スタートアップピッチの前に理解しておくべき12のKPI

Colorful data graphs on glowing panel of computer screens

【編集部注】著者のPhil Nadel氏はBarbara Corcoran Venture Partnersの共同創業者でディレクター。

創業者たちが、会社の主要業績評価指標(KPI)を良く理解しておくことはとても大切だ。ほとんど取り憑かれたかのようにKPIに集中することなしに、会社が実りある成長を遂げることを望むことはできない。

何故か?なぜなら、もしKPIが正しく設定されていれば、経営者や投資候補者たちに、感情や美辞麗句で汚染されていない、冷静で分析的な会社の現況を伝えてくれるからなのだ。ただそうした集中はKPI自身だけに限定されるべきではない、それらは成果の単なる測定手段に過ぎないのだ。私たちは、創業者たちが、ビジネスを改善するためにはどのレバーを引き、どのような調整が可能かを理解することを望んでいる。そのことが結果的にKPIに反映されることになるのだ。

焦点はKPIそのものではない。その裏にある意味と、何がお互いに影響を与えているのかを知ることが大切だ。

それでは以下に、創業者たちが徹底的に理解し、最適化に向けての戦略(群)を持つべき、重要なKPIのいくつかを紹介しよう。なおいくつかのKPIは、特定の種類のビジネスには適用されないことに留意して欲しい。またここでは、私はそれぞれのメトリックに対しての詳細な解説も計算方法の紹介も行わない。なぜなら(a)それはこの記事のスコープを遥かに超えてしまう、(b)そうした情報は他の情報源からたやすく得ることができる、という理由からだ。

顧客獲得コスト(Customer acquisition cost)(CAC)。CACとは、新しい顧客を1人獲得するために、販売、マーケティング、および関連活動に費やされる平均金額のことだ。これはあなたのマーケティング努力の効率性を示す。とはいえこの数値は、以下に紹介する他の指標と組み合わせたり、競合相手のCACと比較した場合により大きな意味を持つ。

新規顧客を獲得することは大切だが、獲得した顧客を維持し続けることが更に大切だ。顧客定着率(customer retention rate)は、所定の期間料金を払い続けてくれる有料顧客の比率を示している。定着率の逆は、チャーン(離脱率)で、これは一定期間にあなたが失う顧客の率を表したものだ。ある一定の期間に高い定着率を示しているなら、その会社は離れがたい製品を持っていて、顧客を満足させ続けていることがわかる。これは資本効率の指標でもある。

顧客生涯価値(Lifetime value) (LTV)とは、平均的な顧客があなたのビジネスに対して、その関係が続く全期間の中で与えてくれる価値の総額を表すものだ。特にCACとの関係の中でこの数値を理解することが、持続可能な会社を作り上げるためにはとても大切だ。

私たちは、LTVに対するCACの比率を黄金のメトリックであると考えている。これは、企業の持続可能性を示す真の指標の1つだ。ある企業が、予想通りにxを10xにすることを繰り返せるならば(注:10倍にするというのは単なる例であって、最低限とか標準といった意味合いではない)、その企業は持続可能だ。

最も成功した創業者たちは、彼らのKPIと、常にそれらを実験し最適化する動きに集中する傾向を持っている。

CAC回収期間(CAC recovery time)(あるいはCACを回収するのに必要な月数)。このKPIが測定するのは、1人の顧客からの収益がCACを上回るのに必要な期間だ。CAC回収期間はキャッシュフローに直接影響を与えるため、結果的にランウェイ(手持ち資金が枯渇する期限。後述)にも影響する。

CACは顧客獲得に関連する変動費用を測定するが、オーバーヘッドは獲得した顧客数に関係なく出ていく固定費を測定したものだ。収益に対するオーバーヘッドの割合が、企業の資本効率を反映したものとなる(すなわち、他の条件が全て同じだとすると、20万ドルのオーバーヘッドから100万ドルの収益を得る企業は、40万ドルのオーバーヘッドから100万ドルの収益を得る企業よりも2倍効率が良い)。

