macOS最新バージョン「Big Sur」正式リリース版レビュー

macOS最新バージョン「Big Sur」正式リリース版レビュー

macOSの最新バージョン、Big Surの正式リリース版がようやく登場した。6月のWWDCで発表してからここまで、ずいぶんと引っ張ったものだ。macOSのリリースが今のような毎年恒例のパターンになってからは、たぶん最遅だろう。それというのも今回は、同じく今年のWWDCで発表したMac用の新しい自社製CPU「Apple M1」(Apple Silicon)を搭載したMacの新モデルの発売に合わせたからだ。

パブリックベータ版のリリース状況、バージョン番号などから考えると、従来のインテルCPU用のBig Surは、だいぶ前に完成していたように思われる。それでも、両CPU用をいっしょにリリースするために、新製品の発売を待っていたのだろう。

この最新のmacOS Big Surは、従来とはアーキテクチャの異なる新CPUを採用した「新たなMac」用の初OSであると同時に、インテルMac向けの集大成的なOSというふたつの異なる面を持っている。今後インテルCPUを搭載したMacの新モデルが登場する可能性は低いと考えられるから、もはやインテルMacにとっては、いわば「後世」のOSということになるだろう。

機能面の拡充と、ユーザーインターフェースの刷新

新たなバージョンのmacOSとしてみた場合、Big Surは、機能面の拡充とユーザーインターフェースの刷新という、また違った切り口でもふたつの面を併せ持っている。切り分けが難しいものもあるが、これらの中には、ユーザーインターフェースとは一切関係のない、新CPUならではの重要な新機能もある。これはMacのハードウェアのアーキテクチャが安定していた近年のmacOSには見られなかったもので、Big Surの最大の特徴のひとつといえる。またユーザーインターフェースの変化だけを見ても、近年のmacOSの新バージョン中ではかなり大きなものとなっている。

そこでここでは、macOSの新バージョンとして見たBig Surについて、ハードウェアの新製品レビューでは取り上げられにくい点を中心に見ていく。インテルMac、Apple Silicon Macを問わず共通の部分を中心に、Big Surの新機能、新たなユーザーインターフェースを解説する。

7年前のインテルMacも対象、意外にも古いMacもサポートするBig Sur

まず、Big SurがこれまでのインテルMacをどこまでさかのぼってサポートするかを見ておこう。「Macのハードウェア条件」のリストを見ると、意外に古いMacもサポートしていることに驚かされる。

  • MacBook Air 2013以降
  • MacBook Pro Late 2013以降
  • MacBook 2015以降
  • Mac mini 2014以降
  • iMac 2014以降
  • iMac Pro 2017以降
  • Mac Pro 2013以降

この中でもっとも古いのは2013年のもので、3機種もある。他の機種を見ても、MacBookにせよ、miniにせよ、2013年以降に出た最初の新製品からサポートしている。またiMac Proは、そもそも最も古いモデルが出たのが2017だ。つまりサポートの起点は2013年にあると考えていい。

この2013年は、macOSでいえば10.9のMavericksが出た年だ。正確にいえば、「macOS」ではなく、まだ「MacOS」と表記されていた遠い昔のこと。その当時のマシンを、まだ現役で日常的に使っている人は、それほど多くないと思われるが、Big Surはそこまでサポートしている。

Big SurはApple M1に重点を置いて開発されたという印象がどうしても強いが、7年前のインテルMacをもサポートする懐の深さを兼ね備えている。最初に述べたように、インテルMac用macOSの集大成を担うという考えも、そう的外れとはいえないことが分かるだろう。

なお、搭載メモリーやストレージの容量など、いわゆるシステム要件については明記されていない。善意に解釈すれば、上記の条件に合致したMacならば要件を満たすと考えられる。

アップル製デバイスのOSとして、統一感を高めたルック&フィール

Big Surのユーザーインターフェースのルック&フィールについては、WWDC直後に掲載した記事「次期macOS Big SurでUI/UXはどう変わるのか?細かすぎて伝わりにくい部分も解説」で、それまでの発表や資料から分かる範囲でレポートした。その時点では、「こうなるはずだ」という範囲の話だったが、それが実際にどうなったのか、主なところを確認しておこう。

少なくともアップル純正アプリに関する限り、すべてのアイコンがiOS/iPadOSと同様の角の丸い正方形の枠に囲まれたものに統一された。Dockを見ても分かるが、Launcherを開けば一目瞭然だ。

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「その他」に分類された比較的マイナーなアプリについても、見事に外枠の形状が角丸正方形で統一されている。

なお、Big SurになってもインテルCPU搭載マシンについてはBoot Campがサポートされている。つまりメインディスクにパーティションを切り、Windows 10をインストールし利用できる。そのためのユーティリティ「Boot Campアシスタント」も健在だ。
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実は、Big Surパブリックベータ版の公開時には、一部純正アプリのアイコンは修正が間に合っていなかった。macOSのインストーラーに組み込まれていない、後からApp Storeからダウンロードするタイプのものだ。その時点では、まだCatalinaが現行OSだったからだと思われるが、Big Sur正式版リリースとともに、それらアイコンのアプリも更新され、ようやくアイコンの統一を見た。

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「コントロールセンター」と「通知センター」に見る統一感

ユーザーインターフェースの統一は、アイコンの形状にとどまらない。iOSやiPadOSと見紛うようなインターフェースは、特に「コントロールセンター」と「通知センター」で顕著だ。Big Surの場合、コントロールセンターはメニューバーから起動できる。そこで設定できる内容も、Wi-Fi、Bluetooth、AirDropのオン/オフ、おやすみモードの設定、ディスプレイの明るさやサウンド音量の調整など、共通しているものが多い。

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通知センターは、以前のmacOSにもあったが、Big Surからはデザイン的にも最新のiOSやiPadOSとの統一感が高められている。

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ただし、通知センターに表示する内容の編集画面は、Macならではの広い表示面積を有効に活用したものとなっており、iOSやiPadOSよりも使いやすい。

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「Dockとメニューバー」

また、主に通知センターに関連して、「システム環境設定」にも大きな変更が加わった設定項目がある。そのひとつが、以前は単なる「Dock」だったものが「Dockとメニューバー」に拡張されたパネルだ。

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このパネルでは、左側にサブ項目が垂直のタブ状に並んでいて、その中から選択した項目の設定内容が右側に表示されるという比較的新しいインターフェースを採用している。Catalinaでも「通知」パネルに見られた方式だ。その中から、たとえば「バッテリー」を選ぶと、メニューバーやコントロールセンターにバッテリーのアイコンや残量を表示するかどうかを設定できる。

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これとは独立して「バッテリー」というパネルもあるので、ちょっと紛らわしい。こちらは、「使用状況履歴」によって、iOSやiPadOSと同様にバッテリーの使用状況がグラフ表示される。ただし、Big Surではアプリごとの電力使用状況は表示されない。このあたりは、まだ改良の余地がありそうだ。

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メニューバーにバッテリーの残量アイコンを表示するかどうかは、「Dockとメニューバー」パネルの「バッテリー」タブでも、「バッテリー」パネルの「バッテリー」タブでも設定できる。それに対して、残量の割合(%)を数字で表示するかどうかの設定は、「Dockとメニューバー」でしかできないなど、ユーザーを惑わせるような部分も残っている。

「サウンド」で設定可能な通知音

見た目とは関係ないが、Big Surでは「サウンド」で設定可能な通知音が、従来のmacOSのものから刷新された。通知音の名前も、音色も、これまでのものをなんとなく連想させつつも、音色自体は新しいOSにふさわしい、いかにも現代的なものだ。

