編集部注:本稿はSamer HamadehとAdam Dinowによって執筆された。Samerはセラピストの自宅派遣サービスを展開するZeelの創業者兼CEOだ。AdamはWilson Sonsini Goodrich & Rosatiのニューヨークオフィスでパートナーを務めている。
どの企業にも取締役がいる。だが、取締役会の構成についてじっくりと考えている起業家は少ないだろう。
この記事を執筆したSamerは、これまでに5社のスタートアップの取締役に就任し、彼自身が立ち上げた会社の取締役にも2度就任している。もう一人の著者であるAdamは、Wilson Sonsini Goodrich & Rosatiで企業パートナーを務めている。同社はテック系の企業でもあり、スタートアップに関する法律相談も受け付けている会社だ。私たちはこの記事で、起業家やCEOに向けて、そして取締役に就任してほしいと頼まれた人に向けて、取締役会についてのアドバイスをしていこうと思う。
基本事項
必ず取締役会を設置する必要がありますか?
その通り。法律により、すべての企業は取締役会を設置しなければならないと義務付けられている。ただ、必ずしも大規模な取締役会を設置する必要はなく、取締役は1人でもいい。しかし、すべての企業に取締役会は必要だ。
どのタイミングで取締役会を設置する必要がありますか?
起業した時点で取締役会を設置する必要がある。面白いことに、取締役会のメンバーは1人だけでも良く、創業者1人だけで構成される取締役会でも構わない。取締役会では、株式の発行、ストックオプション制度の導入、資金調達や借り入れの承認など、経営に関わるさまざまな事柄が話し合われる。大半のスタートアップでは創業者自身も取締役会に参加している例が多い。そして、企業の規模が大きくなるにつれて取締役の人数も増えていく。
取締役会を設置する方法を教えてください。
取締役会の設置にあたっては、経験豊富な弁護士を雇うべきだ。他にも考慮すべき要素はあるものの、その数はかなり多い。そのため、本稿の最後に関連資料へのリンクを掲載しておくことにする。
取締役にはどのような人が就任するのですか?なぜ取締役会は重要なのですか?
究極的に言えば、取締役会が企業経営に関する重要事項の最終決定権を持っている。資金調達を行うかどうか、買収交渉に応じるかどうか、戦略的な意義の高い提携を結ぶべきかどうか、シニアマネージャーを雇うべきか、または解雇すべきかどうか、などがその例だ。間違いなく、取締役会のメンバーは企業にとって重要な鍵を握る人々だと言える。そのため、その企業や業界について豊富な知識をもった賢い人々を取締役に就任させることが重要だ。
時間が経つにつれて取締役会の構成メンバーは変わっていくし、企業によってその構成はバラバラだろう。だが、経営の各ステージごとに取るべき標準的なアプローチというものが存在することも確かだ。
これは必ずしも必要というわけではないが、多くの企業の取締役会は奇数の人数で構成されている。投票結果が引き分けになるリスクを失くすためだ。引き分けとなった場合、取締役会に提出された議題は却下されてしまうのだ。
もし、あなたの企業の取締役会では議論がまとまらず、投票結果が割れることが多いとすれば、それは企業が深刻な問題を抱えていることを意味している。
シードラウンドで資金を調達した後は、通常そのラウンドのリード投資家のために取締役会の席を用意しなければならない。それ以降も創業チームが取締役会をコントロールしていくために、新しい取締役会では普通株主(創業者など)の取締役2人に対して、新規投資家の取締役1人という割合で構成されることが典型的だ。
通常では、各ラウンドで資金調達を行うたびに、そのラウンドのリード投資家が取締役会に加入していく。新しい投資家を取締役会に招くたびに、それとは別で新しい取締役を用意することを忘れないようにしておこう。出資をするための条件として取締役会の席を要求する投資家もいるだろう。その投資家を取締役会に入れたくなければ、その出資は断らなければならない。もしその出資金が必要であれば、その投資家のために席を用意する必要がある。
