人材サービス・テクノロジーのイノベーションの歴史

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【編集部注】執筆者のMichael Overellは、RecruitLoopのCEO兼共同ファウンダー。RecruitLoopは、企業がスマートな採用活動を行えるよう、人材サービス企業のオンラインマーケットプレイスを運営している。

「今を理解するためには、過去について知らなければならない」- カール・セーガン(Carl Sagan)

2016年は人材業界にとって大きな分岐点となる。同業界で最も有名なテック企業3社のうち、LinkedInとMonsterが買収され、CareerBuilderも売りに出されている。さらにMicrosoftが人材業界に華々しく参入し、多額の資金を持った既存プレイヤーは横からその様子を眺めている。

そしてその余波は、企業のファウンダーや投資家、サービスプロバイダーから求職者にまで届き、業界全体に影響を与えている。では私たちにはどんな変化が起きるのだろうか?

この記事では、歴史的な観点から人材業界の情報を整理していく。業界が過去20年間でどのように変わってきたかというフレームワークを提示することで、ファウンダーや投資家、人材業界で働く人に、現在進行中の大きなトレンドを理解してもらうと共に、今後の活動の参考にしてもらうのが目的だ。

変化の波

人材業界はディスラプションを起こすには格好の標的だ。何千億ドルものお金が毎年使われている一方、非効率的なビジネスモデルで多くの人が苦しんでいる。しかし何千ものスタートアップが何十億ドルという資金を調達しているにも関わらず、構造的な業界刷新の様子は一枚の紙の上にまとめることができる。

そして根本的な採用活動の流れは、テクノロジーの変化にも関わらず、驚くほど変わっていない。今日でも20年前のように、候補者集めをした後に面接などの選考プロセスを踏み、誰かがそのプロセスを管理しているのだ。

以下のフレームワークでは、3つの変革期に沿った人材業界の重要な変化が描かれている。矢印は変化の”方向”を表しており、どこから新しいモデルが誕生したかが分かるようになっている。例えば、求人情報サイト(Indeedのようなサービス)は2000年過ぎに誕生し、オンラインの求人掲示板を大きく変えた。

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出典: RecruitLoop

このフレームワークでは、人材業界のバリューチェーンが一般化されており、業界全体に影響を与えていない何千ものスタートアップやイノベーションについては省略されている。そして、新たなビジネスモデルが誕生しても、それ以前のものが使い続けられている場合もある(求人掲示板はいまだに広く使われている)。しかしこの図を見れば、いつどのように有名企業が誕生したのかという文脈を掴むことができる。

詳細に入る前に、過去20年間に起きたイノベーションは全て水平方向(左から右)に起きており、その影響はバリューチェーンの各ステップにとどまっていることに注目してほしい。

2016年中にこの状況が全て変わろうとしている。

人材業界のバリューチェーン

現在の人材業界を形作っている大きなトレンドの話をする前に、まずは、バリューチェーンの各ステップを特徴付けるビジネスモデルや企業について見ていきたい。理解を促すために、ここでは人材採用のプロセスが、候補者探し、プロセスの追跡、プロセスの実行、という3つのステップに簡素化されている。

候補者探し

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全ては新聞からはじまった。候補者を探したい企業は、紙の新聞の広告スペースにお金を払っていたのだ。これはシンプルで効率的な一方、値の張る手段だ。そこでインターネットが登場する。

第一波:オンライン求人掲示板。オンライン求人掲示板は1990年代後半に誕生し、新聞や印刷メディアからユーザーを奪っていった。MonsterCareerBuilderCraigslistが代表例で、彼らは雇用主と求職者両方のために、求人広告や求人検索を完全に作り変えたのだ。そして、明らかにディスラプションのターゲットとなっている一方で、求人掲示板はいまだにアメリカの雇用の10〜15%を支えている。

第二波:能動的・受動的な候補者。2000年代半ばにはソーシャルネットワークによって、求職者が能動的・受動的というふたつのカテゴリーにわけられた。求人掲示板は能動的な候補者のためのものだったが、広告主が獲得・購入できるトラフィックの量が限られていた。そこでIndeedは、他のウェブサイトの求人情報をまとめることに商機を見出し、”ペイパークリック”の求人広告を導入した。その後求人情報まとめサービスは、能動的な候補者探しの主要なモデルになり、現在でもアメリカの社外からの雇用の58%を支えているほか、2012年にはこのサービスに可能性を感じたリクルートがIndeedを買収した。