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ただし、iOSやiPadOSのものとは名前も音色も統一されていない。つまり、まったく別系統のものだとなっている。これは意図的そうしたものと考えられるが、その意図がどこにあったのかは不明だ。

思い切って統一しても良かったようにも思えるが、MacとiPhone、またはMacとiPadを日常的に併用している人にとっては、通知音が被る心配がなく、どちらが発した通知なのか画面を見なくても分かるという点では便利かもしれない。

地味ながら有効なアップデートと残念な取りこぼし

アップルがあまり大々的には宣伝しなかったり、パッと見には気付きにくい変更点や改善点は、アップルのサイトのBig Surの紹介ページの中でも、比較的目につきにくい場所「macOS Big Surで
利用できる新機能。
」に網羅的にまとめられている。

同ページを見ると、ここまで挙げた特徴的なルック&フィール以外を除くと、ほとんどの変更点や改善点部分はOS本体ではなく付属アプリ関連であることに気付く。その中で、ちょっと感心した部分と、がっかりした部分をひとつずつ挙げておこう。いずれも「言語」がらみのものだ。

まず感心したのは、「辞書」アプリで使える辞典データの拡充が、綿々と続けられていること。デフォルトでは、国語辞典(スーパー大辞林)、英和/和英辞典(ウィズダム)、Appleの用語辞典、それにWikipediaが設定されているだけだが、辞書の環境設定で、その他の多くの辞典を選んで追加できる。今回のBig Surでは、そこに「フランス語 – ドイツ語」、「インドネシア語 – 英語」、「日本語 – 簡体字中国語」、「ポーランド語 – 英語」の辞典が加わった。これまでは日本語がらみのものは国語辞典と英和/和英しかなかったが、そこに「超級クラウン」の中日/日中が加わったのだ。地味ながらユーザーによっては非常に有効な追加だろう。

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一方残念だと感じたのは、Safariに新しく加わった翻訳機能に日本語が含まれていないこと。今のところ対応しているのは、英語、スペイン語、中国語、フランス語、ドイツ語、ロシア語、ポルトガル語(ブラジル)の各言語だけだ。

この機能自体がまだベータ版なので、今後日本語が追加される可能性はあるが、iOS 14に新たに加わった翻訳アプリに最初から日本語が含まれていることと比べると、日本国内でのシェアの違いはあるにせよ、Macがないがしろに扱われているのではないかと感じる。

いずれにしても、Safariの翻訳機能を利用するには、システム環境設定にある「言語と地域」の「優先する言語」において、翻訳後の言語を追加しておく必要がある。すると、Safariで翻訳可能なページを開けばアドレスフィールドに「翻訳を利用できます」と表示されるようになる。フィールド内の翻訳ボタンをクリックして、目的の言語を選ぶだけで、ページ全体が翻訳される。

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気になるApple Silicon Macへのアプリ対応

最後にApple Silicon Macへのアプリ対応について、気になる3つの点に簡単に触れておこう。1点目は、Apple Silicon用ネイティブコードを含むアプリの状況はどうなっているかということ。2点目は、従来のインテルMac用アプリは、本当に何の問題もなくApple Silicon上で動くのかということ。そして3点目は、iOSやiPadOS用のアプリは、実際にApple Silicon Mac上で使えるのかどうかだ。

Apple Silicon用ネイティブコードを含むアプリの状況

1点目についてまずいえるのは、Big Surに付属する純正アプリは基本的にすべてUniversalアプリとなり、インテルとApple Siliconの両方にネイティブで対応していること。これはアプリの「情報」ダイアログで「アプリケーション(Universal)」という表記を見れば確認できる。

App Store上のアプリも、続々とUniversal対応が進んでいるようだが、これはアプリごとに異なるので、現状で全体の何%が対応しているかは不明だ。対応はサードパーティ任せとなるものの、実際にApple Silicon Macも発売されたので、盛んにアップデートがなされアプリが対応するのは時間の問題だろう。

従来のインテルMac用アプリは、本当に何の問題もなくApple Silicon上で動くのか

従来のインテルMac用アプリが、Apple Silicon上で問題なく動作するのかという点だが、これもアプリごとに異なる。そのため、現状でどれくらいの割合で動作するのかということはいえない。もしうまく動かないアプリがあった場合、インテル版のままアップデートされて動くようになることは考えにくい。その際は、Universal版のリリースを待つしかないだろう。

なお、インテルMac用アプリを初めてApple Silicon Macで起動する際には、Rosettaのインストールを確認するダイアログが表示されるので、インストールを行う必要がある。これまで試した範囲のインテル用アプリは、Rosettaのインストールだけで何の問題もなく動作した。

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iOSやiPadOS用のアプリは、実際にApple Silicon Mac上で使えるのか

3点目は、待望のiOS/iPadOSアプリの動作状況だ。これらのアプリは、Mac用App Storeを使って検索し、通常のMac用アプリとまったく同様にMacにインストールできる。デフォルトでは、検索結果に「Mac App」が表示されるので、「iPhoneおよびiPad App」のボタンをクリックすれば、iOS/iPadOSアプリが表示される。

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まずこれらiOS/iPadOSアプリのデベロッパーが、Mac用App Storeに公開することを選択していなければ、見つけることもできず、インストールもできない。iPhoneやiPadのセンサーを利用するものなど、明らかに動作しないものは、デベロッパーの選択によってMac用としては公開しないことも可能となっている。

ただし、公開されているからといって、必ずしも動作するとは限らない。記事執筆時点では「macOSでは検証されていません」と表示されるものも多く、その中にはインストールすらできないものもある。インストールできて動作するものについては、従来のMac用アプリと同様に違和感なく利用できた。

Big Surの正式版がリリースされたとはいえ、アプリについては、まだしばらくは流動的な状態が続くものと考えられる。Apple Silicon Macを安心して本格的に活用できるようになるまでには、まだ少し時間がかかるかもしれない。

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macOS Big Surが公開された

Appleのデスクトップソフトウェアアップデート11.0は、未来のMacの基礎を築く

ついにその日が来た。永遠に待ちぼうけを食らわされるかと思わせた、macOSの最新バージョンBig Sur(ビッグ・サー)が、やっと到着したのだ。想像上の産物ではなかったのだ。確かにいまさら時間についてあれこれ言うのは無意味だが、WWDCでの発表から本日(米国時間11月12日)のリリースまで、実に5ヶ月近くの長い時間がかかった。

間違いなく、それにはたくさんの理由がある。なにより今年は、できるだけ丁寧に扱うべき特別な年だった。またこれは、デスクトップオペレーティングシステムにとって、かなり大きな年次アップデートでもあった。そして、もちろんこれは、この14年間に行われた、Appleのハードウェアに対する最大の変更である新しいARMベースのMacのために、公式に開発されたmacOSの最初のバージョンなのだ。

私は6月以降、開発者や少数の怖いもの知らずたちと肩を並べて、私の所有するマシンの1台でこのオペレーティングシステムのベータ版を利用してきた。私たちがヒーローだとは言わないが、そうではないとも言わない。結局のところ、それは自分で口にすべきことではないだろう。

今回のアップデートでは、数多くのデザイン上のアップデートがもたらされているが、その多くが、macOSとiOSの間の境界線をぼかすという長年の流れに沿ったものだ。この先Appleシリコンが次世代のMacを牽引するにつれて、その流れはますます強まるだろう。少なくともその流れは、ずっと以前にAppleのソフトウェアデザインのポールポジションを取ったiOSの観点からは理にかなったものだ。iOSは、最終的にはデスクトップへ導入された多くの機能を、まず最初に実装してきた。

