25〜35%の値上がり幅が理想?――公募価格の考え方

【編集部注】執筆者のAlex WilhelmはCrunchbase Newsの編集長で、VCに関するTechCrunchのポッドキャストEquityの共同司会者でもある。

IPOという観点では、2017年は2016年を上回っている。

昨年の今頃は、まだScureWorksとAcacia Communicationsの2社しかIPOを果たしていなかったが、今年は既に(どんな会社をテック企業と考えるかによるが)少なくとも10社が上場した。その中には、SnapClouderaOktaなどが含まれている。

IPOの数が増えただけでなく、上場直後の株価も大きな伸びを見せていることから、”机にお金を置いてきてしまった”という類の話を耳にすることも多くなった。これはどういう意味かというと、初日の取引で株価が急騰した企業は、理論上は公募価格をもっと高く設定できたはずだということだ。つまり、IPO直後の株価の急騰(IPOポップ)は値付けミスだという主張だ。

実際にそう考えている人は多かれ少なかれいる。

しかし、最近IPOを果たした2社の株価が、数週間前の業績発表後に大きく動いたのを受けて、私たちはこの問題に関する記事を公開した。その中でも触れた通り、小さなバブルのように上昇した株価も、業績が投資家の予測に届かないとわかるやいなや、すぐに下がってしまったのだ。

それでは、IPO直後の株価の上がり具合を予測するのは難しく、公募価格の値決めには芸術と科学の両方が必要だとすると、どうやってどの企業のIPOは上手くいって、どの企業は公募価格の設定を誤ってしまったと判断すればいいのだろうか?

ゴルディロックスと3社のIPO

先週のEquityでは、IPOとM&Aを専門とする弁護士のRick Klineが、IPOポップや彼のIPOに対する考え方について説明してくれた。彼は持論を展開する上で、AtlassianやHortonworks、Snap、Boxといった企業のIPOに触れている。

文章を読むより話を聞く方が好きな人は、こちらのリンク先に飛んで、4:20から彼がこの点について3分ほど話しているのを聞いてみてほしい。今聞いている音楽を止めたくない人は、以下に彼の考えをまとめたのでこちらを参照してほしい。

  • 25〜35%のIPOポップが「理想的」
  • 50%近い値上がり幅だと「机の上にお金を置いてきた」可能性がある

(さらにKlineは、これが絶対的な答えではないと注意を促し、金融業界にいる人の中には35%という上がり幅は大きすぎると考えている人もいると語っている)

また上記の数字は、ある不確定要素を前提にしている。その不確定要素とは、誰も取引初日の終値を予測することができないということだ。

しかしKlineは、もしも初日の終値を予測できたとしても、株価の上がり幅は小さければ小さいほど良いと言っているわけではない。むしろ、企業は「25〜35%」を少し下回るくらいを狙うだろうと彼は話す。”ポップ”としてのインパクトは弱くなるが、それでもかなりの値上がり幅だ。

全ての議論の前提として、彼はIPOポップは良いことだと考えている。しかし「値上がり幅=調達し損ねた金額」だとすれば、なぜ企業はもっと公募価格を高く設定しないのだろうか?

メディアが求める情報

大抵のことがそうであるように、この問題は見た目よりも複雑なのだ。Klineによれば、ポップのための余白を残した価格設定をすることで、公募価格を高くし過ぎて株価が上場後に下がるというリスクを抑えられるほか、IPOポップが発生すれば、その企業の上場が重要事項であるかのようにメディアが取り上げてくれるという。

この点について、Klineは「IPOポップを起こすことで、その企業(の上場)に関して良い噂が広がることになります」と話している。

経験則からも彼の言っていることは正しいように思える。以下のようにヘッドラインを飾りたいと思わない企業はいないだろう。

しかしメディアへの影響という意味では、IPOポップはポジティブな現象を引き起こすだけでなく、ネガティブなことが起きるのを避けるのにも効果がある。

「もしも取引初日の値上がり幅が大したことなければ、IPOのニュースを追っている記者はネガティブなことを書きがちですからね」と彼は言う。

IPOへのメディアの影響について尋ねると、Klineは「(IPOに対する)市場の見方に影響を与える」可能性があると答えた。そのせいで「IPOのニュースをポジティブなものにするため、値上がり幅が大きくなるように公募価格を設定する」企業もいるようだ。

つまり、私たちのようなメディアもある程度この問題の責任を負っていると言える。

控えめなIPOポップ

最後に、例えば値上がり率が1桁台といった、控えめなIPOポップを経験した企業について尋ねた。

恐らくその理由は、公募価格の設定が「挑戦的」過ぎたか、「幅広い投資家の興味や支援を引き出す」ことができなかったからだとKlineは話すが、どちらもハッキリとしたメッセージとは言いづらい。実際に彼も、中にはできるだけ多くの現金を獲得するために、値上がり幅を小さくしようとする企業も存在すると話していた。

