フェムテックのパイオニアClueのデジタル避妊ツールが米食品医薬品局の認可を取得

高い評価を受けて約1300万人のユーザーが利用している月経周期予測アプリを運営するフェムテック分野のパイオニア企業Clue(クルー)が今、新しいデジタル避妊ツール用のサービスを立ち上げようとしている。このサービスは、排卵日を統計的に予測することによって避妊ツールとして機能する。

「Clue Birth Control」(クルー・バース・コントロール)と名づけられたこのサービスは「2021年中に」米国でローンチされる予定だが、具体的な日付についてはまだ発表されていない。

料金についても「プレミアム価格」になるそうだが、詳細はまだ不明だ。

ベルリンに本社を置くClueは米国時間3月1日、近く開始予定のこのサービスについて米国食品医薬品局(FDA)の承認を取得したことを発表した。これで、同サービスを米国で2021年中にローンチする道が整った。

米国の次は欧州に展開していく計画だが、現地の規制当局の認可を取得する必要があるため、サービスの開始時期は国や地域ごとに異なる見通しだ。

今回の認可により、Clueは米国で医療機器メーカーと同等の規制を受ける企業になる。そのことを受けて、同社は最近、経営面でも(幹部の人事も含め)いくつかの変更を実施した。

一部を紹介すると、創業者兼CEOのIda Tin(アイダ・ティン)氏は理事長に昇格し、Audrey Tsang(オードリー・ツァン)氏(前製品担当マネージャ)とCarrie Walter(キャリー・ウォルター)氏(前相談役)がClueのCEOに就任した。

TechCrunchはこの3人と、Clueのチーフメディカルオフィサー(最高医学責任者)Lynae Brayboy(ライネ・ブレイボーイ)氏に最新の動向について話を聞いた。

「Clue Birth Control」アプリとは

妊娠しやすい日の統計的予測を行うアプリを提供する企業はClueが最初ではないが、この分野に最初に参入し2018年にFDAの認可を取得したNatural Cycles(ナチュラル・サイクルズ)とは違い、ClueのClue Birth Controlアプリは「完全デジタル方式」と呼ばれ、ユーザーが毎日体温を測定する必要がない。

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また、頸管粘液のモニタリングなど、他の身体的な変化を追跡する必要もない。Clue Birth Controlでユーザーが定期的に入力する必要がある唯一のデータは、月経の開始日だけだ。

これにより、Clueは「使いやすさ」という点で既存の早期参入組と大きな差をつけているように思える。しかも、有効性にはほとんど差がない(詳細は後述する)。

Clueはベイズモデルに基づく予測アルゴリズムを採用している。アプリには、月経周期中のある期間が「高リスク」期間として表示される。これはその期間に避妊具を装着せずに性交渉を持つと女性が妊娠する可能性が高いことを示している。一方「低リスク」期間は、その間に避妊具を装着せずに性交渉を持っても妊娠する可能性が低いことを示す。

  1. Android_Calendar_High_Risk

    画像クレジット:Clue
  2. Android_Calendar_Low_Risk

    画像クレジット:Clue
  3. Android_Cycle_High_Risk_300ppi

    画像クレジット:Clue
  4. Android_Cycle_Low_Risk

    画像クレジット:Clue
  5. Android_Onboarding

    画像クレジット:Clue

これらの期間の長さはユーザーによる入力データが増えるに従って変化する。各ユーザーの月経周期データに合わせてアプリがパーソナライズされるにつれて、最初は長かった期間が徐々に短くなっていくのが普通だ。

2020年の夏に、Clueの初代チーフメディカルオフィサーに任命されたブレイボーイ氏は次のように説明する。「ベイズモデルはさまざまな数多くの医療用アプリで使われてきました。基本的には、入力されたデータを取り込んで、それを数学のモデルに基づくアルゴリズムで処理します。そして月経周期と排卵日に関して入力データからわかった事実を利用してアプリをパーソナライズします」。

「妊娠しやすい期間を表示する機能[Clueの月経周期予測アプリで、月経周期のどの段階にあるかを示す機能]を導入する前は、避妊モデルとして信頼性が低く、テストも不十分でした。それで、ベイズモデルの概念を使用するようになりました。このモデルは時間の経過とともにパーソナライズされていきます。ユーザーが自分の月経周期の初日を入力すると、危険日と安全日の期間がパーソナライズされていきます」。

「危険日期間は、最初は長めに、月経周期内の16日間から始まり、徐々に短くなっていきます。11日未満になることはありません」。

避妊ツールとして機能させるには、危険日にはセックスを控えるか、コンドームなどの避妊具を使用する必要がある。他の避妊方法(避妊リングなど)と比べて面倒な方法になっている理由もそこにある。安全日には、ユーザーは妊娠の可能性が低いというアプリの統計的予測のみに頼ることになる。

Clueによると、このアプリは「通常の使い方(typical use)」をすれば望まない妊娠を92%の確率で「完璧な使い方(perfect use)」をすれば97%の確率で防ぐことができることがわかっているという。「通常(typical)」や「完璧(perfect)」というのは、避妊の有効性を計測する調査に使われる専門用語だ(後者は、性交渉を持つたびに指示どおりに製品を使用することを意味し、前者は、使い方にいくつかの誤りがあることを意味する)。

これらの確率の意味についてもう少し具体的に説明すると、通常の使い方では、100組のカップルがClueのデジタル避妊ツールを1年間使用した場合、8組が妊娠すると予測される。完璧な使い方では、同じく1年間の使用で100組中3組が避妊に失敗するということだ

ちなみに、Natural Cyclesは通常の使い方で93%、完璧な使い方で98%有効であるという。一方、Guttmacher Institute(グットマッハー研究所)が米国で行った調査によると、ピルは通常の使い方で93%、完璧な使い方で99%有効であり、男性用コンドームは通常の使い方で87%、完璧な使い方で98%有効であるという。

何人程度のユーザーが登録することを想定しているのか、Clueは明らかにしていないが、Clue Birth Controlを市場に投入するまでに要した期間から推測すると、持続可能なユーザーベースを確保する自信があるものと思われる(Clueは遅くとも2019年から密かにClue Birth Controlの開発作業を進めていたと思われるが、具体的な開発期間を尋ねても「長期間」という回答しか得られなかった)。

Clueがデジタル避妊アプリを市場に投入するまでの期間を考えると、すでに時間な時間が費やされたように思われる。例えば、Clue Birth Controlの基盤となる統計的手法は、市場投入前の厳格な臨床検査を受けている。これは予想有効性試験で、2019年に結果が報告されている。