画像クレジット:Brian Heater

変更の多くは微妙なものだ。メニューバーの背がより高くより半透明になり、背景も変更され、システムの明暗モードが切り替わる際に変化する。Finder(ファインダー)のDock(ドック)が画面の下部から少し上に浮かぶようになり、メニューには少し余裕の場所が差し込まれた。ウィンドウにも多少の余裕が生まれ、メールやカレンダーなどの自社製アプリには新しいシンボルが散らばっている。

画像クレジット:Brian Heater

アイコンの形状は、よりiOS風のスクワーコー(squircle、スクエア+サークルからの造語で、角の丸まった正方形のこと)デザインに変化したし、全体に微妙な変更が加えられている、たとえば「メール」のアイコンには、ほとんど見えないテキストでAppleの本社の住所である「Apple Park, California 95014」が書き込まれている。他の多くの変更と同様に、ここでの要点は、Big Sur全体とAppleのエコシステム全体に一種のスタイルとしての一貫性を提供することだ。

画像クレジット:Brian Heater

しかし、Finderに対する最も直接的で明らかな変更は、コントロールセンターの追加だ。この機能は、iOS/iPadOsから直接借用されたもので、シンプルでクリーンで半透明な一時ウィンドウを画面の右上に表示する。個々のコントロールパネルは、メニューバーに直接ドラッグアンドドロップすることができる。Touch Barと一緒に導入されたコントロールセンター機能のようなものを思い出させるが、何よりも大きなボタンやスライダーは、画面に手を触れるようにと誘いかけてくる。こうなるとAppleが、Appleシリコンを内蔵した未来のタッチスクリーン式Macの基盤を築き始めている、という想像を振り払うことは本当に難しい。

画像クレジット:Brian Heater

嘘は言わないが、私は「通知センター」をきちんと使ったことはない。Appleがいくつか前のアップデートから、通知センターをデスクトップに持ち込もうと考えた理由は理解できるが、とにかくモバイルのようには一元化されていなかった。それは私の普段のワークフローにもフィットしなかった。Appleはこの機能を調整し続けていて、今回はかなり大掛かりな改修となった。残りの多くのアップデート同様に、それはAppleがスペースをどのように使用するかにかかっている。

今回のアップデートで(専用のボタンではなく)メニューバーの日付と時刻をクリックすることで通知センターにアクセスできるようになった。ここで最も魅力的な2つの変更は、通知とウィジェットがグループ化されたことだ。ここでもiOSからの借用が行われていて、通知がグループごとに積み重ねられるようになった。積み重ねられた通知をタップすると、下に向かって展開される。左肩に表示された「X」をクリックして通知を消すこともできる ―― だがやはり、もしスワイプして消すことができれば、もっと満足できるだろう。また、通知項目と対話する機能も注目できる。通知の中から、直接メッセージに返信したり、ポッドキャストを聴くことができる。ワークフローの一部としてそうした機能をすでに使用している人にとっては、これは素晴らしい機能追加だ。

画像クレジット:Brian Heater

システムはまた、新しいウィジェットを通知と同じ列に追加して、最新バージョンのiOSのやり方に寄せている。現在、このウィジェットには、カレンダー、天気、ポッドキャストなどのApple製アプリと、App Storeを介して利用可能な追加のウィジェットが含まれる。ウィジェットの追加と削除、およびサイズ変更を行うことができる。十分な余地のある画面では、他のアプリケーションで作業している間、開いたまま固定するために、それらを最上位にピン留めしておくことができれば便利だろう。

サウンドも、全体的にアップデートされている。新しく録音された起動チャイムと同様に、変更はほとんど微妙なものだ。より顕著な変化は、ファイルの移動を行うときなどに感じることができる。素敵なハミングサウンドだ、これはこれまでの、冷たいバネのような音よりも快適だ。以下の動画には、私にはまとめる時間がなかったサウンドのすてきな一覧がまとめられている:

Apple製アプリには、いくつかの重要なアップデートが加えられている。Safari(サファリ)のアップデートはその中でも、ウェルカムページを始めとして、最大のものだ。バックグラウンド画像は、自分のライブラリにあるものや、Appleが事前に選択した写真を使って設定することができる。もう少しダイナミックなものがあると良いのだが。たとえば事前に手作業で選んでおいた画像やAIを使ってライブラリから選んだ最高の画像を順番に切り替えてくれるとか。まあとはいえ今回の実装は良くできているし、タブをオープンしたときに馴染みのあるものが目に入るのは好ましい(私の個人的なケースでは、私のアパートに家賃も払わずに住んでいるウサギの画像だ)。

画像クレジット:Brian Heater

さらに、ホームページのカスタマイズとして、お気に入り、頻繁に訪問するサイト、リーディングリスト、さらにはSafari がブロックしたトラッカーの数などがわかるプライバシーレポートなどを表示することができる。プライバシーレポートをクリックすることで、ブロックされた特定のトラッカーの詳細プロファイルや、トラッキングを行っているサイトが表示される。どうやら私のコンピューターからSafariを使って訪れたサイトの80%はトラッカーを使っているようだ、うげっ。

Safariに組み込まれた翻訳機能は、Chrome(クローム)に対抗するための素晴らしい一歩だ。翻訳サービスの分野ではGoogle(グーグル)が長年のリーダーを務めてきていた。AppleのブラウザSafariは、モバイルでは大きな市場シェアを持っている(iOSのデフォルトのブラウザであることが大きな理由だ)が、デスクトップ市場の調査では、シェアは8〜10%のどこかに落ち着くことが多い。とはいえ、現在翻訳機能はベータ版であり、現在翻訳されるのは、英語、スペイン語、簡体字中国語、フランス語、ドイツ語、ロシア語、ブラジルポルトガル語などに限られている。もちろんAppleがそのリストを更新し続けることは間違いない。

画像クレジット:Brian Heater

私が高く評価したいのは、タブの上にマウスを置くと表示される、ウェブサイトのプレビューだ。これは、タブを使いすぎる傾向のある私たちにとって、素晴らしい追加機能だ。今では多くの、いやほとんどの人がそうした傾向を持っているのではないかと思う。またAppleは、タブにサイトのファビコンも追加した。これもまた、サイトを素早く識別する役に立つはずだ。

画像クレジット:Brian Heater

内部の改良も同時に行われ、サイトのレンダリングが速くなり、電力利用効率も向上した。Appleは、Safariを使えば、Firefox(ファイアフォックス)やChromeに比べて、ストリーミングビデオの再生時に、バッテリー寿命を最大3時間程度伸ばせるはずだという。これはとても大きな違いのように見えるが、間違いなくApple製ソフトウェアを使用する利点はあるだろう。たとえ同社が今でもデスクトップ市場のシェアを広げるための、急坂を登っている最中であるとしても。「マップ」は、AppleがGoogleからかなり厳しい競争を強いられている、また別の場所だ。最新データでは、Googleマップは67%前後の市場シェアを握っている。Appleからの提供は、明らかに遅いスタートだったが、AppleはGoogleに追いつくためにかなり必死の努力を重ねている、そして今では、いくつかの点ではGoogleを上回るようになった。

画像クレジット:Brian Heater

もちろん、そうしたアップデートの多くは、パンデミックが起こっていないときならもっとチェックしやすいものだ。まあしばらくの間は、360度ルックアラウンド機能(Apple謹製Googleストリートビュー対抗機能)のようなもので、代わりに楽しむのが良いだろう。機能は比較的限られているものの、屋内マップも使える。空港や屋内ショッピングモールなどの一部のスポットで、その機能をチェックすることができる。その他の主な追加には、充電ステージ経由の移動を計画できる電気自動車ルート案内、サイクリングルート案内、主要都市の渋滞地域に関するマップなどがある。

