民間弾道飛行での宇宙飛行士の訓練にNASAは期待を寄せる

宇宙を第二の故郷と呼ぶ宇宙飛行士でさえ、初飛行を経験している。NASAは、Virgin Galactic(バージン・ギャラクティック)やBlue Origin(ブルー・オリジン)に委託して宇宙飛行士たちを弾道飛行を体験させ、数々の挑戦的な宇宙計画に備えてもらおうと考えている。これは現在、芽生え始めている民間宇宙飛行業界に新たな巨大市場が開かれることを示唆している。

2020年3月に開かれたNext Generation Suborbital Researchers conference(次世代準軌道研究者会議)で、NASAのJim Bridenstine(ジム・ブライデンスタイン)長官が演壇に立ち、NASAが現在民間ロケットの利用を検討しているのは、単にこれまでその可能性が存在していなかったからだと話した。

「それは、つい最近まで私たちが国として所有していなかった能力です」と彼は、Space.comの記事の中で語っている。

だが、現在その能力が確かにあると断言もできない。Virgin GalacticもBlue Originも、宇宙との境目をほんのかすった程度の弾道(準軌道)飛行を実証できただけで、試験飛行や商用飛行となると、まったく別の話だ。

関連記事:Virgin GalacticのSpaceShip2がマッハ2.9で宇宙の淵に到達(未訳)

Virginは既にチケットを発売しているが、客を乗せた初飛行の日程は決まっていない。2020年中に行われる公算は大きいが、信頼できるスケジュールを立て、ミッションの成功を記録しない限り、現時点ではただ熱望しているだけとしか見えない。それが宇宙旅行というものだ。その道の99パーセントは、まだ霧の中だ。

だがVirginにせよBlue Originにせよ、ロケットの打ち上げを請け負うその他の企業にせよ、今後数年以内に、ペイロードや人を乗せる能力を持つ宇宙船の弾道飛行を成功させることは間違いない。NASAが彼らの採用に熱心なのは、そのためだ。

それと同じぐらい避けられない現実として、奇妙に思えるのは宇宙飛行士の訓練をすべて地上で行わなければならないことだ。彼らはさまざまなシミュレーターで訓練を行う。いわゆる「嘔吐彗星」や、彼らが大好きなプールでのトレーニングなどだ。それでも宇宙を体験するには、宇宙に行くしかない。

Commercial Crewのデモミッションで最初にISSへ飛行する予定の宇宙飛行士Bob Behnken(ボブ・ベンケン)とDoug Hurley(ダグ・ハーレー)。Crew Dragon宇宙船のシミュレーターを操作している。

つい最近まで、それは何億ドルもするロケットの先端に乗ってISSまで飛ぶことを意味していた。またはその昔は、オービターや着陸船で月へ行くことを意味していた。

その準備として可能なことはほんのわずかしかないが、ごく限られた中の1つとして、安価で一時的な宇宙飛行がある。それを実現するのが弾道飛行だ。

ロケットで大気圏外に出て、その結果として数分間の無重力を体験できる環境は、訓練や実験や、その他のこれ以外には軌道上でしか行えない活動にはうってつけだ。NASAはその実現を期待しているのだが、まだ実際の契約には至っていない。

VirginやBlue Originなどの企業は、最初の数回の弾道飛行によりチケットの完売をほぼ確実にしたが、宇宙ツーリズムには産業としての実績はなく、また現在のパンデミックやその後に予想される経済の落ち込みにより、そうした高額商品(または宇宙ツーリズムを提供する能力)は深刻なダメージを受ける恐れがある。そのためこうした政府との定期契約は、弾道飛行の提供や支援を行う企業にとっては、ほぼ間違いなく大きな安心となる。

「これはNASAにとって大きな移行ですが、重要な移行です」とブライデンスタイン長官は言う。この移行は、近年の政府事業がそうしているような、単に民間企業への委託を増やすという程度の話でなく、民間飛行を公式なトレーニングに利用するということだ。飛行は徹底的に安全でなければならないが、ISSへの飛行時と同じ厳格な基準に従う必要もないと長官は述べている。

実際にはNASAが運用しない飛行でのトレーニングやテストが増えることで、新しいミッションの準備が促進される。準備が加速されると同時に、その能力を唯一持っていたNASAによる飛行ミッションに依存するこれまでのようなプログラムの煩雑さが低減される。私は、この件に関する詳しい内容をNASAに問い合わせている。新しい情報が入り次第お伝えする予定だ。

