インテルとボーイングという米国を支える2本の大黒柱は政府から延命処置を受けるも予後に暗雲

Intel(インテル)とBoeing(ボーイング)。米国工業界を支える2本の大黒柱だ。

Intelは世界最高水準のチップをいくつも製造し、数十年にわたってコンピューターの性能を限界まで高めつつ、時価総額2000億ドル(約21兆2000億円)という組織を維持し、11万人の従業員の生活を支えてきた。一方、Boeing747型機の引退(The New York Times記事)を経てもなお、航空業界のグローバルリーダーの地位を保ち続け、660億ドル(約7兆円)の収益で、900億ドル(約9兆5300億円)の時価総額と15万3000人を超える従業員を支えている。

だが古代ローマの石の柱と同様、これらの柱もかつての機能を支える単なる骨組みと化してしまった。風雨に浸食され、疲労し、崩れかけている。どう見ても、前の世代で頑張ってきたように米国の経済を支え続けるのは無理なようだ。今後もイノベーションの先陣を切って走り続けられるように、米国のこの極めて重要な産業を支持していくのはもう難しい。

この数十年の長きにわたり、米国は産業空洞化の嵐に吹きつけられてきた。まずそれは繊維、消費者向けの小型機器、家電品といった軽いものから始まったのだが韓国、ドイツ、台湾、中国、タイ、トルコなどの輸出主導型の国々が高度な能力を持つようになり、その製造の幅を拡大し、海外にどんどん進出するようになった。

今や、米国工業界の例外主義の象徴である絶対にして最強の二本柱は、根深い脅威にさらされている。とりわけインテルは、最悪の立場にある。次世代の7ナノメートルノードの製品化は2021年に持ち越される(BBC NEWS記事)こと、さらに一部の製造を外注に回すという残念なニュースが報じられると、ウォールストリートに荒波が立ち、わずか2週間でインテルの株価は20%も下落した。台湾のファウンドリー業者であるTSMC(台湾セミコンダクター・マニュファクチャリング・カンパニー)の技術は、インテルよりも数年進んでいる(Financial Times記事)と信じるアナリストも増えている。

かたやボーイングは、2018年10月に最初の墜落事故を起こした737 MAXの大失敗がいまだ尾を引いている。それだけでも十分にこの企業を弱体化させている(The New York Times記事)が、そこに新型コロナウイルス(CNBC記事)と、国際運輸の崩壊(BBC記事)が追い打ちをかけた。ボーイングの前途は、2年前の予測をはるかに上回る危機に見舞われている。

このスローモーションの大惨事への米国最初の対処策が、経済支援という昔ながらの政策危機ツールだった。インテルは米国の半導体産業の死を最も明確に表しているが、これはインテルに限った話ではない。この穴を埋めようと、米連邦議会は半導体業界に対して大きな奨励策を打ち出した。2週間前、テキサス州選出の共和党のJohn Cornyn(ジョン・コーニン)上院議員は、2020年度の防衛予算法案の補正案に、超党派の幅広い支持(米国議会資料)を得た。これにより、米国のチップ産業推進のために数十億ドル(数千億円)の資金とインセンティブが供与されることになる。

それに対してボーイングは、民間投資家による負債コンソーシアムに資金運用を依頼する(Bloomberg記事)前に、600億ドル(約6兆4000億円)の経済支援を政府に求めていた。だが、ボーイングは米国政府から別の形の支援(Mother Jones記事)も受けている。同社の収益の3分の1は防衛関連だ。つまり、ペンタゴンに大きく支えられているわけだ。製造業者への政府の経済支援は、2020年もまったく問題なく進められることになる。

だが、これの企業へ潤沢な資金を投入したところで、内部に広がる腐食を止めることはできない。どちらも激しい国際競争によって優位性を削り取られてゆく中、企業文化はエンジニアリング中心から利潤最大化型へと転向している。繰り返しになるが、ボーイングはインテルよりはまだ安全だ。Airbus(エアバス)は、イノベーションにおいて以前からそれほど優れていたわけでなく、A380型機のような戦略ミス(BBC記事)もあった。中国の機体メーカーであるCommercial Aircraft Corporation(中国商用飛機)は着実に進歩はいているものの、まだ第一線で戦える企業ではない(Reuters記事)。