画像クレジット:Brian Heater

「メッセージ」へのアップデートのいくつかは、ここで言及する必要があるだろう。その多くは、iOSの最新バージョンでも導入されたものだ(OS間で同等性が実現されることは稀だったが、おそらく今後はより一般的になるだろう)。今回の場合、なぜAppleがこうしたものを一度にロールアウトしたかったのかは明らかだ。

このアップデートにより、デスクトップ全体でのメッセージの堅牢性が向上した。追加された機能には、ミー文字エディタやスタンプ、紙吹雪やレーザーなどのメッセージ効果、改善された写真選択機能などがある。会話はアプリの上に固定でき、グループチャットは改善されて、グループ写真、特定のメッセージへのインライン返信、@記号でユーザーに通知する機能などが含まれるようになった。それはSlackの代替ではないし、そうなろうともしていない。

ベータが数ヶ月続いて、Big Surはついに皆の手に届いた。アプリやシステムへの重要なアップグレードが目立つが、Appleの視点から見てさらに重要な点は、ARMを搭載したMacの最初の基礎を築き、同社の主要な2つのオペレーティングシステム間の統一に向けてその行進を続けているということだ。

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(翻訳:sako)

​Appleが先週から起こっていたGatekeeperの脆弱性を修正

​Apple(アップル)は、先週起こったmacOSのGatekeeperバグの再発を防ぐ次のステップを説明する同社ドキュメントページ(Appleサポートページ)を更新した。Rene Ritchie(レナ・リッチー)氏が発見している(Twitter投稿)。アップルは来年にかけて修正を実施する計画だという。

先週、アップルは厳しい配信日を迎えた。​同社はmacOSのメジャーアップデート「macOS Big Sur」(未訳記事)をリリースしたが、その後、アップルはサーバー側の問題に悩まされた。

​今回の問題は、Macがサードパーティ製アプリケーションを開発者認証を確認できない(未訳記事)ために起動できないというものだ。この機能はGatekeeperと呼ばれ、正規のアプリを装ってマルウェアアプリをダウンロードしていないことを確認してくれる。証明書が一致しない場合、macOSはアプリを起動できないようにする。

現在、​多くの人がセキュリティ機能のプライバシーへの影響を懸念している。​アップルは、ユーザーがMacで起動したすべてのアプリのログを残し、アプリの使用状況に関する情報を集めているのだろうか?

サーバーは暗号化を義務付けていないため、その疑念に関する回答は簡単だ。Jacopo Jannone(ヤコポ・ジャノーネ)氏がこの暗号化されていないネットワークリクエストを傍受し、アップルが密かにユーザーを監視していないことを突き止めている(Jacopo Jannone氏ブログ)。Gatekeeperは本当にいわれていることを行っているだけだった。

​​「これらのチェックから得たデータを、アップルユーザーやそのデバイスに関する情報と組み合わせたことはありません。チェックから得たデータを、個々のユーザーがデバイス上で起動または実行しているものを知るために使用することはありません」と同社は記している(Appleサポートページ)。

アップルはさらに一歩進んで、同社の次のステップについても伝えている。​同社は先週から、サーバー上のIPアドレスの記録を停止している。​Gatekeeperのためにこのデータを保存する必要はない。

「これらのセキュリティチェックには、ユーザーのApple IDやデバイスのIDは含まれていません。さらにプライバシーを保護するため、開発者IDの証明書チェックに関連するIPアドレスの記録を停止しました。収集されたIPアドレスがログから削除されるようにします」とアップルは書いている。

​最後に、アップルはネットワークリクエストのデザインを見直し、ユーザー側のオプトアウトオプションを追加している。

それに加えて、今後1年間でセキュリティチェックにいくつかの変更を加える予定です。

​・開発者ID証明書の失効チェックのための新しい暗号化されたプロトコル
​​・サーバ障害に対する強力な保護
​​・ユーザーがこれらのセキュリティ保護からオプトアウトするための新しいプリファレンス

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(翻訳:TechCrunch Japan)

新macOS Big Surは米国時間11月12日に提供スタート

Apple(アップル)が米国時間11月10日に発表したところによると、同社の次期デスクトップおよびノートパソコン向けOS、macOS Big Surは米国時間11月12日にリリースされる。

カリフォルニアをテーマにしたMacOS Big Surには、新しいユーザーインターフェース、新機能、パフォーマンス改善が盛り込まれる。

iOS 14の機能の多くも移植されている。これには改善されたメッセージスレッドとインライン返信、再設計されたマップアプリが含まれる。macOS Big Surには新しいコントロールセンターが搭載されており、画面明るさやボリューム、Wi-FiとBluetoothへのすばやくアクセスできるようになる。

Safariにも待望の刷新が施されている。​新しいプライバシー機能とセキュリティ機能が搭載されており、ウェブ上でトラッカーが追跡するのを防ぐインテリジェンス追跡防止機能や、以前に侵入されたパスワードを使わないようにするパスワード監視機能などが組み込まれている。

macOS Big Surの動作の模様は、TechCrunchのBrian Heater(ブライアン・ヒーター)記者が8月に試している(未訳記事)。

​MacOS Big Surは、2013年以降のMacとMacBookでサポートされる。

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(翻訳:塚本直樹 / Twitter

マイクロソフトがEndpoint Managerをアップデート、iPadやmacOSのサポートを拡充

Microsoft(マイクロソフト)は米国時間9月22日に開催されたIgniteカンファレンスで、エンタープライズ環境におけるデバイスの管理とセキュリティを実現するための同社の統合プラットフォーム「Microsoft Endpoint Manager」の新機能を多数発表した。

このサービスは、Microsoft System Center Configuration Managerの機能とIntuneのクラウドベースのツールを組み合わせたもの(未訳記事)で、1年弱前にサービスが開始されたも。本日のアップデートでは開発チームが当初作成した基盤をベースに、macOSとiPadのサポートを改善したほか、モバイルデバイスをオンプレミスのアプリ(社内専用アプリ)に接続するための新しいツールや、同社がサービスから収集した日付に基づいて追加された生産性向上ツールが追加されている。また、企業のIT部門が従業員のためにリモートでデバイスをプロビジョニングする(引き渡す)ことを容易にしているという。

結局のところ、新型コロナウイルスの感染蔓延は同社にとって、ビジネスの成長と、企業がリモートデバイスを管理する必要性の両方を加速させたに過ぎない。

Commercial Management Experiencesチームで同社のコーポレートバイスプレジデントを務めるBrad Anderson(ブラッド・アンダーソン)氏は「実際には、このクラウドとIntuneにあったすべてのインテリジェンスをConfig Managerを1つのものとして機能させることです。新型コロナウイルスが発生したことで、人々が我々のサービスを使用したいと思い、必要とするようになったのを見るのは、とても興味深いことでした」と振り返る。「米国では3月8日か10日にさかのぼりますが、感染蔓延が最初に明らかになったとき、米国では毎日のようにCIO(最高情報責任者)の周りに電話がかかってきて『私のVPNは圧倒されています。すべてのシステムを最新の状態に保つにはどうすればよいですか?』という問いに答えなければなりませんでした」と続けた。

本日の発表は、マイクロソフトが昨年の間にこのサービスで行ってきた作業をベースにしたものだ。例えば、今年初めにmacOS上でスクリプトのサポートを開始した後、同社は本日、デプロイスクリプトだけでなく、登録体験やアプリのライフサイクル管理機能も改善した新しい「macOSの第一級の管理経験」をプラットフォームに提供することを発表した。

