元Salesforce Ventures浅田氏が独立系VCのOne Capital設立、1号ファンドは50億円規模でスタート

6月30日に東証マザーズに上場したばかりのグッドパッチに、名刺管理のSansan、会計・人事労務クラウドのfreee、アプリ開発SaaSのヤプリ、マニュアル作成「Teachme Biz」を提供するスタディスト、そしてイベントサービスのEventHub、受付システムのRECEPTIONIST……これらのスタートアップには、SaaS提供企業であることのほかにもう1つ共通項がある。セールスフォース・ドットコムの投資部門、Salesforce Venturesから資金調達を実施していることだ。

Salesforce Ventures Japan Headとしてこれらの企業への投資を行ってきた浅田慎二氏が、今年3月にセールスフォース・ドットコムを退職し、4月に独立系ベンチャーキャピタルOne Capitalを設立した。同社は7月7日、1号ファンド「One Capital 1号投資事業有限責任組合」の組成と投資活動開始を発表している。

写真左からOne Capital代表取締役CEO・General Partnerの浅田慎二氏、取締役COO・General Partnerの坂倉亘氏

スタートアップ投資に加え事業会社の変革も支援

One Capitalの創業者は、浅田氏と、ボストン・コンサルティング・グループでManaging Director & Partnerを務めていた坂倉亘氏の両名だ。

浅田氏は伊藤忠商事、伊藤忠テクノロジーベンチャーズを経て、2015年にセールスフォース・ドットコムに入社。Salesforce Ventures Japan Headに就任して、述べ10年以上にわたりスタートアップ投資と投資先の支援を行ってきた。また坂倉氏はボストン・コンサルティング・グループで戦略コンサルタントとして、大企業のデジタル変革を約20年間、支援してきた人物だ。

One Capitalでは、VCとしての投資の機能を主に浅田氏が受け持ちつつ、「大企業がイノベーションにアクセスできるように、長期間伴走して、企業変革の手伝いをしたい」(浅田氏)ということで、一部の出資者には坂倉氏がハンズオンで企業の変革を支援するという。

「これまでの日本のスタートアップでは、大企業を足がかりに成長する、あるいはエグジット候補として事業を成長させていくといったオプションは、広がってこなかったところがある。米国では7割のスタートアップを大企業が買収してエグジットする。日本でもそういう選択肢をつくっていきたい。また、大企業と取り組むマーケティングやPoCの成功例が少ない。技術力のあるスタートアップを大企業をきちんとつなげて、スタートアップの成長を支援すると同時に、大企業の変革も推進していくということができないかと考え、サービスを提供し始めている」(坂倉氏)

「VCとしてスタートアップへの出資はもちろん行っていく。同時にLPからお金を集めて出資し、スタートアップのIPOを目指すというだけでなく、出資いただく日本の事業会社に対して、スタートアップにアクセスするという以上、情報提供以上のバリューを出せないかということを考えていた」(浅田氏)

日本のスタートアップ・出資者は「メソッド不足」

浅田氏はSalesforce時代、投資先に対して、SaaS業界でも最も成功した企業の1つであるSalesforceの成長メソッドとして書籍にもなった、SaaS企業が取り入れるべき営業オペレーションの方法論「THE MODEL」を伝えてきたという。

「SaaSを売るときには“営業部”というくくりではなく、4つの役割に分けましょう、というのがTHE MODELの形。日本のアカウント営業はこの対極にあって、ある企業の担当になったら最初から最後までやるのが美徳となっている。これは間違ってはいないが、効率が悪い。特に中堅・中小企業を相手とするスタートアップで、顧客数百社に対して集客・電話営業・クロージング・フォローの4つの営業プロセスを1人でやろうとすると、スケールしない」(浅田氏)

