クラウド会計のA-SaaSがシリーズCで3億円を調達、システム刷新へ

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企業会計業務のクラウド化は着々として進行しているが、そこには大きく3つの動きがある。1つは旧来のパッケージ製品のクラウド化。もう1つはFreeeやマネーフォワードのMFクラウド会計のように、SMB市場をターゲットした新興勢力のスタートアップ企業の興隆。最後の1つが、最初から全国の税理士を巻き込んでプロダクトを作ったアカウンティング・サース・ジャパン(A-SaaS:エーサース)の動きだ。そのA-SaaSが新たにシリーズCとして3億円の資金調達を発表した。

A-SaaSは少し変わった創業の歴史を持っている。

2009年に大手会計システムベンダーのJDL出身のベテラン、森崎利直氏が業界関係者を集めて立ち上げたのがA-SaaSだ。当初全国約800の会計事務所を会員として、直接出資を募るという今で言えばクラウドファンディングのような手法で約8億円を調達。これを原資に開発したのがA-SaaSのクラウド型会計システムとなっている。参画した会計事務所はある意味ではプロダクト利用料を先払いしたような格好だ。

A-SaaSは2013年6月の6億2500万円のシリーズA、2014年11月に10億円のシリーズBと、これまで2度の増資を行っている。ただ、シリーズBラウンドと前後して2014年7月に創業者の森崎氏は退任し、後に代表となった佐野徹朗氏も約2年で退任。2016年11月からは新たにメリルリンチ出身の田中啓介氏が代表取締役社長に就任している。

その新社長就任とほぼ同タイミングの今日12月6日に、A-SaaSは追加資金調達と経営の刷新を明らかにしている。AGキャピタル、Eight Roads Ventures Japan(旧Fidelity Growth Partners Japan)、香港のArbor Venturesを引受先として総額3億円のシリーズCの資金調達をしたことをA-SaaSはTechCrunch Japanに明かした。Eight RoadsとArborは前回ラウンドから投資しているほか、シリーズAではセールスフォース・ドットコム、グリーベンチャーズ、モバイル・インターネットキャピタルなどから投資を受けている。

新社長に就任してまだ1カ月の田中氏だが、今回調達した資金の使い道は、ずばり開発のやり直しだと話す。

「顧客(税理士や会計士)の声を聞くと、プロダクト的にまだまだだと言われてる。動作が遅いとか、固まるとか、操作性に難があるのを解消したい。開発陣と話し合った結果、システムをほぼ全面刷新することに決めた」(A-SaaS田中氏)

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A-SaaSの会計(仕訳入力)の画面

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A-SaaSの税務申告(法人税)の画面

現行のA-SaaS製品は「Adobe Air」という一昔前すぎてあまり覚えている人のいないであろうRIAプラットフォーム上で構築されている。マイクロソフトがSilverlightを打ち出し、GoogleがHTML5だと言って、PC向けネットアプリのフロントエンドとして3つの選択肢があった時期の話だ。振り返ってみるとモバイルでネイティブ・アプリが優勢となり、その脇でウェブでHTML5やJavaScriptを使った各種フレームワークが標準となっていったのだった。

現在のA-SaaSはバックエンドにJava、フロントエンドにAdobe Airを使っている。これを、それぞれScalaとExt JSというモダンなWeb開発スタックに置き換えることを計画しているという。2年後、3年後に開発のマイルストーンを設定しているものの、「5年計画だと思っている」(田中氏)というからじっくり取り組む構えのようだ。

現在A-SaaSを利用する税理士(もしくは事務所)のアカウント数は2100〜2200。これを月額2万9800円で提供している。その税理士が顧問などを務める企業数は9万7000社ほどになっているという。潜在利用者ともいえる税理士は全国に3万人ほどいる。「会計、給与、税務申告の3つを税理士向けにクラウドで提供しているのはA-SaaSだけ」(田中氏)といい、ときに中小企業向けの経営コンサルティング業も兼務するような層を取り込もうという方向性だ。

A-SaaSが目指したのは、JDLやTKCといった企業が提供する旧態依然としたオンプレミスのプロダクトをクラウドで刷新する、というものだった。これに賛同した全国の税理士や事務所がプロジェクトに加わった。

