NFT(Non-fungible token、代替不可能なトークン)とは、デジタル所有権の概念の再構築を目指すものだ。アートハードウェアのスタートアップのInfinite Objects(インフィニット・オブジェクツ)が、デジタルアートやコレクターズアイテムの再構築を目指すことで、そうした資産の物理的なコピーの制作に大きなチャンスを見出そうとしている。
このスタートアップが作るのは、ただ1人のアーティストによるただ1つの動画を表示するだけで、他には何もしないディスプレイだ。このディスプレイには、追加のアプリをダウンロードしたり、自分の写真をアップロードしたり、時間や天気を確認したりすることはできない。たとえInfinite Objectsの別のアート作品が欲しい場合でも、ダウンロードをすることはできず、そのサイトに行って、欲しいアート作品が入った別のディスプレイを購入しなければならない。それぞれのディスプレイの裏面には、作品に関する情報やエディション番号、シリアル番号が刻まれていて、物理的なディスプレイと表示されている作品が密接に結びついている。
Infinite ObjectsのCEOであるJoe Saavedra(ジョー・サアベドラ)氏はTechCrunchに対して、今回の600万ドル(約6億6000万円)のシード調達には、主導したCourtside VCや、NBA Top Shot(NBAトップショット)を開発運営しているDapper Labs(ダッパーラボ)をはじめとする多くの投資家が参加しているという。
長い間Infinite Objectsは、NFTなしで運営されるNFTプラットフォームだった。同社は2018年からアーティストたちと協力して、1人のアーティストのデジタル作品を連続して表示し続ける物理的なディスプレイ(ほとんどの場合数量限定)を制作してきた。もちろん、ユーザーたちはそうしたデジタル作品をInfinite Objectsのウェブサイト上で好きな時に見ることができる。だがその価値はアーティストの作品の公式コピーを所有できる点にある。どこかで聞いたような話では?
2021年初めにNFTが投機的資産として広く認知されたとき、インターネットユーザーがデジタルアートの将来やデジタル希少性について議論し始めたことから、サアベドラ氏はそれを大きなチャンスだと考えた。彼のチームはその時点ですでにNFTに取り組んでいて、2020年の12月にはアーティストのBeeple(ビープル)氏と提携し、彼がNifty Gateway(ニフティゲートウェイ)というプラットフォームで販売していたNFTの「物理的なトークン」をリリースした。これは、ビープル氏がクリスティーズのオークションで6900万ドル(約75億円)の落札価格を達成して、美術界では知らないものがいなくなる数カ月前の出来事だ。
TONIGHT 7PM EST @niftygateway https://t.co/QeeDdBSNCv pic.twitter.com/JyGEEUahok
— beeple (@beeple) December 11, 2020
今夜7時(東部標準時間)
サアベドラ氏は、彼の会社が制作するものによって、NFTの世界で活躍する企業やクリエイターが自分たちの資産をより親しみやすく、一般の人たちに理解してもらえるようにできる大きなチャンスがあると考えている。また同時に、購入したデジタルアートを、NFTを単なる盲目的な所有から実際に鑑賞できることに焦点を当てたものに変えるチャンスでもあると考えている。
「所有権がともなうことを考えると、500ドル(約5万5000円)とか5000ドル(約55万円)でNFTを購入すことはエキサイティングですが、それを見せるためにスマートフォンのSafariを開かなければならないという行為はエキサイティングではありません」とサアベドラ氏はTechCrunchに対して語る。「私たちがデザインしたこの物理的な器は、ブロックチェーンをまったく理解していない人でも、限定版の物理的商品を理解している人ならば、とても理解しやすいものです」。
サアベドラ氏は、アート作品をただ循環表示させる他のデジタルディスプレイには否定的だ。彼は、アートの所有者が望めば、そのNFTの画像をテレビに表示させることもできるが、それは単にアートを「豪華なスクリーンセーバー」として使っているだけだという。
Infinite Objectsのチームは、NFTの世界にはもっと大きなチャンスがあると考えているが、具体的にどのような取り組みになるのかについては堅く口を閉ざしている。今回の支援者リストに、興味深いことにNBA Top Shotの生みの親であるDapper Labsが含まれていることは、ヒントになりそうだ。Dapper Labsは、Flow(フロー)と呼ばれる独自のブロックチェーンを構築していて、サアベドラ氏は会話の中で、それがEthereum(イーサリアム)ネットワークよりもスケーラブルで持続可能であると称賛を惜しまなかった。先ごろDapper Labsは、初のサードパーティ向けNFTプラットフォームを発表した。この発表は、今回のラウンドのまた別の投資家でもあるアバタースタートアップのGenies(ジニー)との提携と同時に行われた。Dapper Labsはデジタルアクセサリーのストアを2021年夏に立ち上げる予定である。
今回のラウンドには、erena Ventures、Betaworks、Brooklyn Bridge Ventures、GFR Fund、Kevin Durant & Rich Kleiman、Genie、Ashton Kutcher(アシュトン・カッチャー)氏のSound Venturesも参加している。
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カテゴリー:ブロックチェーン
タグ:Infinite Objects、資金調達、NFT、アート、Dapper Labs、Genies
画像クレジット: Infinite Objects(フレーム内の作品はNatasha Tomchin)
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(文:Lucas Matneyk、翻訳:sako)