浅田氏は「Salesforceの成長の方法論は、先進的で科学的だった」と述べている。「グローバルで成長している会社のメソッドを投資先に注入してきて、実際に急成長したファクトがあった。Sansanやfreee、ヤプリ、TeachmeBizなど、投資してから5年で売上高が20〜30倍に伸びている」(浅田氏)

浅田慎二氏

Salesforceでは、CVCを運用する他の事業会社からも「参考にして運用したい」との相談もあったという浅田氏は「グローバルでCVCを10数年運用してきたSalesforceは、サステナブルな方法論でやっている。つまり打ち上げ花火を1発上げて終わりというのではなく、会社の従業員、役員、顧客のすべてに沿う方法論を採っている。こういうやり方は、時価総額100兆円といった信じられない数字を持つ、欧米の企業からまだ日本企業が学べることがあるのではないかと考えた」と話している。

「日本からグローバル企業が出ない理由には諸説あるが、僕は“メソッド不足”だからだと考えている。スタートアップも大きな事業会社もそうだが、欧米の先進的なIT会社が伸びている理由をかみ砕く形で、出資者にも伝えるし、スタートアップにも伝えたい。成長メソッドをスタートアップにも大企業にも提供するような、新しいVCを立ち上げたいと思ったのが、今回の創業の背景だ」(浅田氏)

スタートアップと事業会社との関わりといえば、6月30日、公正取引委員会が「スタートアップの取引慣行に関する実態調査」として、スタートアップを対象としたアンケート結果等、中間報告を発表している。この報告によれば、スタートアップの約15%が他社から納得できない行為を受けた経験があると回答している。

スタートアップと事業会社、CVCとの関係について浅田氏は「CVCの5年間では、なぜ投資するのかを大切にしていた」と述べ、「Salesforceでは、既存顧客に役に立つ追加機能を持つ会社を発掘して、業務提携し、投資していた。自社ではグローバルで追加できないが必要な機能がSansanの名刺管理やfreeeのクラウドにはあった。自分たちでは作らないが、必要な企業を探すのが僕の役割だった」と振り返る。

「パクりなどの問題が発生する根本的な問題は、事業会社側がなぜ投資しているのか、誰のためにやっているのかの定義が顧客を向いていないから。自社のターゲット顧客のためのベンチャー投資という位置付けにするのが、長期的にCVCが日本に根付いて反映する、絶対的な法則だと思っている」(浅田氏)

また補完的な提携・出資でなく、圧倒的に欲しい事業があるなら「100%買収でやるべき」と浅田氏。「買収をしたら、買収した会社の統合のため、PMI(Post Marger Integrate:買収後統合)の組織が必要。これを欧米の企業、ウォルマートやディズニーといった企業は戦略投資部門というのを立ち上げてやり始めている。(今の日本では)誰のためのCVCなのか、何のための買収なのかが極めてあいまいな状況になっているように見える」と述べ、「そこをやはり定義すべきではないか」と話している。

坂倉亘氏

坂倉氏からは「テクニカルには、ベンチャーが企業とコラボレーションしながら知財を守る、特にハードウェアが絡まない、ソフトウェアのビジネスで守るのは難しい。だから技術ないしはデザインのどちらかで自分たちの知財を守りながら、大企業と連携していくのが重要」とのコメントがあった。

「ただ、あまりアーリーステージで知財を守ることに投資できるスタートアップはいないだろう。私の感覚ではシリーズBぐらいのタイミングで、最低限の技術とデザインの知財のプロテクトをかけておかないと危なくなるということはあるのではないか」(坂倉氏)

逆にスタートアップ側から見た時に、どの企業と何の事業でどこまで成長するために、どこまでの提携をするのか、ということをきちんと定めることで、「逆に自分たちで一生懸命に知財を守らなくても、大企業から守ってもらうという戦略もある」と坂倉氏は言う。