一方、自分たちの利用者は税理士ではなく、むしろ第一には中小企業やスタートアップの経営者だ、というのがクラウド会計のFreeeだった。FreeeはモダンなWebアプリとして使い勝手の良さからボトムアップで広がりを見せている。クラウド会計が中小企業と税理士の間に割って入っていき、徐々に税務業務など「上向き」にもサービス範囲を拡大していっている。税理士たちを巻き込んで上から攻めているA-SaaSに対して、使い勝手の良さからボトムアップに攻めているFreeeという構図がありそうだ。

ネットの歴史的に見れば最初はおもちゃだと言われながらもボトムアップによって多数のユーザーからの支持を得たプロダクトが勝っていくパターンが多い。この点についてA-SaaSの田中氏は「税務申告は税理士がやっています。顧問税理士がやっています。会社がやっているケースというのはありません」とアプローチ自体の優位性を指摘している。また上のスクリーンショットにある通り法人税の税務申告などが他社製品との特徴的な差別化だ、としている。

A-SaaSは現在社員数は55人。新たに調達した資金でエンジニア増員を計画している。

会計事務所向けクラウドシステムのA-SaaSが総額6億円超の資金調達を実施

アカウンティング・サース・ジャパン(以下、A-SaaS)は会計事務所向けのクラウドSaaSシステムを提供している。会計事務所業界は40年程前からコンピュータ化に先駆的に取り組んできた業種であるが、クラウド化に関しては遅れている点を同社は解決しようとしている。

このA-SaaSがセールスフォース・ドットコムグリーベンチャーズモバイル・インターネットキャピタル、既存株主(個人株主)から第三者割当増資で総額6億2500万円を調達した。

A-SaaSは今までは事務所内のPCサーバーや専用機サーバーにあった財務、税務の業務ソフトや顧問先のデータを全てクラウド上で管理する。冒頭でも述べたが、会計事務所業界はクラウド化が遅れているそうで、既存のソリューションではハード・ソフト双方のコストが高くついてしまうし、クライアントと顧問先でデータを共有することにも手間がかかるなど、不満な点が多いとA-SaaS代表取締役社長の森崎利直氏はいう。

そこで、A-SaaSでは会社設立から4年間クラウドによるSaaSシステムの構築に取り組んできた。クラウド上でリアルタイムにやり取りでき、コストも削減できる。現在では会員登録ベースでは1,350件、アクティブに利用しているユーザー(会計事務所)は550件となっている。他のBtoB向けサービスと比べると4年で550件と聞くと、少なく感じてしまうかもしれないが、サービスの特性上、会計事務所がシステムを移行することに時間がかかることに加え、買い替え時期の関係もあることは考慮しておきたい。なお、営業活動をした会計事務所は1万3,200件だというから、そのうちの10パーセント以上が会員になっている。

今後の展開で気になるのは競合との差別化だ。会計事務所向けのサービスを提供している競合としては上場企業であるTKC、JDL(日本デジタル研究所)、MJS(ミクロ情報サービス)などが主である。

だが、森崎氏はこれらの企業がA-SaaSのようなクラウド型のシステムを構築できるか疑問であるという。というのも、彼らがすでに数十年にわたり積み上げてきたものに加えて新たにシステムを構築するとなると二重投資しなくてはならないし、既存の顧客と価格帯の隔たりがあり、この状況で今の収益が成り立っている。そのため、その5分の1ほどの料金で利用できるA-SaaSのような仕組みにすると収益構造がガラっと変わるため、難しいのではないかと森崎氏は予測する。

とはいえ、現状のマーケットでは上記の大手3社が全体の7割から8割ほどのシェアを占めている業界だから、A-SaaS側としてもこれまで慣れ親しんだものから乗換えてもらうには大変だろう。

ユーザーにとって、スタートアップが提供するクラウド上で企業内情報を取り扱うサービスに乗換える際の大きな懸念点の1つはセキュリティだろう。この問題に関して、今回のセールスフォースとの資本業務提携は大きな意味をもつという。セールスフォースはクラウド領域のパイオニアであり社会的な信頼も厚い。そして、A-SaaSは独自に開発していたプラットフォームからセールスフォースのクラウドプラットフォームであるForce.comへの移管をすることで、セキュリティという懸念点は大幅に改善されることになるだろう。

今回調達した資金をA-SaaSのシステム完成に向けての開発費や、プロモーション、Force.comへの移行に伴いカスタマーサポートの人員などに充てるという