これは業界の方針が間違っていたのではなく、米国の産業政策が目を覆いたくなるほど無能だったということだ。

台湾は、その半導体の卓越性を国の経済の要と位置づけた(Harvard Business School記事)。韓国は、K-POPや韓流ドラマといった文化製品を政府の最優先産業に定め(American Affairs記事)、今では世界中で大きな伸びを見せている。なかでも中国が経済発展の基盤として主要産業を支援していることはよく知られているところであり、この3年間は大成功を収めた。例を挙げればキリがない。

その違いは何なのだろう?ひと言でいえば戦略だ。どの成功例を見ても、政府がインセンティブと政策変更によって新規産業の立ち上げを支援し、さらにこれらの産業が、与えたインセンティブに対して確実に利益を戻してくれることになる他に類のない知的財産を築き上げられるように仕向けている。

それに引き換え米国は、常に最悪のタイミングで資金のばらまきを行っている。新規産業の創出を奨励せず、倒れかけた産業に駆け寄り、荒れ地や枯れ木林に現金の肥料をばらまいているのだ。

チップ産業を立て直そうと議会が数十億ドル(数千億円)を投入する一方で、トランプ政権は7500万ドル(約80億円)の量子コンピューター戦略(THE HILL記事)を発表した。米国を高度なコンピューターの開拓に駆り立てようという狙いだ。中国は5G無線技術に数十億ドルを投資している(Bloomberg記事)が、それに対して米国が拠出したのは、農村部の無線通信テストベッドに数十万ドル(数千万円)だ

経済超大国である米国は、単純にあらゆるものが世界最高で、国民は望めば最高の職業に就けるのが当たり前という世界に生きてきた。産業は崩壊することもある。政府の政策はうまくいかないこともある。学校も大学は、教育がまるで非効率になってしまうこともある。だが、この巨大な産業界に太刀打ちできる国など今までほとんどなかったため、そんな問題を気にする者はいなかった。

今や、多くの国々が工業製品や文化製品で大きな競争力を持つようになった。競争力が付いただけではない。彼らはその分野の勝利を確実にするために、全力で当たってくる。台湾はさまざまな不確定要素のために半導体ではあまりうまくいっていないが、素晴らしいのは経済のグローバル化や中国の台頭といった変化を乗り越えるべく、その得意分野を最優先させるよう経済、教育システム、政府を全体的に動かしたところだ。

もちろん、今でも資金や才能を備えた巨大企業であるインテルとボーイングには、まだチャンスがある。しかし米国の製造業界で倒れていった企業の歴史をひとつずつ振り返ると、不吉なデジャブを感じざるを得ない。あのとき、私たちはやり方を間違えた。果たして私たちには、それを正しくやれる素質があるのだろうか?

画像クレジット:Douglas Sacha / Getty Images

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(翻訳:金井哲夫)

EUでのデジタル課税やAI、プライバシー保護について競争政策担当委員が欧州議会に回答

次期委員会で二重の役割を担うことになる欧州連合(EU)の競争政策担当委員であるMargrethe Vestager(マルグレーテ・ベステアー)氏は現地時間10月8日、欧州議会の4つの委員会の議員からの3時間におよぶ質疑に応答した。参加した欧州議会議員たちにとってこれは、彼女が立法において果たすべき広範な使命の中の優先順位を聞き出す絶好の機会となった。なぜならこれが、EU全体における今後5年間のデジタル戦略を形作るからだ。

TechCrunchが先月伝えたとおり、 ベステアー氏は次期委員長であるUrsula von der Leyen(ウルズラ・フォン・デア・ライエン)氏から、次期欧州委員会で「Europe fit for the digital age」(デジタル時代に適合した欧州)と呼ばれる新しいポートフォリオを監督する上級副委員長に任命されている。

