マイクロLEDを埋め込んだ極薄フィルムで脳を覆う光遺伝学用デバイスを開発、脳神経の包括的な理解に道

マイクロLEDを埋め込んだ極薄フィルムで脳を覆う光遺伝学用デバイスを開発、脳神経の包括的な理解に道

開発したマイクロLEDアレイ。写真左:マイクロLEDアレイ中空構造。写真右:マイクロLEDアレイ極薄フィルムの発光像

豊橋技術科学大学(関口寛人准教授)、獨協医科大学(大川宜昭准教授)、沖縄科学技術大学院大学(福永泉美准教授)は3月18日、脳を覆って神経細胞を光で操作する、柔軟で極薄の生体適合性フィルムに多数のマイクロLEDを埋め込んだ光遺伝学用デバイスを開発したと発表した。

近年、特定波長の光で活性化するタンパク質を使って神経細胞の活動をコントロールする「光遺伝学的手法」が注目されている。特に、複雑な脳の神経ネットワークの包括的な理解に役立つことが期待されているが、それには広範囲に分布する特定の神経細胞の部位を自在に制御できる光刺激技術が必要となる。従来の光ファイバーや顕微鏡を用いる方法では、複数の部位に同時に光をあてることが難しく、また自由に行動する動物への適用も限られる。そこで、生体に埋め込めるLEDデバイスに期待が集まっているのだが、通常のLEDでは大きすぎてこの目的にはそぐわない。

そこで研究グループは、サイズが100μm(マイクロメートル)以下、厚さが数μmというマイクロLEDを、生体適合材料である極薄のパリレンフィルムの上に格子状に配置する手法を編み出した。化学薬品で半導体結晶の特定方向だけを溶かす「異方性ウェットエッチング」という技術を使い、シリコン基板の上に形成されたマイクロLED層の下側を溶かして浮かせ、マイクロLED層だけを剥がした後、パリレンフィルムに転写した。こうすることで、曲げても光照射特性が劣化しないフィルムができあがった。これをマウスの脳の表面に貼り付けたところ、明るい青い光を放った。

マイクロLEDを埋め込んだ極薄フィルムで脳を覆う光遺伝学用デバイスを開発、脳神経の包括的な理解に道

マイクロLEDを埋め込んだ極薄フィルムで脳を覆う光遺伝学用デバイスを開発、脳神経の包括的な理解に道

マウス脳に密着したマイクロLEDアレイ極薄フィルムにおいて、3点の狙ったLEDを点灯させた光照射の様子

脳の広い範囲を覆うことができるこのデバイスを使えば、光を使った複雑な脳活動の制御が可能になる。計測技術を組み合わせれば、脳の活動と、行動や疾患との関係が包括的に理解できるようになり、新しい神経科学研究の道が拓かれることも期待される。さらに、光に反応する生体内機能分子の開発が進めば、光をあてることで薬剤を狙った部位に好きなタイミングで効かせることができる生体埋め込みデバイスによる光治療技術への応用も期待できるということだ。

沖縄科学技術大学院大学がDNAの作用で自己組織化・分解するゲルブロックを作製、組織工学・再生医療への応用の可能性も

塩基対形成は非常に特異的なプロセスであるため、対合するDNA鎖の設計に利用できる

塩基対形成は非常に特異的なプロセスであるため、対合するDNA鎖の設計に利用できる

沖縄科学技術大学院大学の研究グループは、短いDNAの鎖を接着剤のように使い、2mmほどのハイドロゲル(水を含む高分子物質)ブロックを、プログラムどおりに結合させることに成功したと発表した

