海洋研究開発機構とトリマティス、海中の光ワイヤレス通信で距離100メートル超×1Gbpsの通信速度を達成

海洋研究開発機構とトリマティス、海中の光ワイヤレス通信で距離100メートル超×1Gbpsの通信速度を達成

海洋研究開発機構(JAMSTEC)は1月26日、深海域での高速光ワイヤレス通信の試験を実施し、100mを超える距離で1Gbpsの通信速度を達成したと発表した。これは、光高速制御などのハードウェア技術開発ベンチャー、トリマティスと共同で行われている海中ワイヤレス通信研究の成果だ。海中でも地上と変わらない速度で通信が可能となり、世界でも類を見ない(2021年12月12日時点)この通信速度が、この分野のパラダイムシフトを招くと期待されている。

海中での通信は、現在は音響通信が一般的だが、その通信速度は数Kから数十Kbpsと非常に遅い。近年ではレーザー光を用いた光通信が注目され、さかんに研究が行われているものの、速度は今のところ数Mbpsクラスの実績(実用化)に留まっている。

JAMSTECは、2008年からレーザー光の海中伝搬統制に関する基礎研究を開始した。さらに海中レーザー通信技術の基礎を確立する研究を開始し、海中環境がレーザー光の伝搬特性や通信品質に与える影響を精査、その原理や条件を明らかにする基礎研究を進め、通信方式の検証を行ってきた。そして2019年からはその成果である海中光学技術にトリマティスの高速光通信技術と光制御技術を合体し、1Gbpsの光ワイヤレス通信試験機を完成させた。

1Gbps光ワイヤレス通信試験機

1Gbps光ワイヤレス通信試験機

試験は、2021年11月27日から29日にかけて相模湾で行われた。実験装置は、無人探査機「かいこう」のランチャーから1Gbpsに変調したパルスレーザー光を送信し、ビークルで受信するというもの。ランチャーとビークルの間を10mずつ離してゆき、通信の成否(誤りのない試験フレームの受信数)、受光強度、伝搬場の環境パラメーターを計測した。その結果、100mを超える距離でも良好な受信が確認された。このときの水深は900m。ランチャーの深度は約699.5m、ビークルの深度は802.9mだった。

この技術を用いることで、海中や海底で計測される様々な状態や現象をリアルタイムで取得できるようになるため、海底資源開発、地震や津波などの防災技術に貢献できる。また、海中移動体や海底構造物といった多様なプラットフォーム間の情報伝達や情報共有がリアルタイムで成立する、ワイヤレス海底センサーネットワークの構築も可能となる。

今後は、光ワイヤレス通信リンクを確立するために必要となる光軸制御やシステムの統合化、小型化、さらには通信品質を担保する符号化アルゴリズムに取り組むとしている。

筑波大学発スタートアップFullDepthが地域で産業用水中ドローン(ROV)を共有し港湾施設点検に役立てる実証実験に参加

筑波大学発スタートアップFullDepthが地域で産業用水中ドローン(ROV)を共有し港湾施設点検に役立てる実証実験に参加

産業用水中ドローン(ROV。遠隔操作型無人潜水機)の開発を行う筑波大学発のスタートアップFullDepth(フルデプス)は9月21日、国土交通省の「海の次世代モビリティ利活用に関する実証事業」にて産業用水中ドローン「DiveUnit300」(ダイブユニット300)が採択され、機器の提供とROV使用に関する技術的指導を行うと発表した。

日本の沿岸地域や離島地域では、水産業・海上輸送・洋上風力発電・海洋観光など海洋利用が進んでいる反面、それを支える人材が高齢化・過疎化などにより不足し、施設・インフラの老朽化や環境劣化への対応が困難になっているという。そこで国土交通省は、小型無人ボート(ASV)、自律型無人潜水機(AUV)、ROVなど「海の次世代モビリティ」の技術活用と各地域への実装を目指した実証実験を行う。この事業の2021年度(令和3年度)公募でDiveUnit300が採択された。

採択事業名は「ローカルシェアモデルによるROVを用いた港湾施設点検の実用化実験」。ローカルシェア、つまり地域の企業や団体がROVなどの機材などを共有する形で、港湾施設点検を行うというものだ。DiveUnit300は、潜水士の点検業務の一部である目視検査と写真撮影を担う。この作業を実用化し、標準化することが狙いだ。

この実証実験は、静岡県清水市の清水港で行われる。9月27日のキックオフミーティングで始まり、ROVの操作研修に続き、10月上旬から実験が行われる。12月中旬に評価が行われ、2022年3月に結果報告会が開かれる予定。

DiveUnit300は、7基の推進器を備え、水深300mまで潜行可能。有線操作は3.7mmという細い光ケーブルで行われるので、水中の抵抗を受けにくく、機動力と安定性が保たれる。コンパクトにパッキングできるので持ち運びも楽に行える。またオプションとして、水中視界が悪い状況でも調査が行える「マルチナロービームソナー」、自己位置を把握できる「USBL音響測位装置」、濁った水中の映像を補正する「画像鮮明化装置」などが用意されている。