スポーツ×テクノロジーで世界を変えるスタートアップ発掘「SPORTS TECH TOKYO」成果発表会レポート

米サンフランシスコのオラクル・パーク。サンフランシスコ・ジャイアンツのホームでもあるこの球場を貸し切って、一風変わったイベントが開催された。スタートアップ支援プログラム「SPORTS TECH TOKYO」の成果発表会だ。

スポーツテック(Sports Tech)は、テクノロジーの進化をスポーツに応用したものだ。具体的には、スポーツ観戦をより面白くしたり、スポーツ選手の育成を支援したり、日常的な運動をサポートしたりする技術が含まれる。
このスポーツテックの分野で今、スタートアップ企業が多数登場し、注目が集まっている。「SPORTS TECH TOKYO」は、こうしたスポーツテックに携わるスタートアップ企業から、特に有望な企業を発掘するコンテストだ。

そして8月20日、その成果を発信する場として、オラクル・パークにて「World Demo Day」と題したイベントが開催された。12社のうち8社が、日本の企業やスポーツ組織と提携し、ビジネス展開することを発表した。

個性的なサービスを展開する12社

ファイナリストに選ばれた12社はどれもユニークな技術、コンセプト、ビジネスモデルを有している。彼らのピッチ(プレゼンテーション)をもとに、サービスをざっくり紹介しよう。

1.Misapplied Sciences:スタジアムディスプレイのパーソナライズ化(新国立競技場でデモ展示へ)
Misapplied Sciencesは他にはないディスプレイ技術を開発に挑んでいる。同社が標榜する「Parallel Reality」は、”同じ画面を見ているのに、人によって見えるものが違う”という世界だ。独自開発の特殊なディスプレイにより、見ている視点によって表示する内容を変えることができる。しかも、ARグラスやスマホは必要なく、肉眼視で実現した点がユニークだ。

同じディスプレイを何十人もが同時に見ていても、人の肩幅ほどの視点の差で、それぞれ異なる内容を表示できる。しかも、鏡越しでも動作するという。スマホやBluetoothビーコン、顔認識などを組み合わせれば、その人を特定して、表示する内容をパーソナライズできる。

Misapplied SciencesでCEOを務めるAlbert Ng氏

Misapplied Sciencesは現在、ディスプレイの先行量産段階に入っており、300個ほどの製品を作成し、開発者向けとして販売予定だという。そしてSPORTS TECH TOKYOでの成果として、12月21日開催される新国立競技場オープニングイベントにて、デモンストレーション展示を行う方向で議論を進めている。

Omegawave:ウェアラブル選手のトレーニング提案(トライアスロン日本代表で採用)
フィンランドを本拠とするOmegawaveが挑んでいるのは神経科学を応用したアスリート向けのソリューションだ。ウェアラブルデバイスを脳や心臓に貼り付け、活動電位を計測。ストレス反応などを見ることで、運動に適したコンディションであるかを判定する。すでに北米では個人向け販売も行っておりほか、UFC(Ultimate Fighting Championship、米国の総合格闘技団体)などプロアスリート団体も採用している。

そして今回、SPORTS TECH TOKYOを経て、東京オリンピックのトライアスロン日本代表(日本トライアスロン連盟)がOmegawaveのソリューションを採用することが決まった。サッカーのファジアーノ岡山、アメフトの電通キャタピラーズも実証実験を行う予定となっている。

OmegawaveでCEOを務めるGerard Bruen氏


3.SportsCastr:実況中継特化の生放送SNS(日本バレーボール協会が対応へ)
SportsCastrは、「試合の実況中継」に特化したライブストリーミングプラットフォーム。つまり誰でも解説者になれる生放送SNSだ。実況中継の声やコメントを、スポーツのライブ映像に重ねて表示し、好きな解説者とともにスポーツを楽しめるよう。旧来のスポーツだけでなく、eSportsにも対応したプラットフォームとなっている。

SportsCastrでCFOを務めるAndrew Schupak氏

同社は現在主に北米で展開しているが、SPORTS TECH TOKYOでのディスカッションを通して、OTTプラットフォーム事業者(社名非公開)との実証実験が決まったという。また、日本バレーボールの公式配信サービス「V.LEAGUE TV」の対応も検討されている。

4.DataPowa:スポーツクラブの”スポンサー価値を分析(電通と実証実験)
世界に数あるスポーツクラブ。そのスポンサーにとって、広告がどのような価値をもたらすか把握するのは容易ではない。DataPowaが提供するソリューションは、そんなスポーツクラブのスポンサーにとって役立つものだ。同社は各種SNSの浸透や放送、スポーツメディアや天候など60のデータセットを持ち、2.4兆ものデータポイントをAIにより解析。複雑な評価を1つの「スコア」として提供する。世界的に人気のあるクラブチームや、若者に評価が高いクラブチームなど、スポンサーの目的にあわせた最適なチームが一望できる仕組みだ。

DataPowaでCEOを務めるMichael Flynn氏

SPORTS TECH TOKYOを通して、DataPowaは電通との協業を検討。スポーツイベントのスポンサー価値定量ツールとして日本市場での販売に向けた実証を行う予定だ。

5.3D Digital Venue:3Dプレビューでチケット予約体験を向上(横浜Fマリノスが導入)
3D Digital Venueは、スポーツチケットの予約体験を向上させるソリューションを提供している。競技会場を3Dマップで再現し、予約した席から競技がどのように見えるのかを、分かりやすいグラフィックで表示できる。機能はAPIとして提供され、スポーツチームのアプリや予約サイトに組み込める。

仕組み自体は古くからあるものだが、ゲームエンジンのUnityを用いて、モデルの作成・更新を迅速化した点が強みだ。実際のところ、モデル作成より正確なデータを把握する方に苦心しているという(古いスタジアムでは詳細な設計図が残っていないことがある)。

D Digital Venue北米事業責任者を務めるSteve Stonehouse氏

3D Digital Venueのソリューションは、現在世界17か国で採用実績があり、FCバルセロナなど有力チームも導入している。日本では、ソフトバンクが経営する福岡ソフトバンクホークスやバスケットボール「B.LEAGUE」が導入済み。SPORTS TECH TOKYOを通じて、横浜Fマリノスのチケット販売ページへの導入が決定している。

Wild.AI:女性アスリート特有の課題をAIでサポート

Wild.AI(Wild Technologies AI)が挑むのは、女性アスリートのリプロダクティブ・ヘルスについての課題だ。身体的な発達期にある女性アスリートにとって、身体的に大きな負荷のかかるトレーニングは、月経不順や骨密度の低下などの問題を引き起こす可能性がある。

Wild.AiでCEOを務めるHelene Guillaume氏

Wild AIではこうした女性特有の課題に対応し、スポーツ医学に知見を持つメンバーがトップアスリートに個別のコーチングを行っている。このコーチングはスマートデバイスから得た情報と女性アスリートの月経周期や生活習慣などの情報を総合したもので、月経周期の調整にも活用できる。同社は今後、スポーツに携わるより多くの女性に対して適切なトレーニングプログラムを提案するプラットフォームの開発を目指している。

7.FitBiomics:腸内細菌を身体パフォーマンス向上に役立てるバイオテック

ハーバード大学発のスタートアップFitBiomicsは、身体パフォーマンスの向上に役立つ、独自のバイオテクノロジーを開発している。カギとなるのは「腸内細菌」だ。

腸内細菌はヒトの腸内に500〜1000種生息し、その分布は個々人によって大きく異なる。腸内細菌のバランスを整えることで、個人の健康や、運動のパフォーマンスを向上できるという。FitBiomicsの創業者たちは、腸内細菌の調整によってマラソンランナーのパフォーマンス向上を実現したという論文を発表している。

FitBiomicsでCEOを務めるJonathan Scheiman氏

 

FitBiomicsは現在、プロアスリートを対象としたサービスを提供している。具体的には、アスリート個人の腸内細菌を分析し、そのバランスを改善する腸内細菌が入ったサプリメントをオーダーメイド作成するという内容だ。同社は現在のところ、プロアスリートに限定して製品を提供しているが、今後は一般消費者のヘルスケアサプリメントなど、より幅広い対象に向けた製品の開発を目指している。SPORTS TECH TOKYOを通じて、人種、食文化や風土の違う日本のプロアスリートのサンプリング、研究開発に役立てているという。

8.Reely:試合のハイライトを自動生成

Reelyは、より魅力的なスポーツ中継を身近にするテクノロジーを開発している。彼らが提供するのは、長時間におよぶスポーツ中継の動画から、ハイライト動画を自動的に生成するソリューションだ。

ハイライト動画の作成は簡単。人間による操作はビデオを読み込ませ、スポーツの種類を選択するだけだ。動画の内容はAIにより分析、タグ付けされ、ハイライト動画として出力される。eSportsにも対応しており、Twitchの実況動画を読み込ませるだけで、League of LegendsやPUBGなどの人気ゲームのハイライトを自動で生成できる。

ReelyでCEOを務めるCullen Gallagher氏

9.Pixellot:無人カメラでスポーツ中継を民主化(日本展開などで電通と提携)

イスラエル発のスタートアップPixellotは”スポーツ中継を民主化する”無人カメラソリューションを提供している。Pixellotのカメラを体育館やテニスコートなどに取り付けると、そこで行われた試合を自動で撮影、記録して中継動画を作成できる。

カメラは動きのある場所に向けて自動的にフォーカスを変更するほか、映像内の文字認識にも対応する。スコアボードを読み撮って試合開始や終了を自動で判定し、試合ごとの動画クリップを作成したり、ゼッケンの数字を読み取って選手ごとのハイライトを自動生成したりできる。

Pixellot Head of US Youth DivisionのDavid Shapiro氏

Pixellotは現在、米国を中心に世界で4000台を販売。学校の体育館などを中心に導入が進んでいるという。放送局向けとして、8K映像出力や60fps対応のより高度なシステムも提供している。SPORTS TECH TOKYOをきっかけとして電通と提携し、事業開発や日本市場における販売などで支援を受けている。

10.ventus:スポーツチームを支援する電子トレカ(電通と長期パートナーシップ締結へ)

SPORTS TECH TOKYOのファイナリストで唯一の日本初スタートアップとなったventusは、トレーディングカードをデジタル化する製品を開発している。

ventusが手がけるカードソリューション「whooop!」は、オンライン上で発行される電子トレーディングカードだ。スポーツチームが数量限定で発行し、ファンはカードの購入を通して、チームを支援できる。電子トレカはソーシャルゲームのカードのようにコレクションできるほか、オークションによって他のファンに譲ることもできる。

ventusでCEOを務める小林泰氏

whooop!は現在、日本と韓国で展開。サッカーやラグビー、自転車競技チームなどで導入されている。SPORTS TECH TOKYOをきっかけに、電通との長期パートナーシップ締結向けた議論を進めている。

11.edisn.ai:プレイ映像からAIで選手を認識

インド発のスタートアップedisn.aiは、AIにより「スポーツ選手を認識する」というソリューションを手がけている。たとえばバスケットボールの試合で、映像から映し出されている選手を認識し、その選手にまつわるさまざまな情報を表示するというものだ。

放送局がedisn.aiのソリューションを使えば、ライブ映像に選手の情報テロップを自動的に追加できるほか、選手ごとのハイライトも用意に作成できる。また、スポーツチームのライブ中継アプリなら、選手の映像やプロフィール、ソーシャルメディア、選手ごとのグッズ販売情報まで提示することができる。

edisn.aiでCEOを務めるAshok Karanth氏

edisn.aiは、現在、NBAやIPL(インドのプロクリケットチーム)のチームと協力。eSportsでもアジアのプロチームと連携して展開している。

12.4DReplay:360度ハイライト映像を生成(CBCと東南アジア展開で提携)


4DReplayが展開するのは、360度から眺められるハイライト映像を作成するソリューションだ。試合会場に設置した多数のカメラをつなぎあわせ、印象的なシーンをさまざまな角度から視聴できる多視点映像を短時間で生成する。

韓国テレビ局のSBSやKBSなどがスポーツ中継に導入しているほか、日本企業ではKDDIの出資も受けている。今回、SPORTS TECH TOKYOのスポンサーとなっている商社CBCとの提携を深め、東南アジアでのセールス展開でパートナーシップ締結に向けた検討を行っている。

4DReplayでCOOを務めるHenry E. Chon氏

今後も協業に向けた協議は継続、スポーツテックの浸透につながるか

SPORTS TECH TOKYOを主催したのは、大手広告代理店の電通と、Scrum Ventures。Scrum Venturesはシリコンバレーに本拠を置き、世界中のスタートアップ企業のリサーチしている日系ベンチャーキャピタルだ。そしてこのプログラムは、伊藤忠、ソフトバンクなど多くの日系大企業が支援し、日本サッカー協会、パシフィックリーグマーケティング、DAZNなど多くのスポーツ関連団体の協賛を得ている。

SPORTS TECH TOKYOでは2018年に選考が開始し、数百社の応募の中から23カ国159社を選出。さらなる選考を経て、2019年4月、ファイナリスト12社が選抜された。参加企業にはスポーツやITに造詣の深い100以上のメンターがサポートし、多くの日本企業とのミーティングやスタートアップ同士での交流の場が設けられた。SPORTS TECH TOKYOのプログラム統括を担当したScrum VebtuersのMichael Proman氏は「SPORTS TECH TOKYOは世界最大のスポーツテックコミュニティだ」と紹介した。

SPORTS TECH TOKYOのプログラム統括のMichael Proman氏

スポーツ関連組織や大学、IT企業、ベンチャーキャピタルなどがメンターに

SPORTS TECH TOKYO参加企業は裾野が広いスポーツテックの主な分野を網羅している

選抜されたスタートアップ159社の半数は北米の企業。この割合にはスポーツテック分野のスタートアップ企業の世界分布が反映されているという

このプログラムが実施された背景には、スポーツテックに対する関心の高まりがある。Scrum Venturesの宮田拓弥代表は「スポーツビジネスは、アメリカ、日本で注目されている。ベンチャーキャピタルの業界でも資金調達が盛んで、アメリカで昨年250億ドルの投資を集めた。過去5年の4倍にもなる数字だ。そして日本を含むアジアでは15億ドル、これはなんと過去5年の40倍もの急速な成長だ」と語る。

電通でSPORTS TECH TOKYOを統括する電通 事業開発ディレクターの中嶋文彦氏は「電通は40年に渡りスポーツビジネスに携わってきた。日本で大きなイベントが開催される2020年、スポーツに注目が集まっている中で、新しい領域のビジネスを作っていきたい。そしてさらにその先の領域に取り組みたい」と抱負を語った。

Scrum Venturesの宮田拓弥代表

電通でSPORTS TECH TOKYOを統括する電通 事業開発ディレクターの中嶋文彦氏は「電通は40年に渡りスポーツビジネスに携わってきた。日本で大きなイベントが開催される2020年、スポーツに注目が集まっている中で、新しい領域のビジネスを作っていきたい。そしてさらにその先の領域に取り組みたい」と抱負を語った。

電通の中嶋文彦氏

そしてSPORTS TECH TOKYOの特徴は、スタートアップ企業と日本の大企業をつなぎ、実際のビジネスに結びつける場となっていること。4月以降、ファイナリスト12社とスポンサー企業が頻繁にミーティングを重ね、最終的にパートナーシップ締結などの成果に結びつけている。

日系企業にありがちな「スタートアップ視察と名のついた表敬訪問」とは一線を画しているというわけだ。Scrum Venturesの外村仁パートナーは「ファイナリスト選出からの3か月間で日本の大企業がパートナーシップ締結を決断するに至っている。このスピード感こそ、SPORTS TECH TOKYOの意義のある成果だ」と話す。

Scrum Ventures パートナーの外村仁氏

電通 取締役のTim Andree氏は、「今回の提携は氷山の一角。Demo Dayはマイルストーンでしかない。2020年をきっかけに、そしてその先にも更に素晴らしいチャンスが待っている」と語り、スポーツテック分野の発展に対する明るい見通しを示した。SPORTS TECH TOKYOに参加した159社とは、今後もパートナー企業との協業に向けた協議を継続していくという。

電通の取締役で電通イージス・ネットワークでCEOを務めるTim Andree氏

SPORTS TECH TOKYOにかける思いとSports Tech最新事例——TC Tokyo 2018レポート

写真左からTechCrunch Japan編集統括の吉田博英、Scrum Ventures創業者の宮田拓弥氏、データビークル代表取締役/Jリーグアドバイザーの西内啓氏、日野自動車フューチャンプランアドバイザーの山下大悟氏

オリンピックはテクノロジーの見本市と呼ばれることもある。2018年に平昌で開催された冬季オリンピックでは、世界初の5Gの実証実験サービスが行われたり、Intelのドローン技術を用いたライトショーもあった。東京2020オリンピックでも、さまざまな最新テクノロジーを見たり体験することだろう。

テクノロジーは、スポーツそのものやスポーツビジネスにも進化や新たな価値を生み出している。11月15日、16日で開催中のTechCrunch Tokyo 2018では、今後注目がますます集まるであろう「Sports Tech」をテーマにしたセッション「スポーツ系スタートアップを支援する『SPORTS TECH TOKYO』が始動」を開催。日本や世界におけるSports Techの最新事例や、今後の課題、SPORTS TECH TOKYOにかける思いなどが語られた。

登壇したのは、Scrum Ventures創業者の宮田拓弥氏、データビークル代表取締役/Jリーグアドバイザーの西内啓氏、日野自動車フューチャンプランアドバイザーの山下大悟氏。モデレーターはTechCrunch Japan編集統括の吉田博英。

世界中からテクノロジーを持ってくる「SPORTS TECH TOKYO」

まずはセッションタイトルにもなっている「SPORTS TECH TOKYO」の概要について。SPORTS TECH TOKYOは、Scrum Venturesと電通が共同運営するアクセラレーションプログラムで、スポーツ分野(eスポーツも含む)で優れた技術や事業アイデアを持つスタートアップを世界中から募り、事業化のためのメンタリングなどを約1年間支援するというもの。

競技団体、プロリーグ、チームなどの関係者や選手を「スポーツアドバイザリーボード」に迎え、参加するスタートアップに対してネットワーキングやプレゼンテーション、実証実験の機会も提供する。プログラムは、アスリートの育成や競技に関するデータ解析などはもちろん、スポーツの観戦やファンの満足度、スタジアム体験なども含んでいる。開催期間は、2019年1月から1年間。

宮田氏はプログラムのネーミングについて、「Sports Techが進んでいるアメリカをはじめ世界中のテクノロジーを日本に持ってきてもらいたいと思い敢えて“TOKYO”をいれた」とその理由を説明。TOKYOという旗を立てることでテクノロジーが集まるチャンスを創出する。

また、日本のスポーツ産業がテクノロジーに注目しはじめていることを実感しており「日本が目覚めてきた」と語った。

アメリカの最新Sports Techと日本のテクノロジー活用

ここで気になるのは、宮田氏が進んでいるというアメリカのSports Tech事情だろう。宮田氏は最先端の事例としてアメリカンフットボールを挙げた。

「アメリカンフットボールのスタジアムにはセンサーが入っており、リアルタイムで選手の位置の把握やランのスピードを解析している。(そのデータを使って)視聴者に対して、例えば競り合っている選手のどちらが速いのかをリアルタイムで画面表示もしている」(宮田氏)。

2019年には、上記のデータトラッキング技術とAI技術が組み合わさることで「選手が今からどの方向にボールを投げるのかを予測した情報」なども表示されるそうで、「アスリートの考えをファンが見られるようになる。面白い進化が起きている」と語った。

一方、日本ではどのようにテクノロジーやデータが使われているのだろうか。西内氏はJリーグでのテクノロジーやデータ活用に触れる前に「サッカーは野球よりデータ利用の歴史が浅い」と語った。野球は何十年も前から打率の概念が存在していたが、サッカーは2000年代に入るまでパスの成功率の指標すら管理されていなかったそうだ。そこからスポーツデータの解析を専門におこなうデータスタジアム社の活用などがはじまり、現在に至る。

「Jリーグでは、画像解析ソフトやGPSを使って選手の位置の把握や、走行距離などをはかったデータ活用をしている。加えて、ここ1、2年で主要なクラブチームではチケット販売サービスとデータを共有してCRMのようなものができるようになってきた」(西内氏)。

山下氏は、「ラグビーでは、10年くらい前から選手にGPSをつけて位置の把握などさまざまなデータを取得し、選手の評価や改善に取り組んできた」と説明した。山下氏が監督をしていた早稲田大学ラグビー蹴球部でもGPSを使っていたそうだ。また、早稲田大学ラグビー蹴球部では選手の評価や、トレーニング内容、練習メニューなどさまざまな事柄にデータを活用し「ほぼデータだった」と振り返った。

eスポーツから学んでスポーツに展開する

登壇者3人は日本のスポーツにおける今後のSports Tech活用についてどのような課題があると考えているのだろうか。それぞれが見解を聞いたところ、西内氏と山内氏はそろって「若年層のデータ化」を挙げた。

サッカーもラグビーも、プロになってからのデータを取ることはできるようになってきているが、ユース選手のデータが少なく、ユースチームのコーチが選手個人のデータを持っていないという。

「1万時間の法則みたいな鉄板的なものをデータで見出してほしい。また、個人にカスタマイズしていくことが重要になってくのではないか」(山内氏)。

「データが取れたとしても、一方でプロでもデータを活用しきれていないところがあるので、分析をどう活かすかも課題になってくる」(西内氏)。

「選手とファンのエンゲージメントやコミュニケーションが今後のキーワード。また、eスポーツ的な見せ方をスポーツに導入するといった、eスポーツから学んでスポーツに展開することがあるのではないか」(宮田氏)。

SPORTS TECH TOKYOは今だからこそチャンスがある

最後に、観客の皆さんからスピーカーに直接質問できる「Q&Aコーナー」セッションの様子を紹介する。

Q.アメリカなどに比べてスポーツ関連の事業化が遅れているが、スポーツ系スタートアップが立ち上がることによって、どれくらいで挽回できそうか?予想と期待値を教えてください。

A.2019年に我々が開催する「SPORTS TECH TOKYO」や、2020年に開催されるオリンピックもあるので、「このタイミングしかない」と思っているし、まだまだチャンスはある。(宮田氏)。

NFLやメジャーリーグはすごく収入があるが、1980年代は日米で収入の差はそこまでなかった。この20年~30年のあいだでマーケティングなどによる差が広がった。逆に言えば、ちゃんとキャッチアップすればアメリカの市場価値まで日本も上がるのではないかと期待している(西内氏)。

Q.ウェアラブルデバイスがSPORTS TECHで普及していく条件は?

A.ハードウェア側として、もっと小さくて軽くすることをもっとやっていかなければならない。また、カッコよい、ストレスなく使えるなど、デザイン面でも突き詰めていく必要がある。ソフトウェア側は、取得してデータをどう活かすかが課題ではないか(西内氏)。

Q.東京2020オリンピックはSports Techにとってどのような意味を持つか?

A.オリンピックは、大勢のプレイヤーがやってきて、大勢の人が見る場。会場やテレビで見るだけではなく、スポーツとどうエンゲージするかが重要になってくる。ARやVRを使った表現や、例えばさまざま角度から競技をみることができるかもしれない(宮田氏)。

各国から選手やコーチが集まるので、ほかの国が使っていた技術を見れる機会でもあるので「いい技術があった」「この技術うちも使いたい」といったことが起こることも期待できる(西内氏)。

(文/写真 砂流恵介)

アスリート育成に革命を起こす「SPORTS TECH TOKYO」がTC Tokyoに

10月31日、電通とScrum Venturesが共同運営するアクセラレーションプログラム「SPORTS TECH TOKYO」の説明会が開催された。同プログラムは、スポーツ分野で優れた技術や事業アイデアを持つスタートアップを世界から募り、メンタリングなどを約1年間の支援するというもの。競技団体、プロリーグ、チームなどの関係者や選手を「スポーツアドバイザリーボード」に迎え、参加するスタートアップに対してネットワーキングやプレゼンテーションの機会も提供するそうだ。

特徴は、1.世界中からスタートアップを募集、2.プログラムは日本と米国で開催、3.国内外のスポーツ関係者とのネットワーキング&プレゼンテーション機会の提供、4.プロダクト・サービスに合わせて実証実験の環境など活性化機会を提供、5.投資を含むさまざまなビジネス機会の提供――となっている。募集期間は日本時間の2019 年1月8日16時59分まで。

米国ではスポーツの産業規模が拡大しており、2016年の時点で50兆円以上と試算されているとのこと。その中で「Sports Tech」関連スタートアップへの投資規模は 2011年から2015年までの4年間で約3倍に拡大している。SPORTS TECH TOKYOは電通が共同運営することもあり、特に日本のスタートアップの活性化を期待できそうだ。

TechCrunch Tokyo 2018では、SPORTS TECH TOKYOのプログラムパートナーを務めるScrum Venturesのジェネラルパートナーである宮田拓弥氏、データビークル代表取締役で日本プロサッカーリーグ(Jリーグ)アドバイザーでもある西内 啓氏を招き、このアクセラレーションプログラムの概要はもちろん、Sports Techの最新事例をじっくり聞くつもりだ。

TechCrunch Tokyo 2018では現在、一般チケット(4万円)、5人以上の一括申し込みが条件の「団体チケット」(2万円)、創業3年未満(2015年10月以降に創業)のスタートアップ企業に向けた「スタートアップチケット」(1万8000円)、学生向けの「学割チケット」(1万8000円)を販売中だ。

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