「このアプリの開発にはかなり長い期間を費やしました。このような製品の開発や、その有効性を証明する作業には時間がかかるからです。製品としての観点からも、このアプリが提供するエクスペリエンスを、わかりやすいものにし、この種の製品の安全性および有効性と調和するようにしたいと思っています。その意味でも時間がかかります」とツァン氏はいう。

「使いやすさを検証し、ユーザーがどのように考えて使うかを正確に理解したうえで自信を持って送り出せるような製品を開発するには、長い期間を要します」とツァン氏は続ける。

排卵日予測アルゴリズムを検証するために、700人以上の米国人女性を対象とする1年間の本格的な臨床試験が実施された。同試験は、ジョージタウン大学のInstitute for Reproductive Health(IRH、リプロダクティブヘルス機関)とCycle Technologies(サイクル・テクノロジーズ)という第三者企業が共同で行い、試験には研究用アプリDOT(Dynamic Optimal Timing)が使用された。

Clueは、DOTのアセット(アルゴリズムとアプリの両方)を2019年に買い取ったという。DOTは臨床的に検証されたテクノロジーで、ClueはこれをClue Birth Controlという自社アプリとして実装したわけだ。

「これは正式かつ徹底的な臨床試験であり、純粋に治験を目的として設計された試験です。特定の製品が正しく機能するかをテストしてデータを収集する、といった類の試験ではありません。この試験は純粋に学術的な目的で実行されました。その後、当社はこのアルゴリズムとアプリを購入し、アプリの機能をClueの中核製品Clue Birth Controlとして実装しました」とウォルター氏は述べる。

「臨床試験では、アルゴリズムの処理内容とユーザーのアプリ操作方法が試験対象となります。アルゴリズムは製品のごく一部でしかないからです。重要なのは、女性が現在の状態を理解し、情報を追跡およびチェックし、それに基づいて行動できるかという点です」と同氏は付け加える。

Clue Birth ControlのFDA承認プロセスでは、アルゴリズムの統計的予測の有効性と、Clueからユーザーへの情報の提示方法が精査された。パッケージ全体が規制当局によって調査された(誤解のないように言っておくが、DOTのアプリはFDAの認可を受けていない。Clueが臨床試験済みのDOTのアルゴリズムを自社アプリとして実装し、そのアプリパッケージをFDAに提出して認可されたのである)。

ウォルター氏は次のように説明する。「医療機器としてFDAの認可を取得しても、特定の製品について承認されただけであって、それを持って帰って自由にいじってよいというわけではありません。ですから、Clue Birth Controlについては今後もさまざまな開発を続けていく必要があります。これは、新型の避妊ツールの初代バージョンです。現時点で当社のアプリに組み込まれるのは、FDAが検証・認可した機能です。私たちが他の何よりも知恵をしぼって力を入れたのは、すべてのユーザビリティインターフェイスについてユーザーテストを行い、安全であることを確認する作業でした」。

Clueのビジネスプロセスもいずれは、規制当局による継続的な精査の対象になるだろう。これはスタートアップとしては大きな方向転換であり、ティン氏はこれを「成熟に向けた重要なプロセス」という言葉で説明する。

「力を注いだもう1つの大きな仕事は、とにかく生き残って規制当局の適格企業になることでした。それ自体大きな変化ですし、膨大な作業が発生します。でもそれはどうしても必要な変化です。ですから、市場に製品を投入してユーザーに使ってもらうのはもちろん重要ですが、会社の運営方法はまったく切り替える必要があります。これは成熟に向けた非常に重要なプロセスでした」とティン氏はいう。

自分が創業したフェムテックスタートアップがFDAの規制対象となる適格企業になったのを見てどんな気持ちかという質問に対し、ティン氏は次のように答えた。「よちよち歩きでしゃべり始めたばかりの赤ん坊が、10代の若者になり、そして今、家から巣立っていこうとしているという感じです。『自分なら必ずできる』と自分に発破をかけているところです」。

鍵を握るのはユーザー適合性

禁欲を除き、100%有効な避妊方法などもちろん存在しない。妊娠調整が非常に個人的な選択であることを考えると、異なる避妊方法のさまざまな有効性パーセンテージを単純比較しても、それほど役に立たないかもしれない。

デジタル避妊法には当然、賛否両論があり、検討する必要がある。Clueは、この避妊アプリが万人向けではないことを率直に認めている。

Clueによると、Clue Birth Controlは、定期的に月経がある18~45歳までの女性のみ有効だという(また、自分の月経周期を追跡できること、セックスの後に必ずアプリをチェックすること、危険日にはコンドームを使うわないセックスをしないこと、などの条件もある)。

これからこのアプリを使う女性は、登録する前に、月経周期が安定しているかどうかという点以外にも、さまざまな点を考慮する必要がある。特に、明記されている程度の妊娠リスクがあるという事実を受け入ることは重要だ。

こうした点は、古くからある非デジタル方式の手動追跡バージョン(リズム方式またはカレンダー方式などと呼ばれることもある)も含め、すべてのFABM(fertility awareness based methods、妊孕性意識に基づく方法)による妊娠調整に当てはまることだが、それでもNatural CyclesやClue Birth Controlのようなアプリベースの製品によって、FABMを使用する女性の数が増えることは間違いない。そうなると、このカテゴリーにおいて責任ある製品開発を行うには、適合性についてユーザーにきちんと伝えること、場合によっては強制的な措置を取ることが重要になる。

FABMは、変化する妊孕性情報に基づいて行動するために、きちんと指示を守り細部に至るまで注意する必要があるため、その他の妊娠調整方式よりも複雑になる。例えば、避妊リングなら、いったん挿入してしまえば、あとは何もしなくても100%機能する。ピルはもっと簡単だ。1日1錠飲むのを忘れないようにすればよいだけだ。

とはいえ、ホルモン避妊法が、誰でも利用できるものではないことは明らかだ(グレイボーイ氏は、米国では特に、避妊法を利用すること自体が困難になってきていると指摘する)。また、アプリ形式のパーソナライズ可能な避妊ツールは利便性が高いため、最近の女性たちは、すぐに試してみる気になるようだ(Natural Cyclesは2020年、150万人のユーザーを獲得したという)。

しかし、アプリならではの利便性にはマイナス面もある。2017年に欧州でローンチされたNatural Cyclesは、ソーシャルメディアを利用した誤解を招きかねない前のめりなマーケティングを行い、あっという間に批判を浴びることになった。またスウェーデンでは、国内のある病院から、Natural Cyclesを使用していた女性の間で望まない妊娠が多数発生しているという旨の報告があり、取り調べに発展したこともある。結果的に、妊娠したケースは、Natural Cyclesが避妊失敗のリスクを明確にするために規制当局と同意した有効性の範囲内であることが確認された。