2016年は人材サービス・テクノロジー関連企業にとって別れ目の年になるだろう。

しかし、この期間を特徴づけた企業はLinkedInだった。LinkedInは候補者の情報をオンラインに移行させることで、受動的な候補者探しという新たなカテゴリーを生み出したのだ。今ではある人が求人に応募したかどうかに関わらず、誰でもその人の情報を確認できる。これまで人材紹介会社は、”自分たちの”データベースを利用することで、雇用主よりも多くの情報を握っていた。しかしそんな時代は終わりを迎え、必要なスキルやツールを持っている人であれば、誰でも候補者の情報を手に入れられるようになったのだ。

第三波:企業のブランディングと候補者探索ツール。求人掲示板モデルは、企業のレビューという出処の違うデータの登場によって、すぐにその地位が危ぶまれることになった。Glassdoorは、ユーザーが生み出すコンテンツの力をExpediaやYelpから学び、その手法を応用して人材業界に参入した。その後すぐにIndeed風のまとめサービスが追加されると、Glassdoorは最速の成長スピードを誇る求人サイトへと進化し、アメリカの求職者の約50%が就職活動中に一度はサイトを訪れるほどになった。

それと同時に、全く新しいツールやテクノロジーの誕生によって、受動的な候補者探しも採用活動のひとつの形として認められるようになった。この時期の最も重要なイノベーションが、ウェブ上のさまざまなサービスに登録されている候補者の情報をまとめた人材サーチエンジンだ。Connectifier(現在はLinkedInの子会社)やTalentBin (現在はMonsterの子会社)のほか、数十という数の企業が今もシェアを争っている。

プロセスの追跡

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採用管理システム(ATS=Applicant Tracking System)は、採用活動向けのCRMだ。ほとんどの企業は、時代遅れの使いづらいテクノロジーから抜け出せずにおり、現在使っているシステムは好きではないが、必要に駆られてしかたなく使っている。

第一波:オンプレミスATS。ATSは1990年代に、ソフトウェアの注目カテゴリーとして現れた。その頃に使われていた他のソフト同様、ATSは顧客のサーバーにインストールされ、企業での利用を前提としていた。その代表例がTaleoで、同社はその後上手くSaaSモデルへと(第二波で)移行し、結局Oracleに19億ドルで買収された。そしてTaleoは今でもATS市場のシェアの36%を握っている。

第二波:Saasへの移行。2000年代初頭に起きたソフトウェア全般のSaaSへの移行を受けて、”ウェブファースト”のATSという新しいカテゴリーが誕生した。JobviteiCIMSといった新たなプレイヤーがシェアを拡大していく一方、OracleやSAPといった規模の大きな既存のプレイヤーは、人材関連ソフト一式を揃えるために買収活動を加速させた。

第三波:新種の誕生。その後顧客が求めるものに変化が起きた。当時のエンタープライズ向けソフトは、効率性や魅力に欠けていたのだ。そして、ユーザーフレンドリーでモバイルファースト、他のシステムとの連携が可能で技術的負債の無い、新しい種類のATSが誕生した。ここ数年だけでも、1億ドル以上がGreenhouseLeverSmartRecruitersWorkableといった新たなプレイヤーに流れ込んでいる。今でもこの分野では激しい競争が繰り広げられており、勝ち抜くためにはイノベーションと積極的な営業・マーケティングを組合せていかなければならないだろう。

プロセスの実行

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20年間におよぶテクノロジーの変遷にも関わらず、いまだに採用活動の予算のほとんどは、社内外の人材サービスにつぎ込まれている。

人気の”革新的なリクルーター(disrupting recruiters)”という考えにも一理あるが、そこには3つの重要な要素が欠けている。(a)社内外を問わず誰かがツールを利用して採用プロセスを管理しなければいけないということ。(b)人材サービス企業にもさまざまな種類や専門があるということ。(c)人材サービス業自体で既に大きなイノベーションやディスラプションが起きているということ。

第一波:人材サービス企業にとっての”ゴールドラッシュ”。1990年代から2000年代半ばは、人材サービス業を営む企業にとってのゴールドラッシュだった。自分たちが所有しているデータから生まれた情報の非対称性を利用して、企業からお金をとることができたのだ。この頃は、さまざまなプレイヤーが人材業界に参入し一攫千金を狙っていた。多くの人材サービス企業は、ルールがほとんどないような売上重視の環境に社員を置き、その結果、企業のオーナーは金持ちになり、中には上場する企業までいた。