「例えば名刺管理のSansanの場合でいえば、Salesforceという知財の侵略や転用などの心配がないメガプレーヤーと完全にタッグを組むことで、自分たちのプロダクトの補完となるSansanを守ってくれる。Sansanのビジネスモデルやデザインを真似たいところも、Salesforceを敵に回すとなるとやりにくくなる。本質的に大事なのは、どの企業と一緒に事業を伸ばしていくか、本当にタッグが組めるかというところだと思う」(坂倉氏)

「儲かりそうだから参入するという動機はビジネスではあり得る。でも自社のプロダクトのアイデンティティを考え、それに共感してくれる顧客がハッピーかどうかというのが判断基準になるのが自然。FacebookでもTikTokやSnapchatのモノマネをやって、ことごとく失敗している。あれだけ大きく、ヒトもお金もあって投資予算も旺盛に使っていても、スタートアップに負けるという事実はある。オリジナルのイノベーターとしてプロダクトを作り込んでいけば、絶対に勝てるというのを、理論上かもしれないしフィロソフィーかもしれないけれども、僕は信じている」(浅田氏)

「日本のSaaSはまだまだ伸びしろがある」

1号ファンドの投資対象はB2B SaaSに特化、アーリーステージが中心となる。4月の会社設立から営業を開始、5月のファンド設立と、コロナ禍で市況は厳しい状況にあった時期の立ち上げだったが、ファーストクローズで約50億円の出資が確定しているという。

ファンドへの出資には、みずほ銀行、FFGベンチャービジネスパートナーズ、YJキャピタルといった機関投資家や金融機関のほか、事業会社ではエーザイ、Sansan、日本アジアグループなどが参加。People Fund、Harris Family Foundation、Darhan Investment Corporationといった海外投資家も参加している。

また、投資先起業家へのアドバイスには、日米のSaaS事業家がアドバイザーとして賛同し、参加を予定しているという。

One Capitalが投資対象とするSaaS市場は人口減少・DXの課題解決ソリューションとして、今後の伸びも期待され、コロナ禍の渦中にあっても全般に堅調に評価されている。

「欧米のVCによる投資は年間13兆円でそのうち40%がSaaSに投資されている。それに比べると、日本ではSaaSへの投資は、VC投資の14%しか占めていない。ECやD2Cなど、まだコンシューマー系ビジネスへの投資が多いのが日本の特徴だ」(浅田氏)

欧米でもユニコーンと呼ばれるSaaS企業が出てきたのは最近のことで、2018年には55社となっているが、2008年時点ではゼロだったと浅田氏。「日本でも欧米の5年遅れでSaaS事業は花開く」と語る。

「政府がクラウドファースト政策を2020年から実行する。政府が調達するシステムをクラウドにしていくということで、レギュレーションが発表され、セキュリティ、安心・安全が強化されている。政府にクラウドが入れば、民間へも波及するだろう」(浅田氏)

また、米国のSaaS市場は2018年の時点で年間5兆円規模と言われているが、これはエンタープライズIT市場全体の15%に当たる。日本ではSaaS市場が5000億円規模との推定があるが、これはエンタープライズIT市場全体の10兆円に対し、5%ほど。

浅田氏は「日本のエンタープライズIT費用の大半は、Sierが法人へスクラッチでソフトウェアをつくり、開発・サーバー運用・保守なども含めた費用になる。そのうちの5%しかまだSaaSが占めていないということは、まだまだ伸びしろがあると考えている」と語っている。

元Salesforce Ventures浅田氏が独立系VCのOne Capital設立、1号ファンドは50億円規模でスタート

6月30日に東証マザーズに上場したばかりのグッドパッチに、名刺管理のSansan、会計・人事労務クラウドのfreee、アプリ開発SaaSのヤプリ、マニュアル作成「Teachme Biz」を提供するスタディスト、そしてイベントサービスのEventHub、受付システムのRECEPTIONIST……これらのスタートアップには、SaaS提供企業であることのほかにもう1つ共通項がある。セールスフォース・ドットコムの投資部門、Salesforce Venturesから資金調達を実施していることだ。