研究グループは、ハイドロゲルブロックの表面にDNA鎖を固定し、それが別のブロックに固定したDNA鎖との対合(「たいごう」または「ついごう」。同じ起源の染色体同士が結合すること)により、プログラムによって指定されたブロック同士をつなぎ合わせる実験を行った。DNAは、2本のDNA鎖がらせん状に結合して成り立っているが、塩基の緻密な組み合わせによって対合されている。この対となるDNA鎖を設計することで、目的の相手と対合させることが可能となる。この原理をハイドロゲルブロックという肉眼で見える素材を使って実証したのが、この実験だ。

表面にDNA鎖を固定したハイドロゲルブロックを溶液に混ぜると、10〜15分でハイドロゲルブロックは自分たちで相手を選んで対合し、自己組織化した。1つの実験では、赤と緑に色分けされたハイドロゲルブロックの表面に一本鎖(いっぽんさ)のDNAを付着させて、赤いブロックと緑のブロックが対合するようにした。これらを溶液に入れて振ると、10分後には緑のブロックと赤のブロックが対になった。同じDNA鎖とは相互作用をしなかったため、同じ色同士が結合することはなかった。

赤と緑のハイドロゲルブロックは、表面に付着した対合するDNA鎖同士で塩基対を形成することにより、結合することができた

赤と緑のハイドロゲルブロックは、表面に付着した対合するDNA鎖同士で塩基対を形成することにより、結合することができた

さらに、特定の配列のみを認識するDNAの能力の検証も行った。4対のDNA鎖を設計し、それぞれを赤、緑、青、黄のハイドロゲルブロックに付着させた。これを溶液に入れると、いろいろなDNA配列が存在するにも関わらず、対合するDNA鎖同士でしか結合が起きなかった。「これは、自己組織化が非常に特異的におこるプロセスであり、プログラムがしやすいことを示しています。DNA配列を変えるだけで、ブロック同士がさまざまな方法で相互作用するように誘導することができるのです」と、核酸化学・工学ユニットの横林洋平教授は話す。

ハイドロゲルブロックは、その表面にあるDNA鎖が対合しているため、自ら色別のグループに分かれることができた

ハイドロゲルブロックは、その表面にあるDNA鎖が対合しているため、自ら色別のグループに分かれることができた

そして、構造体の分解もプログラムできるかどうかも検証した。対合する2本の1本鎖DNAを設計し、1本目の一本鎖DNAの一部と対合する短い一本鎖DNAも作った。この長短のDNA鎖をハイドロゲルブロックに付着させたところ、これらは対合した。その後、長いほうのDNA鎖と同じ長さの対合するDNA鎖を加えると、1時間後には短いDNA鎖は長いDNA鎖に置き換わり、ハイドロゲルブロックの集合体は分解した。

「これは、DNAを『接着剤』としてハイドロゲルブロックをくっつけると、このプロセスを完全に元に戻すことができるということを意味し、非常に驚くべきことです。また、個々の構成要素も再利用できるということです」と、核酸化学・工学ユニットのポストドクトラルスカラー、ヴェンカット・ソンタケ博士は言う。

ハイドロゲルブロックは、より強く対合する2本目のDNA鎖を加えると分解したため、2本目のDNA鎖は、ブロック同士を接合する2本のDNA鎖間の結合を阻害したといえる

ハイドロゲルブロックは、より強く対合する2本目のDNA鎖を加えると分解したため、2本目のDNA鎖は、ブロック同士を接合する2本のDNA鎖間の結合を阻害したといえる

この研究の意味について、横林洋平教授はこう話している。「これはまだ基礎研究ですが、将来的には、この技術を組織工学(ティッシュエンジニアリング。Tissue engineering)や再生医療に応用できる可能性があります。ハイドロゲルブロックの中にさまざまな種類の細胞を入れて、新しい組織や臓器を作るために必要な複雑な3次元構造を組み立てることができるようになるかもしれません」。

また、「応用の可能性はともかく、相互作用するDNA鎖といった微小な化学変化を目の当たりにできるのは素晴らしいことです。これが科学の面白いところです」と明かしている。