それでは、株価が公募価格を下回った場合はどうなのかというと、これは全く別の話になる。

原文へ

(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

公募価格に関する誤解――IPO直後の株価急騰は気にするな

【編集部注】Alex WilhelmはCrunchbase Newsの編集長で、VCに関するTechCrunchのポッドキャストEquityの共同司会者でもある。

業績発表を受け、ネット業界を先導するふたつの企業の株価が動いた。その2社とはSnapとTwilioだ。

両社はさまざまな点で違っている。Twilioは消費者にリーチするためのバックエンドツールとして、数々の有名企業に愛されている。一方Snapは、最近モバイルハードウェアにも手を出しはじめたソーシャル企業だ。しかし、2017年Q1はどちらにとっても厳しい結果に終わった。

2016年に上場したTwilioは業績面では予想を上回りながらも、思わしくない通期見通しを受け、同社の株価は業績発表の翌日までに25%近く下がった

一方、2017年IPO組のリーダーであるSnapは、売上・利益・アクティブユーザー数の全てで目標に到達できず株価が急落。一晩で何十億ドルもが消え去り、同社の株価は公募価格とほぼ同じくらいの水準に戻った。

ここからこの記事の本題である、IPO後の株価の急騰、そしてどの企業が公募価格の設定を誤って本来調達できたはずの資金を取り逃してしまったのかという話につながってくる。

株価急騰とその他の幻想

企業が上場する際、初日の株価の伸びしろを残しつつも調達金額を最大化するため、公募価格は(一般的には)できるだけ高く設定される。

これを基に考えると、IPO周りの数々の現象に納得がいく。企業はできるだけ多くの資金を調達しようと、市場で株主がリターンをあげられるだけの余白を残しつつも可能な限り高い公募価格を設定し、初日の株価急騰を狙う。そして目論見通り株価が上がれば、メディアや投資家から好意的な反応が返ってくるといった具合だ。

どのくらいの株価上昇を狙うかはケースバイケースだが、市場の反応を正確に予測するのは不可能だ。例えば、上場後にピッタリ10%株価が上がるように公募価格を設定することはできない。

そしてここからが難しいところだ。もしも、ある企業の株式に対する需要の大きさと価格感度の低さがその企業や引受人の予測を超えていた場合、何が起きるだろう? この場合、当該企業は公募価格を”低め”に設定する可能性が高いので、株価の上がり幅も想定より大きくなりがちだ。もちろん、逆に上場直後に株価が急落するケースもある。

(実際に、今年上場直後に株価が急落した企業が存在する)

いずれにせよ、企業が上場して物事が順調に進んでいけば、その企業が「本来調達できたはずの資金を取り逃してしまった」という内容のニュースを目にすることになる。実際に公募価格が低すぎると思われる場合もあるが、そう判断するには時期尚早というケースがほとんどだ。

つまり、企業の株価はIPO後に急騰することが多いが、上昇分はスーパーボウルにおけるファルコンズのリードよりも早く消えてなくなってしまう可能性がある。そのため、「本来調達できたはずの……」という話はナンセンスな議論である共に、公募価格の設定ミスの証拠とされているIPO直後の株価上昇こそが誤った情報を発信してしまっているのだ。

最近の例

実際の株価を追って見てみよう。

そうすると、Snapは多くの人が思っているよりも、かなり上手く公募価格を設定できていたのではないか気づく。

Snapの株式は、公募価格が17ドルで初値が24ドル、そして最高値が29.44ドルだった。この数字だけ見ると、本来Snapはもっと多くの資金をIPO時に調達できたはずだと感じられる。合計2億株を売ったSnapが公募価格を少しでも上げていれば、彼らの口座残高は増えていたはずだ。

24ドル(もしくは29.44ドル)という株価を見ると、Snapはとんでもない計算間違いをしたように見える。しかし、初めての業績発表を受け、現地時間5月11日のSnapの株価は最低で17.59ドルまで下がり、結局18.05ドルで取引を終えた。

もしもSnapが、公募価格を実際よりも1ドル高い18ドルに設定していたとすれば、上場後の株価が一時的に公募価格を下回っていたことになる。もしも公募価格が19ドルだったならば、損失幅はさらに広がっていただろうし、初値で売り出していればSnapの状況はさらに悪化していた。それ以上はすぐに推測できるだろう。

現在Snapの株式は、公募価格よりも数ドル高い価格で売買されており、株価の伸び率は20%ちょっとということになる。先述の状況を考えると、これは株価設定ミスとは到底言えない(さらに昨年ようやく粗利が黒字になった企業に値段をつけることの難しさも勘案してほしい。これはほぼ不可能なことだ)。

もうひとつの例であるTwilioの株式は、上場初日で公募価格より92%も高い28.79ドルの終値をつけた。その後も上昇を続けた同社の株価は最高で60ドルに達し、その後30ドル台に急落した。さらに最新の業績発表の後、株価は20ドル台前半〜半ばへと下降。Twilioはそもそも公募価格を予想より高く設定していたにもかかわらず、IPO直後はそれよりもさらに高い価格をつけることができたのではないか、という憶測が広がった。しかしその後継続して株価が下がったことで、その憶測が間違っていたとわかり、IPO時の株価と比較すると、現在のTwilioの株価の方が急騰時の株価よりも実態に即しているように映る。

