「明日渋谷で1時にランチ」と自然文で予定入力、Fantasticalが日本語に完全対応

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明日渋谷で西村さんとランチ―、と自然文で予定を入力できるカレンダーアプリの「Fantastical 2」がバージョンアップして日本語フル対応となった。メニューやメッセージが日本語されただけではなく、自然言語を理解して「いい感じ」に予定表にスルリンと入れてくれるインターフェイスとエンジン部分についても日本語対応となった。やるかどうかは別としてSiriと同じエンジンで音声入力にも対応するのでApple Watchに話しかけて音声入力で予定を入れることもできる。

New Event Animation

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「来週の金曜」とか「26日の夜に」といった語句を理解するほか、場所についても「新宿」とか「ヒカリエ」といった地名や建物名を理解する。Mac版であればコンタクトリストにある名前も認識する。使ってみれば分かるが、文字を入れていくそばから、「明日」「渋谷」「お昼に」という文字がニュルン、ニュルンと実際の日付に変換されたりして入力ボックスの下のカレンダー画面に飛んで行く。さざなみのようなアニメーションが気持ちがいい。

Fantasticalを提供するFlexibitsの共同創業者であるMichael Simmons氏が来日中だったのでTechCrunch Japanで話を聞いてみた。iPhone版が600円、オリジナル版ともいえるMac OS版が4800円と高額であるにもかかわらず常時アプリストアの上位に入っている人気アプリの秘密とは何か? VC資金を入れずにブートストラップで成長を継続している理由は?

2010年に機械学習の適用分野としてカレンダーアプリを選択

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最近プロダクティビティアプリといえば、モバイルアプリ市場の盛り上がりの波に乗って成功を収めるスタートアップ企業がいくつか出ている。メール、カレンダー、コンタクトと、データそのものはクラウドの先にあるので、そのデータを操作するクライアント側が自由に選べるようになって独立系アプリがしのぎを削っている。最近だとDropboxが買収したMailboxやマイクロソフトが買収したSunrise、Acompliが目立った成功例だ。

2010年創業のFlexibitsがカレンダーアプリを提供するようになったキッカケは、もともと共同創業者のKent Sutherland氏が大学で自然言語と機械学習の研究をしていたことから、この技術を適用できる領域はなんだろうかと考えた結果なんだとか。ローンチしてみるまで、こんなに人気が出るとは思わなかった、とMichaelはいう。

Fantasticalはフランス語、ドイツ語、イタリア語、スペイン語に対応していて、2015年3月にはMac版で新たに日本語サポートを追加。今日リリースされたバージョン2.4ではiOS版でも日本語にフル対応した。新バージョンはApple Watchにも対応する。

実際の言語処理として何をやっているのかというと、いわゆる教師ありの機械学習だ。実際に人間が入力した大量の予定情報テキストを解析して、その結果が正しいかどうかを人間が判定してエンジンの精度を上げていく。これは各言語ごとにやる必要があるので、言語サポートの追加は結構たいへんなのだとか。単にテキストを正規表現で切り出すような処理をしているのではないということは、例えば「明日9時から会議」としたときと、「明日9時からディナー」としたときでは「9時」の解釈が朝なのか夜の21時なのか自動で変わってくることから分かる。冒頭で紹介した「渋谷で1時からランチ」という予定だと、実は時刻を入れなくて「明日渋谷で吉田さんとランチ」と入れるだけで、時刻を12時に設定してくれたりもする。なかなか賢い。

ただ、「明日7時からリサとご飯」としたら朝7時となって、「明日7時からリサと晩ご飯」とすると19時としてくれるのに、「晩御飯」「晩メシ」などとすると、それが夜のイベントだとは解釈してくれなかったりして、この辺はもう少し日本文化を理解すべくチューニングをしていくと良いのではないかと思った。「晩ご飯」は単に「晩+ご飯」と解析されて、「晩」が19時となっているようだ。「飲み会」とか「会食」、「接待」あたりの語句は単に学習すれば済むことのように思えるので期待したい。ユーザーが修正する時刻とテキストの組み合わせから逆に学習すればいいようにも思えるが、今のところはローカルのアプリで入力されるデータから学習するということはやってないそうだ。ともあれ、「明日北川さんと会食」と打ったあとに「、夜に」と付け加えると、そこで時刻が22時になったり、さらに「2時間」と入れると予定終了時刻を伸ばして22時から24時に設定してくれるような自由度の高さがあって、「お、分かってくれるやんか!」という感じはいい。ほかのカレンダーアプリにない気持ちよさがある。

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シンプルさとネイティブなUIを徹底

Fantasticalの特徴は自然言語による入力ということに加えてUIが各OSで最適化されているということもある。

FantasticalはもともとMac版としてスタートして、iPhone版は結構後になってから追加している。この理由として、狭い画面にカレンダーを表示しても使い勝手が良くなくて満足できるユーザー体験を提供できると思えなかったから、とMichealは言う。「単にMac版を小さくしてiPhone版とするようなことをしたくなかったんです」。

iPhone版ではデイティッカーと呼ぶ上部のカレンダー部分を左右にスライドすると、それに合わせて下の箇条書きの予定も切り替わる。逆に下の箇条書きを動かすと、上のデイティッカーも動く。「すごく直感的でスムーズです。このデイティッカーのUIのアイデアを思いつくまではiPhone版を提供しようとは思いませんでした」。