したがって、デジタル避妊ツールはユーザーへの見せ方をどうするかが極めて重要になる。

ClueはClue Birth Controlを使用する際のユーザー適合性を厳しくチェックして避妊に失敗するケースを最小限に抑えるようにしている。新規登録ユーザーは、適合性チェックを通過する必要があるのだが、このチェックでは単に自分は適格であると答えるだけでなく、月経周期も含め、重要な情報を提供することによって適格性を実証しなければならない。

適格であることを示すことができないユーザーはアプリによって「強制的にログアウトさせられる」とツァン氏はいう。いったん強制ログアウトされたユーザーは、すぐに戻ってきて別の回答を試すことができないように、一定期間ロックアウトされるようになっている。月経不順がひどくてアプリが正しく機能しないユーザーも同様に、継続的な使用を拒否される。

ツァン氏は次のように説明する。「Clue Birth Controlに新規登録するとすぐに、極めて詳細な査定プロセスが実施されます。ユーザーに一連の質問をするのですが、質問自体と回答方法(ドロップダウンリストから選択する形式)、質問の設定方法を工夫することで、ユーザーが自分は適格であると明示的に言わなければならいようにしてあります。『はい・いいえ』で答えられる質問ではありません。『あなたの年齢は?』といった明示的な質問によって、ユーザーから情報を実際に引き出すようにしています。そうすることにより、そのユーザーが使用規定に従ってアプリの機能を実際に使用する資格があるかどうかを確認できるようにしています」。

「このプロセス自体もFDAによって詳細に精査されました。このアプリはスマートフォンで誰にも見られずに使用できるツールです。他人が関わることはありません。ですから、新規登録時の適合性チェックを正確に行うことはとても重要で、その点については徹底的に議論しました」とウォルター氏は付け加える。

「1つ認識しておく必要があるのは、自分の月経周期についてある程度意識していなければ、これらの質問には答えることができないという点です。自分の月経周期は通常このくらい、といったことがわかっていなければ答えられないからです。一番長い周期はどのくらいかとか、過去12カ月で一番短い周期はどのくらいだったとか、そういった質問です」。

「FDAの認可は、提出した製品に対するものです。この製品は1回のデータ入力と統計予測に依存しているため、どうしてもある程度の『非正則性』が発生します。月経不順がかなりひどい場合、この方法は機能しません。当社の科学担当チームによると、現在規則的に月経のある女性の約7~8割が、このアプリでカバーできる範囲内に収まるといいます」。

「月経周期は20~40日で9日程度は前後します。ですから、1日も違わず把握している必要はありません」。

「完璧であることなど不可能ですから、ユーザーには通常の使用で92%は避妊できると必ず伝えており、決して誇大な宣伝はしていません。それと同時に、米国で一般的に行われている多くの避妊法よりも優れているとも伝えています」とブレイボーイ氏はいう。

「ピルや避妊リングでは妊娠のリスクは限りなくゼロに近いといえます」と同氏は付け加える。「ですから、こうした方法ほど有効性は高くないと率直にお伝えしています。それでも、何らかの理由でピルや避妊リングには耐えられないという人もいますから、当社のようなデジタル避妊法にもメリットはあります」。

「残念なことに、かなり多くの人たちが膣外射精に依存しています。また、コンドームに頼っている人たちも多く、それは良いことですが、コンドームの場合、毎回装着することが絶対条件になります。でも、月経周期のどのあたりなのかをある程度認識するだけで、そうした人たちにもメリットがあるかもしれません。このアプリがあれば、『ある程度認識する』どころか、厳密に計算されたアルゴリズムをプライバシーが確保された自宅で利用できます」。

「今、多くの米国人女性にとって、実際に妊娠調整手段を利用することが非常に難しくなっています。原因の1つは失業、もう1つは避妊具を保険適用外とする2020年の最高裁判決です。その点、このアプリなら医療サービス提供者に協力してもらうことで簡単に使えますし、いちいち薬局に出向く必要もありません。使いやすいと感じていただけると思っています。実際本当に使いやすいですから。自宅でもスマートフォンはいつも手元にありますから、失くすこともありません」。

もう1つ、デジタル避妊法の利用者にとって大きな問題がある。近年、米国ではSTD(性感染症)の感染率が高まっているが、避妊具を使わないセックスでは、STDから保護されないのだ。

このため、Clueでは、自社アプリを、パートナーと安定した関係にある女性、またはパートナーと一緒に定期的に性感染症の検査を受けている女性に勧めている。ベッドをともにする相手のセックス歴を知らない女性には勧めていない。

ティン氏は次のように説明する。「これは当初からの前提だったのですが、私たちはこのアプリを本当に適合性のある人にだけ使って欲しいと思っています。多くの人たちにメリットがあると思っているからこそこの製品を開発しているのです。実際このアプリが多くの人たちに必要とされているのを見てきました。これが最も重要なことです。私たちはみなさんのお役に立ちたいのです。適合性の低い人には使ってほしくありません。アプリもそのように設計してあります」。

Clue Birth Controlの「完璧な / 理想的な」ユーザーとはどのような人かという質問に対して、ブレイボーイ氏は次のように答えてくれた。「医師としてお答えすれば、今後2年ほどで妊娠したいと考えているが、今はまだ準備ができていない。かといってホルモン避妊法は理由があって使いたくない。コンドームはすでに使っている。そんな人ですね」。

「つまり、今すぐ妊娠したくはないが、妊娠の準備をしている / 計画している、そして効果持続時間の長い薬は使いたくないという人に向いています」。

最も効果が高い避妊方法(レボノルゲストレルIUDやミレーナなどは最大99.9%の効果)の多くにも、女性の子宮に着脱する必要があるという欠点がある。また、子宮内膜にも長期にわたり影響が及ぶ可能性がある、とブレイボーイ氏は指摘する。

「Clue Birth Controlは、今後数年で妊娠しても大丈夫と判断したら、そのときはすぐに用法に従って使用を止め、妊娠できます。同時に、自分の月経周期についての理解が深まるというメリットもあります。また、当社は対象年齢を18~45歳と指定していますが、理想的なユーザーとしては20代後半から30代の女性を想定しています」と同氏は付け加える。

ティン氏はまた、米国および世界で望まない妊娠が驚くほど増えており、多くの女性が現在、何らかの理由で妊娠調整を使用していないという現状を指摘する。そうした女性たちにとって、アプリベースの妊娠可能性予測ツールは、代替策となるかもしれない。

ブレイボーイ氏によると、米国での望まない妊娠は約45%だが、一部の民族グループでは69%にもなるという(American College of OBGYNの調べによる)。