さらにこれに対し、現在24ドルの株価がついているのだから、公募価格は少なくとも15ドルより高くした方がよかったのではと反論することもできるが、この1年でさらに成長したTwilioの現在の株価と公募価格をそこまで細かく比較することにあまり意味はない。

上記の2社の例から分かる通り、IPO後に株価が急騰したからといって、公募価格が誤っていたと判断するのは時期尚早なことが多い。その一方で、両社の現状の株価がまだ公募価格を上回っていることを考えると、本当に公募価格が間違っていなかったと言い切れるのだろうか?

これはもっともな問いなので、もう少し歴史をさかのぼって考えてみたい。

昔々の話

GoProのIPOは大成功だった。株価は初日だけで24ドルの公募価格から30%も上昇し、その後は報道の通り、連日数十%の上昇が続き、すぐに公募価格の倍に到達した。これが2014年7月の出来事だ。

その後2014年中にGoProの株価は98ドルまで上昇を続ける。なんという価格設定ミスだと思っている人もいるかもしれないが、2015年11月には「GoProの株価が公募価格を下回る」という見出しが紙面を飾ることになる。その日、GoProは23.15ドルの終値をつけた。現在の株価が8.62ドルの同社が、24ドルの公募価格をつけられたのは、今となってはラッキーだったように感じられる。

GoPro以外にも、EtsyやMobileIron、Fitbitをはじめとする企業が、IPO直後の株価急騰とその後に続く急落を経験している。

この話が現在の(アクティブな)IPOサイクルに対する警告になることを祈っている。冷静さを失わずに、自分たちが必要としている資金に対する調達額の大きさへもっと注意を払うようにしてほしい。最新の評価額と同等もしくはそれ以上の時価総額がつくのであれば、それ以外のことは気にしなくても良いのだ。

実際に業績が下がってしまった場合はまた別の話になってくるが。

明日上場予定のTwilio、公募価格を15ドルに設定

LONDON, ENGLAND - DECEMBER 08:  Co-Founder & CEO at Twilio Inc. Jeff Lawson during TechCrunch Disrupt London 2015 - Day 2 at Copper Box Arena on December 8, 2015 in London, England.  (Photo by John Phillips/Getty Images for TechCrunch) *** Local Caption *** Jeff Lawson

Twillioは本日、株式公開時の公募価格を1株辺り15ドルに設定すると発表した。これによりTwilioの評価額はおよそ12億3000万ドルとなる。

前回の資金調達ラウンド時に10億ドルだったTwilioの評価額より高い。この価格でTwilioは1億5000万ドルの調達を目指し、さらに150万株を市場に売り出す。以前Twilioが目標としていた12ドルから14ドルの株価より高い価格設定だ。

今年のテクノロジー企業の上場件数は少なく、TwilioのIPOは重要となる。ユニコーン評価を受けたスタートアップは、2016年の閑散としたテクノロジー企業のIPO環境に不安を覚えている(Twilioは今年3つ目のIPO案件)。多くのスタートアップにとって、Twilioが明日の取引で強い存在感を示し、再びIPOへの可能性が開かれることに期待している。

それが起きるようなら、多くのスタートアップが得た真実味に欠ける評価額が現実との整合性を持ち始め、株式公開を決断した際には、投資家に自社が良い投資対象であると説得することができるかもしれない。Twilioはまだ利益を出していない。昨年の収益は1億6690万ドルで、純損益が3550万ドルだった。しかし、2014年には8880万ドルだった収益は堅調に伸びていることを示している。

投資家は評価額が頭打ち、あるいは縮小していて、グロースを利益以上に重要視しているスタートアップに対して慎重な姿勢を取っている。スタートアップに対しての考え方が大きく変わる局面に私たちはいる。現在、ベンチャーキャピタルから調達した資金を燃やし続け、利益よりグロースを際限なく追求する姿勢を公開市場が尊重することはできないという現実にスタートアップは直面している。

IPOをするための意図と理由の全ては、軍資金を築いて新たなビジネスの拡張と構築を続けるためだ。Twilioは開発者ツールで強いビジネスを作り、彼らのインフラの上に他の会社がビジネスを構築するまでになった。しかしそれは同時に、Twilioを使い続けるかどうかは他社の気持ち次第ということでもある。投資家はそういったリスクを勘案しなければならず、Twilioが株式公開し、彼らをどう評価するかを考える時もそれは同じだ。

Twilioは累計2億ドルをベンチャーキャピタルから調達し、Bessemer Venture Partnersが最も多くTwilioのシェアを保有している。直近のIPO申請ではTwilioの28.5%を保有しているとある。Twilioは明日上場予定で、投資家がテクノロジー企業のIPOに魅力を感じ、それがパフォーマンスに反映されるかどうかはその時分かるだろう。

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(翻訳:Nozomi Okuma /Website