Endpoint ManagerはアップルのShared iPad for Business機能もサポートし、企業がiPadをユーザーにデプロイし、Azure Active Directoryアカウントでログインできるようにする。これにより、ユーザーはデバイス上で2つの部分 、1つは仕事用、もう1つはその他すべて用を使用できるようになる。

もう1つの新機能は 「Microsoft Tunnel」 だ。これにより企業は、デバイス全体または単一のアプリをカバーできるVPNを利用可能となり、従業員のデバイスを安全に保ち、社内ポリシーに準拠してネットワークにアクセスできるようになる。

「Microsoft Tunnelの重要な点は、これがすべて条件付きアクセスに統合されていることです」とアンダーソン氏は説明する。「VPNが起動したときに、データやアプリへのアクセスが許可される前に、Microsoft 365の内部に構築された条件付きアクセスエンジンは、IDの信頼性とデバイスの信頼性についてのチェックする機能を備えてます」と続ける。「これが本当に重要な差別化要因です。ここだけの話ですが、別のMDMとMicrosoft Endpoint Managerを実行している顧客が待ち望んでいるのは、おそらくこの1つの機能だと思います」と説明した。

Endpoint Managerは現在、Windows仮想デスクトップ(WVD)環境もサポートしている。WVDは同社にとって大きな成長分野であり、新型コロナウイルスの感染蔓延によって利用は加速している。同氏によると、感染蔓延の影響でWVDは10倍の成長を遂げたという。「Windows Virtual Desktopは、Microsoft Endpoint Managerでの超注目株です。つまり、物理的なエンドポイントを管理するのと同じように、仮想エンドポイントを管理することができます。すべてのポリシーが適用され、すべてのアプリケーションをクリック可能です。これにより、ユーザーに権限を与えるためのツールの1つとして、エンドポイントを簡単に使用できるようになります」とのこと。

Endpoint Managerのもう1つの分野は、Productivity Scoreだ。ただし、このサービスには従業員の経験と技術的経験という2つの側面がある。Productivity Scoreは、従業員がどのように働いているかを企業がよりよく理解し、企業が改善できる分野を特定できるよう支援することを目的としている。技術面では、どのアプリがクラッシュするのか、なぜラップトップが遅くなるのかを理解することも重要だ。

「これが重要なシナリオの1つです」とアンダーソン氏。「時々電話がかかってくるのですが、『私のユーザーは皆、Office 365で素晴らしい体験をしていますが、一部のユーザーの中には動作が遅いユーザーがいます』というような内容です。多くの場合、それはネットワークの問題です。そのため、たとえばユーザーがファイルを開いたり、ファイルを保存したり、添付ファイルを開いたりするたびに、その操作を理解するのに役立つ遠隔測定結果が返ってきます。南フランスのISPがくしゃみをしたときに、おそらく私たちはそれを把握しているでしょう。Office 365はどこにでもあるので」と続ける。

もう1つの新機能は、MicrosoftがEndpoint Analyticと呼んでいるものだ。これにより同社は、従業員のデバイス上のアプリがいつクラッシュしたかについての詳細な情報を企業に提供することができるようになる。それが社内のアプリであれ、サードパーティのサービスであれ、マイクロソフトのアプリであれ。

これらのテクノロジースコアに加えて、Productivity Scoreにはミーティングなどの新しいカテゴリが追加され、管理者は従業員のミーティングの回数や新しいチームワークカテゴリを確認できるようになった。

Microsoft Ignite

画像クレジット:Volker Pape / EyeEm / Getty Images

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(翻訳:TechCrunch Japan)

ARMアーキテクチャMac登場前に知っておきたい、Macと仮想環境との長〜い歴史

いろいろな意味で、Macほど大きな変遷を経てきたパーソナルコンピューターはほかに類がない。CPUを含む内部のアーキテクチャも、度重なる変化を受けてきたし、それと呼応して、あるいはまったく独立に、外観のスタイルも多岐にわたるバリエーションを提示してきた。

またその過程で、さまざまなサブブランドの製品が生み出された。そして、サブブランドに分化した後も、それぞれ少なからぬ変化を経験している。例えば「iMac」という製品1つをとってみても、長期に渡ってどれだけ大きな変遷を経てきたことか。すべてを正確に思い出せる人は少ないかもしれないが、一部を思い浮かべてみるだけでも、そのバラエティの豊かさは驚異的なことに思える。

そして今また、Macの世界が大きく動き出そうとしている。言うまでもなく、そのきっかけとなるのは、MacのCPUがApple Siliconに変更されること。一般に普及しているパソコンのCPUの系列が大きく変更されて、直接実行可能な機械語コードに互換性がなくなる場合、その移行ができるだけスムーズなものとなるよう、さまざまな対策が必要となる。それは主に、CPUの変更を主導するメーカーとしてのアップルの仕事だ。サードパーティのデベロッパーやユーザーは、アップルが提供する施策を利用することで、CPUの変更による影響を最小限に留めることができると期待される。しかし中には、アップルが提供する方法では吸収できないような大きなインパクトを受ける種類のソフトウェアもある。その代表が、WindowsやLinuxなどのほかのOSや、その上のアプリをMacで利用可能にする仮想環境を実現するアプリだ。

ここでは、多岐にわたるMacの仮想環境ソフトウェアの歴史をざっとたどってみる。それが、今後のMac上の仮想環境がどのようなものになっていくのか、考えるヒントになるかもしれない。ただその前に、仮想環境にも大きな影響を与える、これまでのMacのCPUの変遷と、それに対してアップルが提供した施策について確認しておこう。

3回のCPU変更に3回とも判で押したように同じ手で対応

パソコンのCPUの移行期に有効な方策が、主として2種類あることは、拙稿の「Apple Siliconへの移行のキモとなるUniversal 2とRosetta 2とは何か?」で述べた。簡単に要約すると、1つのアプリが移行前後のCPU、両方に対応するコードを持てるようにするバイナリフォーマットを用意することと、旧CPU用のアプリのコードをその場で変換して新CPUで動かす機能を提供することだ。今回アップルは、前者にはUniversal 2、後者としてはRosetta 2と呼ばれるものを提供することを明らかにしている。

いずれも名前に「2」が付いていることからわかるように、これらの方策はほぼ同様のものを以前にも採用したことがある。つまり以前には、それぞれ「Universal Binary」と呼ばれるフォーマットと、「Rosetta」と呼ばれるコード変換機能を提供していた。具体的には、2006年にPowerPCからインテル系CPUへの変更を断行した際のものだ。

しかし、それだけではない。名前こそ異なるが、もっと以前、1994年に68K(68系)CPUからPowerPCに移行する際に、同様の方策を実施している。その際には、2つのCPUのコードを含むアプリのファイルフォーマットは「Fat Binary」、コードの自動変換実行機能は「Mac 68K emulator」と呼ばれた。いずれも面白みのない名前だが、当時は、その部分に何かしらのブランディングを適用しようという気はさらさらなかったのだろう。

以上に述べた3回のCPU変更と、それぞれの変更の際にアップルが提供してきた、そしてする予定の方策を図で確認しておこう。

現在までにMacが採用してきたCPUは3種類、そこにApple Siliconも入れれば4種類となる。そのいずれの時代にも、サードパーティが提供した一種の仮想環境ソフトウェアが存在した。もちろんApple Siliconを搭載したMacにも登場するはずだ。次に、その歴史をたどってみよう。