今回のバージョン2.4では、Mobile SafariやMailのようなスタッカブルな3DのタブUIを実装。予定を入れるとき、入力中の予定を見ながらカレンダーやほかの予定を見たいことがあるが、それがiPhoneでもやりやすくなっている。ちなみに、このUIは、ちょっと見るとiOSネイティブのUIのように見えるけど、実はアップルはこのUIフレームワークを公開していない。だからこれは完全独自実装だそうだ(下の写真の右側)。

iPad版についてもダッシュボードと呼ぶタブレット向けのUIを設計したという。タブレット専用UIは開発コストが高い割に、全体にタブレット市場は停滞しているのでは? という質問に対してMichaelは、そもそもFantastical利用者の半分くらいがiPad専用アプリも使っていると、ちょっと信じられないような利用率の高さを口にした。また、iOS 9でマルチタスクやジェスチャーのサポートが始まったら、再びタブレット市場はきわめて大きな伸びを示すだろうとの見解だった。

ちなみに、Fantasticalは6月に開催されたWWDCでApple Design Awards 2015の賞を受けたアプリの1つだ。

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VCマネーを入れず、買収提案も受け付けずに自己資金でスケールするメリット

冒頭で書いたように、プロダクティビティ関連アプリは、少なくないVCがチャンスとみて関連スタートアップに投資している。Flexibitsは、こうした道を選択していない。

「出資や買収提案も頻繁に来ていますが、今のところ外部資本を入れるつもりはありません。すごく小さなチームでリーンにやっています」

ただ、Flexibitsではカレンダーとはまた別のプロダクティビティアプリを来年初頭にリリースも予定しているほか、Android版も検討しているので、チームを大きくすること自体は考えているそうだ。

「今やってる仕事は、とにかく気に入っています。収益性もいいし、売却する理由がないですよね。VCから支援を受けているスタートアップは会社を売るべき理由があるのかもしれませんが、われわれは収益は一貫してすっごく増えていますし、今の状態にとても満足しています。アップルから買収提案があったらですか? よほど金額的に大きなディールでない限りは、ないですね(笑)」

買収された後に大企業で一組織となることのデメリットと、現在のように多くのファンを掴んで自由に創造性を発揮できることを天秤にかけると、今のところ後者のままというのが選択ということのようだ。

「Flexibitsとは別に私はHockeyAppの共同創業者でもあって、この会社はマイクロソフトに買収されました。だから買収自体に反対ってことではないんです。VC支援についても、ハードウェアスタートアップとかFacebookのように初期に収益を産まないものでは必要でしょう。われわれが違うというだけですね」

人気を取るか収益を取るか、高額アプリというビジネス

収益性の高いアプリでビジネスを成長させることについてMichaelは、以下のように話す。

「自然言語入力エンジンには価値があると思っています。カレンダーアプリに、こうした機能やシンプルなUIを提供しようと思ったら、それを評価してくれる人たちをターゲットするのが正しいのです。ユーザーがお金を払うことに慣れていない、もしくは払いたくないというAndroid市場へ向かうのが賢い選択だとは思いませんね。プレミアム感のあるプロダクティビティアプリに数百円とか数千円もお金を払おうという人たちは、アップル製品を使っているケースが多いんです」

「99セントのアプリでダウンロード数がトップだけど売上げランキングは50位というのと、ダウンロード数では50位だけど、50ドルのアプリで売上高がトップというのだと、どっちがいいかってことですよね。人気を取るか売り上げか。起業家としての私は売上を取りますね」

「実際、VCに支援されてるどんなプロダクティビティアプリや、フリーミアムで無料版もあるSunriseのようなアプリよりも、われわれのアプリのほうがはるかに売上が大きいんです」

外部資本が入ると、よくも悪くも成長へのプレッシャーにさらされる。それがない状態で、Flexibitsの成長の原動力となっているのは何なのだろうか?

「Apple Watchが出たり、iOS 9が出たり、そのたびにわれわれは適応していて、立ち止まってるわけではないのです。それがFlexibitsが成長している理由で、製品を良くし続けるということです。年明けにリリースする次のアプリがうまく行って、より大きな成功となるようなことがあれば、今の会社をずっとやって行くということもあるかもしれません」

デイブ・ゴールドバーグ・インタビュー―デジタル音楽ビジネスにのチャンピオンが2009年にYahooを辞めてSurveyMonkeyを始めたわけ

昨日(日本時間9/18)、恵比寿でSurvey MonkeyのCEO、デイブ・ゴールバーグがプレスイベントを開催し、質問バンク日本語版などの新機能を発表すると同時にプレスの質問に答えた。

