新技術で天然ガスから水素を生産するC-Zeroがビル・ゲイツ氏の気候テック基金から資金を調達

4年前、Zach Jones(ザック・ジョーンズ)氏はカリフォルニア州サンタバーバラで新しい水素生産技術の商用化を目指すスタートアップC-Zero(シーゼロ)の適正調査に向かった。小さな家族経営の事務所に勤めていた彼は、いずれそのスタートアップの最高経営責任者になろうとは思ってもみなかった。

また、その会社でBreakthrough Energy Ventures(ブレークスルー・エナジー・ベンチャーズ)から資金を調達するようになるなどとは考えもしなかった。それは、主に温室効果ガス削減のための技術を開発する企業や世界最大級の工業、石油、ガス企業を対象にしたかの大富豪が支援する投資団体だ。

当時、ジョーンズ氏は、サウスダコタの小さな投資会社Beryllium Capital(ベリリウム・キャピタル)に勤めており、C-Zeroへの投資機会の可能性を確認していた。C-Zeroは、カリフォルニア大学サンタバーバラ校のEric McFarland(エリック・マクファーランド)教授が開発した新しい水素生産方法の商用化を進めていた。

ただ、1つ問題があった。マクファーランド氏は研究者であり、会社経営については素人である点だ。そこでジョーンズ氏は一歩踏み込んだ。彼の会社は投資を行わなかったが、エコノミスト誌で科学ライターもしていたジョーンズ氏が会社経営を引き受けることになり、PG&E(パシフィック・ガス・アンド・エレクトリック)とSoCal Gas(サザン・カリフォルニア・ガス)という、カリフォルニアの二大電気ガス事業者からの投資を獲得したのだ。

これらの企業が投資を決めた理由は、後にBreakthrough Energy Venturesがこの新しい会社に興味を示すようになった理由と一致する。再生可能エネルギーの生産が、首をへし折るほどの急加速で台頭し始めたとはいえ、世界の大部分が、まだ当分は化石燃料を使い続ける気でいる。それでも、化石燃料からの温室ガスの排出はゼロにしなければならない。

C-Zeroが開発したのは、天然ガスを水素に変換する技術だ。天然ガスは大変にクリーンな燃料源であり、発電に利用した際に排出されるのは固体炭素のみ。熱触媒で処理することで、水素やアンモニアといった有用な化学物質が抽出できる。

「私たちのCTOは、炭鉱を反転させるのだといっています」とジョーンズ氏は話す。

工業製造プラントの夜景(画像クレジット:Getty Images)

同社の技術は、メタン熱分解というかたちをとっている。独自の化学触媒を使い、他の粒子から水素ガスを抽出する。後に残る廃棄物は固体炭素だ。この処理方法は、廃棄物ゼロでななく(固体炭素が出る)、再生可能でもない(天然ガスが原料)が、現在の低コストな水素生成方法よりもクリーンであり、再生可能性が高い水素生産方法よりもずっと安価だ。

再生可能な水素を生成するには、水に電荷をかけて酸素と水素に分解する必要がある。しかも、酸素分子から水素分子を引き離すために使われるエネルギーは、炭素分子から水素分子を取り出す場合よりもずっと多い。

「水素がおもしろいのは、断続的な再生可能エネルギーの補てん役になるという点です」とジョーンズ氏。「つまりエネルギー貯蔵の問題です。日々または季節ごとの長期的貯蔵には、途方もないコストがかかります。化学燃料は、あらゆるものから炭素排出をなくす上で欠かせない存在です」。

ジョーンズ氏はこの技術を「燃焼前の炭素回収」と説明し、大型車両の燃料、公共電力網と製造業向け産業用電力の発電などの幅広い分野に水素の恩恵を広げるためには必要不可欠と考えている。

そう考えるのは彼だけではない。

「年間1000億ドル(約10兆4543億円)を超える水素が商品として生産されています」と、C-Zeroへの1150万ドル(約12億円)の投資で新たな主導者となったBreakthrough Energy VenturesのCarmichael Roberts(カーマイケル・ロバーツ)氏は話す。「残念なことに、その生産量の圧倒的な大部分が、大量の二酸化炭素を排出する蒸気メタン改質という方法によるものです。C-Zeroが開発したような、低コストで炭素排出量の少ない水素生産方式を探し出すことは農業、化学、製造、輸送などの主要セグメントの脱炭素化に水素分子を主要な担い手として役立てるために、どうしても欠かせません」。

Bill Gates(ビル・ゲイツ)氏が支援するBreakthrough Energy Ventures主導の今回の新ラウンドにはイタリアの石油、ガス、電力企業の投資部門であるEni Next、三菱重工業、水素技術に特化したベンチャー投資企業AP Venturesが参加している。

三菱重工業は、すでにC-Zeroの技術を利用している。同社は現在、今ある石炭火力発電所を、2025年までに天然ガスと水素で運転できるよう改装している。その目標達成に、C-Zeroの技術が活かされることだろう。

製造業向け水素の低コストな生産方法を開発しただけでなく、C-Zeroは米国税庁が2021年の初めに導入した炭素隔離のための税額控除が適用される初の企業になる可能性がある。これが適用された企業は、隔離された固体炭素1トンにつき20ドル(約2100円)が控除される。固体炭素は、まさにC-Zeroの処理で排出されるものだ。

だがたとえC-Zeroがその技術の商用展開を開始できたとしても、そこでは世界の最大手化学企業との厳しい競争が待ち受けている。

ドイツの大手化学企業BASF(ビーエーエスエフ)は、独自のメタン熱分解方式をほぼ10年をかけて開発し、そのクリーンな水素の生産規模拡大のための試験施設を建設中だ。

さらにヨーロッパの2つの大手企業も水素生産ゲームに加わった。フランスの化学企業Air Liquide(エア・リキード)は、Siemens Energy(シーメンス・エナジー)と水素生産の合弁事業を発表した。

C-Zeroの技術は、今のところは単なる場つなぎのソリューションに過ぎないとジョーンズ氏は自認している。だが彼は、廃棄物から再生可能な天然ガスを生産できる体制に移行した世界では、循環型の水素経済が可能になると展望している。

「100年後、この技術は使われているか?もしそうなら、それは再生可能な天然ガスのおかげです」とジョーンズ氏はいう。そこに至るまでに踏破すべきステップは山ほどある。しかし、ジョーンズ氏は同社のプロジェクトの短期的成功に自信を見せる。

「エネルギー密度の高い燃料の需要はなくなりません。液体水素は、核エネルギーを除けば事実上も最もエネルギー密度が高い燃料です」と彼はいう。「水素は長続きすると思います。最終的に、最も低コストにCO2を排除できる、最も低コストなエネルギーが勝利するのです」。

カテゴリー:EnviroTech
タグ:C-Zeroビル・ゲイツ水素再生可能エネルギー

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(文:Jonathan Shieber、翻訳:金井哲夫)