パーソナルコンピューター黎明期からあった野心的な試み

パソコンに限らず、コンピューターが搭載するCPUとは異なるCPUのプログラムをなんとかして動かしてみたいという欲求は、かなり昔からあったように思える。おそらくそれは、この世に存在するCPUというものの種類が1を超えた瞬間に発生したのではないかとさえ思われる。コンピューター自体の処理能力が今よりもずっと低く、使えるリソースも限られていた時代には、もっぱら「エミュレーター」として実現されることになる。この言葉には、なんとなく趣味の領域の匂いや、グレーゾーンの雰囲気も漂うが、それはある種の偏見だろう。業務上の用途でも重要な役割を果たしたものは少なくない。

MacがエミュレーターによってDOSやWindowsを動作させるようになったのは、CPUが当初の68系からPowerPCに移行してからのこと。確かにPowerPCのようなRISCプロセッサーは、少ないクロック数で実行できる単純な命令を備えているので、エミュレーターを実現するのに向いている。とはいえ、もちろん68KのようなCISCでエミュレーターが作れないわけではない。そのようなものの中で、おそらく史上初ではないかと考えられるのが「][ in a Mac」だ。名前から想像できるように、Mac上でApple IIのソフトウェアを動作させるもの。Macとしては正確に言うと2世代目だが、オリジナルMacのメモリ容量を128KBから512KBに増設しただけの、いわゆるFat Mac上で動作した。

Apple IIはカラー表示が可能だったので、初期のMacのモノクロディスプレイでは十分に表現できないソフトウェアも多かったが、CPUもアーキテクチャもまったく異なり、何の互換性もないApple IIのプログラムが、曲がりなりにもMacで動くというインパクトは強かった。

このようなことが可能だったのは、1MHzで動作するApple IIの8ビットCPUである6502よりも、約8MHzで動作する16/32ビットCPU(製造元のモトローラでは「MPU」と呼んでいた)の68000のほうが、大幅に処理能力が高かったからだ。仮にもしApple IIで何かのエミュレーターを動かすとすれば、常識的に考えて、それよりもさらに大幅に処理能力の低いCPUをターゲットにしなければ実用にならないと思われるだろう。

しかしここに1つの重要な例外がある。Apple IIのファームウェアの1つ、といってもたった6KBしかない整数BASICのインタープリタの一部として組み込まれていた「Sweet16」と呼ばれる仮想16ビットCPUのエミュレーターだ。これはApple IIの作者、スティーブ・ウォズニアク氏が、BASICインタープリタのコード量をできるだけ少なくする目的で開発したもの。16本の16ビットのレジスターを備え、16ビットの加減算が可能な、れっきとした16ビットCPUだった。

この仮想CPUのエミュレーターでの実行は、6502のネイティブコードを実行する場合に比べて10倍ほど遅かったそうだが、コード量を削減する効果は大きく、そのトレードオフの結果として導入したと考えられる。パーソナルコンピューターの原点の1つと考えられているApple IIに、最初からこのような機構が組み込まれていたのは、その後の発展を考えると非常に興味深い。

時代が前後したが、また話をMacに戻そう。68K時代のMacでは、CPUを搭載する他のコンピューターをソフトウェアでエミュレートするのは荷が重かった。上に挙げた][ in a Macのようなソリューションもあったが、初期のMacではカラー表示ができないという問題もあった。このことは、Apple IIという製品が、膨大なソフトウェア資産を市場に残しながら寿命を終えようとするころには、アップルとしても捨て置けない問題と考えられるようになった。

そこでアップルは1991年になって、自ら「Apple IIe Card」というハードウェア製品をMacintosh LCシリーズ用に発売した。これを装着することで、カラー表示が可能で、しかも低価格のMacが、最も普及したApple IIeとしても動作するようになったのだ。このカードは、Apple IIeのハードウェアそのものを、当時の技術を使って小さな基板上に縮小したようなもので、純正だけに高い互換性を実現していた。

引用:Wikimedia Commons

これと同じようなハードウェアによるソリューションは、実はPowerPCの時代になっても存在した。やはりアップルが1996年に発売した純正の「PC Compatibility Card」だ。これは、インテルのPentiumや、他社の80×86互換CPUを搭載した、ある意味本物のPCであり、拡張スロットを備えたPower Macに装着して、MS-DOSやWindowsをインストールして利用することができた。このころになると、少なくともアプリケーションの多彩さという点では、DOSやWindowsに対するMacの優位性もだいぶ陰りが見えていた。この製品は、PC用ソフトウェアを利用可能にすることで、ユーザーをMacに引き止めることを狙った、まさに苦肉の策だったと言える。

一方で、ソフトウェアだけで、PCのCPUとハードウェアのエミュレーションに果敢に挑んだ製品も、サードパーティから何種類も登場した。中でも最も有名なのは、Connectix(コネクティックス)社の「Virtual PC」だろう。これは、PCのハードウェアを忠実に再現するもので、後の仮想環境ソフトウェアの走りと見ることもできる。市販のWindowsパッケージは、もちろん、x86プロセッサーを搭載するPC用のさまざまなOSを、そのままインストールして利用することが可能だった。なお、このVirtual PCは、MacのCPUがインテルに移行してからはMicrosoft(マイクロソフト)に買収され、同社純正のWindows Virtual PCとしてWindows 7に組み込まれることになった。

ほかにも、当時かなり豊富に市場に出回っていたDOSゲームを主なターゲットとした、Insignia Solutions(インシグニア・ソリューションズ)の「Real PC」という製品もあった。もともとは、各社のUnixワークステーション上でDOSを実行するための小規模なものだったが、のちにMacだけでなく、NeXTSTEPにも移植された。このReal PCは、やがて「SoftPC」と名前を改め、DOSに加えてWindowsも実行可能になった。市販のWindowsパッケージをそのままインストールして使うことも可能だったが、特にSoftPC用にチューンして動作性能を向上させたWindowsの特別なバージョンをバンドルした「SoftWindows」という製品も登場した。

CPUの変更で再びチャレンジングな世界に踏み込む仮想化ソフト

MacのCPUがインテル系に変更されると、それまでエミュレーションの最大のターゲットだったWindows PCのアプリケーションを利用するために、CPUの機械語コードの変換やエミュレーションを実行する必要がなくなった。そこでもっぱら利用されるようになったのが、いわゆる仮想環境ソフトウェアだ。CPUのコードは同じだが、周辺のハードウェアの違いを仮想化することで吸収するためのソフトウェアということになる。機能としては、以前にPC Compatibility Cardを装着したMacに求められたものに近いのかもしれない。

そんな中で、最初にリリースされたのは、ドイツのInnotek(イノテック)がオープンソースソフトウェアとして開発した「VirtualBox」だった。Innotekは、その後Sun Microsystems(サン・マイクロシステムズ)によって買収され、さらにOracle(オラクル)がSunを買収したため、現在の正式な名称は「Oracle VM VirtualBox」となっている。同種の商用アプリのような派手な機能は少ないが、地道に開発が続けられている。

VirtualBox自体が動作するホストOSとして、macOSだけでなくWindows、Linux、Soraisと4種類がサポートされているのも大きな特徴だ。仮想化マシンを作成可能なOSのタイプとしては、Windows、Linux、Solaris、BSD、IBM OS/2、macOSなどをサポートする。MacがApple Siliconに移行すると、残念ながらこのアプリはMacでは動作しなくなり、サポートもなくなる可能性が高い気がする。

VirtualBoxより先に発表されながら、実際に製品としてリリースされたのは少し後になったのが、Parallels社の「Parallels Desktop」だった。少なくとも人的資源としては、PowerPC時代のVirtualPCを引き継ぐ部分もあって、基本的なユーザーインターフェースにもVirtualPC譲りの雰囲気が感じられる。現在では名実ともにMacを代表する仮想化ソフトウェアとなっている。WWDC20でも、いち早くApple Silicon上で動作するデモが取り上げられた。このソフトウェアが、今後どうなっていくかについては、少し後で再び考える。

