トランプの新型コロナ「デマ」発言を巡りFacebookでファクトチェック抗争勃発

ファクトチェッカーは誰がファクトチェックするのか? トランプは新型コロナウイルスを民主党の「新たなデマ」だと言ったのか?

右派パブリッシャーThe Daily Caller(ザ・デイリー・コーラー)がPolitico(ポリティコ)とNBC News(NBCニューズ)の記事に「虚偽」のラベルを貼り付けた問題から、大きな疑問が湧き上がった。The Daily CallerのCheck Your Fact(あなたのファクトをチェック)部門は、Facebookのファクトチェックプログラムに加盟するファクトチェックパートナーであり、Facebook上のリンクに「虚偽」というラベルを添付する権限を持つ。ラベルが付けば、ニュースフィードでのランクも、その投稿者の全体的な露出度も下がることになる。

2019年4月、The Daily Callerをファクトチェックプログラムのパートナーに迎えたFacebookの判断は、批評家の激しい非難を浴びた。同社には、誤りであることが広く認知された記事をいくつも掲載した過去があるからだ。これにより、政治的に偏ったファクトチェックという恐れていた事態が現実になったと信じる人たちもいる。

トランプ大統領は、2月28日の夜、新型コロナウイルスの世界的な大流行を、弾劾とミュラー特別捜査官による捜査、そして自身の第1期の功績を不当に傷つけ批判する目的で仕組まれたリベラル派の陰謀と位置づけた。虚偽の情報です独立系ファクトチェッカーが判定しました。
画像クレジット:Judd Legum

今週、Judd Legum(ジャッド・レーガム)氏のニュースレターPopular Information(ポピュラー・インフォメーション)が指摘したように、Check Your Factは、Politicoの「トランプは新型コロナウイルスを『デマ』と扱うよう集会に参加した支持者に訴えた」と、NBC Newsの「トランプは新型コロナウイルスを民主党の『新たなデマ』と発言」という2つの記事を虚偽と評価した。このファクトチェックの説明には「トランプは実際には、新型コロナウイルスの脅威を『デマ』とする問題への彼自身の対応について説明していた」と書かれている。

トランプは、集会でこう述べていた(太字は編集部による)。

今、民主党は新型コロナウイルスを政治問題化している。知ってるだろ、違うか? 政治問題化してるんだ。我々は大きな仕事を成し遂げた

【中略】

彼らは弾劾という茶番を企てた。完璧なプロパガンダだ。やつらはあらゆる手を尽くした。何度も何度も挑んできた。なぜなら、こっちが選挙に勝ったからだ。逆転だ。やつらは負けた。逆転したんだ。考えてもみろ。考えてもみろ。これはやつらの新しいデマだ。だが我々は驚くべき手を打った。この巨大な国で「感染患者は」15人だ。早期に動いたから、早期に動いたから、我々はもっとやれた。

【中略】

誰も死んでない。なのに変だろ、マスコミはヒステリー状態だ

トランプがそこで何を言わんとしていたかを、正確に捉えるのは難しい。新型コロナウイルスをデマだと言っているようにも聞こえる。デマの深刻さを心配しているようでもあり、彼の対応への民主党の批判をデマだと言っているようでもある。定評あるファクトチェック機関Snopes(スノープス)は、トランプが新型コロナウイルスをデマ呼ばわりしたという主張を、嘘と本当が混在したものと評価し、次のように述べた。「彼の発言である程度の混乱が起きたものの、トランプは新型コロナウイルス事態をデマだとは言っていない」

結論:虚偽
この情報の中心的な主張は不正確です。
Check Your Factによるファクトチェック
「虚偽:トランプは実際には、新型コロナウイルスの脅威を『デマ』とする問題への大統領の対応について説明していた」
画像クレジット:Judd Legum

PoliticoとNBC Newsの見出しは、少々行き過ぎたかも知れない。またこれらの見出しは、トランプがこの事態をどう特徴付けているかを明確に表現している。

しかし最大の問題は、なぜThe Daily Callerの判定を他のファクトチェックパートナーが内部監査できないようにFacebookはこのファクトチェックシステムを設計したかだ。

これを問うと、Facebookは責任の所在をはぐらかし、すべてのファクトチェックパートナーは無党派の国際ファクトチェックネットワーク(IFCN)の認証を受けているため、内部監査の必要がないことを示唆した。この団体は倫理規定を公表しているが、そこにはチェックする者に「できる限り誤りのない作業を行うために、報告、記述、編集において高水準を保つ」ことを求める正確性の基準が含まれている。チェックする者はまた、記事の正確さを判断するための基準に従うことが要求され、「非常に疑わしい」や「見出しが虚偽」といった中間的なラベルを付けることも許されている。今回、The Daily Callerはそれらを使用しなかった。

The Daily Callerを真偽の判定者として相応しくないとは思っていないためIFCNの指針に頼ったと、Facebookは私に話した。またFacebookは、パブリッシャーがファクトチェックパートナーに直接掛け合い、判定の異議を申し立てもこともできると主張してた。だがさらに詳しく聞くと、パブリッシャーが異議申し立てができるのは、その判定を担当したパートナーに対してのみであり、他のパートナーに再判定を依頼したり、最初に付けられたラベルの内部監査を求めることはできないとFacebookは認めた。

これでは異論の多い、または不正確なラベルを撤回させられる余地はほとんどない。倫理規定に違反したファクトチェック団体は、IFCNから除外しFacebookのファクトチェックパートナーの資格も剥奪するべきだ。

たとえFacebook自身が真偽の判定をしたくないにしても、せめて決められた数のファクトチェックパートナーがその役割を果たせる制度を整えるべきだろう。ラベルが不正確だと複数のパートナーが合意したときは、記事のラベルの段階を軽くするか、ラベルを削除する。さもなければ、ひとつのファクトチェック団体の誤りや偏見が、報道機関の仕事全体を抑圧し、人々から真実を奪い去りかねない。

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(翻訳:金井哲夫)