「望まない妊娠がどのくらいあるのかを調査するのは難しいという事実もあります。計画して予定どおりに妊娠する人は普通いませんから。このアプリベースのFABMは1つの方法になり得ます。今後2年ほどの家族計画について真剣に考えることができます。親になることについて真剣に考え始めるための本当に優れた方法です」。

Clue Birth Controlのマーケティングは「真剣に」デジタル避妊法を選択する人たちを対象にする予定だ。

ツァン氏は次のように説明する。「100%有効な避妊法などないということを理解してもらうようにしています。このアプリは1つの選択肢です。ユーザーは真剣な選択をするわけです。当社は、マーケティング活動を通じて、それぞれの人が自分にとって正しい選択ができるようにお手伝いをするつもりです。妊娠のリスク、アプリの動作原理とその意味についても率直にお伝えしています」。

「ソーシャルメディアやインフルエンサーによるマーケティングを大規模に行う計画はありません。先ほども申し上げたとおり、製品について説明する方法を徹底するために、当社には標準の業務手順があります。また、製品の実態を正確に反映する形でマーケティング活動を行っています」と同氏は付け加える。

FDA認可に向けて社内体制を一新

Clueは、前述の経営幹部の変更にともない、内部プロセスも大幅に見直した。規制の対象となる適格企業としての新しいステータスを反映した見直しだ。

「この点は認識していない人が多いのですが、医療機器を販売する許可を得るには、会社全体をカバーする質の高い管理システムを運用する必要があります。TechCrunchはテック系スタートアップの専門サイトなのでご存じだとは思いますが、テック系スタートアップではそうしたシステムが整っていないことが多いのです」。

「ですから、健康について人生で重要な判断を下すためにアプリを使う場合、その開発会社が品質管理された方法で製品を作っていることを確認することがとても重要になります。当然ですが、市場に出ているアプリで医療機器として規制されていないものは、ほぼ間違いなく、そのような品質管理を行っていません。ですから、当社の場合は、設計、ソフトウェアの開発、テスト、ユーザーテストまで、すべてのプロセスにおいて、1つ1つの手順が品質管理されていることを示す必要がありました。製品が市場に出ると、そのような管理ができているかどうかが監査の対象になるためです。このシステムを確立させるために、当社はこの2年間で大きな変化を経験してきました」。

「これは本当に大きな変化です」とティン氏は付け加える。「当社の場合、チームを良い形でまとめること、自分たちの真の目的を見失わないことが重要でした。これは、いわば新しい忍者の技を取得するようなものだと思います。何か新しいことを学んで、自分の価値を高めた上で、それでもユーザーに焦点を合わせ、大切にしているすべての品質を維持し、今まで常に大切にしてきたものを、今度は一段高いレベル、つまりこの品質管理システムのもとで実行する、そういうことです」。

「これはClueという会社の本質とつながっていると思います。というのは、品質管理システムは、基本的に、ユーザーに対して、品質の保証、リスク回避、ケアを提供するものだからです。ユーザーに、妊娠や避妊といった、人生で本当に重要なことをコントロールするお手伝いをする製品を提供することに対しては大きな責任を感じます。ですから、当社のプロセスをその責任の大きさに見合ったものしたいと心から思います。そういう意味では、チームが団結するのは簡単でしたが、膨大な仕事をこなさなければなりませんでした」。

「FDAの認可を得るのに一体何千ページの技術文書を提出したのかわからないくらいです。全面的な見直し作業を行った感じでした。このようにオペレーションの面では一新したものの、Clueの本質は維持できていることに非常に満足しています。一歩間違えれば大企業的なつまらない会社になっていた可能性もあります。でもそれはClue本来の姿ではありません。これは重要な点です。私たちは常にユーザーを大切にしたいのです」。

このように余分なペーパーワークは発生したが、Clueの会社としての使命は、これまでも、そしてこれからも変わらないとツァン氏はいう。

「私たちの使命は私たちの価値観に基づいています。Clueの使命は、高品質で、リスクを評価・軽減するための明確な手順とプロセスをともなう製品を出すことです。これは、体に良い選択ができるよう女性を支援するフェムテック企業であるという価値観に沿ったものです」とツァン氏は語る。

「市場に製品を出して、『これから人々の健康を適当にもてあそんで稼ぐつもりだ』などという会社はありません。そんな会社はありませんが、第三者に監視してもらうことは有益です。規制対象の会社になるというのはそういうこと、つまり、いつもあなたを監視しチェックしている民主的責任のある政府機関が存在するということです」とウォルター氏が付け加える。

「最近フェムテックが直面している批判の中には、同意できるものもあります。というのは、まったく規制されておらず、どこから出てきたのか、どんなビジネスモデルなのか、そして実際に何をしているのか、誰も知らないようなさまざまなアプリが存在しているからです。これは、私たちが望んでいるのとは逆方向への強い動きです」。

「私たちはこうした批判によって生じる制約を真剣に受け止めています。アイダ(ティン氏)が言ったように、私たちはプロセスを楽しむことを忘れないようにしています」。

Clueは、FDAの規制対象企業になったことで、より広範な機会に恵まれるようにもなっている。

「これによって当社の使命も範囲が広がったと思います」とブレイボーイ氏はいう。「月経周期を追跡することは健康全般にも重要ですが、これによってユーザーはFABMを現代的な方法で使うことができるようになると思います。そもそもFABM自体に、月経周期に何か異常があることに気づくことができるというメリットがあります。例えば、長期的に受胎能力に影響を与える可能性のある要因が見つかるとか、何か重大な病気があることに気づき早く医師に相談して治療を受けることができるといった利点が考えられます。ですから、当社はユーザーおよび医療サービス提供者と連携していきたいと考えています」。

「他のタイプの避妊法と比較研究する予定はありませんが、市販後調査を行う予定はあり、関係協力者と研究を行う予定です。Clue Birth Controlをローンチする前から、すでに学界との協力関係は始まっていましたが、今後も引き続き協力していきたいと思っています。将来的には、医学関連の会議に参加して、出席者との協力関係を築いていきたいと思います。このように常に門戸を開いて、医学者、科学者、避妊研究者たちに継続的に注目してもらうことは本当に重要なことです。当社は科学を礎にしている会社ですから。私がClueのメンバーに加わったのも、その使命を果たすためです」とブレイボーイ氏はいう。

「また、当社にとっては、データでできる処理を継続的に高めていく能力も重要です」とティン氏は付け加える。「これは当然重要になります。というのは、ユーザーからは本当に多くのニーズがあり、それを満たすには段階的に対応するしかないからです。ニーズに対して段階的に対応するのは正しい戦略です。当社は規制対象の会社として運営する方法を身に付けました。現在当社は実際に規制対象の適格企業として運営しており、そのおかげでユーザーからのより深いニーズにも応え続けることができます」。