2回目のラウンドを終了した頃になると、取締役会に「独立取締役」のための席を用意することが多い。この独立取締役とは、投資家でもなければ、企業の創業者や従業員でもない取締役のことを指す。そのポジションには、その業界に精通していて、コネクションも豊富な人物が就任することになる。2回目のラウンドの後に独立取締役を任命した場合、取締役会は創業メンバー2人、投資家2人、そして独立取締役1人という構成になっているだろう。したがって、独立取締役はもう1つの重要な役割をもつことになる。引き分けの投票に決着をつける、タイブレーカーという役割だ。
各シリーズごとに投資家が取締役会に加わることになるが、覚えておかなければならないのは、あるシリーズから加わった投資家は、そのシリーズに参加した投資家の代表なのではなく、投資家全体の代表であるということだ。
ある程度の期間が経過したあと、取締役会のサイズが大きくなりすぎたり、ある投資家を取締役に任命するにはその投資家からの出資金額が小さすぎると判断した場合には、彼らに取締役会の席を与える代わりに「オブザーバー」としての役割を与えることができる。オブザーバーとは、取締役会に参加する権利は持つものの、投票する権利は持たない人々のことだ。後から出資者に加わった投資家がオブザーバーになることもあれば、初期からの投資家がオブザーバーになることもある(オブザーバーに関しては後ほど詳しく説明する)。
取締役会の役割とは何ですか?
取締役会は企業の全体的な方向性を決める役割を持っており、企業の主要な意思決定機関である。例えば、シニアマネージャーの人事決定、予算案の承認、エクイティファイナンスやデットファイナンスを実施するかどうかの最終決定などが取締役会の役割だ。企業にとって特に重要となる人物を雇い入れるためには取締役の承認が必要であり、そこで給与やストックオプションなどの報酬額が決定される。CEOの給与を決めるのも取締役会だ。
最後に、取締役会には他社や個人、その他のリソースなどとのコネクションを企業に提供するという役割もある。また、彼らは経営全般に関するアドバイスを提供するという役割もある。
取締役の忠誠心はどこにあるのでしょうか。
取締役会のメンバーは、企業の所有者である株主から企業の経営を任された「受託者」である。従って、彼らには株主に対する「信任義務」と呼ばれる義務が課されることになる。信任義務とは、簡単に言えばすべての取締役は株主の利益を再優先に考えて行動する義務があるというものだ。取締役に対してよくある誤解とは、取締役がもつ主な役割は彼ら自身の利益を守ることだというものだ。実際には、信任義務のある取締役の役割とは株主利益を最大化することなのだ。
もし、ある取締役が信任義務を果たしていないと株主が判断した場合、株主は取締役に対して訴訟を起こすこともできる。そうなれば時間がかかって費用もかさむ裁判のせいで、本業が深刻なダメージを受けかねない。信任義務に従うためには、取締役は「注意義務」と「忠実義務」と呼ばれる2つの義務を満たさなければならない。
忠実義務とは、取締役はみずからの利益を重視するのではなく、会社や株主の利益を最優先に行動しなければならないというものだ。
注意義務とは、取締役は企業が置かれている状況について良く理解していなければならず、問題がある場合には、それに関連する事実を根拠に決断を下さなければならないというものだ。言い換えれば、取締役会は話を集中して聞く場であり、クロスワードをする場所ではないということだ。取締役会に参加している間は、実際にそれに「参加」し、企業が置かれている状況をよく理解しておかなければならない。
忠実義務とは、取締役はみずからの利益を重視するのではなく、会社や株主の利益を最優先に行動しなければならないというものだ。もし会社と取締役との間に利益相反があれば(例えば、取締役の1人が所有する企業と大きな契約を結ぶ場合など)、その取締役は企業の意思決定にバイアスをもたらす可能性のある全ての利害関係を開示する必要があり、その契約について議論したり、承認したりする権利を放棄しなければならない。
取締役会はどのくらいの頻度で開催されますか?