Salesforce Ventures Japan Headとしてこれらの企業への投資を行ってきた浅田慎二氏が、今年3月にセールスフォース・ドットコムを退職し、4月に独立系ベンチャーキャピタルOne Capitalを設立した。同社は7月7日、1号ファンド「One Capital 1号投資事業有限責任組合」の組成と投資活動開始を発表している。

写真左からOne Capital代表取締役CEO・General Partnerの浅田慎二氏、取締役COO・General Partnerの坂倉亘氏

スタートアップ投資に加え事業会社の変革も支援

One Capitalの創業者は、浅田氏と、ボストン・コンサルティング・グループでManaging Director & Partnerを務めていた坂倉亘氏の両名だ。

浅田氏は伊藤忠商事、伊藤忠テクノロジーベンチャーズを経て、2015年にセールスフォース・ドットコムに入社。Salesforce Ventures Japan Headに就任して、述べ10年以上にわたりスタートアップ投資と投資先の支援を行ってきた。また坂倉氏はボストン・コンサルティング・グループで戦略コンサルタントとして、大企業のデジタル変革を約20年間、支援してきた人物だ。

One Capitalでは、VCとしての投資の機能を主に浅田氏が受け持ちつつ、「大企業がイノベーションにアクセスできるように、長期間伴走して、企業変革の手伝いをしたい」(浅田氏)ということで、一部の出資者には坂倉氏がハンズオンで企業の変革を支援するという。

「これまでの日本のスタートアップでは、大企業を足がかりに成長する、あるいはエグジット候補として事業を成長させていくといったオプションは、広がってこなかったところがある。米国では7割のスタートアップを大企業が買収してエグジットする。日本でもそういう選択肢をつくっていきたい。また、大企業と取り組むマーケティングやPoCの成功例が少ない。技術力のあるスタートアップを大企業をきちんとつなげて、スタートアップの成長を支援すると同時に、大企業の変革も推進していくということができないかと考え、サービスを提供し始めている」(坂倉氏)

「VCとしてスタートアップへの出資はもちろん行っていく。同時にLPからお金を集めて出資し、スタートアップのIPOを目指すというだけでなく、出資いただく日本の事業会社に対して、スタートアップにアクセスするという以上、情報提供以上のバリューを出せないかということを考えていた」(浅田氏)

日本のスタートアップ・出資者は「メソッド不足」

浅田氏はSalesforce時代、投資先に対して、SaaS業界でも最も成功した企業の1つであるSalesforceの成長メソッドとして書籍にもなった、SaaS企業が取り入れるべき営業オペレーションの方法論「THE MODEL」を伝えてきたという。

「SaaSを売るときには“営業部”というくくりではなく、4つの役割に分けましょう、というのがTHE MODELの形。日本のアカウント営業はこの対極にあって、ある企業の担当になったら最初から最後までやるのが美徳となっている。これは間違ってはいないが、効率が悪い。特に中堅・中小企業を相手とするスタートアップで、顧客数百社に対して集客・電話営業・クロージング・フォローの4つの営業プロセスを1人でやろうとすると、スケールしない」(浅田氏)

浅田氏は「Salesforceの成長の方法論は、先進的で科学的だった」と述べている。「グローバルで成長している会社のメソッドを投資先に注入してきて、実際に急成長したファクトがあった。Sansanやfreee、ヤプリ、TeachmeBizなど、投資してから5年で売上高が20〜30倍に伸びている」(浅田氏)

浅田慎二氏

Salesforceでは、CVCを運用する他の事業会社からも「参考にして運用したい」との相談もあったという浅田氏は「グローバルでCVCを10数年運用してきたSalesforceは、サステナブルな方法論でやっている。つまり打ち上げ花火を1発上げて終わりというのではなく、会社の従業員、役員、顧客のすべてに沿う方法論を採っている。こういうやり方は、時価総額100兆円といった信じられない数字を持つ、欧米の企業からまだ日本企業が学べることがあるのではないかと考えた」と話している。