ウォルター氏は、規制されていないアプリが大量に存在する中で、医療機器として規制当局による監視の対象となるコンシューマー向けアプリであることは、競争上の優位性を確保することにつながることも強調する。

「平均的なヘルス・フィットネス関連アプリを見ると、大量の新規登録ユーザーを獲得して利益を上げることを主要KPIとして掲げています。もちろん当社も新規登録ユーザーを獲得して利益を上げたいとは思います。しかし、当社はFDA規制の対象となっているため、市販後調査の義務もあり、きちんと義務が遂行されているかどうかが監査されます。それが当社の現在のKPIです。KPIとしてはあまりぱっとしません。これは平均的なアプリ開発企業との大きな違いです。そしてこれこそ、消費者がアプリを使用するとき考えるべきことです。例えば、『この会社はどんなKPIを達成しようとしているのだろう』といったことを考えるべきだと思います」。

「あるいは、『そのアプリデベロッパーは他にどんなアプリを出しているのだろう』とか『ゲームアプリを15個出しているデベロッパーが1個だけ月経周期トラッカーアプリを出しているのはなぜなのか』とか『どのようなビジネスモデルに基づいているのだろう』などと自問してみるのもよいでしょう」。

「『経営幹部はどんな人たちだろう』という質問もいいですね」とブレイボーイ氏が割り込む。「このZoom画面に映っている私たちは全員、これまでも月経を経験してきたし、今後もそれが続くため、避妊に関する判断を下す必要があったであろう女性たちです。そのため私たちは、非常にユニークな立場にいることになります。Clueのメンバーとしてではなく、個人的な立場からある程度の共感や理解を示すことができるからです」。

「グローバルなヘルス関連産業の可能性について少し言わせてください。私はこの市場に大きな期待を寄せています。それは、私がこの会社に入ったもう1つの理由でもあります。私は西アフリカのマリ共和国でキャリアを開始しました。その地域で、個人が避妊することの難しさと、人々に押し付けられているさまざまな文化的な障害を目の当たりにしました。ですから、デジタル避妊法というのは私にとって大きな可能性を秘めているのです。さまざまな国で無限の可能性があると思います。これまで、ホルモン避妊法以外の避妊法を人々が使いたがる文化的な慣習や傾向について本当に考えたことがありませんでしたから」。

新しい共同CEO体制について、ティン氏は「経営陣が協力し合う」という、Clueで同氏が心がけてきたスタイルを自然な形で継承したものだという。

「Clueが大切にしている重要なことが2つあります。1つは規制当局の対象企業であること、もう1つは持続可能なビジネスを構築していることです。この2つの点に留意して経営を進めるのに、キャリー(ウォルター氏)とオードリー(ツァン氏)の2人ほど最適な人物は他にいません。Clueでは協力的な経営体制を敷いてきました。この体制でものごとを進めるのが気に入っているからです。これも会社としてアップグレードされた点のように思います。これからは2人のトップが経営を進めていくわけですが、これは私の考える未来のリーダーシップをよく反映していると思います。その意味で、共同CEO体制を選択するというのもやはり、Clueという会社の体質を表現していると言えます」。

「この体制になってまだ日が浅いですが、この2週間は本当に楽しかったです。その中心にあるのは、規律を重んじ、率直であるべき、という価値観です」とツァン氏はいう。「協力的で対等であるという価値観です。この価値観によって、Clueの価値の核心部にあるすべての行動について互いに責任を負うことができます。ですから私もアイダ(ティン氏)に全面的に同意します。このようなトップ体制を敷く会社が増えて欲しいと思いますし、個人的にもかなり楽しんでいます」。

「ヒーローのようなCEOなど必要でしょうか」とウォルター氏は付け加える。「私の出発点は、オードリー(ツァン氏)と会話しているときのほうが頭が冴えると気づいたことでした。それなら、頭の中の思考プロセスを会話にすればいいじゃないかと。これを認めると、ほとんどの意思決定は何らかの協力体制のもとで行ったほうが良い結果が得られるように思います。私たち3人の中には、他の人と話す必要がないほどのずば抜けた天才はいません。それを受け入れたら、あとの問題は、どのようにして協力するかということだけです」。

「アイダ(ティン氏)が言ったように、私たちはいつも協力的な経営チームとしてやってきました。そしてそれは芸術の分野と同じだと気づいたのです。つまり、最も生産的なものには、最も創造的なコラボレーションが存在するということです。キャリー(ウォルター氏)とオードリー(ツァン氏)の2人は本当に密接なマイクロチームです。であれば、その最高のチームを会社の中心に据えようということです。もちろん、経営チームやその他の専門知識があってのことですし、ライネ(ブレイボーイ氏)がいることもすばらしいことです。科学、データサイエンス、すべての専門知識も必要です。でも、私はこの2人の何かを生み出そうとするマインド、意思決定プロセスとしての会話が好きです。これなら、より大胆で、かつ思いやりのある会社にならないはずがありません」。

「私はこの体制をバックアップしていきたいと思います。私は本当にすばらしい人たちとClueを創業しました。その1人は私の一生のパートナーで、私たちは長年本当に親密な関係でした」とティン氏は付け加える。「互いを思いやる対等な関係で仕事をしてきましたが、それが今、組織の中でより明快な役割を果たすようになっています。私たちはClueの創業当時から培ってきたものを基盤として、次の一歩を踏みだそうとしています」。

【更新】Clueは最初、高リスク(危険日)期間は「9日間より短くなることはない」と説明していましたが、その後、これは11日間の間違いであると確認できたため、そのように修正した。

カテゴリー:フェムテック
タグ:Clue避妊FDA

画像クレジット:Clue

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(文:Natasha Lomas、翻訳:Dragonfly)

米国が1回の接種で済むジョンソン・エンド・ジョンソンの新型コロナワクチン緊急承認、通常の冷蔵庫で保管可能

FDAが1回の接種で済むジョンソン・エンド・ジョンソンの新型コロナワクチンを緊急承認、通常の冷蔵庫で保管可能

Leah Millis / reuters

米食品医薬品局(FDA)は、ジョンソン・エンド・ジョンソンが開発した1回の接種だけですむ新型コロナウイルス用ワクチンに緊急使用許可を出しました。これは米国ではモデルナ、ファイザーに続いて3番目に認可された新型コロナワクチンで、通常の冷蔵庫で保管できます。

先発のモデルナおよびファイザー製新型コロナワクチンは、いずれもmRNAと呼ばれる種類のワクチンで、ウイルスの一部の遺伝物質を体内に直接送達する仕組み。ただし、遺伝子の構造が破壊されやすく、保管温度がマイナス20℃(モデルナ)、または−75℃(ファイザー)と指定されています。そのため、医療施設には専用の保管用冷蔵庫が必要となり、運搬時の温度管理をどうするかといった課題があります。またどちらも2回の接種が必要とされます。