月々の収益と経費(固定および変動)を理解することで、企業のマンスリーバーン(monthly burn:月に減るキャッシュ量。burnは直接的には「燃やす」という意味で、現金を失うことをお札を燃やす比喩で表現している)を計算することができる。これは正味キャッシュフローがマイナスである場合の、月のキャッシュフローの総額を示す。もしある会社が、ある月初に10万ドルを現金で持っていて、同月の終わりの時点で現金が9万ドルになっていた場合、バーンレート(burn rate)は1万ドルだ。もし会社の総キャッシュフローが正であれば、キャッシュは「燃やされて」いない。

どのスタートアップにとっても、ランウェイに対する集中が、生き残りのためには重要だ。ランウェイとは、ある企業がキャッシュ不足に陥るまでの残存期間を、月数で表現したものである。ランウェイは手持ちのキャッシュをマンスリーバーンで割ることで計算される。現在の収益と予想される経費から計算されるマンスリーバーンを用いてランウェイを見積もることができる。だが私たちはこの見積値に対しては保守的な見方を好んでいる(投資後の経費の増加は織り込み済みとする)。私たちが求めるのは最低12ヶ月のランウェイだが、18ヶ月もしくはそれ以上のランウェイを強く好んでいる。短いランウェイは、起業家を近視眼的にし、必要な調整や繰り返しの自由が失われてしまう。同様に、起業家たちを企業を成長させるのではなく、すぐに次の資金調達に向かわせることになる。

パーセンテージで表される利益率は、実際の製品のコストよりもどれだけ高く売られているかを教えてくれるものだ。別の言い方をすれば、販売価格がどれだけ「上乗せ」されているかを示すものだ。この貴重なメトリックは、製品のコストから投資収益率を考慮することを可能にし、企業のスケーラビリティと持続可能性を理解する上でも重要な指標だ。

私たちはコンバージョンレート(conversion rate)を、企業が製品を消費者に売り込む力と、顧客の製品への熱望を組み合わせた、優れたKPIだと考えている。コンバージョンレートを、継続的に追跡しレビューを行い、定期的にそれを改善するための実験を行うことが特に有益だ。

ある種のビジネスでは、収益は財務パフォーマンスに対する、最も有益な指標ではないかもしれない。これは特に、全体の取引量の少ない1部が収益となっている(手数料など)ような市場で成り立つ。こうした場合には流通総額(Gross merchandise volume )(GMV)が有用なKPIになり得る。GMVは、市場を通じて購入される商品やサービスの販売総額を表す。

アプリや、オンラインゲーム、あるいはソーシャルネットワーキングサイトを提供する企業にとっては、 月間アクティブユーザー(monthly active users) (MAU)は重要なKPIだ。MAUは、あるサイトやアプリを使うユニークユーザー数を30日毎に集計したものだ。MAUを理解することは、ある企業の潜在的な収益力の決定を助け、現在どれ位上手くマネタイズができているかを示してくれる。

私たちが創業者たちに、その会社について知るための質問をするときには、これらのKPIを、彼ら自身の言葉と他の情報で説明して貰う。それは私たちがビジネスの現在の状態を理解するための簡単な方法であり、自身のKPIを知らない創業者たちに対しては深い懸念を抱くことになる。最も成功した創業者たちは、彼らのKPIと、常にそれらを実験し最適化する動きに集中する傾向を持っている。

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(翻訳:Sako)

FEATURED IMAGE: OLIVER BURSTON/GETTY IMAGES

私たちがあなたの会社に投資しない11の理由

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【編集部注】著者のPhil Nadel氏はBarbara Corcoran Venture Partnersの共同創業者でディレクター。

ほとんどのVCと同じように、私たちは毎週しばしば数十件に及ぶ案件をレビューする。私たちは、私たちの一般的な投資基準(例えば業界、ステージ、モデル)に適合しないものを、素早く排除することができるフィルターを開発した。