[原文へ]

(翻訳:金井哲夫)

新型コロナに翻弄されながらもNASAは商用宇宙飛行と火星探査車の計画を敢行

米国中のNASAの施設は、ほとんどが閉鎖された。一部のチームは自宅勤務(そして火星探査車を操作)しているが、その他の人たちは、重要なミッションを敢行しようと懸命に頑張っている。さもなければ、5億ドル(約540億円)もの延滞金を支払わされることになると、NASAのJim Bridenstine(ジム・ブライデンスタイン)長官は言う。

米国時間4月15日に発行されたPlanetary Society誌のインタビューに応えて、ブライデンスタイン長官は、いろいろな興味深い話を聞かせてくれている。だが、新型コロナウイルスのパンデミックほど、NASAの業務に影響を与える緊急で突出した問題はない。

10年にも及ぶ暫定スケジュールで進められているプロジェクトの場合は大幅に余裕がある。しかし、そんな贅沢なミッションばかりではないと長官は話す。中でも特に重要とされるもの、そのために従業員に出勤を許可しているミッションが2つある。Commercial Crew(コマーシャルクルー、商用有人飛行)プログラムと、Mars Perseverance Rover(パーセベランス火星探査車)だ。なおパーセベランス火星探査車は、以前はMars 2020と呼ばれていたが、子たちの名称コンテストでパーセベランスと改名された。パーセベランスとは忍耐という意味だ。

コマーシャルクルーは、SpaceX(スペースX)とBoeing(ボーイング)が米国製有人宇宙船の開発を競っているプロジェクトだ。2011年にスペースシャトルが引退して以来、米国は国際宇宙ステーション(ISS)との宇宙飛行士の往来をソユーズのみに依存している。

「ひとつの理由によって、これは絶対に不可欠な機能なのです。我々には、国際宇宙ステーションに行ける独自の手段を確保する必要があり、これには米国人納税者からの資金1兆ドル(約107兆円)が投資されています。なのでミッションは敢行しなければならないのです」とブライデンスタイン長官は話す。

実際、世界中の工業界が厳しい状況に置かれているにも関わらず、早くも来月の日程ががっちり固められている。プログラムでは、空論的に設けられた締め切りがいくつも近づいては通り過ぎてゆく。

関連記事:コマーシャルクルーは今も最優先だがジェームズ・ウェブ望遠鏡のテストと他の活動は一時停止するとNASAが発表(未訳)

インタービューの後半で、長官は、Crew Dragon(クルードラゴン)とStarliner(スターライナー)の両カプセルは、ソユーズとロシアのロケットと完全かつ永久に入れ替わるものではないが、確かな代替手段を確保し、依存関係だけがロシアとの唯一のつながりという状況をなくすものだと明言した。昨年はソユーズが打ち上げに失敗し、ISSは運用開始以来初めて無人の状態となった。だが迅速な調査が行われ、すぐに元通りになった。ISSに行くための手段が複数あれば、こうした危機的状況を招く危険性を低減できる。

もうひとつの非常に重要とされるミッションは、次期火星探査車のパーセベランスだ。

「このミッションは、ひとつの理由から重要視されています。つまり、火星への打ち上げウィンドウが非常に限られていることです」とブライデンスタイン長官。

軌道を回る人工衛星や、月ミッションであっても、長期の定期的な打ち上げウィンドウが用意される。だが火星へ向かう宇宙船を、短い飛行時間で狙った軌道に正確に投入するためには、地球と火星の位置が最適な時期にまとめて打ち上げなければならない。惑星間飛行は、非常に高い精度を要する科学技術だ。パーセベランスを予定通りに完成させなければ(この場合は7月17日)、悲惨なことになる。

関連記事:Mars 2020火星探査車の名称は忍耐を意味するPerseveranceに決定

「その打ち上げ時期を逃すと、2年間で5兆ドル(約540億円)を超えるコストが掛かることになります。ミッションが全滅するわけではありませんが、そんな事態には遭遇したくありません」とブライデンスタイン長官は言う。

だが長官は、NASAの従業員の健康を犠牲にしてまで達成しようというのではないと、安全には気を遣っている。

従業員には、できる限り多くの予防策を講じた中で働いてもらうことになります。私たちは、従業員を分離しています。同時に働くことがないよう、シフトをずらしました。また必要なとき、必要な場所でPPE(個人用保護具)を使用しています。

NASAの従業員の中で、仕事のやり方に納得ができない者が一人でもいれば、その旨を知らせてもらいたい。そして、気兼ねな違う仕事に就いて欲しいと考えています。他の業務に就けるよう、我々が実際に手配します。働きづらい場所や危険な場所で働かせたくはないのです。従業員は、NASAにとって最重要の存在です。この非常に特異な状況で、すべての人が安心できるようにしたい。そのため私たちは、従業員が安心して働けるように自由意志を尊重し、それによって評価が変わるようなことが絶対にないように努めます。

それでも遅延が心配されるプロジェクトに関して、ブライデンスタイン長官は、次世代ロケットのSpace Launch System(スペース・ローンチ・システム、SLS)が「厳しい状況」にあると認めた。その初号機Altems I(アルテミス1)のテストは2021年末に予定されているが、2022年にずれ込む公算が高いという。だが、SLS2号機となるアルテミス2は独立して準備が進められており、初号機のスケジュールにはほとんど左右されないとのことだ。

2024年に月面に人類を立たせるという野心的な計画は、以前から大ばくちだと見なされていた。パンデミックは、それをさらに先延ばしにするだろう。しかし少なくとも短期的には、NASAの本当に重要な業務は継続され、事態が好転したなら(そう祈るが)、この春と夏には、歴史的なミッションが成功を飾る予定だ。

ブライデンスタイン長官のインタビュー全編は、Planetary Societyのポッドキャストで聞くことができる。

関連記事:NASAのキュリオシティー・チームは火星探査車を自宅から操作(未訳)

[原文へ]
(翻訳:金井哲夫)

SpaceXが新型コロナによる初の打ち上げ延期を発表

これまでSpaceX(スペースエックス)は、新型コロナの世界的蔓延にもかかわらず打上げスケジュールが大きく影響されたことがなかった。先週同社は、人工衛星Starlink(スターリンク))60基の追加上げに成功し、5月下旬に予定されているNASAの商用有人飛行ミッション(前回の打上げでエンジンが早期停止した原因を調査中)は順調に進んでいると見られていた。

しかし米国時間3月24日、米空軍第45宇宙航空団(45 th Space Wing)は、3月30日にFalcon 9ロケットを用いてカリフォルニア州ヴァンデンバーグ空軍基地から発射される予定だったSpaceXの来たるべきSAOCOM(アルゼンチンの地球観測衛星)の打ち上げが、現在進行中の新型コロナ危機の影響を受け、「無期」延期されたことを正式に発表した。空軍基地があるヴァンデンバーグ市は先週末に公衆衛生緊急事態を宣言し、これまで新型コロナ感染が確認された事例はないものの、空軍は基地への入場を必須要員に限定し、必要最小限のサービスしか提供しないほか、現地に残らなくてはならない人々の保護と安全のために追加の予防措置を講じている。

SpaceXの打ち上げスケジュールが、新型コロナ・パンデミックの影響を受けることは不可避だった。NASAは、宇宙探査宇宙船アルテミスの開発やJames Webb(ジェームズ・ウェッブ)望遠鏡プロジェクトなど進行中の重要ミッションの一部を停止している。現在も有人宇宙飛行に向けた作業を進めつつ、NASAは職員と公衆の安全を確保するための基準引き上げについて頻繁に情報を更新しているので、進展があれば追って報じる予定だ。

画像クレジット:SpaceX

新型コロナウイルス 関連アップデート

[原文へ]
(翻訳:Nob Takahashi / facebook

SpaceXのCrew Dragonが最初の有人飛行に備えてフロリダへ移動

SpaceXが、宇宙飛行士が乗る商用の有人宇宙船Crew Dragon(クルー・ドラゴン)をフロリダに移した。すべてが計画通りに行けば、2〜3か月後にはここからの打ち上げが行われる。Crew Dragonのカプセルは今、打ち上げ前の最後の試験と点検がフロリダで行われている。それはFalcon 9ロケットの上部に装着され、NASAの宇宙飛行士Bob Behnken(ボブ・ベンケン)氏とDoug Hurley(ダグ・ハーリー)氏を乗せて、フロリダのケープカナベラル空軍基地から打ち上げられる。

ベンケン氏とハーリー氏はCrew Dragonに乗って国際宇宙ステーション(International Space Station、ISS)へ向かう。それはSpaceXとNASAが「Demo-2」というコードネームで呼ぶデモンストレーションミッションの一環で、ISSまでの有人往復定期便の可能性を検証する試験の重要な一部でもある。SpaceXのCrew DragonとBoeing(ボーイング)の有人宇宙船Starliner CST-100の2つが、 NASAのためにその運用ステータスを達成すべき宇宙船とされている。なおボーイングの機は、目下開発と試験中である。

NASAの宇宙飛行士を乗せた宇宙ステーションへの往復飛行を前にしてCrew Dragonはフロリダへ移った。

ボーイングの宇宙船は最近何らかの問題に遭遇して試験の締め切りを延ばし、宇宙飛行士を乗せた最初の飛行を行うという目標に遅れが生じた。Starlinerは12月に行われた無人のデモンストレーションミッションで、深刻と思われる2つのソフトウェアの問題に遭遇した。今NASAと同社は修正活動を行なっており、それにはボーイングとそのソフトウェア開発および試験工程の安全性の見直しが含まれている。

一方SpaceXは1月に飛行中のアボートテストを行い、有人のデモミッションへ向かう前に必要とされる最後の重要なデモンストレーションを終えた。そのテストはあらゆる点で成功であり、Crew Dragonが予期せざるエラー時には自分を打ち上げ機から分離して離れ、乗客である宇宙飛行士の安全を確保することを示した。

SpaceXは、有人飛行の商用運用の前の、最後の段階で計画されているデモの、準備過程の詳細を共有してきた。たとえば今週初めのツイートでは、同社の宇宙船が超音波試験を行っていることを報告した。現在、Demo-2ミッションは暫定的に5月2日に行われるとされているが、ミッションのニーズや残る準備の進捗によっては早まることも延期されることもありえる。

[原文へ]

(翻訳:iwatani、a.k.a. hiwa

ボーイングはNASAのStarlinerミッションの再実行に備えて約447億円を確保

ボーイングは米国時間の1月29日、第4四半期の業績を発表した。その中には、Commercial Crew(商業乗員輸送)ミッションを再度実行する場合の費用をまかなうための4億1000万ドル(約447億円)の留保が含まれていた。昨年の12月のミッションが計画通りに遂行できなかったことを受け、NASAがもう1度無人打ち上げが必要だと判断した場合に対応するためだ。

この税引前の費用は、その四半期の全体的な営業利益の0.5%の減少に相当するとされる。ボーイングは、この資金を実際に支出するかどうかは、NASAの決断しだいだとしている。つまり、実際に宇宙飛行士が搭乗して飛行する前に、Commercial Crewに関する契約条件を満たすため、ボーイングはやり直しの飛行を実施する必要があるとNASAが判断するかどうかにかかっているわけだ。

「NASA​​は、もう1回無人打ち上げが必要かどうかを判断するため、2019年12月のミッション中に受信したデータを評価している」と、ボーイングの四半期報告書には記されている。

前回の打ち上げでは、完全に自動でISS(国際宇宙ステーション)にドッキングする予定だったがが、搭載されたミッションタイマーの誤作動によって、Starliner(スターライナー)カプセルは予期せず過剰な燃料を燃焼させ、最終的にISSへ計画通り到着することができなかった。やむなく、NASAとボーイングはカプセルを早期に着陸させることにして、ドッキングのデモを除く他のテストを完了させた。

Ars Technicaの最近の記事によれば、NASAはそのミッション中に、スラスターの性能についても懸念を抱いていたという。しかし、NASAもボーイングも、これまでのところ、実際に乗員をStarlinerに乗せる前に、もう1回の無人飛行が必要かどうかを判断するのは時期尚早だと言い続けてきた。

Commercial Crewプログラムへの参加者でもあるSpaceXは、昨年3月に「Demo-1」と呼ばれる無人のISSドッキングミッションを遂行した。自動ドッキングも、宇宙船を地球に帰還させることも計画通りに成功した。SpaceXも、昨年の静止噴射テストの際に、Crew Dragonが破壊されるなど、それなりに失敗を経験してきたが、今月初めに飛行中の中止テストが成功したことで、重要な乗員飛行のデモの前に必要となるすべての材料を揃えることができたようだ。乗員飛行は、早ければこの春にも実現したいとしている。

原文へ

(翻訳:Fumihiko Shibata)