これに対し、ジョンソン・エンド・ジョンソンのワクチンは英アストラゼネカのワクチンと似た種類を採用、不活性化した風邪ウイルス(26型アデノウイルス)に新型コロナの遺伝子を挿入したウイルスベクターワクチンで、1回の接種で完了するうえに、通常の冷蔵庫に保管が可能と手間と管理コスト両方にメリットがあるのが特徴です。米国、南アフリカ、ブラジルで行われた治験では、85%の重症化予防効果があり、中程度の症状も66%を予防できたとされます。FDAが出した緊急使用許可は、米国の18歳以上を対象とします。

先発2社のワクチンは予防効果が約95%と言われており、その点でジョンソン・エンド・ジョンソンのワクチンの効果が低いとする声も一部にはあるようですが、CNNは専門家の意見としてジョンソン・エンド・ジョンソンのワクチンは治験が伝染性が高いとされる変異種も含む状況で行われたためとの見方を示しました。そして米国でも春頃から変異種の感染が急増する可能性があると指摘。「今日ジョンソン・エンド・ジョンソンのワクチンが打てて、明日モデルナのワクチンが打てるなら、待つ必要はありません。今日打つ方を選ぶべきです」との言葉を伝えています。

ちなみに、日本では2月17日から医療従事者を対象としてワクチンの先行接種が始まったばかり。3月1日にはファイザー製ワクチンの第3便が到着する予定で、第1便から数えると合計で68万人(x2回)分が到着するとのこと。今後は国内の医療従事者470万人に順次優先接種が行われ、高齢者も含めてそれぞれ2回接種可能な分のワクチンを全国に分配する見通しです。

また、アストラゼネカは日本政府との契約のもと厚生労働省にワクチンの日本国内生産を申請しており、承認され次第、最大9000万回分を国内から供給する予定です。一方で、他の製薬会社による日本独自の国産ワクチンの開発も進められてはいるものの、こちらは輸入(国内生産含む)ワクチンの接種が本格化すれば臨床試験の実施が難しくなる可能性も考えられ、いつ頃実用化できるのかはまだわかりません。

(Source:FDA。via:Ars Technica。Coverage:CNNBBCNikkeiEngadget日本版より転載)

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カテゴリー:バイオテック
タグ:Johnson & Johnson(企業)新型コロナウイルス(用語)米食品医薬品局 / FDA(組織)ワクチン(用語)アメリカ(国・地域)

米国では未成年への電子タバコ「VAPE」販売にTikTokが使われている

TikTokは電子タバコVAPE(ベイプ)をめぐる問題に直面している。2019年に米国の法律で21歳未満の顧客への電子タバコの販売が禁止されたにも関わらず、使い捨て電子タバコやVAPE(フレーバーつき電子タバコ)の宣伝動画がTikTokアプリ内で今でも比較的簡単に探し出せる。ノリの良い人気の音楽が流れ、現在は(米国で)販売が禁止されているフルーツフレーバーやミントフレーバーなどの香りや味つきカートリッジを宣伝しているそれらの動画が、10代をターゲットにしていることは明らかだ。いくつかの販売業者は「用心深い」梱包サービスをウリにしている。彼らが購入者へ出荷するVAPE製品は、保護者による監視の目をすり抜けられるように詰め物の下に隠されたり、化粧ポーチやふわふわのスリッパなど、他の製品の内部に梱包されていたりする。

とりわけ未成年や若年層への訴求力が高いフレーバーつきの使い捨てVAPEへの関心が高まり、それがFDA(米国食品医薬品局)によるJuul(ジュール)取り締まりへの引き金となった

2020年2月、FDAは未成年者をターゲットにしている製品やタバコとメンソール味以外のフレーバーを提供する製品を含む、違法販売された電子タバコに対して、最初の執行措置を取った。Juulを取り締まる目的があったのは明らかだ。

その結果、バブルガムやピーチ、ストロベリーといったフレーバーを欲する若者たちはPuff Bar(パフバー)のような使い捨てVAPEへと走った。使い捨てVAPEは安価で簡単に見つけることができ、コンビニエンスストアやガソリンスタンドでも継続して合法的に販売されていた

それだけでなはい。TikTokにも使い捨てVAPEが溢れており、支払いさえできれば、誰でもすぐに手に入れられる。

もっといえば、それらの違法コンテンツがTikTokに報告されても、すべてが削除されるとは限らない。

TechCrunchは、TikTokでVAPEを販売している業者たちが顧客と連絡を取るのにアプリ内の動画とコメントの両方を活用していることに気づいた。さらに彼らは、TikTokの閲覧者を違法運営と思われるウェブサイトに誘導している。また、彼らのTikTok動画には、未成年者が好むフレーバーつきPuff Barのような使い捨てVAPEをはじめとするVAPE製品の在庫状況が頻繁に表示される。

要するに、販売業者たちはFDA規制の執行後もVAPEへの興味を失わなかった若年層の観客に対してVAPEを宣伝するための無料かつ効果的な広告手段として、TikTokを利用しているのだ。

タバコに関する規制のための非営利団体Truth Initiative(トゥルース・イニシアティブ)の最新調査によると、2019年から2020年にかけてJuulの使用量は減少したが、それでも10年生から12年生のVAPE愛用者の41%がJuulを好み、この年代が最も好む電子タバコブランドとなっている。調査結果から、同時期にPuff Bar(8%)やSmok(スモック、13.1%)といった使い捨て製品の売り上げが伸びているのが見て取れる。

2020年9月にTruth Initiativeは次のような声明を出している。「2020年のNational Youth Tobacco Survey(NYTS。全米若者のタバコ使用に関する調査)新しい電子タバコの売上統計データを合わせて見ると、現行の連邦法によってミント味の製品が市場で禁止された際に、若者たちがすばやくメンソールの電子タバコ(特にJuulのメンソールポッド)へ移行したこと、そして、Puff Barのような低価格のフレーバーつき使い捨て電子タバコの人気が急騰したことは明らかだ」。

同団体によると「綿菓子やバナナアイスのように子どもたちが思わず手を出したくなるような名称を使うことにより、使い捨て電子タバコ市場は2019年8月から2020年5月までのわずか10カ月間で2倍に成長した」という。

さらに、TikTokがこの問題に大きく加担している。

Statista(スタティスタ)に発表された第三者機関による推定によると、現在、米国内のアクティブなTikTokユーザーのうち32.5%は10代の若者が使用するアカウントだと想定される。また、TikTokが2020年公表した数字によると、米国にはTikTokの月間アクティブユーザーは約1億人いる。

