再生型農業は気候変動と戦う頼もしい仲間

【編集部注:Nancy Pfund(ナンシー・ファンド)氏はDBL Partnersのマネージング・パートナー。同社は、最高水準の金銭的リターンと共に、投資先の地域とセクターに意味のある社会的、環境的、経済的リターンをもたらすことを目標にしているベンチャーキャピタル】

昨今毎週のように、新しい農業会社、消費者向け包装商品会社、銀行、テクノロジー企業、セレブ、さらにはFacebook友達もが、環境再生型農業への支援を表明しているように感じる。

気候や農業のソリューションを求めて数十年来働いている私たちにとっては、喜びとともに心配もある。

何であれ、乗り遅れないことは重要だが、その詳細や大変さ、進歩と勝利の積み重ねや残された厄介な問題の数々は往々にして見過ごされ忘れられがちだ。これほど多くの打者がホームランを狙っていると、シングルヒットや二塁打が勝利を生むことをつい忘れてしまう。

DBL Partnersのマネージング・パートナー、ファウンダーとして、私は投資先には成功するビジネスモデルを持っているだけではなく、地球最大の問題を解決する企業であることを明確に求めている。農業は、増加する人口に食料を供給するだけでなく、最大の気候ソリューションになりうると私は信じている。

同時に、課題宣伝を鎮め、議論の焦点を定め直し、農業の事例を使ってあらゆるビジネスが気候変動と戦う炭素習慣の生産的なテンプレートを作ろうと思っている。

まず、再生型農業を定義しよう。間作や耕起などのように、土壌を肥沃にして保水力を高め、炭素を隔離、排除する様々な活動のことだ。

再生型農業を巡る熱狂は、気候変動の影響を大規模に軽減できる可能性と結びついている。National Academies of Sciences, Engineering, and Medicine(全米アカデミーズ)は、土壌炭素隔離によって年間2億5000万トンの二酸化炭素を除去できる可能性があると推計しており、これは米国の排出量の5%に相当する

再生型農業は新しいものではないことを覚えておくことが重要だ。自然保護活動化は間作や耕耘の削減を数十年来訴えてきたが、農業従事者は反対した。

こうした慣習が最近になって見直されているのは、大規模に実施し、数々の新たな技術やイノベーションを利用することによって、農業が気候変動との戦いをリードする可能性が示されたためだ。

ではどうすれば農業従事者に脱炭素と戦う力を与えられるのだろうか。

現在、カーボン・オフセット市場が多くの注目を集めている。ここ数年、土壌炭素のための民間任意市場が複数登場し、その多くはクレジット購入による炭素排出量相殺でカーボンニュートラルを標榜する企業の支援を受けている。

オフセット市場は農業を大規模な気候変動ソリューションの触媒にするための重要なステップだ。民間炭素市場を支援する組織は、排出量削減の手段と経済的誘因を生み出している。

“farming carbon”(農業による炭素排出量削減)は、再生型農業の金融メカニズム、データ分析ツール、および窒素固定生物などの新技術の需要を推進する。いずれも再生型農業の普及と影響を最大化し、イノベーションと起業を促進するために不可欠な要素だ。

カーボン・オフセットそのものではなく、こうした発展こそが、農業排出量を永久に減少させるのである。

オフセットは出発点でありソリューションの一部でしかない。つくったのが森林であれ、再生可能エネルギーや輸送や農業であれは、オフセットは毎年企業に買われる必要があり、購入者の排出量を必ずしも減らしていない。

必然的に、各ビジネスセクターは排出量を直接減らすか、サプライチェーン全体で排出量を減らすことで「インセット」を作る必要がある。難しいのは、まだどんな組織にとっても経済的、物流的に実現可能ではないことだ。

農業製品を購入、処理している組織(食品会社から再生燃料メーカーまで)にとって、土壌カーボン・オフセットは間接的に排出量を直ちに減らすことが可能であるだけでなく、農家を出発点として直接的永久的に排出量を減らす戦略への投資でもある。

DBLが投資しているのは、この両方の側で働く農業会社だ。土壌炭素オフセットの生成を促進し、炭素クレジット市場を確立するとともに、本質的により効率が高く、炭素依存の低い農業ビジネス・サプライチェーンをつくる。

このアプローチは気候変動への影響を減らそうとしている農業関係者にとっては賢明な投資だ。ビジネスモデルもまた、真の持久力をもつ農業従事者による環境サービスの需要を生み出す。

はるか前の2006年、DBLが初めてTesla(テスラ)に投資した時、輸送を化石燃料から遠ざける世界的ムーブメント創成を手助けすることになるなどとはまったく考えていなかった。

そしてこんどは農業の番だ。科学の革新、ビッグデータ、金融、そして農家ネットワークの支えられて、再生型農業への投資は農業における炭素排出量を削減し、農業従事者の管理努力に報いることを約束している。

未来の世代はこの変化の恩恵を収穫しながら、「なぜそんなに時間がかかったのか?」と不思議に思うだろう。

関連記事:
Corporate sustainability initiatives may open doors for carbon offset startups