野菜・果物など生ゴミ活用のオーガニックポリマー開発で水問題解決を目指すOIST発EF Polymerが4000万円調達

ビル&ミリンダ・ゲイツ財団も支援、生ゴミ活用のポリマー開発で水問題解決を目指すEF Polymerが4000万円を調達

野菜・果物の不可食部分の残渣など有機性廃棄物から開発したオーガニックポリマーを手がける「EF Polymer」(EFポリマー)は4月14日、シードラウンドにおいて、総額4000万円の資金調達を発表した。引受先は、MTG Ventures、Yosemite、Beyond Next Ventures、エンジェル投資家の鈴木達哉氏(Giftee代表取締役)。2018年から始まった沖縄科学技術大学院大学(OIST)のスタートアップアクセラレータープログラムから生まれたスタートアップとしては、初めての大型資金調達事例となる。

EF Polymerは、OISTの2019年度スタートアップ・アクセラレーター・プログラムを通じ、当時22歳のインド人起業家兼CEOのNarayan Lal Gurjar(ナラヤン・ラル・グルジャール)氏らが設立。

生分解性廃棄物(生ゴミ)を新興国でも利用しやすい低コスト・持続可能な農業資材に変換することで、水不足など農業に関わるグローバルな環境問題を解決することをミッションとして掲示しており、野菜・果物の不可食部分の残渣をアップサイクルした環境に優しいオーガニックポリマーの開発を行っている。

EF Polymerが開発するオーガニックポリマーとは?

現在オムツなどに使われ一般的に流通しているポリマーは、アクリル系ポリマーなど化学合成されたものが大多数であり、生分解せず土壌を汚染することや、土壌成分と化学反応し吸水力を失うことから農業利用に適していないという。

これに対してEF Polymerのポリマーは、柑橘系の果物やバナナの皮、サトウキビのバガスなど有機性廃棄物を基に開発を行っているそうだ。このポリマーは、自重の80~100倍の水を保持でき、土壌投入すると保水力と肥料保持力が高まり、40%の節水と20%の肥料削減が期待できるという。また100%オーガニックのため6カ月で完全生分解される。

インドではすでに累計1700kgを販売しており、ビル&メリンダ・ゲイツ財団などの支援を受けながら、500人以上の農家の協力の下パイロットテストを実施しているそうだ。

農業用水不足などの「水問題」を、生ゴミを「資源」として活用し解決

今日の地球上に存在する水のうち人類が利用可能な淡水は約0.01%しかなく、そのうち約7割が農業セクターにおいて消費されているという。これに加え、気候変動や環境汚染などに起因する農業用水の不足など、農家が直面している「水問題」は乾燥地域では特に深刻な課題となっているそうだ。

また、膨大に生み出される生ゴミも社会問題化しており、世界では毎年約2~3億トンの生ゴミを排出しているという。この生ゴミは、全体の30~40%しか利活用が進んでおらず、焼却インフラの少ない新興国では土壌埋設処分による汚染問題を引き起こしている。

そこでEF Polymerは、世界が抱える「水」と「生ゴミ」における社会課題を同時に解決するべく、生ゴミを「資源」として活用することでオーガニックポリマーを開発した。

またナラヤン・ラル・グルジャールCEOは、現在日本の有機農園は0.5%ヘクタールの土地しかなく、農林水産省は今後30年間で25%にまで有機農園を増やそうとしている点を指摘。バイオ廃棄物をリサイクルし、有機農産物を変換する同社のアプローチは、これらオーガニック農業の促進に役立つという。同社のEF Polymerは、有機農園を増やすというプロジェクトに貢献し得る大きな可能性を秘めているとした。

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カテゴリー:バイオテック
タグ:農業 / アグリテック(用語)EF Polymer(企業)沖縄科学技術大学院大学 / OIST(組織)資金調達(用語)気候変動(用語)ビル&メリンダ・ゲイツ財団(企業)水(用語)日本(国・地域)