この初期選考プロセスを生き残った案件は、更なる精査と適性評価の対象となる。このプロセスは様々な観点を含んでいる。財務諸表と収益予測;創業者、顧客、他の投資家との議論;その会社、製品、そして業界に関連するサードパーティ情報のレビューなどだ。このプロセスの様々な段階で、企業は更なる考慮から除外されていき、最後に、残されたレビュー対象の少ない割合の案件に対して、最終的な投資を行うのである。

ある会社に投資しないことを決定するとき、私たちは常に創業者たちに、不採用の決定の理由を説明するための時間を設けている。この記事の目的は、私たちが企業に投資しない決定をした主要な11の理由についてのレビューを提供し、これからの創業者の方々の資金の調達のチャンスを向上させることである。

透明性/率直さの欠如。 私たちは創業者が率直ではない場合には、直ちに興味を失う。ベンチャー投資は信頼関係に基づいているのだ;不透明であることは関係に対する不吉の始まりである。

占有性/防御性の欠如。 もし企業が、潜在的な競合相手に対抗するための独自性を占有していない場合、その成功はやがて没落に繋がる。

これが何を意味するのか?堀がなければ、会社の成功は簡単に模倣されてしまう。成功すればするほど、より多くの競合を引き寄せてしまうのだ。しかしもし、その会社が秘密のソースを持っていたなら ば ‐ 技術、プロセス、知識、関係、その他などが含まれる – 持続的な成長のオッズは遥かに高くなる。先発であることの利点は、初期の段階では有用だが、それは長期的には通常あまり助けにはならない(例えばMySpace)。

実績がありスケーラブルな有償マーケティングチャネルの欠如。 私たちは、当社の資本を収益成長の燃料として使うことができる企業に投資することを好む。もし対象企業がまだ、スケーラブルでコスト効率の高いマーケティングチャネルを見つけていない場合には、それらを見つけるための実験とテストに私たちの資金を燃料として使うことになりがちだ。

私たちは、実績あるチャネルを拡大するために私たちの投資を使用できるように、少なくとも既にそうした初期テストを十分に行っている企業に投資することを好む。有償顧客の獲得を心の底から理解していて、私たちの成長に関する質問に「グロースハッカーを雇いますから」と答えない創業者たちに、私たちは強く惹かれる。

自身の主要業績評価指標(KPI)を知らない。 私たちは創業者によるその企業自身のKPIに対する知識の深さと、会社の成功との間には、直接的な相関関係があることを発見した。

私たちは、創業者がその会社に全てを捧げていることを確認したい。

まず、創業者たちは彼らのビジネスに、どの指標が重要であるかの理解を示さなければならない。次に、彼らはそれらのメトリックスを適切に測定し、計算していることを示さなければならない。最後に、彼らは各KPIに影響を与えるにはどのレバーを引くべきか、ビジネスを成功させるためには、どのKPIを微調整する必要があるのかについて熟知していなければならない。

短い予算計画。 私たちが企業に投資する場合、少なくとも12ヶ月分の月次予算計画を持っていることを望んでいる。資金の調達には多くの時間と労力が費やされ、ビジネスの成長から創業者たちを遠ざけてしまう。私たちは、会社がすぐに別の資金調達ラウンドにとりかかる心配なしに、チームが成長に注力することを可能にする十分なリソースを持っていることを望んでいる。そしてまた、もし会社が12ヶ月分のKPIの改善と成長を示すことができれば、次の調達ラウンドは、はるかに容易になるだろう。

月次予算計画を計算するには、創業者は、現在の出金速度を知っている必要があり、そしてどのように調達した資金を利用していくのか、毎月末毎にどのくらいの現金を使っていくのかに関する、詳細な予測を立てなければならない。この計算は以下の仮定で行うことができる:(1)ゼロ収益、(2)ゼロ成長で、現在の収益が続く、または(3)これまでの傾向に基づく合理的な収益の成長が望める。