取締役会が開催される頻度は、企業がどのステージにいるのか、マネジメント陣から要請されているかなど、様々な要素によって変わってくる。典型的なスタートアップでは、四半期に一度開催される例が多い。四半期の始まりに集まって前四半期を振り返るためだ。アーリー・ステージの企業では、もっと頻繁にインフォーマルな会議や電話会議が開かれる。インフォーマルな取締役会が開かれる回数が多ければ多いほど、アーリー・ステージの企業にとっては利益になる場合もある。なぜなら、そのような企業の戦略はより頻繁に変更される可能性が高いからだ。(Zeelは2012年の秋に戦略の方向転換をし、2013年4月についに新しいローンチをするに至った)。
企業が危機的な状況にあったり、他社を買収したり、逆にされたりといった場合には、もっと頻繁に取締役会が開催されることになるだろう。毎日、または1日に何度も開催されることもあるかもしれない。
典型的に、四半期ごとの取締役会は3時間程度で終了することが多いが、もっと長くかかる場合もある。
取締役は有給ですか?
取締役の報酬は、その企業のステージや、その人物の有名度などによってバラつきがある(有名な企業で会長を務めているなど)。また、企業ごとに方針は違う。通常、その企業に出資するファンドから出向してきた取締役には報酬は支払われないことが多い。しかし、個人として参加している取締役には報酬が支払われる例がほとんどだ。通常、独立取締役には報酬として株式が支払われる。アーリー・ステージの企業では通常、企業全体の0.5%から2%の株式が支払われ、企業が大きくなるに連れてこの数字は下がっていく。このような報酬に加えて現金報酬が支払われることもある。
また、ほとんどの場合、取締役が出張する時などの経費は会社から支払われる。それに加えて、取締役が株主から訴訟された時の費用なども会社が保障することが多い。取締役は企業に対して、100万ドルの会社役員賠償責任保険(D&O保険)に加入するよう求めるのが通例だ(企業の規模が大きくなるにつれ、この金額も大きくなっていく)。
問題とその解決策
取締役会がCEOである私を追いだそうとしています!
企業が成長するにつれて、創業者であるCEOは別の役割を持たされることが多い。なかには会社から解雇される例もある。創業者が普通株主票をコントロールできていない場合には、自分が立ち上げた企業の取締役会から追い出されてしまうのだ。その場合、企業内における創業者の発言権は無くなってしまう。
そのような場合でも取締役会に参加したいとするならば、取締役会を設置する際、CEOとしての役割とは別に創業者としての永久的な役割とは何かということを明確にしておくことが重要である。そうすれば、もし創業者がCEOとしての役職から解任されたとしても取締役会に席を残しておくことができるのだ。このポジションについてファイナンス分野では盛んに議論されている。
取締役がCEOである私に反対します。
取締役会では、取締役同士が協力し、投票の前に盛んな議論ができるような環境をつくらなければならない。だが、理想的には投票前にすでにコンセンサスに達しているのが望ましいと言える。
もし、あなたの企業の取締役会では議論がまとまらず、投票結果が割れることが多いとすれば、それは企業が深刻な問題を抱えていることを意味している。
とは言うものの、ある特定の取締役が何か問題を抱えている場合には、グループ会議の一環としてではなく、個別のミーティングのような形でその取締役と個人的に話し合ってみるべきだろう。
オブザーバーの役職に就きたがっている投資家がいます。取締役会に参加させるべきでしょうか?
エンジェル投資家などは相当な金額を投資するが、それは取締役会の席に値するほどの金額ではないことがほとんどだ。それにもかかわらず、彼らが取締役に就任したい、または参加したいと言うのであれば、妥協案としてオブザーバーの役職を与えるという選択肢がある。
その名前の通り、オブザーバーには取締役会に参加する権利はあるが、投票する権利はない。この他にもオブザーバーと取締役との違いは多い。例えば、取締役には守秘義務と信任義務が課せられ、企業の秘密情報を明かすのを拒否する権利があるが、オブザーバーにはそのような義務や権利はない。そのため、機密情報の保持についてオブザーバーとあらかじめ合意に達しておくことが重要だ。
参考資料
この記事のトピックについて、もっと学びたいのであれば以下の資料をおすすめする:
[原文]
(翻訳: 木村 拓哉 /Website /Facebook /Twitter)