さらに彼女は、競争政策担当委員という現在の仕事も引き継がなければならない。本日の公聴会で、彼女の任命に関する承認票を持つ議員たちから何度も放たれた質問には「ポートフォリオを統合して利益相反の危険性はないか」というものがあった。

彼女は、ある議員から「そのポートフォリオの中の公平な競争法と産業政策の利益との間に緊張関係があることを認識しているか否か」を問われ、続けて法執行と政策との交錯を避けるためにその中に「チャイニーズウォールを築く」つもりかと尋ねられた。

ベステアー氏は、今回の役職を任命されたとき最初に自分に問うた疑問だと前置きし、「法執行の独立性に交渉の余地はない」との無難な推論を述べた。

「たしかに競争政策委員はこれまで常に合議に基づいていました。競争に関して私たちが下してきたあらゆる判断は合議によるものです」と彼女は答えた。「それを正当化するのは、もちろんすべての判断は必要ならばひとつではなく2つの法的精査の対象になるということです。この仕組みは、直近では2011年に下された2つの判断で承認されています。それは、この仕組みが(中略)私たちの人権を擁護するものであるかどうかの見極めを目的としており、擁護していることが判明しました。従ってこの仕組みは、そのままで望ましい形になっているのです」。

現委員であり次期委員でもある彼女は、その新たな責任に関する広範な質問に的確に対応していった。デジタル課税、プラットフォームの力と規制、グリーン・ニューディール、AIとデータの倫理、デジタルスキルと研究、スモールビジネスの規制と投資といった分野の質問を上手にさばき、さらには、eプライバシーや著作権リフォームといった個別の法律に関する質問にも答えていた。

とくに、気候変動とデジタルトランスフォーメーションは、欧州が抱える最大の難題として彼女の冒頭の発言で取り上げられた。これらに対処するには、協働と公正さを重視する姿勢が必要になると彼女は指摘した。

「欧州には、非常に高い技能を持つ人たちが満ちあふれており、素晴らしいインフラ、公正で効果的な法律があります。私たちの単一市場は、欧州の産業に成長とイノベーションの余地が与え、世界最高の企業活動の場となっています」と彼女は議員たちに向けたピッチの冒頭で話した。「そのため私の誓約は、欧州を中国のように、または米国のようにすることではありません。私の誓約は、欧州をより欧州らしくする手助けをすることです。私たち固有の強さと価値の上に築き上げることで、私たちの社会は、強く、同時にすべての欧州人のための公正な場となります」。

デジタルサービスの信頼を築く

ベステアー氏は冒頭の発言で、就任が承認されたなら、デジタルサービスに信頼を構築するよう努力すると述べた。企業によるデータの収集、利用、共有に関して規制を設け、個人情報が、企業の市場支配力の集中のためではなく、確実に公的な利益のために使われるようにするという。

シリコンバレーはこの提案を無視できないだろう。

「私は、デジタルプラットフォーム、サービス、製品に関する信頼性と安全性のための規則の強化を含むデジタルサービス法に着手します」と彼女は約束した。「また、企業による個人データの収集、利用、共有にも、私たちの社会全体に利益がもたらされるよう規制をかける必要があります」。

「国際的な競争が激化する中、私たちは公平な競技場を整備する必要があります」と彼女は警告した。

しかし公聴会の途中で、プラットフォームの脅威に対する欧州の対応には、横柄な巨大ハイテク企業の分割が含まれるのかという直接の問いに、ベステアー氏は「そのような侵害的介入は最後の手段であり、最初から過激な手段に訴えることがないよう努力する責務がある」と釘を刺した。これは彼女が一般に向けて示した姿勢と同じだ。

「罰金では奇跡は起きないし、罰金では不十分だと言うのはもっともです」と彼女は、その件に関する質問に答えて述べた。別の議員は、巨大ハイテク企業への罰金などは基本的に営業経費に過ぎないと不平を漏らしていた。