一方、VAPEや電子タバコの人気ブランド名や関連するキーワードがタグづけされたTikTok動画は数億回のビュー数を稼いでいる。

たとえばVAPEブランドの代名詞であるJuulのハッシュタグ「#juul」がつけられたTikTok動画のビュー数は、本記事の執筆時点で6億2390万回に上っている。

中国初の使い切りVAPE製品メーカーであるPuff Barのハッシュタグ「#puffbar」がつけられた動画のビュー数は4億4980万回だ。他のブランドも多くのビュー数を獲得している。たとえば「#njoy」は5530万回、「#smok」は4010万回、ブリティッシュ・アメリカン・タバコの「#Vuse」は500万回のビュー数となっている。

これらのビュー数はあくまで単語1つのハッシュタグに対するビュー数なので、その単語が別の単語と組み合わされたハッシュタグが無数に存在する。たとえば「#puffbars」「#puffbarplus」「#puffbardealer」などのハッシュタグがあり、順にそれぞれのタグが6680万回、960万回、890万回のビュー数に達している。

これらのハッシュタグがすべてVAPE製品や電子タバコの販売業者に結びついているわけではないが、電子タバコに関連するかなりの量のコンテンツがTikTokアプリ内に存在していることは確かだ。例を挙げるなら、「#juulgang」(ビュー数5億9040万回)のようなタグは、VAPE関連のコンテンツに対抗するハッシュタグとしてVAPE嫌煙家のコンテンツ作成者たちが愛用している。

このようなトレンドは憂慮すべきものだ。TikTokを使用する若年層の多さを考えると、特にそうだといえる。実際のところ、米国のTikTokユーザーの3分の1はおそらく14歳以下だと思われる。

米国のApp StoreではTikTokの使用に際する年齢制限を12歳以上、Google PlayではTikTokのコンテンツに対する推奨年齢を「Teen(13歳以上)」としている。TikTokは若年層アカウントのプライバシーに関するデフォルト設定を変更し、過去に物議を醸し出したハッシュタグ(米大統領選での陰謀論のような)などはすばやく排除したが、その反面、VAPE製品に関するコンテンツへのアクセスはまったく制限されていない。

TikTokにおける電子タバコ喫煙に関するハッシュタクの普及に加えて、多数のVAPE販売者が「@puffsonthelow」や「@PuffUniverse」「@Puffbarcafe」などのわかりやすいアカウント名を販売時に使用していることをTechCrunchは突き止めた。それらのアカウントのページには、大胆にも現在販売している在庫一覧を含むVAPE関連動画が並び、「#puffbarchallenge」「#puffplus」「#vaperticks」といったVAPE関連用語でタグづけされている。

あろうことか、動画に「#kids」やその他のトレンドタグをつけていたVAPE販売者もいた。

ターゲット層の大部分が10代のVAPE愛好家であることを熟知しているため、販売者が投稿した動画の多くに、保護者に見つからないよう他の製品の中にVAPEを同梱する映像や、詰め物で隠して包装した状態で配送できることを伝える描写が含まれていた。キャンディの下、化粧ポーチの中、靴下の中、他の大きい製品の下などにVAPEを隠して梱包している動画がいくつも見つかった。

アカウントのプロフィールで公表されているリンクや、動画上に表示されるリンクを通して、TikTokのユーザーは販売者のウェブサイトや、ポップアップでの年齢確認のみで済むDiscordのチャンネルへ、自動的に転送されてしまう。

多くの場合、製品を買い物かごへ追加し、そのまま支払い手続きをすることによってすぐに購入できる。大半の販売者は、通常のクレジットカード支払いの代わりに、PayPal(ペイパル)やVenmo(ベンモ)またはCash Appなどを使って決済するよう顧客を誘導している。

米国で、特に若者の喫煙を減らす運動をしている非営利団体として有名なCampaign for Tobacco Free Kidsによると、これらの行為はすべて違法である。

Campaign for Tobacco Free Kidsの代表者であるMatt Myers(マット・マイヤーズ)氏はTechCrunchに次のように語った。「21歳未満の未成年に電子タバコ関連製品の販売をすることはもちろん、ダイレクトに訴求する行為も違法です。そして、年齢確認をせずに実際の販売手続きを行うことも違法行為です」。

画像クレジット:TikTokのスクリーンショット

さらに、マイヤーズ氏は、ウェブサイトで「私は21歳以上です」というボタンをクリックするだけでは、電子タバコ製品を販売する際の法的に有効な年齢確認にならないことをつけ加える。

FDAは未だにオンライン販売に際しての具体的なガイダンスを発表していないが、未成年者への販売を防止するため、小売業者による販売時の身分証明書(ID)確認が必須であることは、法律で明確に定められている

FDAはまた、オンラインの小売販売者からの電子タバコやその他タバコ製品の購入を減らす目的で、米郵便公社や他の宅配業者を通してこれらの製品を配送することについて米国議会が最近、新しい規制を制定したことを、TechCrunchに思い起こさせてくれた。

だが、マイヤーズ氏は現行のFDAガイドラインのせいで、「ソーシャルメディアを通した」VAPE販売を取り締まることが必要以上に難しくなった、と指摘する。

「ソーシャルメディアでVAPE販売のために使用される画像、インフルエンサーの使用、販売広告はFDAによって連邦基準に沿って統制されます。しかし、FDAの連邦基準は非常に広範で概括的です。FDAは、明確かつ具体的なガイドラインを提示していません。そのために、すべての人がまるで常に『もぐら叩き』ゲームをしているような状態です」とマイヤーズ氏は語る。

大抵の場合、FDAによる介入があって初めて取り締まりが行われるが、マイヤーズ氏によると、そのような介入は「非常に稀」だという。

「現在見られる態度、行為、製品すべてが、電子タバコに関する前述の法律に違反しています。それにも関わらず、先の政権下で導入された取り締まり体制は嘆かわしいほどに弱く、不十分です」とマイヤーズ氏はいう。

画像クレジット:TikTokのスクリーンショット

事態を複雑にしている別の要因として、Campaign for Tobacco Free Kidsのような公共的な健康支援団体が、他のソーシャルネットワークとの間で築けている適切な関係を、TikTokとは築けていないことがある。

過去数年にわたり、100以上の公共的な健康支援団体が団結してFacebook(フェイスブック)やInstagram(インスタグラム)、Twitter(ツイッター)、Snapchat(スナップチャット)などの代表的なソーシャルネットワークに対し、タバコに関連したコンテンツや販売においてインフルエンサーを利用することを厳しく取り締まるよう依頼してきた。そのような努力が実を結び、FacebookやInstagramは、ソーシャルメディアのインフルエンサーたちがタバコ関連製品を宣伝することや、それらのコンテンツを抽出するアルゴリズムの開発を禁止する新しいルールを制定した。