製品の発売時期もParallels Desktopとさほど変わらず、その後も互いに速度と機能を競い合いながら発展してきた仮想化ソフトウェアにVMware(ヴイエムウェア)の「VMware Fusion」がある。ただし残念ながら、最近では開発にかける力が衰えてきたように感じられる。それは最近ではクラウド製品に注力しているVMwareの方針に沿ったものなのかもしれない。このアプリも、Apple Silicon以降どうなるのか、やはり残念ながら見通しは明るくないように思える。

以上挙げたようなアプリとしての仮想化ソフトウェアとは一線を画するものとして、国産の「vThrii Seamless Provisioning」も挙げておこう。これは数年前に、iMacとともに大量に東京大学の教育用計算機システムとして導入されたことで話題にもなった。いわゆるハイパーバイザー型(ベアメタル型とも呼ばれる)の仮想環境で、ソフトウェアのレイヤーとしてはかなり薄い。東大に納入されたシステムでは、iMacの起動時にOSとしてMac OS X(当時)かWindows 10を選択するようになっていたが、Mac OS Xですら仮想環境上で動作するという特徴的な機能を実現したもの。これについても、今後の展開は不明だが、MacのCPUが変更されれば、当然ながらこれまでと同じ構成で動作することはできなくなる。

こうして現在のMac上の仮想環境を見渡してみると、MacがApple Siliconを採用した後、少なくとも短期間で対応してくるのはParallelsだけではないかと思われる。それでも、今と同じような機能をサポートし、インテル用のWindowsを動作させるとしたら、内部はかなり変更せざるを得ない。WWDC20では、Parallels Desktop上でLinuxが動作するのをデモしていたが、おそらくはARM版のLinuxだろう。現状では、CPUの機械語コードの変換やエミュレーション機能を備えていないからだ。いくらアップルがRosetta 2をサポートしても、WindowsのようなOS全体を事前に変換するのには無理があるように思える。

ARM版Windows 10を搭載するマイクロソフトのSurface X

多くの人は、ほとんど記憶にないかもしれないがARM版のWindowsというものも確かにある。Windows 8の時代に「Windows RT」という名前で登場したバージョンだ。その名前なら聞き覚えがあるという人も多いかもしれない。Windows RTでは、インテル版Windowsとの互換性も考慮し、ARM系のコードだけでなく、x86、つまり32ビット版のインテル用Windowsアプリも動作させることができた。しかしWindows RTはパッケージや、ダウンロード版として販売されたものではなく、ARM系のCPUを搭載するモバイル系のマシンにライセンスによって搭載されただけ。つまり、マイクロソフトがApple Siliconを搭載したMac用にライセンスしない限り、Parallels Desktopのような仮想環境ソフトウェア上でも動かすことはできない。少なくとも製品化は無理だ。

しかし、それでParallelsが、64ビット版を含むインテル版WindowsをApple Silicon搭載Mac上で動かすことを諦めるとは思えない。正攻法としては、ソフトウェアによるエミュレーションでインテルCPUの機械語コードを動かすことになり、パフォーマンスの問題はしばらくつきまとうかもしれない。やがてそれも何らかの方策によって改善できるだろう。WWDC20のRosetta 2のデモを見れば、けっして期待の薄いこととは思えない。あるいは、他社からも含めて、まったく別のアプローチによる解決策が登場するかもしれない。MacのCPUの変更は、仮想環境にとっては1つの大きな試練には違いない。しかし無責任なユーザーの目で見れば、現在のソフトウェア技術が、それをどのように乗り越えるのか、見守る楽しみができたというものだ。

iPhone/iPadアプリは本当にそのままApple Silicon Mac上で動くのか?

先日のアップルのWWDCのキーノートでは、後半のかなり長い時間を使ってMacが採用することになったアップル独自のCPU「Apple Silicon」に関する発表があった。その中では、ちょっと意外なことも語られた。Apple Siliconを搭載したMac上では、iPhone用やiPad用のアプリが「まったく変更を加えることなくネイティブに」動作するというのだ。そこでは詳しい話はいっさいなく、「Monument Valley 2」というゲームなど、2、3本のアプリがMac上で動く様子がデモされた。この話は、時間にして全部で40秒ほど。そのときは、なんだか狐につままれたような気がした人も多かったのではないだろうか。

本当にiPhone/iPad用のアプリがMac上でそのまま動くのだろうか。確かに今後のMacは、iPhoneやiPadと同じARM系のCPUを採用するようになるのだから、基本的なコードがネイティブで動くのはわかる。また、すでにMac Catalystを使えば、iOSやiPadOSのAPIが、部分的にせよ、macOS上で利用可能になっているのも確かだ。しかし、当然ながらすべてが共通というわけではない。それに、そもそもiPhone/iPadアプリは、専用のApp Storeからダウンロードしてインストールするしかない。Macからはアクセスすらできないようになっている。なんとかアプリのバイナリを持ってくることができたとしても、ライセンスの問題もありそうだ。このように疑問は噴出する。

結論から先に言えば、答えはほぼイエスだ。ここで「ほぼ」を付けるのは、どうしても制限と選択があるから。制限とは、動くアプリは、そのままでまったく問題なく動くが、完全には動かないアプリもあるということ。そして選択とは、アプリのデベロッパーがそれを望まない場合、macOS上では使えないようにすることもできるからだ。どういうことなのか、少し詳しく見ていこう。

Mac上でiPhone/iPadアプリが動く仕組み

キーノートの後のWWDCのセッションの1つに「iPad and iPhone apps on Apple Silicon Macs」というものある。17分程度の短いセッションだが、求める答えはズバリこの中にありそうだ。

このビデオでは、まず現状のmacOS Catalinaのアプリケーションアーキテクチャを確認している。大別すると、現状のMacでは4種類のアプリケーションフレームワークが動いているとしている。つまり、通常のMac用アプリのためのAppKit、元はiPad用のものをMac Catalystを使ってMacに移植したアプリのためのUIKit、ウェブアプリのためのWebKit、そしてゲーム用のMetalというわけだ。

引用:Apple

Apple Siliconを搭載したMacのmacOS Big Surでは、そこにもう1つのフレームワークが加わるのではなく、iPhoneやiPadのアプリをそのまま動かせるように、macOS上のUIKit部分を拡張するかたちを取るようだ。

引用:Apple

確かに、macOS上の実行環境がiOSやiPadOSに近づけば、そしてアプリから見て実質的に同等なものになれば、何も変更していないモバイルアプリがMac上でも動作することになる。それでも、macOSのアプリ実行環境にはiOSやiPadOSとは異なる部分も多い。顕著な例は、指によって直接画面をタッチする操作と、マウスやトラックパッドを使ってカーソルを動かしてクリックする操作の違いがある。また、macOSの画面には必ずメニューバーがあって、アプリの終了など、基本的な操作を担当しているが、iOSやiPadOSにはMacのメニューバーに相当するものはない。逆にiPhone/iPadのホームボタンに相当するものはMacにはない。

そうした基本的な操作環境がうまくコンバートされなければ、アプリは恐ろしく使いにくいものとなったり、操作不能になったりしてしまう。そこでBig Surでは、モバイルアプリがMac上で動くために必要なリソースやインターフェースは、自動的に追加されたり、変換されたりするようだ。例えば、すでに述べたメニューバーの利用、環境設定パネルの表示、Dockへのアクセス、ファイルを開く/保存ダイアログの利用、スクロールバーの表示と操作といったものだ。iOSやiPadOS上での標準的なマルチタッチ操作も、可能な限りmacOSのマウスやトラックパッド操作に置き換えられる。