続けてベステアー氏は、競争の修復に失敗したために法律の執行が成功しなかった例として、Google AdSenseの独占禁止法問題を引き合いに出した。「私たちが当然のこととして検討すべきは、そうした市場で競争を活性化させるための強力な対策の必要性です」と彼女は言った。「市場は動きを止めてしまいました。あれから2年になります。市場は活性化していません。このようなケースにどう対処すべきか?もっとずっと広範な対策を考えなければいけません」。

「企業を分割するというさらに広範な対策は可能ですが広範囲に影響が及ぶことは避けられません。私の責務は、競争を取り戻すために、できる限り侵害的ではない対策を取ることにあります。その観点に立てば明らかですが、競争法において競争を取り戻すためにもっとやれることはないかを探りたいと私は考えています」。

欧州の競争法執行機関は、「市場の中だけの競争でなく市場のための競争」という新たな現象とベステアー氏が説明する状況、つまり競争に勝った者は誰であれその市場の事実上のルールセッターになる流れの中で、いかにして公正な競争を法律で確実なものにするかを考えなければならなくなる。

透明性と公平性を基にプラットフォームを規制するという点では、欧州の立法府は今年の初めにすでに同意している。だが、そのプラットフォーム・ツー・ビジネス規制はまだ実施されていない。「しかし、それは競争法の執行機関である私たちに向けられた疑問でもあります」とベステアー氏は議員たちに話した。

競争のアプローチを抜本的に改革するより、既存の独占禁止法を、非常に迅速に小回りが利くようにして適用するというのが、彼女が最も伝えたいことのようだ。彼女は、現在係争中のチップメーカーBroadcom(ブロードコム)の一件のために、20年前に施行されて一度も使われたことがなかった暫定措置の埃を払ったところだと話していた。

「これは、現在取り組んでいる問題のスピードアップが最優先であると認識した事実を、見事に反映しています」と彼女は言った。そして「適正な手続きを省略することは決してできないため、法の効力が現れるスピードには限界がありますが、その一方でできるだけ早く動けるようにならなければならないのです」と付け加えた。

プラットフォーム勢力に関して議員たちに見せた彼女の反応は、デジタル市場(データも含まれる可能性がある)、つまりデータを貪るプラットフォームに独占されてしまった市場を即座に解体するというものではなく、厳格な規制を支持するものだった。それはElizabeth Warren(エリザベス・ウォーレン)米上院議員の巨大ハイテク企業の存在そのものを脅威とする考え方と相反する。だが、プラットフォームの観点に立つベステアー氏の好むアプローチは、法的な小さな傷を無数に与えて死に至らしめるというものかもしれない。

「もちろん、どのようなツールが必要かを考えるのは自由です」と彼女は、プラットフォーム勢力の規制手段としての市場再編について話す中でそう述べた。「競争当局が、現在有効な方法では公正な競争への恩恵がないと判断したときには、市場の再編成を試みる別の方法が採用されます。そしてそれらのツールは、損害が出る前に再編成を行うことを目的とするものになるでしょう。権利侵害の発生前なので何者も罰せられませんが、市場がどのように編成されるべきかについて、ほぼすべての命令を直接下すことが可能です」。

目的を持った人工知能

人工知能に関して現委員会は倫理的デザインと適用のための枠組みの構築を進めているが、ベステアー氏は冒頭の発言で、その枠組みの提案を一般公開すると約束した。「人工知能が、人間の判断をないがしろにするのではなく、支援するかたちで倫理的に利用されるように」する目的のため、就任後100日以内に一般公開するという。

それが、いまだ黎明期にあるテクノロジーを今すぐ支配下に置こうとする、あまりに野心的で性急な試みではないのかという疑問をひとりの議員に抱かせた。「大変に野心的です」と彼女は答えた。「そして、いろいろ考えている中に当然のことですが、信頼を築きたいのなら人の意見に耳を傾けろという思いがあります」。