ゴールドバーグは「アンケート調査は有力な会話の手法だ。マーケティング専門家だけのものではなく、結婚式のプランニングから人事管理までありとあらゆる場面で正しい決定をするために重要な役割を果たす」と力説した。その内容はTC Japan西村編集長のアンケート専門家による質問と選択肢をオススメする「質問バンク」、SurveyMonkeyが日本語でも提供開始に詳しい。

私はTechCrunchとはまったく別にイベント・オーガナイザーからの個人的な依頼でデイブの通訳を務めたが、イベントの合間にデイブにインタビューもしたのでご報告しておきたい。

日本のマスコミはデイブ・ゴールドバーグといえばやはりFacebookのナンバー2、シェリル・サンドバーグの夫ということで関心を持ったようだ。これはやむを得ないことで、私もつい「以前『フェイスブック 若き天才の野望の野望』という本を訳したとき、マーク・ザッカーグがあなたの家でシェリル・サンドバーグにFacebookに加わるよう長時間説得したというエピソードが印象に残っている」などと言ってしまった。さいわいデイブはきさくなタイプで「あれはおかしな話だった」と笑ってくれた。

しかしデイブ・ゴールドバーグは彼自身が飛び抜けて有能で飛び抜けた成功を収めた起業家、投資家、経営者だ。ただSurveyMonkey以前のキャリヤは完全にデジタル音楽分野だというのが興味深い。

1994年にゴールドバーグはCD-ROMベースでLAUNCHというマルチメディア音楽雑誌を創刊した。これにはスターミュージシャンのインタビューやプロモーションビデオなどが収められていた。1999年には対応するウェブサイトとLAUNCH castというインターネット・ラジオをオープンする。2001年にリリースされたiTunesとともにLAUNCHはデジタル音楽の最初の主要な試みだった。

LAUNCHメディアは2001年にYahooに買収される。ゴールドバーグは以後Yahooの音楽部門の責任者として腕を振るい、2006年にはビルボード誌に「デジタル音楽でもっとも影響力のある男」に選ばれている。当時デジタル音楽は既存のメジャーレーベルによって法廷闘争の泥沼に引きずりこまれており、ゴールドバーグの名前も「デジタル音楽の闘士」という流れでなんどか目にしている。

それだけにゴールドバーグがオンライン・アンケートの設計から実施、分析までを提供するSurveyMonkeyのCEOとしてシリコンバレーに再登場したときにはその飛躍に驚いたものだ。「いったいなぜ音楽を止めてSurveyMonkeyという全く別分野に飛び込んだのか?」という私の質問にゴールドバーグはこう答えた。


いちばん大きかったのは私の個人的な事情だろう。サンフランシスコは残念ながら音楽ビジネスとは無縁の町だ。音楽ビジネスの中心はロサンゼルスだ。YahooMusicの本拠地はロサンゼルだったから、サンフランシスコからロスまで通勤を続けていた。それは妻がサンフランシスコの会社〔当時シェリル・サンドバーグはGoogleの副社長〕に勤めていたからだ。これでは家族と過ごす時間があまりにも少ない。そこでサンフランシスコで仕事を探そうと思い立った。 

そこで音楽関係の仕事を続けなかった理由だが―いや、今でも投資家、コンサルタントとしては音楽ビジネスと関わっている。しかし、そうだな、2009年になると音楽のデジタル化はほぼ完了してしまった。私がデジタル音楽を始めたときのような革命的な動きは今後望めそうになかった。Yahooでやれることはだいたいやってしまったというか…まあ、それ以外にもYahooには〔「いろいろと問題があった」というように巨大な肩をすくめた〕。

しばらくクールダウンして情報を集めているときに、ライアン・フィンリーという男が始めたこの会社を見つけた。まだ小さな会社で、社員も14人しかいなかったが、すでに創業以来10年経っていて十分な利益を上げていた。しかも同業のライバルはいない。このアイディアにはまだ誰も気がついていないようだった。有望だと思って買い取った。フィンリーにはまだ取締役に残ってもらっている。

その後ゴールドバーグはYahoo Music時代につちかった定期課金ベースのビジネスモデル、事業の国際展開のノウハウと巨額の資金をフルに活用してSurveyMonkeyを有力企業に育て上げた。しかしそのきっかけが妻の勤め先の近くに勤め先を探した結果だというのは人間味がある話だ。

ゴールドバーグはSurveyMonkeyの特長のひとつを「エンタープライズ・ビジネスツールのコンシューマ化」だとして、スライドでDropboxとEvernoteを似たよう存在として挙げていた。そういえばクマ的な体形(ゴールドバーグはフィル・リビンよりさらに一回り大きい)、家族を第一に考える点などは似ているかもしれない。優秀な起業家でありながら人間としても温かみを感じさせる人というのはいるものだ。

余談だが、ゴールドバーグの日本側サポート・スタッフ(広報、提携先)はほとんど全員が女性で、ごらんのようにテクノロジーをフルに駆使してその場からスケジュールを調整し、情報を発信していた。「女性の登用」などという男側の上から目線よりも現実はどんどん先に動いていると思う。

滑川海彦 Facebook Google+