家計簿アプリや法人向けクラウド会計を提供するマネーフォワードが「更新系API」と呼ばれる枠組みを使ってメガバンクの振り込みを外部サービスから行う機能を実装したことを発表した。
具体的には、みずほ銀行、三井住友銀行、住信SBIネット銀行の3行に対して、マネーフォワードが提供する「MFクラウド経費」から振込処理を完結する機能。これまでにもMFクラウド経費における経費精算のワークフローでは振込をまとめて指示するCSV形式の「電子オーダー」を作成し、これをネットバンキング側に手動でアップロードすることはできた。ここがAPI連携してリアルタイム化した形だ。経費精算の振込からスタートするAPI連携だが、2017年中にも法人間の買掛金振込にも対応していく計画という。
今回のAPI連携はネット系サービスの人なら「OAuth 2.0」を使った普通のAPIと言えばお分かりいただけると思う。ネットバンキングのIDやパスワードをマネーフォワード側に渡すことなく、ユーザーの明示的な許可アクション(OAuth用語では認可と呼ぶ。以下の画面)により、マネーフォワードはユーザーに代わって口座情報にアクセスができるようになる。ただ、これまで大手銀行が外部に開放してきたAPIは、口座残高を外部から調べるといった「参照系」だけに機能が限られていた。セキュリティー要件のハードルが上がることなどから踏み切れていなかった更新系APIが新たに開放された形だ。
2018年春にも施行される改正銀行法(概要PDF)で利用者保護の法的枠組みや、登録制度といった「お墨付き」が付くことで、さらにFintech企業と既存銀行の連携は加速することになりそうだ。すでに、MUFGも3月6日にはAPI開放を発表していて、クラウド会計のfreeeやOBCなどが連携する可能性のあるサービス事業者として名前が挙がっている。
マネーフォワード取締役の瀧俊雄氏によれば、これだけ大きな銀行においてサードパーティーのクラウド経由で経費精算ができる国は、Fintech先進国と言われるイギリスを含めて日本以外にないのだそうだ。更新系APIの利用により振込手数料が銀行側にとっても売上となるため、関係者の理解が得られやすかったということや、監督官庁と産業界が歩調を合わせたときには物事の展開が速いという日本社会の特性が背景にあるのでは、という。
API連携が意味するもの
銀行のもつ口座が「開かれた口座」になれば、その周辺に多くのサービスが出てくることが予想される。そして、その先にはさらに大きな変化が待っているのかもしれない。
API連携でプロトコルが標準化されると、サービス間の結合度合いは下がる。このことは組み合わせの自由度があがることを意味している。企業にとって「メインバンクがいつでも簡単に変えられる」というようにポータビリティーが高まれば、銀行間の競争も起こるだろう。瀧取締役によれば、イギリスでは個人口座のポータビリティーが極めて高く、自動引落なども紐付けたまま簡単に個人が利用銀行を変更できるようになっているのだという。
もう1つ、起こり得る変化としてECサイトでのクレジットカード決済が銀行口座からの直接振込に変わることも考えられる、という。
「もともと取引自体に価値はないのです。何か決済をするときに決済手段として銀行に行っているだけ。取引動機はすべて銀行の外にあるのです。例えばオンラインで買い物するときには、そのECサービスに動機がある。だから、ECはAPIのメリットが現れやすい分野です」(瀧取締役)
さらに長い視点で考えると、「毎日関わるところ、収入が関わるところ、小売などに利用者の主観的価値が寄っていくので、そこにお金も寄っていくのでは」(瀧取締役)という予想もある、という。中国のモバイルアプリがあらゆる支払いや個人間決済に使われているように、LINEやメルカリ、Paymoといったところにお金をプールして出し入れするほうが、銀行経由よりも使い勝手が良く、経済的な合理性もあるかもしれない。すぐに起こる変化ではないだろうが、銀行が全銀ネットワークという高コストなレガシーシステムを使った振込手数料やATM利用料を取り続けることは、モバイル時代にはもうできなくなっていくということなのだろう。