「日本からグローバル企業が出ない理由には諸説あるが、僕は“メソッド不足”だからだと考えている。スタートアップも大きな事業会社もそうだが、欧米の先進的なIT会社が伸びている理由をかみ砕く形で、出資者にも伝えるし、スタートアップにも伝えたい。成長メソッドをスタートアップにも大企業にも提供するような、新しいVCを立ち上げたいと思ったのが、今回の創業の背景だ」(浅田氏)

スタートアップと事業会社との関わりといえば、6月30日、公正取引委員会が「スタートアップの取引慣行に関する実態調査」として、スタートアップを対象としたアンケート結果等、中間報告を発表している。この報告によれば、スタートアップの約15%が他社から納得できない行為を受けた経験があると回答している。

スタートアップと事業会社、CVCとの関係について浅田氏は「CVCの5年間では、なぜ投資するのかを大切にしていた」と述べ、「Salesforceでは、既存顧客に役に立つ追加機能を持つ会社を発掘して、業務提携し、投資していた。自社ではグローバルで追加できないが必要な機能がSansanの名刺管理やfreeeのクラウドにはあった。自分たちでは作らないが、必要な企業を探すのが僕の役割だった」と振り返る。

「パクりなどの問題が発生する根本的な問題は、事業会社側がなぜ投資しているのか、誰のためにやっているのかの定義が顧客を向いていないから。自社のターゲット顧客のためのベンチャー投資という位置付けにするのが、長期的にCVCが日本に根付いて反映する、絶対的な法則だと思っている」(浅田氏)

また補完的な提携・出資でなく、圧倒的に欲しい事業があるなら「100%買収でやるべき」と浅田氏。「買収をしたら、買収した会社の統合のため、PMI(Post Marger Integrate:買収後統合)の組織が必要。これを欧米の企業、ウォルマートやディズニーといった企業は戦略投資部門というのを立ち上げてやり始めている。(今の日本では)誰のためのCVCなのか、何のための買収なのかが極めてあいまいな状況になっているように見える」と述べ、「そこをやはり定義すべきではないか」と話している。

坂倉亘氏

坂倉氏からは「テクニカルには、ベンチャーが企業とコラボレーションしながら知財を守る、特にハードウェアが絡まない、ソフトウェアのビジネスで守るのは難しい。だから技術ないしはデザインのどちらかで自分たちの知財を守りながら、大企業と連携していくのが重要」とのコメントがあった。

「ただ、あまりアーリーステージで知財を守ることに投資できるスタートアップはいないだろう。私の感覚ではシリーズBぐらいのタイミングで、最低限の技術とデザインの知財のプロテクトをかけておかないと危なくなるということはあるのではないか」(坂倉氏)

逆にスタートアップ側から見た時に、どの企業と何の事業でどこまで成長するために、どこまでの提携をするのか、ということをきちんと定めることで、「逆に自分たちで一生懸命に知財を守らなくても、大企業から守ってもらうという戦略もある」と坂倉氏は言う。

「例えば名刺管理のSansanの場合でいえば、Salesforceという知財の侵略や転用などの心配がないメガプレーヤーと完全にタッグを組むことで、自分たちのプロダクトの補完となるSansanを守ってくれる。Sansanのビジネスモデルやデザインを真似たいところも、Salesforceを敵に回すとなるとやりにくくなる。本質的に大事なのは、どの企業と一緒に事業を伸ばしていくか、本当にタッグが組めるかというところだと思う」(坂倉氏)

「儲かりそうだから参入するという動機はビジネスではあり得る。でも自社のプロダクトのアイデンティティを考え、それに共感してくれる顧客がハッピーかどうかというのが判断基準になるのが自然。FacebookでもTikTokやSnapchatのモノマネをやって、ことごとく失敗している。あれだけ大きく、ヒトもお金もあって投資予算も旺盛に使っていても、スタートアップに負けるという事実はある。オリジナルのイノベーターとしてプロダクトを作り込んでいけば、絶対に勝てるというのを、理論上かもしれないしフィロソフィーかもしれないけれども、僕は信じている」(浅田氏)