TAM(総市場規模)が小さすぎる。 私たちはしばしば、比較的小さなグループが直面している問題への、革新的で時に独創的な解決策を持っている企業をみかける。買収されることを目指す起業は、その収益可能性を買収者にとって意味のあるものにするために、十分に大きな市場にアプローチする必要がある。もしある企業が、同社のソリューションが対象としている市場の大きさが妥当であることを示すことができない場合(私たちの場合、それは通常年間10億ドルの市場である)、私たちは通常は見送ることにしている。

未発売または未出荷。 私たちは企業が製品を売り始めたときに、その評価の高まりに伴ってはるかに投資リスクが低くなることを知っている。言い換えれば、企業が売上のない状態を卒業して、顧客が喜んでお金を払う製品の製造と出荷に移行したら、その評価の高まり以上にリスクが減少するということだ。したがって私たちは、対象企業が最初の販売を行い製品が市場に受け容れられる初期の証拠を示した後に投資をすることは賢明だと考えている。

ビジョンがない。 私たちは、現在の会社を100倍のサイズにするための、明確な成長のビジョンを持っている創業者の企業に投資するのが好きだ。実際にその成長を成し遂げるためには、そのビジョンからの逸脱も必ず必要になるのだが、一方ビジョンを欠いていてはその達成ははるかに遠ざかってしまう。激しい嵐の中でも、北極星が創業者たちに道を示してくれるのだ。

競合相手をきちんと理解していない。 多くの企業は、しばしば私に「私たちには競合がありません」と言ってくる。一般にそれは信じがたいことなので、こう返答するようにしている「あなたが対象とする市場では、あなたが対応しようと考えている課題を現在はどのように解決しているのですか?それがあなたの競合相手ですよ」。

この初歩的な知識を超えて、創業者は競合他社がどの市場セグメントに取り組んでいるのか、そしてどのように売り込んでいるのかを睨みつつ、競合他社によって提供されているソリューションを徹底的に理解しておく必要がある。企業の潜在的な顧客は、その製品を他の利用可能なソリューションと比較する。そして頭の良い創業者たちはその製品を正しく位置付けるのだ。

こうした他のオプションについて精通していないこと、そして自らの製品を差別化できないことは、すなわち失敗のレシピである。

偏った創業者チーム。 製品は作られる必要があるし、また製品は売られる必要がある。これらのタスクは1人ではほとんど賄うことのできない、非常に異なるスキルを必要とする。私たちは、エンジニアリングと開発から販売とマーケティングまでの、様々な専門性をもつ創業者チームに会うのが好きだ。

会社の創立時からあらゆる専門性をしっかりと持つことは、偉大な製品を作ること、売れる製品を作ることを確実にする。もちろん、企業は欠けている部分の人材を雇用することができるが、その補った部分は企業のDNAの一部にはならない。加えて、雇用した働き手を管理する側の人間が、関連領域での経験を積んでいることが常に好ましい。

リスクを負っていない。 私たちは、創業者たちがその会社に全てを捧げていることを確認したい。最低でも、彼らはフルタイムでそのビジネスでに従事する必要がある。理想的には、彼らには同時に、自分のお金の比較的大きな部分を会社に投資していて欲しい。ポール・グレアムはかつて、創業者たちがそうすることによって「失敗を死ぬほど恥ずかしいと考えるようになり」、すぐに「倒れるまで戦うことを誓う」ようになるのだと書いた。全く同意する。

このリストは網羅的ではないが、なぜ私たちが(そして恐らく他の初期ステージ投資家たちが)案件を採用しなかったのかに関わる、ありがちな理由を示して、これからの創業者たちがそうした問題に確実にアプローチするための役立つチェックリストになることを期待している。ところで、もしあなたがこうしたことをもう全て正しくやっているというなら、是非話を聞かせて欲しい。

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(翻訳:Sako)