中高生向けのタブレット端末用学習サービス「ATLS(アトラス)」を提供するforEst(フォレスト)は2月20日、グロービス・キャピタル・パートナーズらを引受先とした第三者割当増資による資金調達を実施したことを明らかにした。金額は非公開だが、関係者の話では億単位の調達だという。
同社では今回調達した資金をもとに開発人材の採用など組織体制を強化し、対応科目の拡張をはじめとしたプロダクトの改良を進める。合わせてこれまでは教育機関専売品として提供していたATLSの一般公開を、本日より開始した。
学習サポート機能を搭載した「おせっかいな」問題集
学校で使っているおなじみの問題集がデジタル化されることで、いくつかスマートな機能がついたもの。多少強引だが、ATLSを端的に説明するとそんなところだろうか。
同サービスには何冊もの教科書や問題集が登録されていて(現在は数学のみ対応)、Kindleのように必要なものを1冊ずつ購入する。並んでいるのは出版社が保有するコンテンツをデジタル化したもののみ。それによって一定の質が担保されているのが特徴だ。
これだけだと単なる電子書籍なのだけど、ATLSには紙の問題集にはない機能がいくつか搭載されている。これを読んでいる大人の方は、しばし中高生時代を振り返りながら読み進めていただくのがいいかもしれない。
まず過去に取り組んだ問題や学習量などのログを蓄積できる「学習履歴」機能だ。各問題集の閲覧ページにはストップウォッチが設定されていて、「いつ、どこで、どの問題を、どくくらいの時間かけて」取り組んでのか可視化できる。
その履歴を活用することで、過去に学習した問題を定期的にレコメンドする「復習支援」機能、間違えやすそうな問題をレコメンドする「挑戦問題」機能を実現。間違えっぱなしで放置しているような問題も抽出してくれる。苦手な単元や理解があいまいな分野は、ついつい後回しにしてしまいがち。そこをATLSが気を利かせて、つついてくれるというわけだ(ATLSのコンセプトは、おせっかいな問題集だ)。
また僕自身が学生時代を振り返ってみて1番便利だなと思ったのが、解いた問題に類似するものを“教材横断”で検索できる「類似問題検索機能」。別の問題集から似た問題を探してくるのは、以外と大変だったりする。シンプルな機能だけれど、デジタル化することによる大きなメリットだろう。
おなじみの教材、従来の学習法。ポイントはなじみやすさ
「ATLSではタブレットに表示された問題を見ながら、紙とペンを使って学習する。大切にしているのは完全に新しい概念を持ち込むのではなく、中高生にとってなじみのあるものを残すこと。これまで使用していたテキスト、紙とペンを使ったこれまで通りの学習方法に、ICTによる個々に合わせたサポート(アダプティブラーニング)を加えることで学習を効率化する」——forEst代表取締役CEOの後藤匠氏はATLSの思想についてそう話す。
教育業界の人たちも新しいテクノロジーに興味はあるだろうが、それまで上手くいっていたスタイルを大きく変えるのはリスクが大きい。実際「保守的な側面もある」(後藤氏)そうだ。だからこそ、実際に使ってもらうためには従来の仕組みになじむような設計が必要になる。後藤氏いわく「なめらかなイノベーション」が求められているという。
これはATLSを使って学習する生徒だけではなく、導入する学校の教師に対しても同様だ。
ATLSには教員の宿題管理事務を効率化する側面も持つ。管理ツールを介して、PCやスマホから宿題を配信。生徒はATLS上で問題を解き、その結果は自動で集計される。問題を解いたノートをカメラアプリで撮影してもらえば、個々の生徒がどのように問題を解いたのか、そのプロセスまでわかる。
教員の平均勤務時間の長さは日本の社会問題のひとつだ。ATLSでは従来から大きく手順を変えることなく、宿題用のプリントの印刷や回収、分析にかかる負担を削減する。生徒の傾向を分析することで、授業に反映することもできるだろう。
10ヶ月で50校以上へ導入が決定
学校向けにATLSを有償で販売し始めたのは2017年の4月から。トライアルも含めると、10ヶ月で50校以上に導入が決まっている。
「学校に営業に行った際や、実際に使ってみてもらった際も『これまでとあまり変わらないので、わかりやすい。使いやすい』という反応が多い」(後藤氏)
ビジネスモデルもシンプルで、問題集が購入された際のレベニューシェア(販売代金の一部がATLSの売り上げとなり、残りが出版社に支払われる)のみ。学校の導入費用は無料だ。後藤氏によると、まずはタブレット端末を使った学習に慣れてもらうために導入のハードルを下げることを最優先しているという。
forEstでは本日より新たな取り組みとしてATLSを一般公開し、導入校以外の生徒でもタブレットから教材を購入できる環境を整えた。今後も生徒向けのプレミアム機能など新たな展開はありえるかもしれないが、学校向けにがっつりビジネスをすることは今のところ考えていないそうだ。
一方でコンテンツを提供する側の出版社については、現在6社と提携。出版社にとってもATLSは新しいチャネルになりうるし、参考書内の問題に対するユーザーの取り組み動向などをレポートにすることで従来は把握できなかったデータも提供できる。
ただ以前は導入実績がないことがネックとなり出版社の開拓には苦戦したそう。前述のとおり現在ATLSで扱っている教科は数学のみで、物理と化学については準備が進んでいる段階。今後は英語など科目数の拡大や、対象となる年齢層の拡大(現在は一部の中高一貫校を除き、高校生向けの教材を扱う)を目指す方針のため、提携出版社数をどこまで増やせるかが鍵を握りそうだ。
「業界のICT化が進むとともに教材のデジタル化も求められてきたが、学習者が使いやすいものが整備されているとはいえないのが現状。質の高い教材を持つ出版社がデジタル市場に参入しやすいプラットフォームを作ることで、約1750億円の規模と言われる中高生向けの教育市場を変えていきたい」(後藤氏)
forEstの創業は2012年。当時東工大の大学院に通っていた後藤氏が学生ベンチャーとしてスタートしたのが始まりだ。後藤氏自身が大学で教育や雇用のシステムを変えることに強い関心を持ち、受験生時代に類似問題を探すのに苦労した経験もあったことから、アダプティブラーニング(個々の生徒に合わせた学習内容を提供する仕組み)の領域で起業したという。
forEstのメンバー。右から3人目が代表取締役CEOの後藤匠氏