「素晴らしいアイデアがある、それを確実に実行できるとただ言うだけではいけません。人々の意見をよく聞いて、そこで何が正しいアプローチになるかを解明することが重要です。さらに、バランスというものがあります。何か新しいものが生み出されたときは、まさしくあなたが言うように、規制しすぎないように十分に気をつけるべきです」。

「私の場合、この野心を満足させるには、信頼できるAIの作り方に関する評価リストや原則(欧州委員会のHLEG:持続可能な金融についてのハイレベル専門家グループが推奨)を使うためにAIを採り入れている数多くの企業から意見を聞く必要があります。しかし、ある程度、短時間で聞いて回るべきだとも考えます。なぜなら、正しく進めるために多様な人たちの話を聞かなければならないからです。それは、私たちが急いでいることの現れでもあります。私たちはなんとしても、AI戦略をスタートさせ、それらの提案を実現させなければならないのです」。

ベステアー氏は、医療、運輸、気候変動への対処などに使われる技術への応用の可能性を掲げ、欧州は目的を持ったAIを開発して他と差別化をはかり、世界のリーダーになれると指摘した。それは「未来の欧州の価値を高めることにもなる」と彼女は話している。

「倫理的指針もなく世界のリーダーにはなれません」と彼女はAIについて話した。「もしそれを拒否し、世界の他の国々がやっているようにやればよいと、どこで集めてきたかも気にせず、あらゆる人の個人データを溜め込み、有り金残らずそこに投資すればいいという考えなら、私たちは倫理的指針を失います。そして、人に奉仕したいがためにAIを開発している人たちに、敗北することになります。それは別の種類のAI。目的を持ったAIです」。

ベステアー氏が他の委員と協力し戦略的な役割を果たしてきたデジタル課税については、国境を越えてデータや利益が行き交う仕組みを考慮したルールに作り変えるための国際的な合意を取り付けることを目指しているという。しかし合意が得られない場合は、欧州が単独で、しかも早急に、2020年末までに準備を整える。

「びっくりするようなことが起こりうる」と彼女は、EU加盟国同士ですら税制改革の合意を得ることが難しいという話の中で述べた。しかし、欧州委員会では全会一致で数々の税制法案がすでに通過している。「なので実行不可能ではありません。問題はいくつかの非常に重要な法案がまだ通過していないことです」。

「現実的な方法でデジタル課税の国際的な合意が得られると、私は今でも希望を持っています。叶わなかった場合は、欧州式のソリューションを強く提案することになります。私は、欧州式の、あるいは国際的なソリューションを支持すると表明した加盟国に敬意を表しますが、そうした支持がなかったとしても、私たちは税金を納めているすべての事業者の期待に応えるよう、単独でも成し遂げる決意をしています」。

ベステアー氏はまた、EU機能条約116改正の可能性の審議への支持も求めている。これは、EU内の市場の競争による歪みに関連するものだ。税制改革を通過させるには、全会一致ではなく特定多数決を使う。現在EUにおける税制改革の障壁を乗り越えるための有効な戦略だ。

「私たちは何としても、どのような結果になるかを追求し始めるべきです」と彼女はそれに続く質問に答えて言った。「成功することが前提だとは考えていません。重要なのは、私たちには条約が与えてくれたさまざまなツールがあり、必要に応じてそれを使うことです」。

公聴会で彼女は、EUと加盟国による、より戦略的な公的調達の利用法を提唱した。より多くの資金をデジタル研究やビジネスのイノベーションに投入し、共通の利益や優先事項に役立てるためだ。

「これは欧州共通の利益となる重要なプロジェクトに加盟国と協力し合うことを意味します。大学、供給業者、製造業者から、製造業で使用する原材料のリサイクル業者に至るまで、あらゆるバリューチェーンを結合させるのです」と彼女は言う。

「欧州における公共調達は巨額にのぼります」と彼女は付け加えた。「もしそれを使ってソリューションの開発の依頼も自由にできたなら、小さな企業でも手を挙げることができるでしょう。そうして私たちは、社会のあらゆるセクターに適用できる人工知能戦略を描けるようになるのです」。

