垂直農業ネットワークの構築継続に向けInfarmが株式と負債で170億円超を調達、日本の紀ノ国屋でも買える

生鮮食品をより消費者に近づけるため、都市部の農場のネットワークを構築している垂直農業企業のInfarm(インファーム)は、シリーズCのファーストクローズで新たに1億7000万ドル(約177億円)の資金調達した。

このラウンドは株式と負債を合わせて2億ドル(約210億円)に達する見込みで、LGT Lightstoneがリードし、Hanaco、Bonnier、Haniel、Latitudeが参加した。Infarmの既存投資家であるAtomico、TriplePoint Capital、Mons Capital、Astanor Venturesもこれに続いた。これにより、同社のこれまでの資金調達総額は3億ドル(約315億円)以上になった。

これは、過去12カ月間の小売店との提携のスピードの速さを物語っていると考えられる。オランダのAlbert Heijn、ドイツのAldi Süd、デンマークのCOOP/Irma、カナダのEmpire CompanyのSobeysやThrifty Foods、日本の紀ノ国屋、米国のSafeway、Kroger、英国のMarks & SpencerやSelfridgesなどが含まれる。

世界10カ国30都市で事業を展開するInfarmは、現在、毎月50万本以上の作物を収穫しており、従来の農業やサプライチェーンよりもはるかに持続可能な方法で収穫しているという。

モジュール式でIoTを搭載した垂直農法ユニットは、土壌ベースの農業よりも使用するスペースが99.5%少なく、水の使用量も95%少なく、輸送量も90%少なく、化学農薬もゼロであると主張している。また、Infarmのネットワーク全体で使用する電力の90%は再生可能エネルギーを使用しており、同社は来年にはゼロエミッションの食品生産を達成する目標を掲げている。

2013年にOsnat Michaeli(オスナット・ミカエリ)氏と兄弟のErez(エレツ)とGuy(ガイ)の Galonska(ガロンスカ)兄弟によって設立されたInfarmの「屋内垂直農業」システムは、ハーブやレタスなどの野菜を栽培することができる。このモジュラー農園を、食料品店、レストラン、ショッピングモール、学校など、顧客に面したさまざまな場所に設置することで、最終顧客が実際に自分で野菜を収穫できるようにしている。さらに規模を拡大するために、地元の流通センターにもInfarmsを設置している。

この分散型システムは拡張性が高く、スペースが許す限りモジュールを追加できる。全体がクラウドベースになっているため、農場をInfarmの中央制御センターから監視・制御することができる。また、IoT、ビッグデータ、クラウド分析を組み合わせた「Farming-as-a-Service」のような信じられないほどのデータ駆動型でもある。

創業チームは、2017年にこのスタートアップを取材した際に「より新鮮でおいしい農産物を生産し、忘れ去られた品種や希少品種を再導入するだけではなく、効率が悪く、多くの無駄を生み出しているサプライチェーン全体を破壊することだ」と語った。

当時ミカエリ氏は「私たちの農場の背後には、精密農業のための堅牢なハードウェアとソフトウェアのプラットフォームがあります」と説明する。「各農園のユニットはそれぞれ個別の生態系であり、植物が繁栄するために必要な環境を正確に作り出しています。私たちは、光のスペクトル、温度、pH、栄養素を調整した栽培方法を開発することができ、味、色、栄養の質の面で、それぞれの植物が最大限に自然に表現されるようにしています」とのことだった。

今回はドイツ・ベルリンに本社を置くInfarmの創業者の2人に話を聞き、最新情報を入手して今後の規模拡大の方法について少し掘り下げてみた。

TechCrunch:興味深いことに、初期の段階ではどのような想定をしていたのでしょうか?

オスナット・ミカエリ氏:4年ほど前に初めて話をしたときは、ベルリンに40人ほどいたのですが、会話の中心は都市型垂直農業へのアプローチが小売業者にもたらす可能性についてでした。多くの人にとってはコンセプトとして興味をそそられるものでしたが、数年後には、世界最大級の小売業者との提携により、10カ国(日本は現在進行中)、30の都市にまで拡大しているとは想像もできませんでした。当時の私たちの想定では、小売業者とその顧客は、目の前の農産物コーナーや農場で育った農産物の味と新鮮さに魅了されるだろうと考えていました。

私たちが予想していなかったのは、気候変動とサプライチェーンの脆弱性が私たちの生活、選択、そして食に与える影響を社会が感じ始める中で、持続可能で透明性のあるモジュール式の農業へのアプローチに対する需要がどれだけ、そしてどれだけ早く高まるかということでした。

もちろん私たちは、新型コロナウイルスの世界的な感染蔓延を予想していたわけではありませんでしたが、このことは、私たちの地球の再生と回復を支援しながら、高品質で驚くほどおいしい食べ物へのアクセスを民主化できる新しいフードシステムを構築することの緊急性を加速させました。この数カ月で、私たちの農業モデルの柔軟性と回復力が確認され、私たちの使命がこれまで以上に関連性の高いものであることがわかりました。

TechCrunch:新規の小売店との契約に関しては、この12カ月間の進捗状況を見る限り、簡単になってきていると思いますが、リードタイムがまだ長いのは間違いありません。あなたが始めた頃と比べて、これらの会話はどのように変わりましたか?