第二波:インハウスとRPO。2000年代半ばから後半のあいだに、ゴールドラッシュの影響を受けてふたつの相反するトレンドが生まれた。ひとつめは採用活動の内製化で、LinkedInの人気やその他のテクノロジーの誕生によって、多くの企業が外部の人材サービス企業への支出を減らし、自分たちで採用活動を管理しはじめた。この頃に、企業内の採用チームへの移行という大きなトレンドが誕生し、それまで人材サービス企業で働いていた採用担当者の多くが別の企業に移っていった。彼らは新しい環境でも”採用活動”を行っていたが、サービスを提供する企業は1社だけで、多くの場合以前よりも安定した環境に身を置くことができた。

そしてふたつめが、採用活動のアウトソース(RPO=Recruitment Process Outsourcing)だ。採用活動の内製化と同じ時期に、多くの企業が、採用機能全体をアウトソースすることで、採用チームの生み出す価値を安価に得られることができると気付いたのだ。例えばRandstadに買収されたSourcerightや、ADPに買収されたTheRightThingのように、この分野で早くから活躍していた企業は、既存の人材サービス企業に吸収されることになった。そして現在この分野のリーダーとなっている独立系の企業には、プライベート・エクイティ・ファンドから多額の資金が集まっている。例えばCieloWilsonHCGには、それぞれKKRとFrontier Capitalが投資している。RPOは現在30〜40億ドル規模の市場へと発展し、さらに毎年10%も成長している。しかし一般的にRPOは高くつくことから、主な顧客は採用ボリュームの大きな大企業に限られる。

第三波:専門化と個人事業主の登場。過去5年間の技術的なイノベーションの結果、採用担当という仕事が再形成されていった。候補者をみつけだしてコンタクトをとる際の技術的な部分にフォーカスした候補者探し専門の企業が、人材サービス企業とは別のカテゴリーとして誕生したのだ。それと同時に、個人事業主で採用活動を請け負う人たちが現れ、社内と社外の間の境界線がぼやけだした。採用サービス(および候補者探し)を提供する個人事業主は、新しいツールやプラットフォームを使いながら、柔軟な価格設定(時給、プロジェクトベース、成約ベースなど)で、今ではさまざま方法を用いてビジネスを展開することができる。その結果、雇用主である企業は、コストを下げるとともに採用活動の柔軟性を高めることができるようになった。

次の波

上記のトレンドが収束し、2016年は人材サービス企業にとって別れ目の年となる。次の波が人材業界を襲おうとしているのだ。2016年は統合の年になるだろうか?イノベーションの年になるだろうか?その両方だろうか?以下に、人材業界の今後10年以上を形作っていくであろう問いと共に、既に起きつつある4つの変化をまとめた。

大手企業の新規参入

Microsoftは260億ドルでLinkedInを買収し、積極果敢に人材業界へ参入していった。両社の事業統合には時間がかかることが予想されるが、この買収は業界全体に広く影響を与えることになるだろう。Microsoftの影響で、他の大手企業も人材業界への参入に興味を示すことになるのだろうか?

SalesforceやGoogle、FacebookもLinkedInの買収を検討していたことは周知の事実だが、特にSalesforceは長い間人材関連テクノロジーに興味を持っていた。Microsoftの参入によって、彼らの気持ちはくじかれてしまうのか、それともさらに高まるのか?

さらにその他にもOracle、SAP、IBMといった”忘れられた”巨大企業が存在する。彼らは豊富な資金力を持ち、人材業界での競争における本命である一方、人材関連テクノロジーにおける次のイノベーションの波に乗り遅れる可能性もある。

彼らのような巨大企業や、他の企業はどのように人材業界へ参入することができるだろうか?

バリューチェーンに沿った垂直統合

Randstad(世界第2位の人材サービス企業)は、Monsterを買収することで、世界で1番カバー範囲の広い人材サービスのポートフォリオを構築しようとしている。これが大型垂直統合の初めて例というわけではなく、以前既にリクルートグループがIndeedを買収していたが、RandstadとMonsterの事業統合の可能性を考えると、最も影響力のある垂直統合になりえる。

なお、垂直統合は他の分野でも起きている。

求人の枠を超えて投資を行っている、求人掲示板を運営する大手企業の例が以下だ。

  • CareerBuilder – ATS企業を買収予定
  • Monster – RPO企業を買収予定
  • SEEK – 新サービスの開発および新サービスへの投資

さらに、テクノロジーとサービスを混ぜ合わせたモデルが誕生している。

  • Hired – 人材サービス業とテクノロジープラットフォームの掛け合わせ
  • Indeed Prime – 怪しいほどHiredに似たIndeedの新サービス

さらにATS企業は、事業領域の拡大や統合を行うことで、採用活動全体を管理しようとしている。

既存の人材サービス企業や旧来のビジネスモデルは、垂直統合型のモデルとどのように戦って行けばいいのだろうか?