彼女はまた、欧州の工業戦略は自分たちの単一市場を超える必要があると訴え、圏外に広がる市場への強力なアプローチを呼びかけた。

そして、公的資金で集められたデータの場合、誰でも無料でアクセスできるシステムはあまり好まないことを示唆しているようでもあった。そこに含まれる価値が、すでに豊富なデータを有し市場を独占している巨大企業が、地元の中小企業の負担によってさらに城塞を固めさせる危険性があるからだ。

「私たちの相互連結が強まるほど、互いの依存関係も深まり、相手の決断から影響を受けることも多くなります。欧州は、中国や米国も含む80あまりの国々と手を結ぶ強大な貿易相手です。そのため私たちは、公正でグローバルな競技場を築ける有利な立場にいます。これには、私たちの世界貿易機関(WHO)改革案の推進も含まれます。そして、海外の国有企業や助成金が欧州の公正な競争を阻害しないようにする適切なツールを手に入れることも含まれます」と彼女は言う。

「私たちは、市場の力が何によって構成されているかを見極める必要があります」と、集めたデータ収集の保管容量が、直接の収益につながるか否かは別として、市場での地位にどう影響するかを話し合う中で彼女は続けた。「私たちはそれがどう作用するかについて調査の対象を拡大します。私たちは、いくつかの企業合併事例の調査を通じて、データがイノベーションのための資産として役立つが、同時に参入障壁にもなるなど、多くのことを学びました。適切なデータを持たなければ、人々が本当に求めているサービスを提供できないからです。AIでは、それがますます決定的な条件になります。それをひとたび手に入れたなら、さらに多くを入手できるようになるからです」

「公的資金によって収集し自由に使えるようになる膨大なデータで、何をするかを議論しなければなりません。聖書の言葉ではありませんが、持てるものにはさらに与えられるという状況になってはいけないのです。すでに多くのデータを持っている者は、それを良い方向に利用する能力も技術的な知識も持っています。そして欧州には、驚くほどのデータがあります。私たちが世界に誇るスーパーコンピューターを使えば、そこから何が見えてくるかを想像してみてください。さらに、ガリレオ(測位衛星システム)とコペルニクス(地球観測プログラム)はどうでしょう。これらからのデータも利用できます。農家にとっては、精密な農業経営、農薬の削減、種子の節約など多大な恩恵があります。しかし、自腹で費用を払える人にそれを開放することで、本当にハッピーなのでしょうか?」。

「ここはしっかり議論しなければなりません。大手企業だけに独占させるのではなく、小さな企業にも公平にチャンスが与えられるようにです」

正しいことと間違っていること

公聴会でベステアー氏は、賛否が分かれるEU著作権法改正を支持するか否かも尋ねられた。

彼女は妥協点が見つかることを支持すると答えた。この法律で重要なのはアーティストに相応の報酬が渡るようにすることだが、次期委員会では加盟各国が一貫性を持って実施することも重要であり、断片化を避けるべきだと強調した。

彼女はさらに、他の法律に関連した以前と同じ対立的な議論が再燃する危険性も警告した。

「著作権問題は決着したと考えています。その議論をデジタルサービス法で蒸し返すべきではありません」と彼女は言う。「そうならないように十分に気をつけなければいけません。著作権保持者に確実に報酬が届くようになる時期が遠のいてしまうからです」。

それに続く質問で彼女は、EU加盟国の著作権指令が発せられた際にアップロードフィルター技術から言論の自由を守ることができるかと尋ねられた。これは、改正著作権法が事実上要求していることに反対してプラットフォーム側が展開している議論だ。ベステアー氏は遠回しにこう答えた。「それについては、加盟各国と委員会との間で数多くの議論をやり取りすることになるでしょう。議会もそれを注視します。私たちが確実に、加盟各国で同様に実施されるようにします」。