「日本のSaaSはまだまだ伸びしろがある」

1号ファンドの投資対象はB2B SaaSに特化、アーリーステージが中心となる。4月の会社設立から営業を開始、5月のファンド設立と、コロナ禍で市況は厳しい状況にあった時期の立ち上げだったが、ファーストクローズで約50億円の出資が確定しているという。

ファンドへの出資には、みずほ銀行、FFGベンチャービジネスパートナーズ、YJキャピタルといった機関投資家や金融機関のほか、事業会社ではエーザイ、Sansan、日本アジアグループなどが参加。People Fund、Harris Family Foundation、Darhan Investment Corporationといった海外投資家も参加している。

また、投資先起業家へのアドバイスには、日米のSaaS事業家がアドバイザーとして賛同し、参加を予定しているという。

One Capitalが投資対象とするSaaS市場は人口減少・DXの課題解決ソリューションとして、今後の伸びも期待され、コロナ禍の渦中にあっても全般に堅調に評価されている。

「欧米のVCによる投資は年間13兆円でそのうち40%がSaaSに投資されている。それに比べると、日本ではSaaSへの投資は、VC投資の14%しか占めていない。ECやD2Cなど、まだコンシューマー系ビジネスへの投資が多いのが日本の特徴だ」(浅田氏)

欧米でもユニコーンと呼ばれるSaaS企業が出てきたのは最近のことで、2018年には55社となっているが、2008年時点ではゼロだったと浅田氏。「日本でも欧米の5年遅れでSaaS事業は花開く」と語る。

「政府がクラウドファースト政策を2020年から実行する。政府が調達するシステムをクラウドにしていくということで、レギュレーションが発表され、セキュリティ、安心・安全が強化されている。政府にクラウドが入れば、民間へも波及するだろう」(浅田氏)

また、米国のSaaS市場は2018年の時点で年間5兆円規模と言われているが、これはエンタープライズIT市場全体の15%に当たる。日本ではSaaS市場が5000億円規模との推定があるが、これはエンタープライズIT市場全体の10兆円に対し、5%ほど。

浅田氏は「日本のエンタープライズIT費用の大半は、Sierが法人へスクラッチでソフトウェアをつくり、開発・サーバー運用・保守なども含めた費用になる。そのうちの5%しかまだSaaSが占めていないということは、まだまだ伸びしろがあると考えている」と語っている。

Web接客で“おもてなしをデジタル化”するSprocketが2.8億円の資金調達

右から2番目がSprocket代表取締役の深田浩嗣氏

おもてなしをデジタル化

「デジタルマーケティングの領域はどんどん広がっている。もともと、マーケティングはどれだけ沢山の人に企業が伝えたいことを届けるかといった活動だったと思うが、今はウェブやアプリで物が買え、そのあとフォローができたりする。単純にメッセージを届けるだけではなく、お店の役割やその後の関係構築の役割がある」

そう話すのは、Web接客プラットフォーム「Sprocket(スプロケット)」の開発・提供・運用を行うSprocket代表取締役の深田浩嗣氏。

「だが、実際にマーケティングのコミュニケーションとして届けられている情報や内容の質的な部分はそこまで大きく変わってきていないな、と思っている。割引のクーポンやポイントといった情報、もしくはオススメ商品を届けるか、この2パターンくらいしかコミュニケーションの幅がない」(深田氏)

お店に行くと、店員は顧客に割引情報の話しばかりをするわけではない。だが、デジタルだと「やりがち」だと深田氏は指摘。ECなどにおいて、顧客の求めている情報の提供や不安の解消が適切に行えていない。そこの部分におけるコミュニケーション幅を広げ「おもてなしをデジタル化」するべくSprocketは開発された。