ソリューションの細分化

業界リーダーの間では合併や統合が進んでいる一方、人材関連のソリューションを提供するスタートアップの数は爆発的に増えている。以前に比べて、ずっと簡単かつ安くテック企業を始められるようになったことから、人材市場はファウンダーや次なる目玉を狙う投資家で溢れかえっているのだ。

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新しいスタートアップが提供しているソリューションの多くは、事業というよりも一機能のように感じられ、彼らはそのうちピボットもしくは撤退することになるだろう。また、人材業界で働いている人や人材サービスの利用者にとっては、サービスの種類の多さから、雑音を断って本当に採用活動の助けとなるサービスをみつけだすのが、今まで以上に難しくなっている。

今後スケールしそうな新しいテクノロジー・イノベーションとは何だろうか?

人材サービス企業の専門化

採用活動や候補者集め、ヘッドハンティングなどを行う旧来の人材サービス企業が、テクノロジーを利用したソリューションと競合することで、彼らの利益が減少する恐れがある。そのため、多くの企業が価格設定やビジネスモデルを変更しつつある。1番の手立ては、業界や地域、採用プロセスの段階に応じて専門性を高めていくことだろう。

逆に多方面でサービスを提供している企業は苦しむことになるだろう。冒険ができない既存プレイヤーも置いてけぼりにされてしまう。技術的な統合が進み、競争が激化している環境では、多くの企業がそこから撤退するか消え去る運命にあるのだ。

既存の人材サービス企業は顧客を保って利益を守るため、どのように差別化を図れば良いのだろうか?

この記事では上記の問いに対する答えは提示しない。本記事の目的は、あくまで人材業界の歴史的な文脈や、現在業界を騒がせている主要なトレンドをまとめることなのだ。ただ一つ言えるとすれば、2016年は人材サービス・テクノロジー関連企業にとって別れ目の年になるということだ。

あなたにはどのような影響があるだろうか?

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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

採用プロセスのゲーミフィケーション

WE ARE HIRING, vector. Card with text in hands. Message on the card WE ARE HIRING, in hands of businessman.  Isolation on background. Vector illustration flat design style. Template.

【編集部注】執筆者のRyan Craigは、University Venturesのマネージング・ディレクター。

約800万人のアメリカ市民が職を求めている一方、およそ600万件の求人が未だ掲載されていることを考えると、労働市場にはまだテクノロジーの力によって良い意味でのディスラプションが起きていないと言って良いだろう。

実際のところ、多くの企業がテクノロジーのせいで採用活動が以前より難しくなっていると感じている。というのも、全求人の約85%がオンライン上で公開され、それぞれに何百人もの応募者が殺到しているが、彼らの大部分が似通った資格(=学歴)を持っており、違いを見出すのが困難なのだ。そんな状況で採用担当者は、採用管理システム(ATS)がキーワードをもとにフィルタリングした、使えなくはないが極めて不正確な候補者リストに頼らなければならない。

ATSのフィルタリングを経た候補者の数が、例えば20〜30人だとした場合、同じくらいの数のフォールスポジティブ(誤検知)やフォールスネガティブ(見逃し)が発生している可能性が高い。つまり雇用者と応募者どちらにとっても、採用ゲームは負け戦の感があるのだ。

その影響を1番受けているのが、人員不足が深刻でかつ旧来の経歴や学歴に基いたフィルタリングが機能しづらい業界だ。コーディング業界はその2つを併せ持った典型例だと言える。各企業は新たな採用チャンネルや判断要素を探し出し、候補者数を増やしたり、より効率的に候補者を選別したりしようとやっきになっている。そこでCodinGameやCodeFightsといった企業が、ゲーミフィケーションを通じて採用活動の楽しさや喜びを取り戻そうとしている。