「著作権指令の採択中に交わされた議論が再燃しないよう、大いに気をつけなければなりません」と彼女は言い足した。「それは極めて重要な議論になるからです。言論の自由と、権利保有者の保護との論争になるからです。ただそれは完全に正当なことです。私たちに基本的な価値があるように、基本的な論争も存在します。なぜならそれは、適正さを維持するために常にバランスとっている必要があるからです」。

ベステアー委員はさらに、eプライバシー規制への支持も求めた。「これをぜひとも通過させることが最優先です」と発言し、改正するための重要な構成要素であることを議員たちに訴えた。

「私が望むのは、単に個々の市民のための非中央集権化に徹することだけではありません」と彼女は付け加えた。「権利は手に入れました。あとはそれに力を持たせることです。権利は持っていても、それをどう行使すればよいかがわからないというフラストレーションを感じます。何ページも何ページも何ページも文章を読まされて、それでもまだ気力が残っていて権利のことを忘れていたら、とにかくサインしてしまいます。そんなのは間違っています。人々に力を与えて自己防衛ができるように、私たちはもっと尽力すべきなのです」。

また、偽情報キャンペーンや政治的介入の経路となるアドテクを利用したマイクロターゲティング、さらにはより広範な、いわゆる監視資本主義の感想も問われた。「アドテックを利用したビジネスモデル全体を攻撃するつもりか?」と彼女はひとりの議員に聞かれた。「マイクロターゲティングのような特定のデータ収集行為を完全に排除するつもりか?」。

少し躊躇したあとベステアー氏は答えた。「監視資本主義から学んだことの中に、私たちはGoogle(グーグル)で検索しているのではなく、グーグルが私たちを検索しているという考え方です。それは、何を買いたいかではなく、何を考えているかに関する、非常にいい考え方を示してくれています。私たちがやるべきことは山ほどあります。私は、これまでにしてきたことに完全に同意しています。素早く物事を片付けないといけないからです。そのため(偽情報に関する)実施規則は、物事を正しく行ううえで、とても重要な出発点になります。そのため私たちは、たくさんのものをその上に作り上げていくことになるでしょう」。

「デジタルサービス法の詳細をどうするべきかは、まだわかりません。急を要するものなので、今持っているものを最大限に活かすことが最も重要だと私は思います。また、私がデジタル市民権と呼んでいるGDPR(一般データ保護規則)を評価するために、各国当局に十分な施行を求め、できれば「ルールに基づいた個人情報保護」(プライバシー・バイ・デザイン)を実現させ、その選択を可能にするために、市場の反応も取り込みます。たとえば、目の前に利用規約を提示してサインを強要するようなやり方とはまったく異なる方法があります。市場の声を聞き入れることも大変に重要だからです」。

「たまたま時間があるときに、この議会のお陰で理解できる文章で書くよう義務付けられたことでさらに恐ろしさが増した利用規約を読んでみて、私自身とても示唆に富むものだと感じました。そして私は何度もありがた迷惑だと感じました。もちろんそれはもうひとつの側面、そう規制です。またそれは、どのような人生を送りたいか、どのような民主主義を手に入れたいかをしっかり考えようとする市民としての私たちのことでもあります。それはデジタルだけの問題ではありません。だから我慢できないのです」。

ベステアー氏は、目の前の喫緊の課題に着手できるよう、予算を通してほしいと議員たちに嘆願した。「私たちは、これらすべてのことを実行に移せるよう、調査の規模を大幅に拡大することを提案しました」と彼女は言う。

「こんなことは言いたくないのですが、何はともあれお金が必要です。計画が必要です」。

イノベーションに投資するための資金が使えることを人々に知ってもらうために、研究者に欧州全体をつなぐネットワークを構築してもらうために、何らかの手が打てるようにしたいのです。そこへ到達するための資金を人々が得られるように。みなさんには、多年次財政枠組みの設定に賛同いただきたく思います。私たちが実現を望んでいるさまざまな案件に関して、欧州の人々が我慢強く待っているわけではありません。それを実行するのはいまこの場所です」。

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(翻訳:金井哲夫)