Web接客プラットフォームSprocket

Sprocketはページ閲覧、スクロール、クリックなど、ユーザーのサイト上での行動の情報を活用し、カスタマージャーニーに合わせて最適なタイミングでポップアップを表示する。最近では、「ユーザーに話しかけていいタイミングをAIに最適化させる」といった試みも開始。「チューニングの1つの手法」として取り入れられている。

サイト上には様々な導入事例が用意されている。2018年9月にSprocketを導入したキユーピーが開発したサプリ・化粧品の直販会社、トウ・キユーピーの事例では、カート内でポップアップを表示することで「顧客に定期購入へのアップセルを提案する施策」を実施し、顧客単価を120%向上させることができたという。

すかいらーくレストランツは2018年1月にSprocketを導入し、新規会員獲得率が120%になったと説明している。

深田氏は「今後、コミュニケーションの幅を更に広げていきたい」と話した。

リアル店舗で行われている、「商品の選び方のサジェスト」や「不安の解消」はツールを作り行ってきたが、「デジタルでできるコミュニケーションの幅は本当はもっと広い」(深田氏)

そのため、お店の接客的なものじゃない形でも、ちょっとしたゲーミフィケーション要素など、リアル接客とは違ったデジタル特有のものも検討していると同氏は加えた。

競合はプレイドの「KARTE」NTTドコモの「ec コンシェル」など。競合とSprocketはどう違うのか。深田氏は、「我々の特徴は改善の成果を提供するまで手厚くサポートすること」だと述べた。

「契約時にROIを設定し、そのROIの到達に向けて、SprocketチームがPDCAを回す」「豊富な経験から貴社にあったシナリオの組み合わせを迅速に提案」といった具合に、カスタマーサクセスにコミットしている。

2.8億円の資金調達、Sprocketの今後

Sprocketは6月4日、リード投資家のXTech Ventures、Salesforce Ventures、キャナルベンチャーズから総額2億8000万円の資金調達を実施したと発表した。

同社は2015年に1億2000万円の資金調達を行い、2017年1月にもシリーズAとして1億6000万円の資金調達をD4V、アコード・ベンチャーズなどから行っている。累計調達額は5億6000万円。

同社は今回の資金調達により「プラットフォームの開発スピード」ならびに「市場拡大に向けた販売促進策」を加速させる。

Salesforce Ventures日本代表の浅田慎二氏は「今後、Salesforceと連携、協業することで、日本市場だけでなくグローバル展開も可能であり、期待している」とコメントしている。

クラウド型マニュアル作成ツール開発のスタディストがDNX Venturesなどから8億円超を調達

クラウド型マニュアル作成ツール「Teachme Biz」(ティーチミー・ビズ)を開発・提供しているスタディストは4月22日、米国のDNX Venturesおよび、既存株主である日本ベンチャーキャピタル、セールスフォース・ドットコムの投資部門であるSalesforce Ventures、三井住友海上キャピタル、三菱UFJキャピタルの計5社を引受先とする第三者割当増資により、総額8億2500万円の資金調達を発表した。

Teachme Bizは、国内外の約2500社の有償法人ユーザーを擁するマニュアル作成ツール。ちょっとした社内マニュアルから標準業務手順書(Standard Operating Procedure)までをスマホやタブレット端末で簡単に作成・修正・閲覧できるのが特徴。製造業や小売業、飲食業を中心に導入が進んでいるとのこと。作業手順の可視化や現場浸透を図るための業務基盤として活用している企業もあり、人材育成時間の大幅削減に貢献するほか、単なるマニュアルではなく「正しい手順」であることを保証することが要求されるケースにも役立つという。

今回の資金調達により、サービス提供から5年半が経過したTeachme Bizのマーケティング強化を進め、2020年2月までに大手企業を中心に1000社への新規導入を目指すとのことだ。