エレツ・ガロンスカ氏:リードタイムや会話のスピードは地域や小売業者によって異なります。コンセプトがよく知られていて、我々がすでに関与している成熟した市場では、ディールの会話は3カ月という短い期間で契約することができます。前回お話をさせていただいた時から、ヨーロッパ、英国、北米の大手小売業者のほとんどとはすでにお付き合いをしています。

それぞれの市場で、消費者を中心としたイノベーションの需要を満たすために急速に進化している小売業界の先駆者であるブランドは、Infarmによって持続可能で高品質、新鮮で生き生きとした農産物へのアクセスが可能であるだけでなく、本日、そして1年を通して毎日のように農産物の通路で入手可能であることを証明しています。

TechCrunch:私が興味を持っているのは、Infarmがどこに設置されているのかという点です。大部分が店頭や消費者に近い場所に設置されているのか。それとも、Infarmの最もスケーラブルで大部分のユースケースである、都市に近いものの人口や店舗密度の高い場所から離れていないが、実際には店頭には設置されていないより大規模な流通ハブなのかという点です。現在の比率はどのようになっているのか、また垂直農業が成長していく中でどのように発展していくと考えているのか、教えてください。

エレツ・ガロンスカ氏:現在、私たちの市場では、店舗にある農場と流通センターにある農場の比率はほぼ半々です。しかし、皆さんが予想しているように、私たちは今年、より多くの流通拠点でネットワークを拡大していきます。この拡大により、早ければ来年には80:20の割合になる可能性が高く、大部分の地域では、中心部に位置するハブから1週間を通して新鮮な生鮮食品が配達されるようになります。これにより、小売店やレストランには生産量の柔軟性がもたらされ、さまざまな規模のフロアエリアに合わせて提供できるだけでなく、現在開発中の次世代農園から地域全体への提供を開始することも可能になります。

これらの農場は当社のハブを拠点とし、25平方mのフットプリントで1エーカー(約4000平方m)以上の生鮮食品を生産し、エネルギー、水、労働力、土地利用を大幅に節約することができます。この技術は、持続可能な垂直農法で何が可能なのかというアイデアに真に挑戦するものだと信じています。

TechCrunch:最後に棚に並んでいる食品について、主な製品ラインを教えてください。

オスナット・ミカエリ氏:65種類以上のハーブ、マイクログリーン、葉菜類のカタログがあり、常に増え続けています。コリアンダー、バジル、ミントなどの一般的に知られている品種から、ペルーのミント、レッド・ヴァインズ・ソレル、ワサビ・ルッコラなどの特殊な製品まで、私たちが提供するものは多岐にわたります。

当社の農場では、植物の成長過程のすべての部分を管理し、さまざまな生態系の複雑さを模倣することができるため、近い将来Infarmが消費者に提供する農産物の多様性を、根菜類、キノコ類、花卉(かき)類、さらには世界中のスーパーフードにまで拡大することができるようになるでしょう。現在のInfarmは、まだ始まりに過ぎません。

画像クレジット:Infarm

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(翻訳:TechCrunch Japan)

ベルリン発の都市農業スタートアップInfarm、夏より東京都内の紀ノ国屋で農産物の提供開始

ベルリン発の都市農業スタートアップInfarmは2月26日、JR東日本、紀ノ国屋、そして食品流通会社のムロオと連携し、日本での都市農業の拡大を推進していくことを発表した。

JR東日本とのパートナーシップを通じて、同社の子会社である紀ノ国屋の東京都内のいずれかの店舗で、今年の夏より、Infarmのプラットフォームを使い生産された収穫物を日本の消費者に提供していく。ムロオとの連携では、2021年以降、Infarmの日本全国への段階的な展開を目指す。

2013年に設立されたInfarmは、全体で毎月25万以上の植物を収穫する、同社いわく世界最大の都市農業プラットフォームの1つ。現時点では、デンマーク、フランス、ドイツ、ルクセンブルク、英国、米国、スイスで事業を展開。合計で600以上のモジュール式栽培ユニットを店舗や流通センターで展開している。2019年6月にはAtomicoがリードしたシリーズBラウンドを発表した同社は、累計で1億ドル(約110億円)以上を調達している。

「Farming-as-a-Service」とも呼ぶことのできる、InfarmのBtoBtoCのビジネスモデル。提供するモジュール式ユニットは、スーパーやレストランの中に設置することができ、顧客は自ら収穫し、新鮮な野菜を購入できる。垂直農業のため比較的場所をとらないほか、従来の大規模農業と比較し、水の使用量は約95%、肥料は約75%、輸送コストは約90%削減することに成功しているという。

IoTや機械学習、クラウドの技術を使い、遠隔地より管理・操作ができ、かつ、人里離れた倉庫ではなく人々が住むエリアで展開できることがInfarmの強みだ。

Infarmの共同創業者でCEOのErez Galonska(エレズ・ガロンスカ)氏はTechCrunch Japanの取材に対し、「東京は日本で最も密度の高い都市で、解決しなければならない課題がある。廃棄物、農薬の使用、など」と話す。Galonskaは「加えて、日本人の野菜摂取量は多いため、市場も大きい」と説明。そして、多くの農家は高齢なため、「若い世代に最新技術を使った農業を知ってもらい興味を持って欲しい」(Galonska氏)

写真中央がInfarmの共同創業者でCEOのErez Galonska氏

ローカライズという観点では、日本で例えばジェノベーゼバジルを販売しても需要があるかわからないため、水菜なのか紫蘇なのか、今年の夏、都内の紀ノ国屋での提供開始に向けて農産物を選定中だ。Galonskaいわく、ムロオとの連携では、流通センターを農産物の栽培・収穫の場にし、そこから都内のスーパーに供給していく。

Infarmは2020年、まずは紀ノ国屋いずれかの店舗での提供を開始し、2021年には都内での拡大を目指す予定だ。