にも、Fowlerはブログポストの中で、Uber社内には性差別が広がっていると記した上で、金額が高いという理由で女性サイズのジャケットの購入を断った社員の話にも触れている。彼女がどれだけ苦情を申し立てても、人事部は全ての苦情は彼女に関することだとほのめかすだけだった。さらに、それ以上Fowlerが人事部に苦情を届けないよう、彼女に脅しをかける人までいたという。

Fowlerのブログポストに応える形で、Uber CEOのTravis Kalanickは事件の真相究明を約束した。KalanickはAxiosに対する声明の中で、これまでに報告されているような行為と、彼がUberの企業文化のコアにあると考えているものは全く別物だと語っている。

「Susan Fowlerのブログポストをたった今読みました。彼女が体験したという行為は許しがたいもので、Uberが支持している考えや、信じていること全てに反しています。私がこのような話を耳にするのは初めてだったので、新しい人事部長のLiane Hornseyに早急に疑惑の真相を解明するよう指示しました。Uberはあくまで人が働く場であり、Fowlerが被害を受けたとするような行為は言語道断です。セクハラ行為や性差別を助長するような行為をした人、さらにそのような行為を容認するような人は解雇します」

メディア界の大物でUberの取締役も務めるArianna Huffingtonは、本件に関し”独立調査”を行うとツイートし、何か情報を持っている人が連絡をとりやすいよう、自身のメール・アドレスを公開した。

先ほどTravisと話をしました。私はUberの取締役として、Lianeと強力しながら独立調査を今から開始します。

セクハラはシリコンバレー中に蔓延しており、残念なことにそのほとんどは記録さえされていない。Fowlerによる苦情を抑え込もうとしたというUberの動きが本当だとすれば、同社の企業文化は恐ろしいほどひどいものだ。

Uberが企業文化に関してネガティブな注目を浴びたことはこれまでにもあった。しかもその内容は、人間関係に留まらず、ビジネスモデルや競争の激しい交通サービス業界とどのように折り合いをつけるかといったことにまで及ぶ。2014年には、ある幹部(この人物は今もUberに在籍している)が部屋いっぱいのジャーナリストに対して、Uber批判を繰り返している人のオポジションリサーチ(政治的に対立する相手を攻撃するための調査)を行うと発言した。なお糾弾されたジャーナリストの1人は(多くのジャーナリスト同様)、Uberが乗客の安全を真剣に考えていないと批判していた。

実際のところ、乗客の安全や他社との競合に関して、Uberはこれまでにも複数の事件に関わっており、Uberの運営方法が批判されたり、地域によっては営業を禁じているところまである。顧客情報へのアクセスに関するプライバシー侵害で非難されたこともあった(既に解決している問題もあるが、今でも議論にあがるものもある)。

Uberは採用情報を公開していないため、どのくらいの女性エンジニアが同社に在籍しているかはわからないが、Jesse Jacksonは他の事項に優先してこの状況を変えようとしている。しかし、たとえKalanickが事件に加担していなかったとしても、Fowlerの身に起きたことから、Uberは社員の道徳や良識よりもパフォーマンスを優先しているということがわかる。

TechCrunchでは、現在UberとCEOのTravis Kalanickにコメントを求めているので、何か新しい情報が入り次第、本記事をアップデートしていく。

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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter