デジタル著作権法が消費者に歩み寄ってきた――DMCA除外決定で今週からスマートアシスタントも脱獄できる

スマートフォンを持っていても所有していることにはならない。アメリカの著作権法の明文は消費者によるソフトウェアのある種の改変を禁止している。そんなことをすれば保証が無効となるだけでなく、契約を打ち切られたり、いっそう恐ろしいことに訴訟を起こされたりする危険性がある。しかしこの状況は徐々にではあるが変わりつつある。

政府は消費者が自分のデバイスを修理する必要性(権利、というべきだろう)があることを認め始めた。著作権局(Copyright Office)はさまざまなデバイスについて消費者に従来よりはるか大きな自由を認めるようになった。ただし理想からはまだ遠い。

簡単に振り返ってみると、Amazon Echoやスマートフォンにプロバイダーが認めない方法でサードパーティーのソフトウェアをインストールすることを禁じる根拠は、合衆国における著作権を律するDMCA(Digital Millennium Copyright Act)の1201条にある。1201条はソフトウェアやメディア・コンテンツの保護を無効化する行為を違法としている。ところがこの条文は当初の意図を超えて広く使われるようになった。.

企業は1201条をいわばデジタル化の箱のカギとして、ここにあらゆるものを詰め込み始めた。これによって販売するデバイスを消費者が修理したり、改造したりすることを禁止したわけだ。
iFixitのKyle Wiens始め個人のデジタル権利を擁護する活動家は長年この種の行為と戦い、最近いくつかの面で前進することに成功している。

著作権局では3年ごとに会合を開き、1201条の除外例を見直して、その結果を成文化してきた。この委員会はDMCAが適用されるべきでない状況やデバイスを決定してきた。たとえば、病院が医療機器に重大な問題を発見したにもかかわらずメーカーがただちに適切なサポートをしなかったとしたらどうなるだろう? 病院は機器を再起動したり、重大なバグにパッチを当てたりできないのか? もちろんこうした除外例は法そのものではなく、著作権局の決定に過ぎないので恒久的なものではなく定期的に見直し(と議論の再燃)の対象となる。

前回、2015年の除外例は明らかに不合理な例を是正したが、2018年の決定では消費者の選択の自由に重点が置かれた。ここでは、先週まで違法だったが今後は可能になる例をいくつか挙げてみよう。

  • 新しい携帯電話のアンロック.: 信じられないことに、これは今まで違法だった。中古の携帯のアンロックはもちろん合法だ。しかし、箱入りの新品、たとえばVerizon(TechCrunchの親会社の親会社であり、著作権局の今回の決定にはおそらく不満なはず)などが販売するスマートフォンのソフトウェアを改変してAT&Tで使えるようにすることはDMCAによる禁止の対象だった。しかし著作権局は今回、これを合法とした。
  • Amazon Echoe、Google Home、Apple HomePodの「脱獄」: この種の音声を認識できるスマートアシスタントは 2015年にはまだ存在しておらず、取扱が明文でカバーされていなかった。現在多くの人々がEchoを分解したりオープンソースのソフトウェアをインストールするなどして楽しんでいる。著作権局はこれらの行為を合法と認定した。.
  • スマートホーム・デバイスの修理:. スマートホーム・デバイスのプロバイダーが倒産したりユーザーがサブスクリプションを中止したりすれば手元にはスマート文鎮が残ることになる。 しかし今後、ユーザーはルート権限を取得し、再起動したり別の用途(セキュリティーやカメラの制御)に使うことができる。
  • 車両ソフトウェアへのアクセス、改変:自動車(特にトラクター)はDRM(デジタル著作権管理)によって幾重にも防衛され、ユーザーはおろか修理工場でさえデジタル化された部分に触ることができなかった。現在の自動車はいわば走るコンピューターなのでこれは不都合なことだ。著作権局は修理の目的でデジタル情報を読取ること、また修理行為そのものを合法と認めた。ただし走行安全性を損なうような改変は一切認められない。
  • 合法的な修理、改変のために他人を雇うこと:.上記の除外例はデバイスや車両のオーナーにのみ許される。これには十分理由があることだが、オーナーであっても必要な知識、技能があるとは限らない。そのような場合、サードパーティーに依頼して作業をさせることも合法であることが確認されたのは重要なポイントだ。

こうした適用除外の拡大が中古市場を活気づけ、スマートフォン、自動車、スマートデバイスの寿命を延ばすことが期待できる。ただし、これらはすべて3年ごとの見直しの対象だということに留意すべきだろう。もちろん一方では消費者のデジタル権利擁護活動家はリストを拡大しようと努力している。

実際、除外例に含められるべきなのにまだ含まれていない例が多数ある。ゲーム専用機も除外例には含まれなかったが、著作権局では海賊行為の危険性が高いと判断したのだろう。飛行機や船のソフトウェアも以前の自動車のソフトウェア同様保護の対象となっている。これらは十分理由のあることと思われる。

しかし合法とされた上記の作業を行うために必要なツール、ブートローダーやジェイルブレイク・キットなどを販売することは依然違法だ。ただしこういうパラドックスは他の場合でもまま見られる。たとえば多くの州でマリファナの所有は合法化されているが、栽培や販売は違法だ。

こうした適用除外は有用であるが、DMCA自体の改正により恒久的なものとすることが必要だろう。われわれが持つデバイスはわれわれの所有物であるべきだ。法の改正には時間と努力を要するだろうが、これまでのデジタル著作権における消費者の勝利や権利の拡大ををみれば、トレンドはわれわれに味方していると考えていい。

画像:Taylor Weidman/Bloomberg / Getty Images

〔日本版〕合衆国著作権局(U.S. Copyright Office)は議会図書館の一部をなす部局でアメリカの著作権法の運用を担当する。

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滑川海彦@Facebook Google+

ネットだからこそ健全な議論を——ウォンテッドリー批判記事騒動について双方に聞いた

8月10日に東証マザーズ市場への上場承認が下りたばかりのウォンテッドリー。同社のIPOの内容についてはネット上では賛否両論あるようだが、そんなウォンテッドリーのIPOを分析したブログエントリーがGoogleの検索結果から消え、そのブログエントリーのURLをシェアしたツイートまでもが消えるという事態が起こった。一体どういうことか。

ブログがGoogleの検索結果から消えた

きっかけになったのは「Wantedly(ウォンテッドリー)のIPOがいろいろ凄いので考察」というブログエントリー。バリュエーションやストックオプションの設計など、同社のIPOの内容を分析した上で、「ゴールを成し遂げられたのは素晴らしい」と評価しつつ、「これではココロオドラない(編集部注:ウォンテッドリーは「シゴトでココロオドルひとをふやす」をミッションにしている)」「やりがい搾取感が否めない」といった文言で批判して注目を集めていた。

だがそのブログエントリーが8月25日になってGoogleの検索結果から削除され、さらにそのブログエントリーのURLをシェアしていたTwitterの投稿の多くが非表示となった。ウォンテッドリーは当該のブログエントリー内に同社代表取締役社長の仲暁子氏の写真が掲載されていたため、米国のデジタルミレニアム著作権法(DMCA:Digital Millennium Copyright Act)に基づいて著作権侵害のコンテンツとして当該ブログをGoogle、Twitterに申請していたからだ。

これに対してネット上では「言論を封じるために、DMCAに基づいた削除を行ったのではないか」という声が上がった。以前、「同様の手段を用いて自社の悪評を消したのではないか」と激しく批判された別の会社もあった。上場が決まり社会の公器たるべき企業として果たして正しい対応だったのか、と問う声が大きい。

ウォンテッドリーはTechCrunchの取材に対して、「一部ブログ記事で利用されていた画像に関しまして、引用に当たるかどうかは様々な解釈がある上で、有識者に意見をいただきながら、社内で協議した結果、弊社に関する画像を無断で引用されているとの判断に至りました。昨日(8月24日)、弊社からGoogle、Twitterに削除申請を行い、現在に至っている次第です。多くの皆さまに、ご迷惑とご不安をおかけしてしまったことを深くお詫び申し上げます」とコメント。TwitterでのURLのシェアについても、「リンクが問題ではなく、OGイメージ(OGPで表示される画像)が著作権侵害だった」としている。

一方で、著作権保護の観点以外に削除の意図はなかったのかという質問に対して、「他に意図はありません」と答えた。加えてウォンテッドリーでは8月25日午後、自社サイト上に「当社が行った著作権侵害による削除申請につきまして」と題した声明も発表している。

執筆者への事前連絡はなし

当該ブログを書いたINST代表取締役の石野幸助氏にも話を聞いた。石野氏は「まさか自分のブログがGoogleから削除されると思わなかった」と話した上で、今回の同社の対応について「(言論を封じるなどとは)特には何も思いませんでした。デリケートな時期なので対応に追われていたのかな、と」コメント。石野氏は以前にもウォンテッドリーに関するブログエントリーを書いており、その際にはウォンテッドリーからタイトル変更などの依頼があったそうだが、今回同社からの連絡はなかったという。

ただし問題となっている画像については「Twitterから『著作権侵害だよ』と言われていたので削除しました。Google検索で1位に出てきたものを使い、著作権のことは意識はしておりませんでした。著作権侵害と言われれば、その罰は受けないといけない」(石野氏)とのことだった。エントリーが攻撃的ではないかという意見もあるが、「全く恨みもありませんし、ただ単にIPOに対しての感想を書いたまで、という認識です」と説明した。

求められるのは健全な議論

当事者間の対話を含めて、この騒動の解決方法は他にあったと思う。騒動に関する対応を除いて言えば、ソーシャル時代の新しい人材サービスが黒字で上場することの意味は大きいとも思う。

この騒動についてはすでに各所で報じられ、ソーシャルメディアやブログでもさまざまな意見が挙がっているが、最後にマイナースタジオ代表取締役CEOの石田健氏がニュース解説サイト「The HEADLINE」に書いた内容を紹介したい。石田氏はイグジット経験のある起業家であり、過去にはメディア研究の個人ブログなども執筆していた。起業家とメディア、両側から騒動を分析した内容だと思ったからだ。

石田氏は、仲氏自身がWantedlyのプロフィールページで画像の無断利用をしているのではないかと指摘(編集注:現在は差し替えられている)。一方で、既存の画像を使って新たなコンテンツを生み出すこと自体はインターネットが生み出したミームの1つであるため、「さまざまな問題を個別具体的に考えていく必要がある」と語る。そういえば、今回問題になった画像は、TechCrunchもウォンテッドリーから提供を受けて使用している画像だった。

石田氏のエントリーは次のように締めくくられている。「今回ウォンテッドリー社がおこなったように、著作権やDMCAという仕組みを恣意的に解釈して、自社に都合の良い様に利用することは決して望ましいものではありません。未だ未整備で、議論の余地があるインターネットの著作権だからこそ健全な議論が求められますし、仕組みの悪用は決して認められるものではないでしょう」

photo by stanze