これまでインターネット上で、Uberのエンジニアよりうまくコーディングができるか尋ねられたことはあるだろうか?これがCodeFightsの叩きつける挑戦状だ。サンフランシスコを拠点とし、設立から2年が経った同社は、候補者の経験を問わず、アルゴリズムデータベースフロントエンドなど、数十種類の分野に渡る何千件ものコーディングチャレンジを提供することで、採用プロセスにゲーム要素を取り入れようとしている。

候補者は、ボットや他の候補者を相手に時間制限ありのコーディング対決ができるほか、Code Arcadeで自分のペースに沿ってスキルを磨くこともできる。チャレンジや対決、(”チャレンジ達成によるドーパミンの連鎖”に起因した)即座に得られる満足感など、通常のビデオゲームでも重要な要素を備えたCodeFightsには、候補者を教育すると同時に、彼らを集めてフィルタリングする目的がある。

そしてゲームで好成績を残した候補者は、じょうご状の採用プロセスを回避することができる。その証拠にCodeFightsによれば、通常の採用プロセスでは30人に1人しか採用されないのに対し、CodeFightsを経由した候補者の5人に1人が採用されている。

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どうやら候補者側も他の候補者を飛び越えられる仕組みを気に入っているようで、CodeFightsの発表によれば、先月の総チャレンジ数は150万件におよび、利用者の数も前クォーター中は毎月倍々ゲームで増加していた。

採用プロセスのゲーミフィケーションによって、企業はこれまでの学歴や経歴に基いた採用をやめることができる。特にコーディングの分野では、General AssemblyGalvanizeのようなブートキャンプの急激な台頭が示す通り、旧来の学校は企業側の需要についていけていないことから、新しい採用プロセスが必要とされている。

その結果、候補者はどの学校に行ったかではなく、何ができるかを基に評価されることになる。この新鮮で公平な評価体系が採用されれば、今よりも多様な候補者が集まる可能性が高い。なお、CodeFightsを通じて採用活動に参加した候補者のうち、80%は有名大学を出ておらず、サンフランシスコやニューヨークといった主要テック都市以外の出身だ。

さらに今までのCodeFightsを経た候補者のうち30%が女性で、これはシリコンバレーの平均の3倍だ。CodeFightsのサービスによって、トランスジェンダーの人もエンジニア職に就くことができた。またUber・Asana・Dropbox・Thumbtack・Evernoteといった企業が、これまでにCodeFightsを通じて社員を獲得してきた。

そして採用プロセスのゲーミフィケーションによって影響を受けるのが、コーディング業界だけというのは考えづらい。CodeFightsのファウンダー兼CEOのTigran Sloyanは、客観的に測ることのできるスキルが必要な業界において、ゲーミフィケーションこそが未来の人材募集・選定の手段だと信じている。彼の言う業界には、会計や財務など規制下にある、もしくは免許制になっている認定試験の必要な業界全てが含まれている(医療業界も例外ではない!)。

その他にも、デザインのように即座には客観的な評価ができないものの、クラウドソーシングによってパフォーマンスについての正確な評価が比較的迅速にできるような業界もその対象だ。「30年前であれば、経歴をスキルと読み換えても問題ありませんでしたが、高等教育を終えた後の人に対してもさまざまな機関やソースから素晴らしい教材が提供されている今では、その常識は通用しません。私たちは21世紀中に経歴主義に別れを告げ、スキルベース採用の時代へ入っていくことを祈っています」とSloyanは語る。

CodeFightsのようなゲームが私たちの強みに関する情報を今後形作っていく、というのは想像に難くない。さらに、学校を卒業して仕事を探しはじめるまでには、皆そのようなゲームに取り組みはじめているだろう。大学を卒業したばかりの人が過去10年間にこなした宿題の量を考えてみてほしい。もしも全ての宿題がゲーム化されていれば、その学生は膨大な数の差別化された強みを持って、終わりのない候補者の列を飛び越えることができていたばかりか、そもそもちゃんと宿題をやっていただろう。

CodeFightsと違って、宿題からは即座に満足感を得られなければ、対決や新たな発見もない。そのため、高等教育やそれ以後の教育サービスを提供する組織は、今後コースワークや宿題をゲーム化していくことになるだろう。

採用プロセスがゲーム化するにつれて、テクノロジーが採用活動のハードルを下げていくことが予想される。そして企業と候補者は、採用ゲームがもはや負け戦(=The Crying Game)ほど悲しい(もしくは予想外な)ものではないことに安堵のため息をもらすことだろう。

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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter