障害物回避ロボットのRealtime Roboticsに三菱電やオムロンが12億円超を投資

ロボットテクノロジーの開発で最も困難な課題のひとつは、ダイナミックな環境で動作するロボットが人間や他の障害物に衝突するのを防止することだ。ロボットは予期せぬ障害物を検知し、それらを避けて移動する経路を発見しなければならない。

ボストンに本拠を置くスタートアップ、Realtime Roboticsはこの問題の解決に当てるためにシリーズAのラウンドで1170万ドル【約12億7200万円)の資金を調達したことを発表した。

SPARX Asset Managementがラウンドをリードし、三菱電機、現代自動車(ヒュンダイ)、オムロン・ベンチャーズなどの企業が戦略的投資を実施した。トヨタ自動車グループのToyota AI Venturesをはじめ、Scrum Ventures、Duke Angel Networkなどが既存投資家だ。米国時間10月15日には、今年に入ってから実施された数回の総投資額が1290万ドル(約14億円)と発表された。

Realtime RoboticsのCEOであるピーター・ハワード氏はTechchCrunchに対し、同社のソリューションは高度なロボティクス・テクノロジーを利用しているとして次のように述べた。

我々のソリューションは2016年にデューク大学でロボティックモーションプランニングと呼ばれるプロジェクトで開発されたテクノロジーをベースとしている。これは6ないし7自由度を持つロボットが障害物を避けながら空間を移動する方法を発見するテクノロジーだ。

それ自身としても難しい課題だが、人間の作業者や他のロボットなどが付近で動きまわるダイナミックな環境では解くのがことに困難となる。これは障害物いつどこに割り込んでくるか予測できず、従ってロボットがどのように行動すべきか事前に決定できないからだ。Realtime Roboticsはこれに対してRapidPlanとRapidSenseという2つのテクノロジーによる解決を図っている。同社ではこのダイナミックな衝突防止テクノロジーにより「複数のロボットを同一の作業区域内で協調動作させることが可能となる。これには高価なセーフティーシステムや時間のかかる複雑な事前のプログラミングを必要としない」という。このソリューションには同社独自のハードウェアとソフトウェアが用いられてロボットを安全に動作させる。

開発はまだ初期段階にあり、13社の顧客と共同でコンセプトの有効性を実証する作業が進められている。最終的には現在の顧客がOEMとして同社のプロダクトを製造販売できるようになることが最終目標だ。ハワードCEO氏によれば、有力ロボティクス企業と同時に自動運転車を開発している自動車メーカーとも協力しているという。自動運転の実現には有効な衝突回避テクノロジーが欠かせない。実際、トヨタが最初期からの投資家であり、今回のラウンドには韓国の現代自動車も加わっている。

「衝突回避テクノロジーは農業、食品製造、土木建設など他の産業分野でも有効だ。人間が自身の身体能力を使って仕事をしている分野ならどこでもわれわれのテクノロジーが利用できる。(この種のテクノロジーにとって市場への)参入の機はかなり熟している」とハワード氏はビジョンを述べた。

【Japan編集部追記】Realtime RoboticsはScrum Connect 2018に参加し、ハワードCEOが来日して講演、デモを行っている。TechCrunch Japanでも詳しいレポートを掲載している。

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(翻訳:滑川海彦@Facebook

スポーツ×テクノロジーで世界を変えるスタートアップ発掘「SPORTS TECH TOKYO」成果発表会レポート

米サンフランシスコのオラクル・パーク。サンフランシスコ・ジャイアンツのホームでもあるこの球場を貸し切って、一風変わったイベントが開催された。スタートアップ支援プログラム「SPORTS TECH TOKYO」の成果発表会だ。

スポーツテック(Sports Tech)は、テクノロジーの進化をスポーツに応用したものだ。具体的には、スポーツ観戦をより面白くしたり、スポーツ選手の育成を支援したり、日常的な運動をサポートしたりする技術が含まれる。
このスポーツテックの分野で今、スタートアップ企業が多数登場し、注目が集まっている。「SPORTS TECH TOKYO」は、こうしたスポーツテックに携わるスタートアップ企業から、特に有望な企業を発掘するコンテストだ。

そして8月20日、その成果を発信する場として、オラクル・パークにて「World Demo Day」と題したイベントが開催された。12社のうち8社が、日本の企業やスポーツ組織と提携し、ビジネス展開することを発表した。

個性的なサービスを展開する12社

ファイナリストに選ばれた12社はどれもユニークな技術、コンセプト、ビジネスモデルを有している。彼らのピッチ(プレゼンテーション)をもとに、サービスをざっくり紹介しよう。

1.Misapplied Sciences:スタジアムディスプレイのパーソナライズ化(新国立競技場でデモ展示へ)
Misapplied Sciencesは他にはないディスプレイ技術を開発に挑んでいる。同社が標榜する「Parallel Reality」は、”同じ画面を見ているのに、人によって見えるものが違う”という世界だ。独自開発の特殊なディスプレイにより、見ている視点によって表示する内容を変えることができる。しかも、ARグラスやスマホは必要なく、肉眼視で実現した点がユニークだ。

同じディスプレイを何十人もが同時に見ていても、人の肩幅ほどの視点の差で、それぞれ異なる内容を表示できる。しかも、鏡越しでも動作するという。スマホやBluetoothビーコン、顔認識などを組み合わせれば、その人を特定して、表示する内容をパーソナライズできる。

Misapplied SciencesでCEOを務めるAlbert Ng氏

Misapplied Sciencesは現在、ディスプレイの先行量産段階に入っており、300個ほどの製品を作成し、開発者向けとして販売予定だという。そしてSPORTS TECH TOKYOでの成果として、12月21日開催される新国立競技場オープニングイベントにて、デモンストレーション展示を行う方向で議論を進めている。

Omegawave:ウェアラブル選手のトレーニング提案(トライアスロン日本代表で採用)
フィンランドを本拠とするOmegawaveが挑んでいるのは神経科学を応用したアスリート向けのソリューションだ。ウェアラブルデバイスを脳や心臓に貼り付け、活動電位を計測。ストレス反応などを見ることで、運動に適したコンディションであるかを判定する。すでに北米では個人向け販売も行っておりほか、UFC(Ultimate Fighting Championship、米国の総合格闘技団体)などプロアスリート団体も採用している。

そして今回、SPORTS TECH TOKYOを経て、東京オリンピックのトライアスロン日本代表(日本トライアスロン連盟)がOmegawaveのソリューションを採用することが決まった。サッカーのファジアーノ岡山、アメフトの電通キャタピラーズも実証実験を行う予定となっている。

OmegawaveでCEOを務めるGerard Bruen氏


3.SportsCastr:実況中継特化の生放送SNS(日本バレーボール協会が対応へ)
SportsCastrは、「試合の実況中継」に特化したライブストリーミングプラットフォーム。つまり誰でも解説者になれる生放送SNSだ。実況中継の声やコメントを、スポーツのライブ映像に重ねて表示し、好きな解説者とともにスポーツを楽しめるよう。旧来のスポーツだけでなく、eSportsにも対応したプラットフォームとなっている。

SportsCastrでCFOを務めるAndrew Schupak氏

同社は現在主に北米で展開しているが、SPORTS TECH TOKYOでのディスカッションを通して、OTTプラットフォーム事業者(社名非公開)との実証実験が決まったという。また、日本バレーボールの公式配信サービス「V.LEAGUE TV」の対応も検討されている。

4.DataPowa:スポーツクラブの”スポンサー価値を分析(電通と実証実験)
世界に数あるスポーツクラブ。そのスポンサーにとって、広告がどのような価値をもたらすか把握するのは容易ではない。DataPowaが提供するソリューションは、そんなスポーツクラブのスポンサーにとって役立つものだ。同社は各種SNSの浸透や放送、スポーツメディアや天候など60のデータセットを持ち、2.4兆ものデータポイントをAIにより解析。複雑な評価を1つの「スコア」として提供する。世界的に人気のあるクラブチームや、若者に評価が高いクラブチームなど、スポンサーの目的にあわせた最適なチームが一望できる仕組みだ。

DataPowaでCEOを務めるMichael Flynn氏

SPORTS TECH TOKYOを通して、DataPowaは電通との協業を検討。スポーツイベントのスポンサー価値定量ツールとして日本市場での販売に向けた実証を行う予定だ。

5.3D Digital Venue:3Dプレビューでチケット予約体験を向上(横浜Fマリノスが導入)
3D Digital Venueは、スポーツチケットの予約体験を向上させるソリューションを提供している。競技会場を3Dマップで再現し、予約した席から競技がどのように見えるのかを、分かりやすいグラフィックで表示できる。機能はAPIとして提供され、スポーツチームのアプリや予約サイトに組み込める。

仕組み自体は古くからあるものだが、ゲームエンジンのUnityを用いて、モデルの作成・更新を迅速化した点が強みだ。実際のところ、モデル作成より正確なデータを把握する方に苦心しているという(古いスタジアムでは詳細な設計図が残っていないことがある)。

D Digital Venue北米事業責任者を務めるSteve Stonehouse氏

3D Digital Venueのソリューションは、現在世界17か国で採用実績があり、FCバルセロナなど有力チームも導入している。日本では、ソフトバンクが経営する福岡ソフトバンクホークスやバスケットボール「B.LEAGUE」が導入済み。SPORTS TECH TOKYOを通じて、横浜Fマリノスのチケット販売ページへの導入が決定している。

Wild.AI:女性アスリート特有の課題をAIでサポート

Wild.AI(Wild Technologies AI)が挑むのは、女性アスリートのリプロダクティブ・ヘルスについての課題だ。身体的な発達期にある女性アスリートにとって、身体的に大きな負荷のかかるトレーニングは、月経不順や骨密度の低下などの問題を引き起こす可能性がある。

Wild.AiでCEOを務めるHelene Guillaume氏

Wild AIではこうした女性特有の課題に対応し、スポーツ医学に知見を持つメンバーがトップアスリートに個別のコーチングを行っている。このコーチングはスマートデバイスから得た情報と女性アスリートの月経周期や生活習慣などの情報を総合したもので、月経周期の調整にも活用できる。同社は今後、スポーツに携わるより多くの女性に対して適切なトレーニングプログラムを提案するプラットフォームの開発を目指している。

7.FitBiomics:腸内細菌を身体パフォーマンス向上に役立てるバイオテック

ハーバード大学発のスタートアップFitBiomicsは、身体パフォーマンスの向上に役立つ、独自のバイオテクノロジーを開発している。カギとなるのは「腸内細菌」だ。

腸内細菌はヒトの腸内に500〜1000種生息し、その分布は個々人によって大きく異なる。腸内細菌のバランスを整えることで、個人の健康や、運動のパフォーマンスを向上できるという。FitBiomicsの創業者たちは、腸内細菌の調整によってマラソンランナーのパフォーマンス向上を実現したという論文を発表している。

FitBiomicsでCEOを務めるJonathan Scheiman氏

 

FitBiomicsは現在、プロアスリートを対象としたサービスを提供している。具体的には、アスリート個人の腸内細菌を分析し、そのバランスを改善する腸内細菌が入ったサプリメントをオーダーメイド作成するという内容だ。同社は現在のところ、プロアスリートに限定して製品を提供しているが、今後は一般消費者のヘルスケアサプリメントなど、より幅広い対象に向けた製品の開発を目指している。SPORTS TECH TOKYOを通じて、人種、食文化や風土の違う日本のプロアスリートのサンプリング、研究開発に役立てているという。

8.Reely:試合のハイライトを自動生成

Reelyは、より魅力的なスポーツ中継を身近にするテクノロジーを開発している。彼らが提供するのは、長時間におよぶスポーツ中継の動画から、ハイライト動画を自動的に生成するソリューションだ。

ハイライト動画の作成は簡単。人間による操作はビデオを読み込ませ、スポーツの種類を選択するだけだ。動画の内容はAIにより分析、タグ付けされ、ハイライト動画として出力される。eSportsにも対応しており、Twitchの実況動画を読み込ませるだけで、League of LegendsやPUBGなどの人気ゲームのハイライトを自動で生成できる。

ReelyでCEOを務めるCullen Gallagher氏

9.Pixellot:無人カメラでスポーツ中継を民主化(日本展開などで電通と提携)

イスラエル発のスタートアップPixellotは”スポーツ中継を民主化する”無人カメラソリューションを提供している。Pixellotのカメラを体育館やテニスコートなどに取り付けると、そこで行われた試合を自動で撮影、記録して中継動画を作成できる。

カメラは動きのある場所に向けて自動的にフォーカスを変更するほか、映像内の文字認識にも対応する。スコアボードを読み撮って試合開始や終了を自動で判定し、試合ごとの動画クリップを作成したり、ゼッケンの数字を読み取って選手ごとのハイライトを自動生成したりできる。

Pixellot Head of US Youth DivisionのDavid Shapiro氏

Pixellotは現在、米国を中心に世界で4000台を販売。学校の体育館などを中心に導入が進んでいるという。放送局向けとして、8K映像出力や60fps対応のより高度なシステムも提供している。SPORTS TECH TOKYOをきっかけとして電通と提携し、事業開発や日本市場における販売などで支援を受けている。

10.ventus:スポーツチームを支援する電子トレカ(電通と長期パートナーシップ締結へ)

SPORTS TECH TOKYOのファイナリストで唯一の日本初スタートアップとなったventusは、トレーディングカードをデジタル化する製品を開発している。

ventusが手がけるカードソリューション「whooop!」は、オンライン上で発行される電子トレーディングカードだ。スポーツチームが数量限定で発行し、ファンはカードの購入を通して、チームを支援できる。電子トレカはソーシャルゲームのカードのようにコレクションできるほか、オークションによって他のファンに譲ることもできる。

ventusでCEOを務める小林泰氏

whooop!は現在、日本と韓国で展開。サッカーやラグビー、自転車競技チームなどで導入されている。SPORTS TECH TOKYOをきっかけに、電通との長期パートナーシップ締結向けた議論を進めている。

11.edisn.ai:プレイ映像からAIで選手を認識

インド発のスタートアップedisn.aiは、AIにより「スポーツ選手を認識する」というソリューションを手がけている。たとえばバスケットボールの試合で、映像から映し出されている選手を認識し、その選手にまつわるさまざまな情報を表示するというものだ。

放送局がedisn.aiのソリューションを使えば、ライブ映像に選手の情報テロップを自動的に追加できるほか、選手ごとのハイライトも用意に作成できる。また、スポーツチームのライブ中継アプリなら、選手の映像やプロフィール、ソーシャルメディア、選手ごとのグッズ販売情報まで提示することができる。

edisn.aiでCEOを務めるAshok Karanth氏

edisn.aiは、現在、NBAやIPL(インドのプロクリケットチーム)のチームと協力。eSportsでもアジアのプロチームと連携して展開している。

12.4DReplay:360度ハイライト映像を生成(CBCと東南アジア展開で提携)


4DReplayが展開するのは、360度から眺められるハイライト映像を作成するソリューションだ。試合会場に設置した多数のカメラをつなぎあわせ、印象的なシーンをさまざまな角度から視聴できる多視点映像を短時間で生成する。

韓国テレビ局のSBSやKBSなどがスポーツ中継に導入しているほか、日本企業ではKDDIの出資も受けている。今回、SPORTS TECH TOKYOのスポンサーとなっている商社CBCとの提携を深め、東南アジアでのセールス展開でパートナーシップ締結に向けた検討を行っている。

4DReplayでCOOを務めるHenry E. Chon氏

今後も協業に向けた協議は継続、スポーツテックの浸透につながるか

SPORTS TECH TOKYOを主催したのは、大手広告代理店の電通と、Scrum Ventures。Scrum Venturesはシリコンバレーに本拠を置き、世界中のスタートアップ企業のリサーチしている日系ベンチャーキャピタルだ。そしてこのプログラムは、伊藤忠、ソフトバンクなど多くの日系大企業が支援し、日本サッカー協会、パシフィックリーグマーケティング、DAZNなど多くのスポーツ関連団体の協賛を得ている。

SPORTS TECH TOKYOでは2018年に選考が開始し、数百社の応募の中から23カ国159社を選出。さらなる選考を経て、2019年4月、ファイナリスト12社が選抜された。参加企業にはスポーツやITに造詣の深い100以上のメンターがサポートし、多くの日本企業とのミーティングやスタートアップ同士での交流の場が設けられた。SPORTS TECH TOKYOのプログラム統括を担当したScrum VebtuersのMichael Proman氏は「SPORTS TECH TOKYOは世界最大のスポーツテックコミュニティだ」と紹介した。

SPORTS TECH TOKYOのプログラム統括のMichael Proman氏

スポーツ関連組織や大学、IT企業、ベンチャーキャピタルなどがメンターに

SPORTS TECH TOKYO参加企業は裾野が広いスポーツテックの主な分野を網羅している

選抜されたスタートアップ159社の半数は北米の企業。この割合にはスポーツテック分野のスタートアップ企業の世界分布が反映されているという

このプログラムが実施された背景には、スポーツテックに対する関心の高まりがある。Scrum Venturesの宮田拓弥代表は「スポーツビジネスは、アメリカ、日本で注目されている。ベンチャーキャピタルの業界でも資金調達が盛んで、アメリカで昨年250億ドルの投資を集めた。過去5年の4倍にもなる数字だ。そして日本を含むアジアでは15億ドル、これはなんと過去5年の40倍もの急速な成長だ」と語る。

電通でSPORTS TECH TOKYOを統括する電通 事業開発ディレクターの中嶋文彦氏は「電通は40年に渡りスポーツビジネスに携わってきた。日本で大きなイベントが開催される2020年、スポーツに注目が集まっている中で、新しい領域のビジネスを作っていきたい。そしてさらにその先の領域に取り組みたい」と抱負を語った。

Scrum Venturesの宮田拓弥代表

電通でSPORTS TECH TOKYOを統括する電通 事業開発ディレクターの中嶋文彦氏は「電通は40年に渡りスポーツビジネスに携わってきた。日本で大きなイベントが開催される2020年、スポーツに注目が集まっている中で、新しい領域のビジネスを作っていきたい。そしてさらにその先の領域に取り組みたい」と抱負を語った。

電通の中嶋文彦氏

そしてSPORTS TECH TOKYOの特徴は、スタートアップ企業と日本の大企業をつなぎ、実際のビジネスに結びつける場となっていること。4月以降、ファイナリスト12社とスポンサー企業が頻繁にミーティングを重ね、最終的にパートナーシップ締結などの成果に結びつけている。

日系企業にありがちな「スタートアップ視察と名のついた表敬訪問」とは一線を画しているというわけだ。Scrum Venturesの外村仁パートナーは「ファイナリスト選出からの3か月間で日本の大企業がパートナーシップ締結を決断するに至っている。このスピード感こそ、SPORTS TECH TOKYOの意義のある成果だ」と話す。

Scrum Ventures パートナーの外村仁氏

電通 取締役のTim Andree氏は、「今回の提携は氷山の一角。Demo Dayはマイルストーンでしかない。2020年をきっかけに、そしてその先にも更に素晴らしいチャンスが待っている」と語り、スポーツテック分野の発展に対する明るい見通しを示した。SPORTS TECH TOKYOに参加した159社とは、今後もパートナー企業との協業に向けた協議を継続していくという。

電通の取締役で電通イージス・ネットワークでCEOを務めるTim Andree氏

ハードウェアはチャレンジングだがリスクは低減できる、Scrum Connect 2018レポート

Scrum Venturesが11月19日に開催したイベント「Scrum Connect 2018」。「Hardware Session~Nikkei Startup X Special Session​~」では、ハードウェアスタートアップ企業2社のCEOが登壇し、パネルディスカッションを行った。

“芽”も見え始めたと米国スタートアップCEOは語る

セッションには燃料とバッテリーを組み合わせたハイブリッドエネルギーパワーシステム採用のドローンを開発している米Top Flight Technologies CEO兼CTOのLong Phan氏と、ロボットを自律制御させる「モーション・プランニング」の技術を開発する米Realtime Robotics President&CEOのPeter Howard氏が登壇した。

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米Top Flight Technologies CEO兼CTOのLong Phan氏

Long Phan氏は自社の技術についてハイブリッドエンジンとドローンを組み合わせることで「有効荷重と耐久性、安定性の3つの問題を解決した」と自信を見せる。

Realtime Roboticsが持つモーション・プランニング技術は、周囲の動きや障害物を検知して避けながら安全にロボットを自律制御させるというもの。周囲に作業者がいるような環境でもロボットを協調動作させられるという技術だ。

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米Realtime Robotics President&CEOのPeter Howard氏

司会者から「過去10年は基本的にソフトウェアスタートアップが中心だったのに対し、最近はハードウェアのエリアでスタートアップの活躍の余地が広がっている背景について聞きたい」という質問が出た。

「ハードウェアは非常にチャレンジングで、多くの資本投入が必要なこと、開発に多くの時間が必要になるという2つの課題がある。そのためほとんどの投資家はより早く結果が出るソフトウェアに投資したいという考えだった。しかし最近はハードウェアとソフトウェアのツールを組み合わせることで開発時間を短縮し、リスクを低減させている」(Long Phan氏)。

「シリコンバレーのVCコミュニティのうち、ハードウェア投資に興味を持っているのは10%以下程度だと思う。ハードに関心はあるものの、潜在的な投資家は減少しているように思っている。そのため、市場に対して投資が魅力的であるとアピールしなければならないと考えているが、なかなか難しい」(Peter Howard氏)。

続いてTop Flight Technologiesが韓国のヒュンダイと提携した経緯についての質問が出た。「最近は自動車メーカーの多くが自動運転に資本を投下しているが、将来的には自動運転だけでなく自動で飛ぶ車も考えられる。自動車メーカーは航空宇宙産業まで視野に入れており、人などを輸送する伝統的な自動車から空を飛ばすところまで、今後5年から10年の間に大きな変革が起こる。自動車メーカーも空を飛ぶ自動車を作らなければいけない時代に入っている。ヒュンダイは飛ぶ自動車を作ろうと考えてTop Flightに来た。私たちはツールを提供することでより迅速に飛ぶ自動車を作るための研究に入った」(Long Phan氏)。Long Phan氏は日本の自動車メーカーとコミュニケーションしているものの、「日本のメーカーは少し動きが遅いように思う」と語っていた。

自動運転AI開発を行うトヨタ自動車の子会社であるTRI(Toyota Research Instituteからの出資も受けているRealtime RoboticsのPeter Howard氏の見方は違う。「私はそんなに動きが遅いとは思っていない。伝統的な企業であるトヨタ自動車とは違って、TRIは迅速に動いている。我々はドイツのBMWなどとも一緒に取り組んでいるが、大きな違いはない。ただし、会社機構にどのくらいのマネジメント層がいて、説得する段階には大きな違いがあるように思う」(Peter Howard氏)。

Peter Howard氏はロボティクスにおいて日本市場は最も重要だと語った。「約50%のロボットは日本で作られているため、日本は我々にとって最も集中すべき市場だ。我々は50年以上FA(ファクトリーオートメーション)に取り組んでいるJOHNANとパートナーシップを結び、さまざまな工場の自動化を進めている。ロボット業界では日本が最も重要で、2番目がドイツ、その次に重要なのが米国だ。これらの市場に技術を導入していきたい」(Peter Howard氏)。

日本の企業と協業する魅力についてPeter Howard氏は続ける。「ロボットは人の近くで働くため、最も関心が高いのが安全性だ。いろいろな人が作業している中でロボットがコントロールできなくなると、作業者の怪我にもつながる。日本やドイツのメーカーが強いのは品質や信頼性が高いからだ」(Peter Howard氏)。

オープンイノベーションは日本の文化に根付いた大企業には難しいとPeter Howard氏は語った。「知的財産を保護することなどはオープンイノベーションの逆で、克服するのは難しい。例えばTRIとオープンイノベーションを進めていても、トヨタ自動車のエンジニアリングチームとやり始めると我々のペースで進めるのが難しくなる部分はある。しかしトヨタは別の新会社(TRI)を設立したことでオープンイノベーションが生き残れるチャンスを作った」(Peter Howard氏)。

Long Phan氏は「4年前から観察してきて日本の企業も変わってきた」と話す。「最初の頃は下から順番に上げていかないとならなくて時間がかかり、結果も出なかった。今は日本に来ると大企業のトップでも私と会ってくれるようになった。先進的なロボット技術を取りこむということを企業トップが自分の責任として意識してやり始めたのは素晴らしいと思う」(Long Phan氏)。

共有と熱量がオープンイノベーション成功の鍵、Scrum Connect 2018レポート

米シリコンバレーでアーリーステージのスタートアップ企業を中心に投資を行っているVC(ベンチャーキャピタル)のScrum Venturesは、2018年11月19日に米国で活躍する起業家によるセッションや投資家同士のネットワーキングを目的としたイベント「Scrum Connect 2018」を開催した。

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「Scrum Connect 2018」の会場の様子

「ビジョンの共有」と「熱量」がオープンイノベーション成功の鍵

「日本における、オープンイノベーションの現状と展望~Nikkei Startup X Special Session​~」では、実際にオープンイノベーションを起こしているバカン代表取締役の河野剛進氏とエクサウィザーズ取締役の粟生万琴氏が登壇し、それぞれの取り組みについてのトークセッションが行われた。

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バカン代表取締役の河野剛進氏

バカンは「VACANT(空いている)」という言葉が語源で、レストランやカフェなどの空席情報を提供する「VACAN(バカン)」、トイレの空席管理IoTサービス「Throne(スローン)」、お弁当を探して取り置きができる「QUIPPA(クイッパ)」の3つのサービスを展開している。

京都大学、大阪大学出身者のエンジニアが創業したベンチャーと静岡大学情報工学部のベンチャーが一緒になったエクサウィザーズは、AIを利活用したサービス開発を進めている。高齢者の認知症患者のケアの技法としてフランスで開発された「ユマニチュード」を広げるケア事業、労働人口減少に向けたHR(人事)テックなど、社会課題解決に向けた6つの事業を展開しているという。

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エクサウィザーズ取締役の粟生万琴氏

ケア事業では、認知症患者をケアするコミュニケーションとスキンシップのメソッドである「ユマニチュードケア」の達人の技をAIが学習し、その内容をコーチングすることで技能を伝承する実証実験を行っている。

ロボット事業では、製造業の労働人口減少という課題を解決するためにロボットの導入を進めている。通常はロボットが動作するための複雑な制御プログラムが必要になるのだが、人間の動作をAIが学習して再現することで、複雑なプログラミングなしにロボットの導入ができるように開発を進めているところだ。創業間もない頃にデンソーから無償でロボットを借り受け、開発を進めることができたと粟生氏は話していた。

オープンイノベーションを成功に導くために重要なこととして、バカンの河野氏は「熱量」を挙げた。「私たちもそうだが、熱量がないとコラボはうまくいかない。本気でこういうサービスを世の中に一緒に広げていきたいと思ってもらえることと、困難があっても乗り越えようという思いがあること。それを大企業の上の方が認めて『やってみなはれ』と言ってくれる環境があるかどうかが大事だ」(河野氏)。

河野氏は続ける。「プロダクトができきっていない時に、よく分からない人たち(スタートアップ企業)から提案を受けて、それを自社で取り組むかどうかを判断するのは大企業の方にとってすごく難しい。その企業の中に本当に熱心な方が『このサービスはあるべきだ』と考えて一緒に伴奏してくれて、実証実験をしていただいたり、そこで出てきた課題をどう解決するかを一緒に悩んでいただたりした。価格についてもアドバイスをもらいながら作ってきた。大変だったが、まさにオープンイノベーションが普及した中で乗り越えられたと思っている」