全体的には、健康支援団体は代表的なソーシャルメディアのプラットフォーム上でのタバコやVAPE関連コンテンツが減少したと発表しているが、TikTokはまだその中に含まれていない。

TikTokは比較的新しいアプリであるため、Campaign for Tobacco Free KidsはTikTokに関する包括的な調査ができていないことをマイヤーズ氏は認めている。だが、同団体がこれまで観察してきたところによると、TikTokに対する懸念は高まり続けている。

「インフルエンサーを起用する、TikTokに惹きつけられる若年層に対して直接販売を持ちかけるなど、TikTokには、今まで見た中でもかなり悪質な販売手法があふれています。そして、TikTok側がそれらの行為に対して何らかの措置を講じた形跡は確認できていません」とマイヤーズ氏は続けた。

TikTokが、この問題を認識していなかったと主張することはできない。

画像クレジット:TikTokのスクリーンショット

あるVAPE販売者が「身分証明書(ID)確認不要」と恥知らずにも宣伝したことがアプリ内の報告システムによって検知された際、TikTokのコンテンツモデレートチームは、「このコンテンツはTikTokのガイドラインに反していない」と述べた。別のVAPE販売者が報告された時も、同様の対応が取られている(下記参照)。

TikTokは、このようなことは起きてはならないと主張する。同社は、VAPEや電子タバコのコンテンツを掲載しているアカウントは見つけ次第削除し、タバコやVAPE関連の外部ウェブサイトへリンクするアカウントのプロフィールをリセットするとTechCrunchに述べた。

TikTokはまた、TikTokコミュニティガイドラインで、未成年によるタバコの保持または消費を提案、描写、模倣、推奨するコンテンツや、未成年を対象としたタバコの売買、や交換方法に関するコンテンツを禁止しているという。そして、同ガイドラインではタバコの広告も許可されていない。

画像クレジット:TikTokレポートのスクリーンショット

TikTokに関するこの問題を認識しているかどうかについてFDAのコメントを求めたところ、FDAの広報担当者は、コンプライアンスや法執行に関する具体的な措置は検討していないと回答した。

ただし、FDAは小売業者、製造業者、輸入業者、販売代理店による連邦タバコ規制のコンプライアンス遵守を厳重に監視し、違反が起きた際には是正処置を取ると述べた。加えてFDAは、インターネット上のものも含め、タバコのラベルや広告、その他の販促活動に対して常時モニタリングと監視を行っていると続けた。

事態をさらに複雑にしているのが、フレーバーつきVAPEの販売許可申請をFDAが受けつけていることだ。Puff Barなのか、別の会社なのか、どの会社が申請中なのかは公表されていない。つまり、健康支援団体はFDAがどの製品の販売許可を検討中なのかわからないのだ。

だがFDAは、販売許可申請書を提出したかどうかに関係なく、どの製品もその製造会社が「若年層がその製品を利用できないようにするための適切な方策を取っていない」場合は販売を許可することはないと、TechCrunchに述べた。

それならば、オンラインのPuff Bar小売店やTickTokでの販売活動も含まれるということだ。

FDAは先に、Puff Barに対して具体的な行動を取ったことをつけ加えた。

販売許可を受けるに達していない、低品質で不正表示された製品を販売していたことについて、FDAは2020年7月にCool Clouds(クール・クラウズ。正式名はCool Clouds Distribution, Inc. d/b/a Puff Bar)に対して警告を発している。

2021年1月には、FDAと米国税関国境保護局が、Puff XXLやPuff FlowをなどのPuff Barブランドに似た使い捨てのフレーバーつき電子タバコカートリッジを含む3万3681箱の電子タバコ関連製品を差し押さえたという。

TikTokはTechCrunchがこの記事に記してきたような行為がTikTokのガイドラインやポリシーに違反していると追認したが、ポリシーがあるのにそれを実践できていない理由については説明しなかった。

TikTokの広報担当者はTechCrunchに次のように語った。「私たちはTikTokコミュニティの安全性と健全性に対して責任があります。未成年者のタバコやドラックの保有、消費を誘発するもしくは描写するコンテンツは厳重に禁止しています。VAPE製品の販売促進に使用されていると確認できたアカウントは排除しますし、VAPE製品の広告は許可しません」。

カテゴリー:ネットサービス
タグ:TikTokVAPEアメリカSNSFDA

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(文:Sarah Perez、翻訳:Dragonfly)

米最大の診断検査企業LabCorpの新型コロナ検査キットが処方箋なしで店頭購入可能に

米国最大の診断検査企業の1つである米国最大の診断検査企業の1つであるLabCorpの発表によると、同社は新型コロナウイルス検査キットを処方箋なしで店頭販売することを承認された初めての企業になる。

LabCorpは、5月に家庭用検査キットの承認を得たEverlyWellなどの企業にとって強力なライバル企業になるだろう。そのほかの類似企業としては、今週初めにウォルマートとの提携を発表して、新型コロナウイルス検査キットを販売する(MedCity News記事)ことになったMyLab Boxや、独自の家庭用検査器のあるLetsGetCheckedなどがある。

実際、LabCorpは自社の検査キットについてFDAの認可を受けた最初の企業であり、処方箋なしで検査キットを小売店で販売することができる。

「FDAが新型コロナウイルス用として承認した初めての市販の家庭用回収キットにより、人々が健康について学び、自信を持って決断できるようにしています」と、LabCorp Diagnosticsの最高医療責任者兼社長であるBrian Caveney(ブライアン・ケイブニー)博士は声明で述べている。「この認可によって、より多くの人が検査を受け、ウイルスの拡散を減らし、地域社会の健康状態を改善することができます」。

一般消費者が感じている新型コロナウイルスの検査の受けづらさを減少させるものなら、議論の余地なく何でも大歓迎だ。またそれは、消費者のヘルスケアへのアクセスを増大して医療費を削減しようとするより一般的な政策方針にも適っている。

顧客がこの新型コロナウイルス検査キットを購入したら、同社のウェブサイトで登録し、そこにある指示に従う。検査結果は企業のポータルから配布され、陽性となった顧客にはヘルスケアのプロバイダーが提供されて、今後の治療などについて指導がある。

同社によると、このキットは18歳以上の成人を対象としており、医療従事者の訪問の代替品と見なすべきではないという。

LabCorpのPCR検査はFDAによって最終的に正式な承認されたものではなく、緊急使用許可の下で承認されている点に注意して欲しい。

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カテゴリー:ヘルステック
タグ:LabCorp新型コロナウイルスCOVID-19FDA

画像クレジット:LabCorp

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(翻訳:iwatani、a.k.a. hiwa