Lucid Motors(ルーシード・モーターズ)のCEO兼CTOであるPeter Rawlinson(ピーター・ローリンソン)氏は、電気自動車を別のレベルに引き上げる方法について明確なビジョンを持っていた。しかし、Tesla Model Sの元チーフエンジニアであった同氏も、それがこれほど長い時間を要するとは思っていなかっただろう。
Lucid Motorsが電気自動車の生産を発表してから約4年が経過した米国時間9月9日、同社はオール電化の高級セダン「Lucid Air」の最終バージョンを発表した。Airは、目を見張るような性能を備えており、航続距離は最大517マイルと推定される。豪華さや雑然とした印象を与えることなく、テクノロジーとラグジュアリーのバランスを取ったデザインとなっている。
4つのバリエーションのうち2つ、16万9000ドル(約1800万円)のフラッグシップモデルのDream Editionと13万9000ドル(約1475万円)のGrand Touring(グランドツーリング)モデルは、今年アリゾナ州カサグランデの新工場で生産が開始される。これらのバリエーションは、2021年春に納車を開始する予定だ。残りの2つのバリエーションは、価格9万5000ドル(約1000万円)のTouring(ツーリング)モデルと8万ドル(約850万円)を少し下回るベースモデルで、それぞれ2021年末と2022年の生産が予定されている。なお価格はすべて、7500ドル(約80万円)の連邦税控除前の数字だ。
Airは、メルセデスSクラスに取って代わるEV車となることを目指しており、ローリンソン氏によれば「電気自動車というカテゴリーには今まで存在しなかったタイプ」だという。
9月9日の発表に先立ち、最近のインタビューでローリンソン氏は「Tesla Model Sはプレミアムモデルであり、美しく設計されていて超破壊的ですが、EVスペースではメルセデスのSクラスに取って代わるものではなく、私たちが提供しているものです」と語っていた。
Airは、控えめながらも贅沢な雰囲気を醸し出している。車内は広々としている。、ローリンソン氏とデザイン担当副社長のDerek Jenkins(デレク・ジェンキンス)氏はこれを「クリーンシートアプローチ」と表現している。同社は「電気駆動系統の小型化により、車という三次元パズルを再定義し、外見はよりコンパクトで車内より広くという空間コンセプトを実現しています」とローリンソン氏。「テスラのModel SやポルシェのTaycan(タイカン)よりも車体は短くて細いことを付け加えた。
この車の4つのバリエーションは、デュアルモーター、全輪駆動のアーキテクチャを介して、さまざまなパフォーマンスレベルを提供する。Dream Editionは1080馬力で、ゼロから60マイル(約96km)まで2.5秒で加速できる。このパワーと引き換えにDream Editionの航続距離は465マイル(748km)となっている。一方、Grand Touringモデルは800馬力で、3秒で同じ加速が可能だが、最高の航続距離は517マイル(832km)となっている。
Airには、32個のセンサー、ドライバーモニタリングシステム、イーサネットベースのアーキテクチャが搭載され、高速道路でのハンズフリー運転をサポートする先進運転支援システムも搭載する。
車内では、34インチの湾曲ガラス製5Kディスプレイがドライバーの前に設置され、ダッシュボードの上に浮かんでいるように見えます。中央のもう1つのタッチスクリーンは格納式で、より多くの収納スペースを確保している。また、ボリュームの制御や車両に統合されているADASとAmazon Alexaをアクティブにするためのいくつかの物理的なコントロールは、ハンドルと中央画面のすぐ上に備わっている。中央のタッチスクリーンの下には、無線充電、カップホルダー、USB-Cポートなどが用意されている。
Airオーナーは、車のロックやロック解除など、車を制御・通信するアプリを使うことになる。将来的には、オーナーの身元を確認する顔認証機能も搭載される予定だ。
バッテリー開発から電子自動車メーカーへの壮大な旅
2007年に別の名前と目的でスタートしたLucid Motorsにとって、これは壮大な旅だった。同社は、元テスラの副社長兼役員であるBernard Tse(バーナード・ツェー)氏と起業家のSam Weng(サム・ウェン)氏によって設立された、電気自動車用バッテリーの開発に特化したAtieva(アティバ)という会社から始まった。ローリンソン氏はTechCrunchに「初期の研究・開発、そして最終的にはコンポーネントや全体的な電気アーキテクチャの進歩のため、当時の仕事は現在のLucid Motorsにとって非常に重要なものになる」と語った。Atievaはその後フォーミュラEのバッテリーサプライヤーとなり、デザインと性能の向上にも貢献することになる。
Lucid Motorsがが電気自動車を作るという新たな目的を公言したのは、2016年の末のことだった(同社はすでに数年前から静かに取り組んでいたが)。2013年にテスラを離れてCTOとしてLucid Motorsがに入社したローリンソン氏は、この新たなミッションの推進役の1人だった。同氏は後にCEOの肩書きと責任を負うようになった。当時のLucid Motorsは、自動車メーカーになるという困難で莫大な資金が必要な課題への道のりを順調に歩んでいるように見えた。
「自動車会社を始めるほど狂った人はいないだろう」ローリンソン氏は最近TechCrunchに語った。「我々は2017年初頭に大きな期待を持って出てきたが、適切な投資家を見つけるのに時間がかかった」と続けた。
これは少し控え目な表現だ。Lucid Motorsは社名変更後すぐにアリゾナ州に工場を建設すると発表し、私が2017年後半に乗ったアルファプロトタイプのAirを披露した。しかしその後、投資家の取り込みの進捗は鈍化し、その後は完全に失速していた。
「その段階では、投資家コミュニティは自動運転とロボット工学のアイデアに惚れ込んでいたと思います」とローリンソン氏。「より優れた電気自動車を手に入れるには、まだ何かしらのマイルストーンがあるとは誰も信じていませんでした。そして私は、それがまだ実現されていないと言い続けていました。テスラは素晴らしい仕事をしていますが、まだ成功しているとは言えません。電気自動車からはそれ以上のアイデアが出てきて、耳をつんざくほどでした」と語った。
投資家を確保するのに数カ月かかり、工場の建設プロジェクトは宙に浮いていた。「当時は会社として最も暗い時間だった」とローリンソン氏は振り返った。
2018年9月、Lucid MotorsはサウジアラビアのSovereign Wealth Fund(ソブリン・ウェルス・ファンド)が10億ドル(約1060億円)を投資することを約束したと発表した。この発表は、テスラのCEOであるElon Musk(イーロン・マスク)氏が、「テスラを1株420ドルで非公開化することを検討しており、飛躍するための適切な資金を確保している」とツイートしたわずか6週間後に行われた。マスク氏は、すでにテスラの株式の5%近くを所有しているサウジアラビアの富裕層ファンドが、テスラの株式公開から非公開への移行を支援することに興味を持っていることを明らかにした。
Lucid Motorsとサウジの富裕層ファンドとの間で行われた10億ドルの投資取引は2019年春に終了した。この資金によって、Lucid Airのエンジニアリング開発とテストが完了し、アリゾナ州に工場を建設。そして、北米を起点とした小売戦略のグローバル展開を開始し、生産体制に入れるようになった。
Airがようやく発表されたことで、同社は今後、次のタスクである生産と配送に注力することになる。
画像クレジット:Lucid Motors
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(翻訳:TechCrunch Japan)