エクサウィザーズの粟生氏は「受発注の意識じゃオープンイノベーションは成立しない」と語る。「私たちも『受託している』という意識をまず捨てることが非常に重要だ。本気で投資していただく代わりに、我々スタートアップが技術を含めて一緒に汗をかくこと。会社対会社ではあっても、熱量を一緒に上げていく中で『誰』と『何をやるか』が重要だ。お互いの人となりや価値観を話しあう場を最初に無駄にしなてはいけないと思った」(粟生氏)

バカンの河野氏も「相手とビジョンが一致ことが重要」だと語った。「多少トラブルがあったとしても、ビジョンさえ合っていればこれから何をすればいいか案を出しながら解決したり、修正したりしていける。将来どういう世界を作っていきたいかをお互いに語ったり、そういうことを応援してくれる方たちなので、共感できるビジョンを最初にしっかりプレゼンするといいと思う。スタートアップの組織内もそうだが、しっかり話し合ってお互いに信頼関係を築くこと。自分の欲だけではオープンイノベーションはうまく行かない。ここは譲れるけどここは譲れないというメリハリを付けるのも大事だと思う」(河野氏)。

一緒に熱量を上げて共創していくためのポイントとして、大企業側の担当者に気持ちよく仕事をしてもらうための取り組みが重要だとエクサウィザーズの粟生氏は語った。「オープンイノベーション担当者は大企業の中ではどちらかというとマイノリティだと思う。そういう人が社内で気持ちよく仕事をしていただくためには、縦の人間関係だけでなく横や斜めの部門にも我々を紹介していただくなどして、新規事業担当者がやっている取り組みを一緒になって語るような形に入り込んでいる。むしろ我々スタートアップのメンバーをうまく使ってほしいと思う」(粟生氏)

バカンの河野氏も「担当者の評価が上がるように僕たち自身も頑張るというのが大事で、『このアライアンスのKPIは担当者の評価が上がること』というのを繰り返し言いながら進めている」と語った。

アスリート育成に革命を起こす「SPORTS TECH TOKYO」がTC Tokyoに

10月31日、電通とScrum Venturesが共同運営するアクセラレーションプログラム「SPORTS TECH TOKYO」の説明会が開催された。同プログラムは、スポーツ分野で優れた技術や事業アイデアを持つスタートアップを世界から募り、メンタリングなどを約1年間の支援するというもの。競技団体、プロリーグ、チームなどの関係者や選手を「スポーツアドバイザリーボード」に迎え、参加するスタートアップに対してネットワーキングやプレゼンテーションの機会も提供するそうだ。

特徴は、1.世界中からスタートアップを募集、2.プログラムは日本と米国で開催、3.国内外のスポーツ関係者とのネットワーキング&プレゼンテーション機会の提供、4.プロダクト・サービスに合わせて実証実験の環境など活性化機会を提供、5.投資を含むさまざまなビジネス機会の提供――となっている。募集期間は日本時間の2019 年1月8日16時59分まで。

米国ではスポーツの産業規模が拡大しており、2016年の時点で50兆円以上と試算されているとのこと。その中で「Sports Tech」関連スタートアップへの投資規模は 2011年から2015年までの4年間で約3倍に拡大している。SPORTS TECH TOKYOは電通が共同運営することもあり、特に日本のスタートアップの活性化を期待できそうだ。

TechCrunch Tokyo 2018では、SPORTS TECH TOKYOのプログラムパートナーを務めるScrum Venturesのジェネラルパートナーである宮田拓弥氏、データビークル代表取締役で日本プロサッカーリーグ(Jリーグ)アドバイザーでもある西内 啓氏を招き、このアクセラレーションプログラムの概要はもちろん、Sports Techの最新事例をじっくり聞くつもりだ。

TechCrunch Tokyo 2018では現在、一般チケット(4万円)、5人以上の一括申し込みが条件の「団体チケット」(2万円)、創業3年未満(2015年10月以降に創業)のスタートアップ企業に向けた「スタートアップチケット」(1万8000円)、学生向けの「学割チケット」(1万8000円)を販売中だ。

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