カテゴリー:
タグ:

画像クレジット:jarino47 / Getty Images

[原文へ]

(文:Nancy Pfund、翻訳:Nob Takahashi / facebook

BrightFarmsが3010万ドルを調達、革新的な温室をアメリカ全土へ

brightfarms_greenhouse_chicago

農業テックスタートアップのBrightFarmsは、シリーズCで3010万ドルを調達し、アメリカ中に同社のハイテク温室と新鮮な農作物を提供しようとしている。

同社は、スーパーの店頭に並ぶ果物や野菜を、海外から輸入したり遠隔地から輸送したりせずに、全て地産し、新鮮な状態で消費者に届けることを使命としている。

アメリカの太陽光電力事業者の戦略からヒントを得たBrightFarmsは、同社の温室を使って育てられたサラダ用野菜やトマトを、長期間に渡ってスーパーに定額で販売するサービスも提供している。

BrightFarms-raised produce.

BrightFarmsで育てられた農作物。

同社CEOのPaul Lightfootは、BrightFarmsが”農作物買い取り契約”をまとめてから、経済開発プログラムや、さまざまな銀行・投資会社などを通じて資金を調達し、新たな温室を建設していると説明する。

実際のところ、温室内で作物を育てはじめる前に、BrightFarmsの原価のほとんどが農作物の販売契約でカバーされている。

Catalyst Investorsがリードインベスターとなった今回のラウンドには、BrightFarmsにもともと投資していた、WP Global PartnersNGENが参加した。

Catalyst InvestorsのTyler Newtonは、BrightFarmsへの投資の理由について、その大半がビジネスモデルの革新性や、アメリカに存在する他の食物生産者を”上回る”同社の力だと話す。

消費者は、地元の企業から食料品を購入し、近隣に住む人たちの生活費をまかなっている仕事をサポートしたいと間違いなく考えている。アメリカ農務省の研究によれば、地産された食料品の売上額は、2014年に120億ドルを記録しており、この数字は2019年までに200億ドルに達すると予測されている。

A BrightFarms greenhouse that grows tomatoes and salad greens.

トマトとサラダ野菜が育てられているBrightFarmsの温室。

「これまで、天候に恵まれない時期は、地元で育てられた作物を買うというオプションがなかったため、その選択肢が生まれるだけでも素晴らしいことです。しかし、BrightFarmsで育てられたトマトやルッコラを、西部から輸送されてきた野菜と食べ比べてみると、明らかに味の面でも勝っていることがわかります。これこそ、スーパーが求めているものなのです」とNewtonは話す。

BrightFarmは、現時点でカリフォルニア州とアリゾナ州以外の、競争が緩やかで規模の大きいマーケットを狙っている。

農務省の最新のデータによれば、農業は毎年1兆7720億ドル(アメリカのGDPの約1%)もアメリカの経済に寄与している。

そして、アメリカで消費されるサラダ野菜の90%が、カリフォルニア州とアリゾナ州で生産され、そこから国中で販売されるか、国外に輸出されている。

そのほかの農業テックスタートアップとしては、AeroFarmsやFreightFarmsが挙げられる。彼らは、地産された新鮮で美味しい食べ物を求める都市部の消費者の需要に応えるべく、屋内で使えるコンテナ型の農場を製造している。

BrightFarms' CEO Paul Lightfoot.

BrightFarms CEOのPaul Lightfoot

しかしLightfootは、自然光を(当然)利用しているBrightFarmsの温室の方が、屋内農場に比べて、環境的に持続可能かつ費用対効果が高く、さらにコンテナ型や屋上に設置された農場よりもたくさんの収穫物を得ることができると考えている。

その理由について彼は、BrightFarmsの環境制御温室は、屋内農場に比べて、温度や光のコントロールに必要な電力の消費量が少ないと話す。なお、どちらのタイプも、例え精密なかんがいシステムが構築されているものを考慮しても、旧来の農場に比べるとずっと水の消費量は少ない。

現在までに、BrightFarmsは、大フィラデルフィア地域、ワシントンD.C.、シカゴの都市部に建てられた3つの温室を運営しており、それぞれに25名のフルタイム従業員を抱えている。

干ばつが長引けば、BrightFarmsもそのうち”サラダボール”・カリフォルニア州やその他の農業ハブへ進出し、旧来の水を大量に使用することの多い農場を代替することができるかもしれない、とLightfootは語る。

しかし、しばらくの間BrightFarmsは、新鮮な農作物に対する高い需要がありながらも、旧来の農場を運営できる程の耕作地や天候状況に恵まれていない都市部にフォーカスしていく予定だ。

これまでのBrightFarmsの顧客やパートナー企業には、Kroger、Ahold USA、Wegmans、ShopRiteなどのスーパーが名を連ねている。

Lightfootによれば、シリーズCで調達した資金は、新たな温室の建設に加え、品種の拡大にも利用される予定で、同社は近いうちにもパプリカやイチゴの栽培を開始しようとしている。

原文へ

(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter