ジョブズ追放後のアップルが1990年にスピンオフした伝説のベンチャー「General Magic」とは?

ジョブズ追放後のアップルが1990年にスピンオフした伝説のベンチャー「General Magic」とは?スマートフォン誕生の知られざるドラマを描く米国ドキュメンタリー映画『General Magic』日本語字幕版の配信が、11日から各動画配信サービスにて開始されました。7つの米国映画祭で最優秀ドキュメンタリー映画賞を受賞し、シリコンバレーで「最も重要な失敗企業」と呼ばれた伝説的ベンチャーの物語が家にいながらにして観賞できるようになりました。

タイトルのGeneral Magicとは、アップルから1990年にスピンアウトしたベンチャー企業のこと。現代のスマートフォンの原型ともいえるPIC(Personal Intelligent Communicator)を考案し、開発に着手。そこに集まったのがMacintoshプロジェクトの代表的な開発者や後のAndroidの父(アンディ・ルービン)、iPodを手がけたアップルのテクノロジー担当上級副社長(トニー・ファデル)といった、シリコンバレーのスター達でした。

ジョブズ追放後のアップルが1990年にスピンオフした伝説のベンチャー「General Magic」とは?

このPICがどれだけ未来を期待されていたかといえば、アップル以外の米国企業としてはAT&Tやモトローラ、日本企業ではソニー、松下電器産業(現Panasonic)やNTTなども出資・提携していたほど。その成果は「Magic Cap OS」を搭載したソニー製の「Magic Link」などの形で製品化されており、1995年には新規株式さえ公開されました。

ジョブズ追放後のアップルが1990年にスピンオフした伝説のベンチャー「General Magic」とは?

しかし製品が高額すぎたことや、インターネットに接続できなかったこと(ちょうど90年代半ばに一般ユーザーもアクセス可能になっていた)動作が重くソフトウェアも不安定だったことが重なって販売台数は伸び悩み、株価も下落。最終的には2002年に破産し解散にいたっています。

そんなGeneral Magicの設立から17年後にiPhoneとAndroidが発表され(Androidは新規プラットフォームの概要のみ、搭載製品の発売は翌年)、どちらにも元General Magicメンバーらが重要な役割を果たしています。現代のスマートフォンは、かつての若者達が夢を追い続けた結果だったというわけです。

ジョブズ追放後のアップルが1990年にスピンオフした伝説のベンチャー「General Magic」とは?

映画『GENERAL MAGIC』は、そんな才能あるエンジニア達がスマートフォンの先駆けとなるPICの開発を進めながらも、やがて解散へ追い込まれていく過程を描いたもの。後にiPodやiPhone、AndroidやeBayを生み出した各メンバー達へのインタビューと、若きスティーブ・ジョブズも登場する当時の貴重な映像を交え、“壮大な失敗“が最終的に世界をどのように変えたのか、現代社会に求められるイノベーション(技術革新)を掘り下げた内容となっています。

さすがに90年代半ばの技術力ではPDAサイズに全ての処理能力を詰め込むのは不可能だったため、端末とサーバーのやり取りによりアプリケーションを実行する……という発想は、まさに今でいうクラウドの先取り。あまりに早すぎたゆえに志半ばに終わり、後に技術力が追いついてから開花した「最も重要な失敗」を追体験することで、考えを深めたいところです。

上映時間は90分。配信プラットフォームは以下の通りです。

AppleTV(iTunes store)/Amazon PrimeVideo/FOD/GYAO! ストア/Google Play/Youtube/クランクイン!ビデオ/J:COMオンデマンド/TSUTAYA TV/DMM.com/dTV/TELASA/ひかりTV/ビデオマーケット/music.jp/U-NEXT


Copyright(c) 2019 Spellbound Productions II LLC All rights reserved.

(Source:PR TIMESEngadget日本版より転載)

関連記事
iPodの生みの親トニー・ファデルが語るスタートアップの未来はネット接続性と持続可能性
アンディー・ハーツフェルドが語るジョブズ映画、ジェネラルマジック、そしてGoogle時代の自分
オバマ大統領、K-12学年のコンピュータサイエンス教育に40億ドル投入を要請
アンドロイドの父、アンディー・ルービンがGoogleを離れてハードウェア・インキュベーター創立へ
元Adobe CTOでクラウドの導師ケビン・リンチが、Appleの技術担当VPに

カテゴリー:その他
タグ:iPhone(製品・サービス)Apple / アップル(企業)Andy Rubin / アンディ・ルービン(人物)Andy Hertzfeld / アンディー・ハーツフェルド(人物)Android(製品・サービス)Kevin Lynch / ケビン・リンチ(人物)General Magic(企業)John Sculley / ジョン・スカリー(人物)Steve Jobs / スティーブ・ジョブズ(人物)Tony Fadell / トニー・ファデル(人物)Bill Atkinson / ビル・アトキンソン(人物)Megan Smith / ミーガン・スミス(人物)PDA / パーソナル・デジタル・アシスタント(用語)日本(国・地域)

アップルが過去10年の間、業界をリードした理由がわかる1通のメール

1通のメールが、Apple(アップル)のApp Store(アップ・ストア)を巡ってEpic Games(エピック・ゲームズ)が訴えた裁判に関連して公表された文書の一部として、インターネットに出回っている。私はこのメールをさまざまな理由で大いに気に入っている。少なくともそこからは、Appleが過去10年間この業界の活力源であり続けている理由を推定することができる。

その中心は、ソフトウェアエンジニアリングSVP(上級副社長)であるBertrand Serlet(バートランド・サーレイ)氏が、2007年10月に送ったメール、iPhoneが発売されてからわずか3カ月後のことだ。そのメールでサーレイ氏は、AppleのApp Storeの概要を事実上すべて説明している。2020年に推定640億ドル(約7兆120億円)をもたらしたビジネスだ。そして、さらに重要なのは、そこから無数の巨大インターネットスタートアップとビジネスが生まれ、iPhoneのネイティブアプリを活用していることだ。

このメールの45分後、Steve Jobs(スティーブ・ジョブズ)氏はサーレイ氏とiPhone責任者のScott Forstall(スコット・フォーストール)氏にiPhoneからメールを送った。「もちろん。ただし2008年1月15日のMacworld(マックワールド)で発表できること」。

Apple University(アップル・ユニバーシティ)はこのメールの専門コースを作るべきだ。

お気に入りのInternal Tech EmailsがTwitterでシェアしたメールがここにある。アカウントの持ち主は知らせて欲しい。差し支えなければ詳しく紹介したい。

1. ユーザーを保護します。そのために誰がアプリを配布できるかをコントロールする(登録システム、ポリシーなどが必要)
2. ネットワークを保護します。そのためにアプリが安全な状態で動作することを保証する(悪用していないことの確認)
3. 開発プラットフォームを提供しよう(Leopardの走っているMacで開発、デバッガー、シミュレーターなど)
4. APIを持続可能にします(プライベートとパブリックを区別する、クリーンアップ、ハードウェアの詳細を隠蔽、APIのドキュメントなど)

これを今すぐやりましょう、正しいやり方で。まともなサポートのない中途半端なストーリーではなく。SDKを最速で出荷することに集中するために、ソフトウェア・エンジニアリンググループに必要な人材をいくらでも集めます。

サーレイ氏の書いた概要にはApp Storeの基本理念が7つの文で書かれている。ユーザー保護、ネットワーク保護、独自のデベロッパープラットフォーム、持続可能なAPIアプローチ。人的資源を明確に要求している。最速で公開するために必要なソフトウェアエンジニアリングの人材だ。

最後でも、はっきりと尋ねている「このゴールに賛成してくれますか?」。

情報に通じた読者なら、カッコ内の説明を見て、業務範囲と人月を推測できるだろう。そしてサーレイ氏はこれらの選択について「一切」の「理由〉を書いていない。彼の頭の中では、iPhoneデベロッパーにSDKを提供するためには、すべてが明白で必要な枠組なのだ。

各項目に関する詳細な論拠もない。多くの場合、論拠は互いに事情がわかっている状況では不要であり、次の2つのどちらかの精神的負担を発信する役割を果たすだけだ。

  1. プロジェクト概要を伝える相手が何もわかっていないと思っている。
  2. 自分に自信がなく、今も自分を納得させようとしている。

どちらも、仕事の初期目標を伝えるのに賢い方法ではない。大きい枠組みの中で、小さな権力しか持たない人々に根拠を説明する時間はこれから先いくらでもある。

iPhoneソフトウェア開発の歴史に詳しい人なら、Nullriver(ナルリバー)というデベロッパーが公開したInstaller(インストーラー)を知っているだろう。iPhoneにネイティブアプリをインストールすることを可能にする2007年夏にリリースされたサードパーティ製インストーラーだ。2008年には、その後ずっと有名になるCydia(シディア)が続いた。そして8月、9月にすでにこのまったく非公式な方法でアプリを配布する実験を行っていたデベロッパーがいた。Craig Hockenberry(クレイグ・ハッケンベリー)氏の偉大なるTwitterific(ツイッタリフィック)やLucas Newman(ルーカス・ニューマン)氏とAdam Betts(アダム・ベッツ)氏のLights Off(ライツオフ)などだ。

スティーブ・ジョブズ氏がiPhone上のサードパーティアプリを許すことを躊躇していたことを示す証拠は山ほど出回っているが、このメールは、決断が下され時だけでなく、完成時期の公式タイムラインも示している。そしてその時期は、いつ電話がかけられたかに関する怪しげな情報よりもはるかに前だった。ハッキング好きのサードパーティの試みが初めてiPhoneにたどり着いたわずか数週間後、最初のiPhone jailbreak(ジェイルブレイク)ツール群 が出現してから2カ月足らずだった。

そこには、このフレームワークにスティーブが自ら手をくだす必要も意志もない。部下にあらゆる場面でフィードバックを返すよう求めるリーダーを私は何度も見てきた。そもそもなぜその人たちを雇ったのか?彼らのスキルと判断力のため?細部への気配り?ものごとを成功させようとする強い願望?

だったら、彼らに自分たちの仕事をさせればよい。

サーレイ氏のメールはよく練られていて、狙いが非常に正確だ。しかし、同じように重要なのが返信だ。どうみても短すぎる時間軸(App Storeは結局2008年に発表され、その年の7月に公開された)の要求によってハードルは上がり、合わせてこのプロジェクトに関わる全チームに対する緊急性が求められた。何をおいても早く作らなければならない。

良いものを作ることにかけて、Appleが秀でている理由はこの能力にある。常に優れているわけではないが、●常に100%のものなどなく、10年間に出したソフトウェアとハードウェアのヒット率は驚くほど高い。鮮明で無駄がなく甘えも曖昧さもないコミュニケーションと、自身の能力と自分が雇った人たちの能力を確信しているリーダーが組み合わされば、自らの関与を誇示するためにプロセスの動きを止める必要はない。

人間は1人では生きられない。明確でよく練られた提案書やプロジェクト概要書も、自信のない無能な幹部に送れば、縄張り争いや説明要求の無限ループを引き起こすだけだ。そして幹部がいかに効率的で、いかに社員が有能でも、思考の明確化が「歓迎され称賛される」環境がなければ、大胆で意図を明確にしたプロダクト開発は実現できない。

このメールのやりとりは、現在のアプリエコシステム時代全体とインターネット技術の爆発的成長フェーズを支える恐ろしく重要な歴史の一片だ。そしてそれは、これほど長い期間Appleを効果的で並外れて効率的な会社にしている環境の象徴でもある。

これは学んだり真似たりできるものだろうか?おそらく。ただし、関わっている全員が上に上げた重要項目を育むのに必要な環境を作ろうという意志があるのなら。10回中9回、あなたの幹部は瀕死状態にある。成功するために大胆な取り組みをしたり、いばらの道を進むことを妨げる環境だ。しかし、10回目には、魔法が手に入る。

そうだ、この機会に乗じて次のミーティングはメールでできるかもしれない。

バートランド・サーレイとスティーブ・ジョブズがメールで世界を変えられたなら、たぶんあのミーティングはいらないだろう。

カテゴリー:ソフトウェア
タグ:AppleApp Storeスティーブ・ジョブズiPhoneアプリ

画像クレジット:Matthew Panzarino

原文へ

(文:Matthew Panzarino、翻訳:Nob Takahashi / facebook