さらに、マルチタスクに対応したiPadOSアプリなら、macOS上でも自由にウィンドウのリサイズが可能となる。フルスクリーンでの動作も可能だ。またマルチウィンドウに対応したアプリなら、Mac上でも複数のウィンドウを開いて動作できる。macOS上のファイルにもアクセスできるようになり、macOSによる「共有」機能も利用可能となる。細かいところでは、macOSのダークモードにも追従する。

このような自動的な環境への対応がどんな感じになるのかを知るために、一例として現状のMac Catalystのアプリを見てみよう。iOSやiPadOSにもあって、現在のmacOSにもある「ボイスメモ」は、Mac Catalystアプリの代表的なもの。iPadOSの「設定」には「ボイスメモ設定」がある。そこに配置されているのは「削除したものを消去」するまでの日数、「オーディオの品質」、そして「位置情報を録音名に使用」するかどうかのスイッチだ。

それに対してmacOS上の「ボイスメモ」では、「ボイスメモ」メニューの「環境設定…」を選ぶことで、「ボイスメモ環境設定」のウィンドウが開く。そして、その中に並ぶ設定項目は、文言も含めて、iPad用アプリとまったく同じなのだ。

これはあくまでも、現在のMac Catalystアプリのユーザーインターフェースの自動変換の例だが、このようなインターフェースに関しては、Big Sur上のiOS/iPhoneアプリも、Mac Catalystアプリも、だいたい同じ環境になると考えていいだろう。

Apple Silicon Mac上で動かないiPhone/iPadアプリ

一般的なアプリの多くがAPIの利用を含めて自動的に変換されるとしても、どうしても変換しきれない機能もある。そうしたモバイルデバイス特有の機能に大きく依存しているようなアプリは、Mac上でそのままうまく動かすことはできないだろう。少なくとも、iPhoneやiPadとまったく同じような機能を発揮することは期待できない。

そのようなアプリの代表的なものとしては、iPhone/iPadが備えている多様なセンサー類を使ったものが挙げられる。加速度、ジャイロスコープ、磁気、気圧、といったセンサーや、深度センサー付きのカメラ、GPSといったものはMacにはない。そうしたものに依存するアプリは、そのままの機能をMacで発揮するにはどうしても無理がある。

ただし、例えばGPSのハードウェアはMacにはないが、その代わりになる機能はある。位置情報を提供するCoreLocationフレームワークだ。iOSやiPadOSのアプリでも、GPSのハードウェアに直接アクセスしているものは、まずない。通常はmacOSともほぼ共通のAPIであるCoreLocationを利用して位置情報を検出している。そうしたアプリが必要とする位置情報は多くの場合、Mac上でもCoreLocationによって供給され、支障なく動作するものも少なくないだろう。

またMacにはない背面カメラに関しても、最初から背面カメラの存在を前提として動作するiPhone/iPadアプリを、そのままMac上で動かすのは確かに厳しい。しかし、アプリが非常にマナーよく作られていれば、MacにUSB接続された外部カメラなどを利用することも可能になる。AVFoundationフレームワークのAVCaptureDeviceDiscoverySession機能を利用して、デバイスに接続されたカメラを確認してから利用するようなアプリなら、柔軟に対応できる可能性が高い。

Macという新たなプラットフォームを得たことで、今後iPhone/iPadアプリのデベロッパーの意識改革が進み、デバイスへの依存性の低いアプリが増える可能性にも期待できるだろう。

iPhone/iPadアプリはどうやってMacにインストールする?

Mac上で動作するiPhone/iPadアプリがあっても、それらを実際にどうやってMacにインストールするのか。というのも、キーノートではまったく触れられず、大きな疑問が残る部分だった。これについては、実は何も心配はいらない。Apple Siliconを搭載するMac上で動作するiPhone/iPadアプリは、ほぼ自動的にMac App Storeに表示されるからだ。Macユーザーは、通常のMac用アプリとまったく同じようにダウンロードしてインストールできるようになる。

デベロッパーが新たなアプリをiOS(iPadOS)のApp Storeに掲載する際、デフォルトではMac App Storeにも掲載されるようになる。ただし、上で述べたような理由でMac上では十分な機能を発揮できないアプリや、同じデベロッパーがすでにMac用のアプリを別にMac App Storeに掲載しているような場合には、そのアプリをMac App Storeでは公開しないように設定できる。それも、チェックを1つ外すだけだ。

有料アプリについては、もちろんユーザーはMac App Store上で購入手続きを済ませてからダウンロードしてインストールするようになる。また、インストールしたアプリのApp内課金も可能なので、デベロッパーはiPhoneやiPadとまったく同様に、Macユーザーからも収益を得ることができる。

アプリをMacにインストールする際には、特定のモバイルデバイスに特化したようなリソースは、自動的に排除され、Macに最適なリソースのみを含むようになる。このようなApp Thinningのメカニズムも、これまでと同じように動作する。Macが非常に強力なiPad類似の新たなデバイスとして加わるだけだ。

macOSにインストールしたアプリのアイコンは、通常どおりmacOSの「アプリケーション」フォルダーに入る。ただし、これを別の場所に移動しても動作する。例えばデスクトップに移動して配置することも可能だ。現状のCatalinaでは、アプリのアイコンをアプリケーションフォルダーから別の場所にドラッグするとエイリアスが作成されるが、Big Surでは「移動」となるようだ。また、新しいApp Bundleフォーマットの採用によって、ユーザーがアプリの名前を変更することも可能になるという。このあたりは、iOSやiPadOSでは得られなかった新たな動作環境だ。こうしたユーザーに大きな自由度を与える動作環境は、macOS Sierraで導入されたApp Translocationを利用することで可能となっている。

Macにアプリを提供する3つの方法

こうして、Apple Silicon搭載MacでiPhone/iPadアプリが利用可能になることで、言うまでもなくMacのアプリケーション環境は、これまで類を見ないほど充実することになる。そして、デベロッパーとしてMacにネイティブなアプリを提供する経路も、大きく3種類が利用できることになる。

1つは、これまでのMacアプリと同様の、macOSのオーソドックスなアプリで、もちろんMacならではの機能や操作性がフルに活用できる。それから、これまでにも利用可能だったMac Catalystを利用して、iPadからMacに移植したアプリがある。この記事では述べなかったが、Mac Catalystは、Big Surで大幅にアップデートされ、より強力なものとなる。

いずれにせよ、Macならではの機能をできるだけ利用できるようにiPadアプリをカスタマイズしたければ、Mac Catalystの利用が効果的だ。そして3つ目は、iPhone/iPadアプリを、そのまま提供すること。もちろん、その場合にはMac上での動作を事前に十分テストして、不自然なことにならないか確認することは必要だ。しかし、デバイスに大きく依存したアプリでなければ、コードもほとんど修正する必要はないだろう。

以前は、iPhone/iPadとMacは、2つの似て非なる世界だった。同じアプリを両方の世界に提供する場合、基本的には両者をまったく別のアプリとして開発する必要があった。それがMac Catalystの登場で、iPad用を簡単にMacに移植できるようになり、さらにApple Silicon Macの登場で、1種類のソースコードからビルドしたアプリを、そのまま両方の世界に供給できるようになる。デベロッパーにとっては、マーケットが大きく拡がるチャンスであることは間違いない。

ユーザーとしては、今後登場するApple Silicon搭載Macを準備して、ただ待っているだけでいい。そうすれば、iPhone/iPadの世界から、魅力的なアプリがどんどんMacに流入してくる。面白すぎて笑いが止まらない状況が、もうすぐそこに迫っている。Macユーザーとしては、まったくいい時代になったものだ。